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1話_衝動的承認欲求_

......ふぅ。

俺は息を吸っては吐くことを認識する。

体が眠りから徐々に目を覚ます。

特に夢は見なかった。そんな気がする。

(!!)

俺は心が飛び起きるように目覚める。


「痛い!」


全身が張り裂けそうに痛い。

裂かれた傷の痛みが全身に走る。

体の周りが、ねっとりとした液体で包まれている。

サビた鉄が少し腐ったような刺激臭。

(少し臭いな..)

それに近場には川だろうか。

水の音がする。


「ここは...整備のされた川辺?...」


体は派手に動かせない。

俺の裂けた肉の中に、石や砂利..ありとあらゆる不純物が押し込められ赤くなっている。

ぐちゅぐちゅと、血が潤い皮膚を包む。


「気持ち悪いぃ..」


グロすぎて吐きそうになる。

匂いによる吐き気はない。

この刺激臭に俺の鼻は慣れてしまったのだろう。

それよりもだ。

あまりにも全身が痛すぎる。


「ぐぁぁあ」


苦痛にもがく声が出る。

咄嗟に手を地面に手をつくと、ヌチャっと音がする。


「....これは...血?」


目を開けると周りは赤黒く染まっている。

苦痛に身を悶え続けている。

瞳から涙が止まらない。

でも不幸中の幸いなのか、

鉄臭い死臭は、特に気になるほどの匂いではない。


「川辺?起きたのに夜?」


あれ?喋るたび激痛が走る。

(顎の骨とか折れてないか?これ)

傷口の周りを触る手の力を加えては緩めてを繰り返して気を紛らわす。


「暗くなっちゃう...」


空は星々を乗せたキャンバスとなり地球を彩る。

こんな綺麗な星空はなかなか見られないだろう。


「綺麗だなぁ..」


最近寝不足だったっけ。

夜に起きても仕方ないか?それに少し寝相が悪かったかな?なんか血なまぐさいし

周りは赤い液体まみれだった。

なんか虫でも潰したか?


『虫潰した出血量じゃないだろ!』


っ!!

急に頭の中で男の声が響いた。

クソ!頭が気持ち悪い。

とにかくスッキリしたい、ラーメンの流れる川で泳ぐか。


『どこのグルメ漫画だよ!どこにそんな川がある!?』


うるせぇ!なんだこの声。

立体音響だろうか?気持ちの悪い声が頭に響く。

頭に声が響くってこんなに違和感があるのか?

それよりもだ、俺の心のボケにまでツッコンでくんのかよ!なんでも嚙みつくやん。

犬か


『ワン!』


犬やった。

チワワかなんかだな、弱そうな口調だし。


『なわけあるかい!』


頭の中に響く声。

そんなファンタジーな現象。

夢に胸が躍るとでも思ったか?不愉快で仕方がないわ!

........めんどくせぇ!

てかどうなってんの!?


『だいぶ愛嬌あるだろ!』


え?まじ?俺の脳内の声こいつで決定なの?


「チェンジで.....」

『すみません、当店こいつだけでやってて』

「ワンオペかよ!」

『はいお客さん10名追加です~』

「大盛況じゃねぇか!脳内ボイス10名はマルチタスクすぎる!お前有能なのか!」

『えっと、コクウさん、ルイフィーさん、ヒッコロさん、ナルドさん、ドナルトさん、・・・・』

「隠れた名店すぎる!夢の大コラボすぎるだろ!って誰だよ!全員偽物じゃねぇか!でも気になるよ!」


まずい。

頭が本当に痛くて、そろそろ耐えられない。

頭をたたいて紛らわしたいけど、手を上げようとするだけで腕が少し痛む。

捻挫や骨折した足を何度も殴りつけるような、そんな感覚がする。

更には、皮膚をつまんで千切れるまで引っ張られ続けてる気分だ。

ずっと脳が揺れている。

頭の声は、もう無視しよう。


「・・・はぁ、分かってるよ。常識的に考えてこれは俺の血なのだろう」


変な、脳内ボイスに答えるのをやめて、自分の状況を改めて理解する。

激痛と向き合う。

少ししか体を動かせず、なるべく痛くない体制を無意識のうちに取っていた。

ある程度は治りつつあるようにみえるんだが。

涙がまた溢れる。

痛いから泣いているのかな?

