02 スキルと魔力とその俺と
昨日、俺は現実世界で死んだ。
死んだからもう地獄に行くと思っていたが、
何故かこの自然たっぷりの異世界に転生した。
未だに何故俺が転生したのか、
転生者がいないもんだから分からない。
何か使命があるのかもしれないが、
どちらにせよ、今それを知ることはできない。
ということで、
何もすることが無い俺は今、
ただ動物を狩っている。
そういえばこういうのは大抵
「魔物」と呼ぶので、
俺もこれからはこれらの動物を
「魔物」と呼ぶことにする。
それはそうとして、
俺は魔物を狩っているうちに
魔物たちの情報を
たくさん手に入れることができた。
それらを使ってもっと狩りの精度を
上げていきたい。
まず手に入れた情報の一つに、
「魔物は魔力に寄ってくる」
というものがある。
どうやらこの世界では
血液の代わりに魔力が体内を巡っていて、
体内にある魔力を欲するのは本能なのだと。
ということは、魔力を一箇所に集めたら
そこに周りの魔物が集まるという、
とても使いやすい習性である。
……これもう罠作らなくても狩れるじゃん。
そう思いながら実際にやってみると……
本当に魔物がたくさんやってきた。
とりあえずやって来た魔物は
全て氷漬けにしておいた。
その内倒れるだろう。
それにしても、ここには家が1軒も無い。
だが生憎俺は工作が得意なので、
そこらへんの木で小屋を作る……
つもりだった。
「あれ?物を運べない…」
魔力切れだ。魔力が圧倒的に足りない。
そういえば魔石はスキル強化に
使えた気がする。
……やっぱり。
俺はすぐさま魔力保有を強化して、
魔力も全回復させた。
魔力保有はLv3までしか上げられなかったが、
今の魔力保有数は80なので十分だろう。
魔力保有というスキルは、
レベルが1上がる毎に
保有数、使用魔力数が共に2倍づつ
上がっていくらしい。
Lv3にもなると
使用魔力も保有魔力数も共に80。
なんとかして魔力を80も集め、
80使って魔力保有Lv3。
「あっ……」
気付いてしまった。
「手持ちの魔力が無い」。
魔力なんて寝れば回復す…る…
も……
そうして俺は、
「まあとりあえず魔力80もあれば十分だろう。」
と思いながら眠りに就いた。
翌朝、
朝っぱらから俺は小屋作りに戻った。
まだ鶏すら鳴かない様な
日の出の時刻。
そんな時間でも、
元自宅警備員「NEET」だった俺は
体力を付けるために働いた。
……ふぅ、ようやくできた。
丸太を切って積み上げ、
中を空洞に作っただけだが、
案外小屋としては良さそうだ。
窓は無いが、換気が出来て良いと思う。
ベッドに関しては、
そこらへんに生えていた麻を布にして
ハンモックみたいにした。
寝っ転がってみたが、
案外寝心地は良さそうだ。
小屋も出来たところで、
俺は色々とスキルを磨く事にした。
魔物をたくさん狩って、魔石をゲッツ。
その魔石から魔力を抜き取り、
魔力でスキルを強化。
それをずっと繰り返すだけの簡単なお仕事。
そうして続けているうちに日は沈み、
辺りは暗くなっていた。
その時だ。
「なんだこれ!?」
いきなり謎の生物が襲ってきた。
姿は人間っぽいが、肌は所々穴が空いており、
肌の色は真緑だ。
ただ肌ボロッボロな外国人だったら
ものすごく申し訳ないが、
うめき声しかあげないので多分違う。
とりあえず氷柱で倒したが、
人型だったのもあり、少し罪悪感がある。
……そうだ、この世は弱肉強食なんだ。
弱い者は強い者に狩られる運命なのだ。
と自分に言い聞かせ、何とか耐えた。
次の日、
朝起きてすぐステータスを見た。
そうすると俺のレベルが2に上がっていた。
おまけに体力や攻撃力、
防御力などの表示も増えていた。
体力。それは前世でも無かったもの。
毎日のように家でネットに入り浸り、
クソ野郎とレスバ対決をしていた俺にとって、
逆に体力がある方がおかしいのだ。
だが、せめて今世では体力を付けたい。
そう思い、野原を駆け巡った。
走って、走る。休憩は魔力が無くなってから。
