表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

11/15

第11話:新たなる旅立ちと汚染の影

Cランク冒険者になってから数日。俺の日常は、劇的に変化した。ギルドへ行けば、もはや俺を侮蔑する者は誰一人いない。代わりに向けられるのは、尊敬と、わずかな畏怖の念だ。駆け出しの冒険者からは質問攻めにされ、ベテラン冒険者からは実力を試すような視線を向けられる。その全てが、俺が冒険者として確かに前進している証だった。


俺とエラーラは、あの日以来、ギルドマスターのダリウスの執務室に足繁く通い、『呪われた水晶核』に関する情報を集めていた。


「やはり、お前たちの見立て通りだ」

ダリウスは、山のような資料の中から一枚の羊皮紙を取り出し、テーブルに広げた。

「ここから王都方面へ向かう交易路の中継点にある町、『シルヴァン』。その近郊の鉱山で、数週間前から原因不明の落盤事故や、鉱夫たちの失踪が相次いでいるらしい。そして、ごく最近になって、鉱山から正気を失ったモンスターが溢れ出しているとの報告があった」

「…汚染、ですね」

エラーラの言葉に、ダリウスは重々しく頷く。

「ああ。鉱山という閉鎖空間で、呪物が密かに使われた可能性がある。水晶核をアステルに持ち込んだ者たちの手がかりが、そこにあるかもしれん。だが、シルヴァンのギルドはまだ事態の深刻さを理解しておらず、調査は遅々として進んでいないようだ」


目的地は決まった。俺たちの新たな任務は、シルヴァンの町へ向かい、鉱山の汚染事件を調査すること。これはギルドからの正式な依頼であり、俺とエラーラの新しいパーティーにとって、最初の大きな仕事となる。


「行く前に、まずは装備を整えることだ。Cランク冒険者が、いつまでも使い古しの装備では話にならんぞ」

ダリウスの言葉に、俺は頷いた。ブラッド・ドルイドとの戦いで、俺の革鎧と短剣は限界を迎えていた。


俺たちは、報酬で得た金貨を手に、アステルで一番品揃えの良い武具屋へと向かった。店内に足を踏み入れた瞬間、鋼と油の匂いが鼻をくすぐる。以前、なけなしの銅貨を握りしめて訪れた時とは、見える景色が全く違っていた。


「いらっしゃい!…おお、あんたたちは『アステルの英雄』じゃないか!ゆっくり見ていってくれ!」

店主は俺たちに気づくと、満面の笑みで迎えてくれた。

俺は、これまでショーウィンドウの向こうから眺めるだけだった、きらびやかな装備の数々を、今、自分の手で選んでいる。胸の高鳴りが抑えられない。


エラーラのアドバイスを受けながら、俺は自分の戦闘スタイルに合った装備を選んでいった。防御力を重視した鋼鉄の胸当て(チェストプレート)と、動きやすさを考慮した革の腕当てとすね当て。そして、武器は短剣から、リーチの長い片手半剣バスタードソードへと新調した。


最後に、鏡の前に立つ。そこに映っていたのは、もう追放された頃の見る影もない、Cランク冒険者として遜色のない、精悍な自分の姿だった。

「…どう、ですかね?」

「ああ、様になってるじゃないか。よく似合ってるよ、ライアン」

エラーラに褒められ、俺は照れくさそうに頭を掻いた。


俺たちはその後も、二人用のテントや調理器具、長旅に備えた保存食などを買い揃えた。まるで、これから始まる新しい生活の準備をしているようで、その一つ一つの作業が、不思議と楽しかった。