さっきから涙が止まらない。

自分が自分じゃないみたいだ。

自分の感情が分からなくなりそう。


「あれ、なんでこんなことになってるんだっけ?」


記憶がない。あれ?


「俺、俺だよな?」


俺は俺だ。

そんな意味の分からない

≪変な価値観が心を支配する。≫

この状況が、何なのかすら分からないのに。


「なぜだろう?」


俺自身に思い出せない事への不安が無いことが疑問だった。

それが少し気味が悪かった。

歯が折れているのか、顎が折れているのか、どうも上手く喋れない。

でも自分がどういう人間なのか、どう生きようとしているのか。

それだけを体が覚えている。

無意識に俺という人格がよみがえってくる。

俺であらねばならないと自覚する。

≪俺に固執することを求めている≫


「ひとまず、人はいないのか?」


心にはポツリと穴が開いたような寂しさがあった。

あれ?また目元が潤む。

寂しい。心細い。痛い。

なぜそんな不幸な感情で、俺はこんなに涙を流すのか。

そっと体を震わせて意識を覚醒させる。

その瞬間、背中の傷がずるりと動いた。

呼吸に合わせて、皮膚の内側が遅れて悲鳴を上げる。

寂しいという感情がそんな痛みに並ぶほど心に蔓延る。


「寂しいからって、泣いても...」


そんな思考が俺を支配する。

そんな俺の心には涙を我慢せねばならないという使命感があった。


「あぁ..誰の話だっけ?」


これは俺の体の記憶。寂しがり屋の少女の話。

無視をされて、視線を外されて、距離を置かれる。

その冷たさはあまりにも冷酷で。

愛を渇望するには十分な、自殺志願者にまで成り果てた、少女の虐めの話。

誰だったっけ?


「大切なことを..忘れてる気がする」


救いの手は無く。壊れていく様を見ていた気がする。

俺はその話を....

誰だっけ?名前はなんだんたっけ?思い出せないな。

その救われなかった少女の話が。

そして忘れているはずなのに....少女に言われた言葉を思い出すんだ。


≪寂しいけどね、寂しい今があるから、いつかは寂しくなくなるんだ。寂しさがあったから今があるんだ。

だからさ前を見て生きたいの≫


洗脳でもするみたいに 寂しいという字がある。

それ程までにこの字に心を揺さぶられたのだろう。

だって虐めの話だったのに、苦しいという言葉を、一度も使わなかった。


≪彼女の言うことは簡単に言うなら「逆説」であり、寂しいから寂しくないがある。

「寂しさ」はプラスでもマイナスでもなく、深さそのものだ。

浅いところでは「痛み」だが、どんな痛みも

深く沈んでいくと、それが「静寂」や「理解」に変わる。

あるいはニーチェ的に言えば、

「孤独を通してしか、人は高みへ行けない」。

そんな事を意味も分からず思い出して、この寂しさに意味があるような感覚が心にこだまする。

その所為か、無駄じゃないような気がした。≫


そんな感傷的な感情を落ち着かせる。


「ふぅう」


俺はしっかりと周りを見渡して、この状況を飲み込んでいた。

車の音や人の声が上からする。

街の音がする。

川は整備されていて、壁で地上には行けそうにない。


「車のおと、川の音、真っ暗な空、血まみれの体、橋下....はぁ俺はなんでこんな状態なんだろう....」


どこかに階段を見つけなきゃ......。

とにかく人に合わなくちゃ。

それに、早く病院に行きたい。


「あった」


首だけ動かして、川から出るための階段を見つける。

川辺から路側帯へと向かうための階段まで歩みを進める。

下から見る感じ、多くの人の気配を感じていた。


「痛いよぉ!痛いぃ!あなたに会いたい~!」


絶叫しながら言いながら歩く。

途中に歌っぽく叫んで痛みを和らげる。

狂人もいいところだろう。

(救急車呼ぶべきかぁ?だがそこまでしなくとも)

