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パセリとかと一緒

◇◇◇

「あらあら五月。日曜日に出掛けるなんて珍しいじゃない。デート?遂にデートなの?ママ期待してもいいの?」

「や、そう言うのじゃないんで」

「あらそう?もしそうなら少しお小遣い渡しておこうかと思ったのに」


 一瞬心が動きかけたが金額も聞かずに返事をする訳にはいかない。

「へぇ。因みにお幾ら?」

「信ぴょう性次第ね」

 ニコニコと微笑みながら右手を差し出してくる母。

「その手は?」

「例えばスマホのやり取りとか?」

「子供にもプライバシーってものがあるんで」

「あはは、冗談よ。じゃあママとっておきの二千円札をあげよっかな」

「……あざーっす」


 噂では聞いた事があるが、実際に見るのは初めてだ。二千年に作られたから二千円札なのか?だとするともう二十年も前か。つーか俺が生まれる前か。金額の割に随分重たいものを貰った様な気がする。


「今度ママにも紹介してよね。がんばっ!」

 グッと親指を俺に向けていい笑顔の我が母。


 茶色い外壁の賃貸マンションの一〇六号室を出て駅へと向かう。今日は日曜日。本来休養日のはずだが、今日は予定がある。お察しの通り柊とか白田とかと遊ぶ日だ。結局どこに行くのかもまだ決まっていなくて、待ち合わせは取り合えず一駅隣の急行停車駅だ。


 ちょうどマンションのエントランスを抜ける辺りでピロンとスマホが鳴る。

『もう出た?折角だから駅まで一緒に行かない?』

『悪い、もう駅に向かってる』

 折角の意味が分からないから丁重にお断りしておく。嘘は言っていない。いつもは夜。今は昼。そういうことだ。

『そっか。残念』


 またピロンとスマホが鳴る。そしてエントランスを出てすぐの所でスマホ片手に俺に白い目を向ける白田桐香の姿を発見するのにそう時間は掛からなかった。


「サラリと嘘吐くのね」

「や、嘘は言っていない。駅に向かってはいるだろ?着いたとは言っていない」

 正当性の高い俺の抗弁を受けて白田は腕を組み眉を顰める。

「ん~、まぁ確かに。私を置いて行こうとする意志は感じるけど、ギリギリセーフと言えなくもないか」

「だろ?日本語って難しいよな」


 七月の初め、梅雨はまだ明けてはいないが丁度合間の晴れ日に当たった。日差しはさほど強くは無い。

 白田は白いワンピースの下に薄いピンクのスカートを穿き、黒く長い髪にベージュのキャスケットと言う服装。

 白田の視線がチラリと俺から外れたかと思うと、ニコリと照れ臭そうな愛想笑いを浮かべてペコリとお辞儀をした。


 ゾクリと背筋に冷たいものが走る。嫌な予感しかしない。


 現在地はマンションのエントランスを出てすぐの場所。うちの家はこのマンションの一〇六号室。恐らくきっと白田の視線の先がそこに当たるはずだ。


 例えば、背後におばけとか霊的なものの気配を感じたとして、振り返る事が出来る人と出来ない人がいるとして、俺は後者に当たる訳だ。


「……そ、そろそろ行こうぜ」


 油の切れたブリキの玩具の様にややぎこちない動きで俺は白田に移動を促す。

「うん」

 白田は少し嬉しそうに俺の横を歩く。俺が後ろを振り返る事は無い。



 今日集まる人物のまとめ。俺と、白田と、和久井柊と、紙谷庵司と、伊吹こずえと渡貫なんとかさん。俺と柊と紙谷と渡貫さんが同じ高校で、白田と伊吹さんが同じ高校。俺と柊と紙谷が同じ中学で、伊吹さんと渡貫さんが同じ中学。で、俺と紙谷と白田が同じ小学校と言う訳だ。


「一応確認なんだけど、今日紙谷が来る事は知ってるんだよな?」

「うん。和久井くんから聞いてる」


 別に紙谷一人に罪を押し付ける訳では無い。あいつは白ブタと呼んで俺は黙認した。黙認どころか、今まで通り接しようとした白田を突き放しさえした。どうして紙谷一人を悪人にできようか。


「すごいよね、小中高って一緒なんだ?」

「あー、まぁ。すごいかどうかは別として小中高と同じなのは事実だ」


「何だかすっごい彼女欲しがってるって聞いたけど」

 口元を隠してクスクスと思い出し笑いをする白田。

「中学の頃からずっとそうだよ。結局一度も出来た事ないみたいだけどな。慌てる乞食は何とやら、だ」


「へぇ。そう言う五月くんの方はどうなんでしょう?」

「俺?それは聞くだけ無駄だろ」

「例えばデート代を稼ぐためにアルバイトをしてたり?」

「あぁ、それならもっとバイト頑張れるかもな。つーかそんなに奢らないけど」

「例えばバイトに行くフリをして彼女の家に遊びに行ってたり?」

「あー、そうなぁ。バイト以外で夜十時なんかに帰ったら流石に怒られるもんなぁ。てかその無意味な仮定まだ続く?」


 白田が首を振ると、帽子から伸びた黒い髪も揺れる。

「ううん、もう終わる」

「そっすか」


 うちからバイト先のコンビニまでは歩いて十一分、コンビニから駅までは徒歩三分。イコールうちから駅まで徒歩十四分。


「自転車乗んねーの?」

「うん」

「自転車乗った方が早いだろ」

「うん、そうだね」


 手に持ったバッグを大きく振りながら、白田桐香は鼻歌でも歌わんばかりの上機嫌で歩く。


「どこ行こっか?」

「それは俺らが決める事じゃ無いだろ」

「あ、そうだっけ?あははっ」


 車通りの来ない川沿いの遊歩道、バッグを振りつつクルリと回って白田は笑う。


「ま、俺はパセリとかバランみたいなもんだから君らで決めると良いよ。よっぽどのところじゃ無い限りお供しますんで」


「バランって?」


 首を傾げる白田に向けて指でギザギザを描いてみる。

「ん?寿司とか弁当に入ってる緑の偽草」

「へぇ!あれそんな名前なんだ。後でこずえにも言ってみよ、ふふ」


 グループで、とは言え柊と遊ぶが故の上機嫌感か。


 でも相手は彼女持ち。何で富も女も元々あるところに更に集まるんだろうな。って思っているうちに駅に着いた。


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