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第15話:逆転の一閃と神竜の覚醒

「まだです、エラーラさん。まだ、終わってません」


絶望に染まりかけたエラーラの前に立ち、俺はバスタードソードを構え直した。その瞳に宿る確かな光に、彼女は息を呑む。


「…正気かい、ライアン?あいつは不死身だ。核を叩かない限り、何度でも再生する」

「ええ。だから、核を叩きます。でも、直接じゃない」

俺は、先ほど見た一瞬の光景――巨像が核から魔力を吸収した、コンマ数秒の間だけ、その全身を覆う水晶の輝きが僅かに弱まった『綻び』をエラーラに伝えた。


「奴が魔力を吸収する、その一瞬だけがチャンスです。その瞬間、末端の水晶は再生能力を失い、脆くなるはず。そこを俺が叩きます」

「…なるほど。けど、どうやってその『瞬間』を作り出すんだい?気まぐれで吸収されても、合わせられない」

「だから、強制的に作らせるんです。エラーラさんの、最強の一撃で、大水晶核そのものを直接狙ってください。奴は核を守るために、強制的に魔力を吸収し、防御を固めるはずです。それが、俺たちが勝つための唯一の引き金になります」


あまりにも危険な作戦。失敗すれば、さらにパワーアップした巨像の、怒りに満ちた反撃が俺たちを待っている。エラーラは一瞬ためらったが、俺の覚悟に満ちた瞳と、肩で同じように闘志を燃やすソラの姿を見て、ふっと笑った。


「…あんた、本当に面白い奴だね。いいだろう。あんたのその無謀な作戦、乗ってやるよ。あたしのとっておき、見せてやるから、絶対に決めな!」

「はい!」


俺たちの覚悟は、決まった。

「行くぞ!」


エラーラの合図で、俺は再び巨像に向かって駆け出した。目的は、彼女が奥の手を準備するための、決死の時間稼ぎ。

「グルオオオオッ!」


俺の動きに気づいた巨像が、凄まじい勢いで腕を振り下ろしてくる。だが、今の俺には、その動きがスローモーションのように見えていた。

《詳細情報閲覧》を極限まで集中させ、敵の攻撃パターン、重心の移動、筋肉の収縮を『予測』する。右、左、そして薙ぎ払い。紙一重で猛攻をかわし続ける俺の姿は、まるで巨大な牛をあしらう闘牛士のようだっただろう。


(ソラ!)

俺の思考と完全に同調したソラが、俺の足元から飛び出し、巨像の足に絡みつくように《溶解液》を撒き散らす。巨像の足元がぬかるみ、その巨大な体躯が僅かにバランスを崩す。その一瞬の隙が、俺の生存確率を大きく引き上げてくれた。


背後で、エラーラの魔力が急速に高まっていくのを感じる。ビリビリと空気が震え、尋常ではない力が一点に収束していく。

「ライアン、あと少しだ!」


エラーラは、背中の矢筒から一本の矢を取り出していた。それは、ただの矢ではない。白銀に輝き、矢じりには星の光を宿したかのような、美しい一矢。


巨像も、その矢が放つ尋常ならざる魔力を感じ取ったのだろう。俺への攻撃をぴたりと止め、その敵意をエラーラへと向けた。

(まずい…!)


巨像がエラーラに向かって腕を振り上げる。彼女は今、全神経を集中させており、動けない。

「させるかぁぁっ!!」


俺は、エラーラと巨像の間に、身を挺して立ちはだかった。

絶望的な体格差。今度こそ、防ぎきれない。俺の体が、巨像の拳によって塵芥と化す。

そう覚悟した、その瞬間だった。


『――契約者ノ覚悟ニ、我ガ魂ハ応エヨウ――』


脳内に、直接、荘厳で、どこか懐かしい声が響き渡った。それは、ソラの声…?

次の瞬間、俺の肩で輝いていたソラの体が、眩いばかりの光を放った。そして、その光は奔流となって、俺の体の中へと流れ込んでくる。


「うおおおおおっ!?」


全身の血管が沸騰するような熱。筋肉が悲鳴を上げ、骨がきしむ。だが、それは苦痛ではなかった。力が、俺の知らない『力』が、体の奥底から湧き上がってくる。

ふと自分の腕を見ると、そこには淡い蒼色の光を放つ、美しい竜の鱗が浮かび上がっていた。


《スキル《神竜同化ドラゴニック・ユニゾン》Lv.1が発動しました》


これが、ソラの…神竜の力の一部。

世界が、さらにゆっくりと見える。巨像の振り下ろす拳も、今は止まって見えるほどだ。

俺は、溢れ出す力に任せて、バスタードソードを振るった。


ガキイイイイイイインッ!!


これまでとは比較にならない、凄まじい金属音。俺の一振りは、巨像の拳を、いとも容易く弾き返していた。


「なっ…!?」

エラーラが、信じられないものを見る目で俺を見ている。だが、驚いている暇はない。

「今です、エラーラさん!」


「…ああ!」

我に返ったエラーラが、弓を最大限まで引き絞る。彼女の瞳に、決意の光が宿った。

「喰らいな!これが、あたしの家宝…!『星砕きの一矢ミーティア・アロー』!!」


放たれた矢は、流星そのものだった。

一条の光となって空洞を駆け抜け、寸分の狂いもなく、中央に鎮座する巨大な『大水晶核』に突き刺さる。


ズガアアアアアアンッ!!


凄まじい爆発音と共に、大水晶核が悲鳴を上げた。作戦通り、核は自らを守るため、巨像から強制的に魔力を吸収し始める。

そして、その瞬間、巨像の全身を覆う水晶の輝きが、僅かに、そして確かに、弱まった。


コンマ一秒にも満たない、絶好にして唯一の好機。

神竜の力を宿した俺が、それを見逃すはずがなかった。


俺は、もはや人間のものとは思えない速度で地面を蹴った。狙うは、巨像の右足の膝。そこに埋め込まれた、ひときわ大きな末端の水晶。


巨像が、俺の動きに気づき、迎撃しようと腕を動かす。だが、遅い。

俺の体は、既に巨像の懐深くにまで到達していた。


「これで、終わりだぁぁぁっ!!」


俺の絶叫と、ソラの咆哮が、一つに重なる。

神竜の力を宿したバスタードソードが、紫電を纏い、逆袈裟に振り抜かれた。


メキョォォォッッ!!!


空洞全体に、ガラスが砕け散るような、甲高い破壊音が響き渡った。

俺の一撃は、確かに、巨像の膝にある水晶を粉々に打ち砕いていた。


ピタリ、と。

天を突くほどの巨像の動きが、完全に、停止した。


そして、俺が破壊した一点から、まるで蜘蛛の巣のように、無数の亀裂が、巨像の全身へと、凄まじい速度で広がっていく。

俺は、目の前で繰り広げられる崩壊の序曲を、ただ、見つめていた。

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