上の道路らしき場所では車も走っていたし、すぐに自分を助けてくれる人が見つかると思っていた。

体を気遣いながら階段を駆け上がる。

これまた飽きるほど言うけど、痛いのよ。

変な声もいっぱい出ちゃったわけ。


「都会だぁ」


地上には人であふれかえっていた。

高い建物が多いな。

都会というのだろう。

そんな都会で、いつもは背景でしかない、人々一人一人にライトを当てる。

人のすべてに意識を向ける感覚は、


「人に酔いそうだ」


人に酔いそうになって気持ち悪さをほんの少し感じた。

血まみれの自分を心配して声をかけてくれる、そんな人ぐらい居ると思っていたのだが期待を裏切られた。

何か違和感がある。

こちら側の一方通行のような?

だがそんなことも気にせず考える。

先ほどからよくコスプレのような格好の人たちを見かける。

ハロウィンなのだろうか。

いやそれよりも、誰に話しかけようか。

そんなとき、目の前に優しそうなお兄さんがいた。

(よし...キミに決めた!)


「あのっ!」


声をかけるってのは緊張するものだたと思った。

心の中でゲットだぜ!とつぶやく。


「・・・あ・あのっ!」


前に出て手を左右に小さく振る。

目を背けながら。

人見知りなのかもしれない俺は。


「・・・・・」


そこにあったものは”空虚”だった。

無視ともいえるのだろうか。


「ぐぁ」


その人は前に立った俺の肩に自分の肩をぶつけて、去っていった。

体に激痛が走る。ぶつかった瞬間、血が熱くなる。

道端で体を丸めてもがき震える。

奇行もいいところだ。


「。。。痛っ、、、ははっ」


酷い一撃に、心は鈍い音を出して、黒を象徴とするようなオーラを俺にまとわせる。

デスボールものだよ!フリー〇様になる勢いだよ。

彼は人見知りだったんだ!だが人見知りだから?

自分には事情があるからと言って、あまりにも無視は酷いでしょ!

人当たりの冷たさに心を締め付けられる。

心が震える。

俺は体に力を込めて、切り替えようとする。

無視されないようなことしてやろうか?


「ぼろんしてやろうか。モザイクまみれの状況にしてやろうか?カメラフレームに冷や汗かかせてやろうか?」


カメラフレームに顔を詰める。


『怖いことするな!』


やっぱツッコミがあるがまぁいい。

切り替えだ 切り替え。

大丈夫。 

≪俺は強いから..おれ最強だから≫


「あのっ!」


今度は優しそうな女性に話しかける。別にビビってねぇし、たまたま優しそうな女性がいただけだし。

コスプレしてるコミュ力高そうな人には声をかけないのかって?

(バカバカ、今俺に必要なのはお姉さんのぬくもりだよ)

清々しい笑顔で鼻の下を地面に付く勢いで伸ばす。

今日はハロウィンなのか、コスプレをした人間を多く見かけた。

その中でも普通のスーツの女性に話しかける自分は、見た目で差別していることになるのだろうか?

そんなことをうっすら考えながら、

また前に出て、今度は女性の肩に触れる。


「えっ!」


だというのに、気にもしていないような勢いで無視をして歩いて行ってしまう。

また、体に激痛が走る。


「大丈夫、痛くない,,,,,,」


痛みは、もう新しい情報じゃなかった。

彼女やるね。あのまま肩を掴めば俺の腕は折れていただろう。

強気に引っ張ればさすがに無視されなかったんじゃって?え?

別にびびってない。

痛みに恐れはないし。触れれば無視されないって思ったんだもん。

女性だし、つかむほどつよくでるのはさすがにね。

怖いわけじゃないもん.....でも、無視はさすがに.......ね....ていうか

・・・酷い。

あまりにひどい態度ではないか?

もしかして俺の事が見えてなかったり?