そうして俺はまた走る。
しばらく走っていると、
「俊敏」というスキルが手に入った。
スキル「俊敏」とは、
簡単に言うと「自分の速さ」の事で、
どうやら瞬発力や反応速度が上がって
速度系の技を使えるようになるとのこと。
ここでひとつ。
「スキルは、開花する。」
俊敏を手に入れた時に云われたセリフだ。
どうやら、
ひとつのスキルを極めると
そのスキルに応じて
新たなスキルが習得できる様で、
それを開花と言うらしい。
開花は全てのスキルでできるものではなく、
「大元」というタイプのスキルのみ可能で、
しかも
開花ができる大元というスキルは
そこそこレアなのである。
今回手に入れた「俊敏」は、
開花すると時間停止や瞬間移動などの
速度系のスキルが習得できる、
「大元」に当たるスキルなのだ。
スキルが開花することを信じて、
俺はまた走り始めた。
体力が尽きるまで、魔力が尽きるまで。
ここだけの話、
体力と魔力は関係があるらしい。
体力回復には魔力を使っていて、
魔力が尽きていれば体力の回復はできない。
体力の回復どころか、
体力自体がスキルだから
魔力で最大体力を増やすこともできる。
俺は最大体力を増やしながら野原を駆け巡り、
生命維持がLv5になった。
大体のスキルは、
初期値×Lvで計算される。
今回で言う体力だと500となる。
多いのかは分からないが、
とりあえず増えてはいる。
体力も増えたことだし、
今日はこれくらいにしておく。
そうして
前世では考えられなかった程の
体力が俺に付いた。
この世界と前の世界での体力の存在は違う。
この世界では体力を「魔力」として持っている。
そして「体力」は言わばHPとなる訳だ。
結局は前の世界での「体力」が
こっちの世界で言う「魔力」に変わっただけ。
魔力がなければ走れず動けず魔法使えず。
でも魔力は寝たら回復するので
そこだけは安心できる。
そうして俺は魔物を狩っていると、
ユーザーランクが2になった。
ユーザーランクが上がると、
全ての基本となっている
基本ステータスが上がる。
どのくらい上がるかと言うと、
大凡元の2倍くらいだ。
一度で
基本ステータスが2倍上がるということは、
「初期ステータスの〇〇乗」という計算になる。
〇〇乗という計算は、
軈て何万という数を軽々と超える。
故に、ユーザーランクが高い人ほど強いのだ。
そんな名誉あるユーザーランクを、
俺はたった今、1上げたのだ。
たったの1だって?
たとえ1だとしても、
この世界では5くらいに成りうる程に
重要な要素だ。
自己肯定感も少し高まったところで、
少しスキルのレベル上げをする。
今回上げるスキルは、「俊敏」だ。
スキル「俊敏」は、
さっきも言った通り開花する、
「大元」というタイプのスキルだ。
「大元」は、
自然に開花する事もあるが
大体は自分でレベル上げをして
開花させるのだそう。
そこで、
俺もレベル上げで
開花させようといった作戦だ。
とりあえず
「俊敏」のレベルを10まで上げ…たかったが、
使用魔力があまりにも膨大すぎる。
俺の魔力最大保有数を上回ってしまったのだ。
さっきも言ったとおり、
大体のスキルは「初期値×Lv」で計算される。
俊敏の初期値は10なので、
その方法でいくと
「10×10」で100となりそうだが、
そうはいかない。
実際はこのスキル、
「10^10」で100億だ。
そう、
何故か大元のスキルは、
「初期値×Lv」という式ではなく
「初期値^Lv」という式。
言わば「初期値のLv乗」という、
なんかとてつもなく頭の悪い
( ᐛ )バカな計算である。
この計算だと、
最大魔力保有数が80の俺は、
大元スキルのレベルは
最大でも2までしか上げられないという、
案外絶望的な状況である。
異世界に転生して浮かれていた俺だが、
異世界も前の世界と同じ、
相当世知辛い世の中である。
そんな現実を突き付けられた俺は、
異世界無双なんて夢を捨て、
一人ハンモックで眠った。