前編
なろう様での初投稿となります。どうぞよろしくお願いします。
こちらの作品は他の投稿サイト(アルファポリス様)で投稿していた作品を一部、加筆・修正したものになります。
五歳になった時、私は自分が転生者なのだと気が付いた。
気付いたきっかけは猫足、陶器で出来たバスタブでツルン、と足を滑らせて溺れかけたから。
ちょっとマヌケ過ぎる(笑)、とか思うでしょ。
でもねぇ、五歳の幼女よ?
しかもバスタブは陶器製で、いい感じに底が丸みを帯びた作りだったのよ。
あの丸み部分は、体を仰向けにして寝そべった時に、体をいい具合にフィットさせる為のものなのかしら?
まぁ、どうでもいいか。
湯浴み担当のメイドは勿論いたのよ?
だけど、メイドがタオルを取ろうと私に背を向けた隙にツルンッ、と滑ってしまったの。
その上、何でだか派手な音も立てずにブクブクと沈んでしまったわけ。
いやぁ〜、私も驚いた。
驚いた拍子に、思わず口を開けてしまった。それがいけなかったよねぇ。
カハッ、ってなって、口の中に大量のお湯が入ってくるんだもん。
でもさあ、メイドも相当驚いたと思うよ。
だってタオルを手に取って、私の体を拭こうと振り向いたら、私が目を見開いたまま口を開けた状態で沈んでいるんだよ?
しかもね。髪はバァーッって、バスタブ全体に広がっているのよ。真っ赤な髪が。
「キャアァァー!!リリエルお嬢様ぁああああっ!」
叫んだメイドは私の心配もしていただろうけれど、たぶん絵面的にホラー風味な状況にも怯えて叫んでいたんじゃないのかしら。
ふとあの時の事を思い出す度に、あのメイドに対して申し訳なかったなって、思ってしまうのよ。
トラウマになってなきゃいいけどな。
まぁ、そんなわけで湯浴み中に溺れた私は丸一日、意識が戻らなかった。
きっとその間に脳内で何かが、わちゃわちゃとしていたんじゃないかな?
前世の記憶とか。記憶とか。記憶とか?
だって意識が戻ってみたら、前世の記憶をがっつりと思い出していたからねぇ。
でも前世の記憶を取り戻しても、所詮、五歳の小娘だったのよ。
『何これ?今の私に関係あるの?』
普通に考えたら、自分の身にもの凄いことが起こったんだ、と考えそうなところなのに、特に気にすることもなく、のほほんと生きていたのよねぇ。
前世の私も、今世の五歳児の私に精神が引っ張られて、楽観的になっていたのかしらね。
だって、私の家、侯爵家なのよ?
私はカテッツォ侯爵家の一人娘で、白銀色の髪のダンディーなお父様と、燃えるような赤髪の妖艶な美女であるお母様に溺愛されていたのですもの。
お金の苦労も無いし、愛情無限大の中で育っていたら何の不満も無いじゃない?
ん?向上心も無かったみたいだけれど。
とにかく子どもの考える事なんて、たかが知れている。
『前世の記憶か〜。ここって異世界?
アラ、魔法も使えるの?ラッキー♪
マジものの魔法少女ごっこして遊ぼうっと!』
ぐらいにしか思っていなかったのよ。あの頃は。
そんな呑気な生活を一年ほど続けていたら、お母様がアッサリと流行り病で亡くなってしまった。
泣いた。
めちゃくちゃ泣いた。
泣きに泣いて、お父様と私は葬儀の場でも参列者の涙を誘ったのだけど、そこに空気をぶち壊す招かれざる者がやって来た。
きっとこの時ばかりはお父様としても来て欲しくはなかったと思う。
たとえそれが、お父様が結婚前から関係のあった最愛の人、現在は愛人関係にある人だったとしても、だ。
葬儀の場だというのに真っ赤なドレス姿の愛人と、私と同じぐらいの年齢でピンクのフリフリドレスを着た女の子。そして真っ赤なネクタイに、七五三スーツみたいな格好の男の子の三人組は、葬儀の参列者としては浮いていた。
いや、そこだけ異空間が広がっているようだった。
お父様は相当焦っていたでしょうねぇ。
「ハルト様ぁ、アタシ、今日という日を心待ちにしていたのよぉ〜ん」
いや、今、葬儀中。
彼女は体をクネクネとくねらせながら、周りの白い目を全く気にしていないどころか、ある意味堂々としていた。
対して、さっきまで流していた涙は、冷や汗に変わったらしラインハルトお父様の焦る姿に、私の涙もすぅーっと引っ込んだ。
貴族の男性が愛人を持つ事などよくある話だ。しかし、正妻の葬儀に非常識な恰好で乱入し、正妻の死を喜ぶような発言を堂々とかます頭の悪い愛人を持つ貴族男性は滅多にいないと思う。
しかもそれだけじゃなかった!
連れてきた子どもの顔が、どう見てもお父様の実子としか思えなかったのだ。それも二人とも!
ねぇ、狙った?
狙ってこの場に子どもを連れて来たの?
きっと誰もがそう思ったんじゃないかなぁ。
身なりこそ安物のドレスとスーツだったけれど、子どもたち二人ともが美しく整った顔立ちで、しっかりと手入れをすれば、綺麗な髪色になると思われる白銀色の髪に、カテッツォ侯爵家特有の美しい紫の瞳をしていたのだ。
因みに私の瞳はアクアマリン色。完全に母親似で、お父様に似ているところなど、ひとっつも無いと言っていいぐらいには似ていなかったんだよねぇ。
今となっては、『良かったぁ』と心の底から思うのだけれど。
「ねーねー。私、こーしゃくれーじょうになるのよねぇ?」
「とうちゃん、おとといぶりぃ~。ねぇ俺って、あととりってやつなんだよねー。あととりって何?美味しいもの?あー、はらへったぁ」
「コラッ!アンタたちっ。アタシたちはカテッツォ侯爵家の人間になるのよ。お貴族様らしくしなさいよっ!」
・・・・涙が引っ込むだけじゃなく、あまりに非常識な態度に悲しみも吹っ飛ぶってものよね。
お母様を失った悲しみは一時棚上げ状態となり、まじまじと彼女たちを見ていると、ある事に気付いてしまった。
アレ?あの姉弟に見覚えがあるんだけど?
あの双子のようにも見える姉弟に共通した、整った容姿に特徴的な紫の瞳。
とても見覚えがあるような気がするけど、私が見たのはもう少し大きかったような……ん?
リリエル。
それにカテッツォ侯爵家。
そして目の前にいる姉弟の容姿。
っ!!
あぁぁぁぁああ!!!
私、ドアマットヒロインじゃん!!
この作品は前・中・後編で完結します。