嫌々そんなわけない。

そんな時、自分の服装を確認した。

服は破け、黒く染まっている。

異臭を放ち、割れているわけでもない傷まみれの綺麗な白いおなかが見えていた。


「あぁ」


こりゃ、無視されても仕方ないかもな。



≪人は、見えないものを避けるんじゃない。

見えてしまうと困るものから、目を逸らす。≫



いじめの現場。幽霊。

これも無視の本質だ。

無視にも理由が色々あるのだ。

今回は俺の見た目がやばすぎたな。

でも、こんな見た目の俺も、無視されるほどではなさそうなのに。


「なぜ。血まみれの見た目で無視されなさそうだって?」


理由は簡単だ。なぜなら先ほどから不自然なほどによくできた、犬耳や猫耳。

そんなコスプレのような人たちをよく見かけていた。

流石に血まみれは悪かったのかな。

サイコキラーにもほどがある。

こんな独り言を言う俺に誰も目もくれない事には違和感があった。


「ネットリ血まみれの人間ぐらい、そこら中にいるもんじゃないのか?」


自分でも訳の分からない事を言っていた。

俺臭いのかな?

どれだけ楽観におぼれても。

俺は”人間”なんだ。

無視は傷つくよ!弱い心の可哀そうな生き物なんだ。

目覚めてからずっと、自分じゃないみたいに心が震える。


『そんな血まみれの人間いてたまるか!』


!!


「急に喋んなびっくりするだろ!脳内のカス!ゴミ!馬鹿!ハゲ!ヌーブ!」

『言いすぎだろテメェ!後ヌーブやめろ!』

「て、うるせぇ!なんで俺の頭の中に!なんで心の声に当たり前にツッコミがある!頭痛いよ!なにこれ、なにこれ。なにこれ。何の幻聴だよ!幻聴の中でも、つっこみの幻聴は見て(聞いて)られないよ!もう絶対に脳に語り掛けてくるなよ!?」


次こいつが何かしゃべっても遮ってやる。


『・・・・そういえば、おっぱっ』

「言わせねぇぞ。続きがあまりにも気になるが喋らせねぇ、どうせ余計なことだ」


そんな時ふと、頭の中にイメージが無理やり流れ込んでくる。

宴会をする前に一発ギャグをして滑っているイメージが


「余興のイメージもやめろ!余計なことって言ってんだ!しかも滑らすな!」


また新たなイメージがくる。

悪魔たちが俺を裸で見つめてくる。


「いや魔境!余興の方に寄せんな!」


そしてさらにイメージが、

可愛いくちばしで魚を食べている。


「ダチョウじゃねぇか!何がしたいんだよ!めんどくせぇ!てかイメージも送り込めるのかよ!」


ボロボロの体で暴れる。

質が悪すぎるぞこのクソ。


『・・・・・』

「もうしゃべるなよ?」

『・・・・・』

「聞こえてるのか?」

『・・・・・』


なんで黙り込みやがったこいつ!?

急に喋んなくなるじゃん。


「おい?なんで無視するんだよぉ」

『・・・・』


いじめだよねこれ。

無視ってよくないよ。

まぁ幻聴だと思うし。

これこそ、つっこんだらまけだな。


≪一方通行の言葉は寂しいなぁ。

「無視」とは、関係の断絶ではなく、関係の不成立だ。

そこには言葉がなく、応答がなく、ただ“空白”がある。

人間ってのは本来「関係の中でしか存在できない」存在だろう。

だから、この“空白”に直面したとき、心にはいくつかの根源的な感情が生じる。≫


「そのうち一つが 寂しさか」


これは何度目の泣いちゃいそう。

アニメやドラマ話で、いじめ等で無視されているシナリオをみても、深い感情までたどり着けなかったのに。

いざ対面してしまうと、こんなにも冷たく。冷酷にかんじるのか。


「あまりにも生々しく感じたよ。体験するってのは、こうも違うものなんだな」


上を向くと、うるんだ瞳が、定めに抗う。

泣かない。俺は一人だって生きていけるんだ!