そして、出発の日の朝。

俺とエラーラが西門へ向かうと、そこには見送りの人だかりができていた。ギルドの受付嬢、俺たちに憧れの眼差しを向ける新人冒-

険者たち。そして、その中には、すっかり傷の癒えたガンツの姿もあった。


「ライアン、エラーラ。世話になったな。この恩は、俺がAランクに昇格して、必ず返す。だから、お前たちも絶対に死ぬんじゃねえぞ」

「はい。ガンツさんも、お元気で」

力強い握手を交わし、再会を誓う。アステルは、俺にとって第二の故郷のような場所になっていた。


「行こうか」

エラーラに促され、俺はソラが乗る肩を一度だけ揺らし、思い出の詰まった街に背を向けた。

ここから先は、未知の領域だ。だが、不安はなかった。隣には、信頼できる仲間がいるのだから。


シルヴァンまでの道のりは、馬車でも五日はかかる。俺たちは、街道を使いながらも、途中で森に入って近道をするルートを選んだ。その方が、モンスターとの実戦をこなし、俺たちの連携をさらに高められると考えたからだ。


旅は、順調に進んだ。エラーラのレンジャーとしての知識は圧倒的で、安全な野営地の確保から、食料となる動物の狩りまで、完璧にこなしてくれた。俺も、《詳細情報閲覧》で危険を事前に察知し、幾度となく危機を回避した。


そして、旅も三日目に入った頃。俺たちは、森の中で一体の巨大なモンスターと遭遇した。

「…オーガか。それも、二体」

エラーラが、低い声で呟く。身長3メートルはあろうかという巨体に、巨大な棍棒を携えた、Cランク冒険者でも苦戦は必至の強敵だ。


「グルオオオ…」

オーガたちは、こちらを餌と認識し、涎を垂らしながらゆっくりと距離を詰めてくる。

「ライアン、やれるかい?」

「はい。やりましょう」


俺たちは、アイコンタクトだけで互いの意思を疎通する。

俺が前に出て、一体の注意を引きつける。エラーラはその隙に、もう一体を狙撃する。単純だが、今の俺たちにとっては最も効果的な戦術だ。


俺は新調したバスタードソードを抜き、一体のオーガの前に立ちはだかる。

「来いよ、デクノボウ!」


俺の挑発に、オーガは単純な頭で怒りを爆発させ、棍棒を力任せに振り下ろしてきた。

ゴウッ、と風を切り裂く凄まじい一撃。以前の俺なら、間違いなく肉塊になっていただろう。だが、俺は冷静にその軌道を見切り、半歩下がって回避する。そして、がら空きになったオーガの足に、渾身の力で剣を叩きつけた。


「グギャアア!?」


鋼鉄の剣は、オーガの硬い皮膚をいとも簡単に切り裂き、その巨体をよろめかせる。新しい装備と、レベル10の力が、これほどとは。

その瞬間、後方から矢が飛来し、もう一体のオーガの目に深々と突き刺さった。エラーラの完璧な狙撃だ。


俺たちは、その後も危なげなく連携し、二体のオーガを討伐することに成功した。

「…はぁ、はぁ…。やりましたね」

「ああ。今のあたしたちなら、オーガ二体くらい、どうってことないな」


勝利の余韻に浸りながら、俺は討伐の証としてオーガの爪を剥ぎ取ろうと、その死骸に近づいた。

そして、気づいてしまった。


オーガの太い首筋。その皮膚の下に、微かに、しかしはっきりと浮かび上がっている、あの禍々しい『紫色の紋様』を。


「…エラーラさん、これ…」

俺の指差す先を見て、エラーラの表情が凍りつく。

「…嘘だろ。こんな街道沿いの森まで、汚染が広がってるのか…?」


アステルの『沈黙の森』だけの、局所的な事件ではなかった。

俺たちが追っている悪意は、既に広範囲に、静かに、そして確実に、この世界を蝕み始めていた。

俺たちは、自分たちが想像していた以上に、深刻で、巨大な陰謀の渦中にいることを、この時、はっきりと悟ったのだった。

ここまでお読みいただき、誠にありがとうございます!


ライアンとソラの新たな冒険、お楽しみいただけましたでしょうか。

もし少しでも「面白い」「続きが気になる」と思っていただけましたら、ぜひブックマークの登録や、ページ下の【★★★★★】から評価をいただけますと、大変励みになります。


皆様の応援が、執筆を続ける何よりの力です。

次回も楽しんでいただけるよう精一杯頑張りますので、どうぞよろしくお願いいたします!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