第四章:借り物の名前、失われた本当の自分
ノートのページは、開いたまま震えていた。
そこに書かれた“問い”は、これまでとは違う重さを持っていた。
> 第三の謎:
「君の“本名”は?」
ただそれだけの文。
けれど、ミナトの心臓は、ドクンと大きく跳ねた。
──俺の……本名?
「ミナト」は、今の自分が名乗っている名だ。
けれど、それはノートにそう書かれていたから。
目覚めたときに、それしか“名前”がなかったから。
だが今、その前提が崩れる。
これは、自分自身に突きつけられた最大の“謎”だ。
> 【ヒント】
・“ミナト”という名は、コードネーム
・過去に別の名前で活動していた痕跡あり
・「ユウ」という人物との関係が鍵
再び、部屋が変質する。壁がひび割れ、書斎のような空間が現れる。
中央の机に、封筒が置かれていた。赤い蝋で封をされたそれは、見るからに重要そうだった。
ミナトが封を切ると、中には一枚の書類が──
> 【記録抹消通知書】
被験体コード:MNT-07
旧登録名:***ユウ
状態:記憶分割処理済
処理担当官:***
“名前”の部分が黒く塗りつぶされている。
けれど、そこにかすかに残る筆跡が──「ユウ」という名を浮かび上がらせた。
「……俺の本当の名前は、ユウ……?」
疑念と共に、かすかに胸が締め付けられる。
何かが、どこかで“壊された”記憶の中に眠っている感覚。
ノートに、選択肢が現れる。
> 【選択肢】
A:「ユウ」という名前を受け入れる
B:「ミナト」という名前にしがみつく
C:どちらでもない、自分の名は自分で決める
ミナト──いや、ユウは、ページに指を伸ばし──
A:「ユウ」を受け入れる を選んだ。
次の瞬間、視界が真っ白に染まった。
そして聞こえた声。
懐かしい。優しい。けれど、どこか哀しい声。
> 「……ユウ、おかえり。ようやく“君”に戻ってくれたのね」
誰かが、彼の頭を撫でていた。
だが──顔が、思い出せない。
視界が戻ると、ノートのページは新たな謎を告げていた。
> 【第三の謎・回答完了】
本名:ユウ
コードネーム:ミナト
登録名:削除済
※記憶復元:
「ユウは“記憶操作実験”に関わっていた被験体。
記憶の一部は、自ら望んで削除した可能性がある」
> 第四の謎──
「君が“消したかった記憶”とは、何か?」
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次回予告
第五章『黒く塗りつぶされた日、君が消したかったもの』
> 「思い出したら、もう後戻りできない」
そして、“本当の罪”が浮かび上がる──