町中で多くの人の目につく場所で、奇行な俺に対して誰も目もくれない。

やっぱりそれは居心地が悪かった。


「よし!」


時刻は夜だ。

両手をぎゅっと握り締めてカッコよく気合を入れたかったが、

痛みのせいで顔の横で握り締めてしまって、可愛く気合を入れるポーズになる。

街頭や建物の光りが夜を忘れさせようとする。

そんな中、俺は無視をしなさそうな人にひたすら話しかけ続けた。


「これは、ちょって汚れてるだけで」


「あの!無視しないで!」


「あ、助け」


「やばば!全身粉砕骨折かも!」


何度も色んな人に話しかけた。冷たい人間の対応に俺は折れかけていた。

流石に無視にもほどがある気がした。

助けを求めるのに厄介ごとだと無視される事の気持ちが少しわかった。

一歩踏み出すたび、真実が明らかになるような気がする。

足が「もうやめろ」とはっきり言う。

それでも体は、

聞こえないふりをする。

動けば動くほど血は吹き出す。

俺はそのあとも、何度も話しかけた


「嘘!ユーマに全身粉砕骨折にされた!」


「全身粉砕骨折のビッグフットだぞぉ!」


何故だ!何分?数十分?数時間?なんでみんな無視するんだ?

『なぜじゃない!なんで途中から全身粉砕骨折に自信持ってんだよ!』

頭の中に、急に声が響く。

俺は頭の中に反応せず無視をする。焦っていたんだ。

周りのパン屋やコンビニ、あらゆる店も今じゃ視界にははいらなかった。


「ねぇそこの君.....」


少し弱弱しくなった声で、純粋無垢そうな猫耳のコスプレ少女に話しかける。

白い髪に白い耳が付いていて、活発そうな子だった。

風と体の動きによってめくれた服の隙間から切り傷のようなものが見えた。

急いでいるせいか、身だしなみは少し悪かった。

今ではそんな傷はどうでもよかった。

俺の体はフラフラだ。

その所為かメンタルまで参っていた。


「あのぉ」


この少女にも無視をされてしまうのか?

猫耳の少女は小走りで急いでいる。

だがそんな中静かに、後ろを振り向く。

それが当たり前のように、まるで本物のネコのように。


「??誰にゃぁ?」


そう言って、体を止めてくれた。

反応してくれた?

咄嗟に手を掴もうとすると、スルリと躱される。

その動きはとても軽やかに見えて、美しく見える。


「......?」


その少女は一瞬立ち止まる。

そして、そっと俺に近づく。

泣きべそかいている俺の顔を見る。

顔が近けぇ!めっちゃ綺麗な顔だなぁ。

不思議と俺は見惚れた。

まるで一目惚れのように、目が離せなかった。


「大丈夫ニャぁ、きっと良いことがあるにゃぁ。元気出すにゃぁ」


そう言って、俺の胸の上あたりを撫でる。

全ての挙動が軽やかだった。

慰めだろうか。


「バイバイにゃ!急いでるからごめんにゃぁ!」

「ま、待って!」

「???急いでるからマテにゃいにゃ!」

「俺の事が見えるの?無視をしないの?」


肩を掴もうとしながら聞く。

膨れ上がる疑問と希望。


「???無視されてるニャ?それは..辛い事にゃ...」


俺の事を可哀そうな目で見る。

だが、その瞳は、俺の奥にいる無視という残酷な事実を見ている気がした。


「ごめんなさいにゃ!急いでるからバイバイにゃ!」


先を急ぐ猫娘。

俺はどうにかこの関係を繋ぎたかった。

唯一の希望なんだ。

携帯番号でも聞こうとしたけど、知らないやつに教えるはずもない。

携帯を見せると、顔をぶんぶんと振って拒否された。

この時は焦っていたせいで、携帯という自分が求める端末の存在に気づかなかった。

汚い自分の体を猫娘は避ける。

今の俺は不審者もいいところだ。

避けないで..

心が苦しかったんだ俺は。


「お願い、時間を!」

「ごめんなさいにゃ!...うぅ...あぁ!そうにゃ!隠れっこするニャ!

私がこの後別れても、また探しに行くニャ!だから待ってるニャ!

絶対に見つけてあげるにゃ!」


そう言って、言葉を俺に押し付けて離れていく。

その背中には追いつけなかった。

声色から挙動の全てから優しさと無垢を感じる。

俺の思いは少し届かなかった。

最近の若い子は早いな。

背中が遠ざかっていく。

人ごみをスルスルと抜けていく。

走っていく姿に追いつける気がしなかった。

人間とは思えない速度だった。

それにあれは本当にコスプレなんだろうか。


「はぁ、、、はぁ、、」


息が荒れる。

少し追いかけようとした所為だ。

ネコを飼う人の気持ちが少しわかった。

俺の心は温かく彼女の顔が頭から離れなかった。

可愛い。

皆からの無視されていた俺は暖かさに包まれる。

あの返事は俺にあからさまに返事をしていた。

『本当にそうかなぁ、一人芝居かもよ?』

..........

どんな状況でも冗談言ってくるの、こいつマジムカつく。

余裕がない。内心すごく焦っていたんだ。

皆が俺のことを見えていない。そんな可能性が出てきたのだから。

だって皆から視認されてないとすると、

そうだとしたら、


「どうして...」


さすがに説明がつかなすぎる。

だからこれは、偶然だ。

そういえば、しっぽが動いていた..あれは...いや違う。

今はそんなことどうでもいい!


「はぁ、はぁ、痛い、、、クソ...」


呼吸の仕方が分からなくなりそうだ。

無視をする奴らは、何なんだ!

酷い、ひどいよ。

憎くまで思えてくる。


「あのすみません!」


ダメだ。

今度はしっかり前に立って掴む。


「お願いします!聞いて!おねがっ!」


しかし可愛い服に身を包んだ彼女は、容赦なく俺がいない存在のように歩く。

俺が捕まったせいで彼女は態勢を崩す。


「あぶっ!」


俺は倒れそうになった彼女の体を皮膚が剝がれそうな体で必死に支える。

苦痛に声を出しながら。

申し訳ないことに、服に血が付着する。


「ぐぁ」


痛い!痛いよ!傷口が容赦ない歩行によってえぐられる。

(痛い!)

どうにか、彼女の体を元の体制に戻す。

彼女から手を離す。

その場に勢いのまま倒れて傷口を抑える。

菌が入ってるのか?腫れて腐りそうだ。

相手につかまった俺は、彼女に怪我をさせまいと、無意識に支えるために動いて、どうにか彼女を守った。

その拍子に足を強く捻ってしまった。


「いったぁ、、、、」


嘘だ...こんな酷いことありえない。


「お願い」


たどたどしく、足を庇って歩く。

普通の人間なら気絶をして、自殺を考えるほどの拷問に耐えながら。

孤独の辛さを恐れて。

無視される寂しさに涙を流して。

その後も皆俺のことを無視をした。

ダメだった。

紙に文字を書いても。

注意を引いても。

何かがおかしい。

なぜ誰も俺に視線すら与えないのか?

そしてもう一つ気づく。

なぜこうも猫耳やしっぽといったコスプレした人間がこんなにもいるのか?

流石に疑問へと変わる程の違和感。


「ハロウィンじゃない?」


当たり前にコスプレをしている人が、少数だが、少数とはいえ、多く見かける。

それに、コスプレをするみんなですら、なんで俺を無視するんだ?

俺の見た目だってコスプレみたいなものじゃないか?

少し臭いかもしれないけど。

それに動くしっぽや耳..本当の...異種族?


「無視...」


見えていない、という結論だけが、頭に残る。

いや、違う。

そうだったら、さすがにおかしい。

見えていないなんて、そんな都合のいい説明があるわけがない

最後の希望で、一人の人間の目の前で、手を振ったりするけど、無視されてしまう。

見えていないという、その説明だけが――

綺麗に、全部に当てはまってしまった。


「もしかして.......見えてない?」


頬を引きつりながら気づく。

体の震えが止まらない。

なんで?見えてないからどうしたって話なはずなのに。

感情的すぎる自分に嫌気がさす。

気づいてしまった。


≪認識されていない≫ことに。


今になって、怖さを覚えた俺の顔がうつむく。

ようやく、自分の姿に目を向ける。


「何やってんだ俺..」


目覚めたときには、何故か、伸びに伸びまくった前髪が俺の顔を隠す。

髪伸びすぎじゃん...てか、なんで体が傷まみれなんだよ。

バカらしく感じてくる。

なんで記憶がないんだよ。

あらゆる事実に目を向ける。

そんなちょっとしたことで、心の安らぎになる。


「そっか、ははっ。痛い、痛いんだよ?」


なぜか、いまさらになって。居心地が悪くなる。

人がいるのに誰も俺を気遣わず、ぶつかる勢いで歩いていく。

俺は必死に人を避ける。


「見えてない.....」


前に出てたり、スマホのライトを目に当てたりしてもダメだった。

あしが酷く腫れている。

足首は一定の方向に曲げると激痛がした。

骨、、、折れてたかぁ、やっぱり。

仲間外れの感覚に苛まれる。

あんなに激しくこけたら、折れても仕方ないか。


「はは」


世界から拒絶されたんじゃない。

世界に含まれていなかっただけだ。

元々仲間に入っていなかったのだ俺は。


「ふぅう」


嗚咽と涙を抑える。


「そっか・・・・」


そんな風に弱弱しく呟いて。

人気も、光も少ない、そんな狭い道に入る。

体が痛いのか。

認識されていないから、心の痛みなのか。

もう区別がつかなかった。


「ここなら人はいないだろう,,,,,,,,」


無視される場所にいても胸糞悪く大変なだけだ。

少しの間、とにかく人がいない場所を目指した。

人のいるところは居心地が悪かった。

はぁ、早く病院に行かなきゃ。


「不安だなぁ。怖いなぁ。痛いなぁ。辛いなぁ...寂しいなぁ」


負の感情を笑顔に変えたくて、口に出してみる。

とにかく吐き出す。


「これから、誰からも認識されなければ俺はどうなるのですか?」


なぜだか自分が醜く感じた。

神に頼る気持ちが少しだけ分かった気がした。

そんな時、携帯を無意識のうちに手に取った。


「あ...」


何故最初にスマホを見なかったのかは、分からないが、スマホを手に取って確認しようとする

いろんな情報を。

興奮する。

希望の光が見えた気がしたから。

謎が解ける気がした。


「なんで俺は携帯を最初に確認しないんだ?バカなのか?」


そして携帯を手に取る。

暗いその場所では、スマホの光りが俺の顔を照らす。


「眩しっ」


直ぐに明るさを落とす。

座り込んで少し休もうとする。

楽な姿勢をとり形態をいじりたかった。

ほんの少しだけ瞼が重い。

起きたばかりで、あまり時間はたっていなかったのに眠かった。

5分ほどスマホを触る。

スマホにあるアプリを最初に確認しする。

(これが...連絡先は...なんで誰ともフレンドじゃないんだ?)

後は今が何年だ?ここは何処だ?

それを調べようとした、その時だった。


「mんっ!」


そんな時大きなうめき声が聞こえた。

すると、続くようにドタン!と大きな物音が聞こえる。

あたりは真っ暗で、外灯が点滅する。

不安を煽り、恐怖が体にこだまする。

(何だよこの声!)

暗い路地裏みたいな場所で声がする。

あまりにも怖い。

そこに女性のうめき声がさらに大きく聞こえた。


「いにゃぁ!」


叫び声。

人気のない、光のない路地裏のような場所で鳴る声。

なんだ。なんだ。なんなんだ。


「......」


怖くなって動けない。

体が震える。

声があまりにも迫真的で恐怖が足を掴む。


「助けっ!」


更に女性の声がするが、

それは途切れたような声だ。

その時、そんな声の途切れ方に覚えがあった。


「あぁ」


つい先ほど体験した、無視をされて突き飛ばされたときに出た自分の人に縋る声に似ていた。


「人の温かみを求める、助けを求める声、断絶された声....」


体をぶつけてられた時を思い出す。

真っ暗な空間は俺を恐怖へといざなった。


「こわい..」


助けてほしい。

でも助けを呼ぶ声だ。

怖い..痛い.でも...

俺は咄嗟に音のする方に走る。

足元はおぼつかず、急に走ったせいで態勢を崩して頭をぶつける。

血が噴き出し滴る


「ぐぁぁぁ!」


叫ぶ。

死ぬ。

嫌だ。

痛い。痛い。痛い。痛い。誰かぁ...助けてよぉ。


「がぁうgぁ!」


痛みにもがく声が少し漏れた。

痛みにもがき続ける。

でも誰かが助けを呼んでる。


「行かなく...ちゃ...」


意識が落ちていく。



≪運命と呼ぶべきなのだろうか。

悲鳴を知覚した瞬間、恐怖が意識を先取りし、身体は思考に従わなかった。

恐怖が足を刈り取る。

助けを求める声があれば走る——

そう在るべきだと信じてきた理想は、今も胸の深部に沈んでいる。

放棄したのではない。

ただ、恐怖という原初的な判断が、一歩だけ先に実行された。

だが二度目の助けを呼ぶ声に反応した自分が居た。


情けないと断罪してきた自己の像を、

俺は今、反復するように生きていたはずだった。

彼女の声に聞き覚えがなければ、

この胸を刺す既視感がなければ、

俺は彼女の声の元に向かえなかっただろう。


理想として構築された自己と、

事実として現れた自己。

その境界は、いつから溶解したのか。

咄嗟に動けなかったこの身体は、

いつ誕生し、いつから「俺」という名を与えられた存在なのか。


理想に限りなく近い自己が仮に存在していたとしても、

状況と感情が一致しなければ、

人は容易く理想から逸脱する。


「そう人は..醜いのだ..それは事実であり..受け入れるべき事だ」


それでも——

既視感を伴う声が意識に侵入した瞬間。

停止していたはずの身体が、思考を裏切って前進した。


神が不在の世界であっても。

意味が常に後付けで生成されるのだとしても。

この衝動だけは、運命と呼ばせてほしい。

そう名付けなければ、私はこの衝動を説明できない。


「助けっ……!」


三度目の続く、縋るような悲鳴。

存在そのものが、他者へと開かれる瞬間の声。

それが胸を締めつける。

だから俺は向かう。

理想に到達できなくても、

少なくともこの声を、世界から消さないために。≫



「っ!!」


三度目の助けを呼ぶ声によって目覚める。

気づけば俺は地面に転がっていた。全身の絶えない痛みと共に。

ほんの数コンマ俺は気絶してたのか?

(はぁ....はぁ)

捻挫した足で走ってしまい、

痛みで倒れたのか。

腫れた足が俺を蝕む。

汚い地面の汚れが、服についている血にへばりつく。

すぐに立ち上がる。

周りの壁や物に縋りながら。

その挙動全てが痛々しいものだっただろう。

もう体も心も限界が近かった。


「頑張れぇ....俺」


ふらつきながら、唇をかみしめ、体の傷のない部分を叩く。

片足を庇いながら走る。


「主人公なら」


何も考えられない。ただただ声のした方を今は走っている。


≪これは勇気じゃない。

正義でもない。

ただ、自分じゃなくとも、無視される痛みを、

他人だろうと無視される痛みを...

もう一度見る勇気がなかっただけだ。

これもまた逃げているのだ

だが逃げていようと...結果として動けたのなら蛮勇をとも呼べよう≫


そして声が聞こえた付近の曲がり角を曲がる。

俺は衝撃的な現場を見た。

そこは真っ暗で外灯が薄ら照らす、人気のないちょっとした広場だった。

目の前の状況以外が頭の中から消える。

何故皆は俺が見えないのか?何故記憶がないのか?俺は本当に見えないだけなのか?

何故傷が体に多くあるのか?今はいつで、ここは何処なのか。

そんな疑問すらも消える


「は?」


そんな呟きだけが口から漏れた。


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