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一応、達成?

◇◇◇

「せっ……背の高い女子はお嫌いですか!?」


「好きだけど僕彼女いるよ?」


「ですよねーっ!」


 立ち話もなんだからと立ち寄ったファミレス。伊吹こずえはそう叫ぶと机に身を投げ出した。

「……こずえ、行儀悪いよ」


 キョロキョロと困惑した表情で周囲を伺いつつ白田桐香は伊吹こずえの肩を揺する。


「そうだよねぇ。格好良い人には当然彼女がいるよねぇ。余り物には福があるなんて嘘っぱちだよ、お婆ちゃん……」


 それこそ一目ぼれの様な衝動だった様で、伊吹こずえは冗談で無くメソメソと泣き言を漏らす。


「えー……っと」


 テーブルを囲むのは伊吹の他、五月と白田と和久井(しゅう)渡貫(わたぬき)茉莉花(まつりか)。五月との顔繫ぎを提案してきた当の伊吹は意図も言わずに机に顔を伏せて黙りこくってしまっているので、繋いだ渡貫は責任を感じて苦笑いを浮かべる。


「まぁ、アレだ。状況はよくわかんないけど、席に着いたならちゃんと注文しようぜ。柊は何にする?」


 そう言いながら注文用のタブレットを和久井に手渡す。自身の分のドリンクバーが既に注文されている。

「奢り?」

「ざけんな。割り勘に決まってんだろ」


「あはは、分かってるって」


「飲み物取ってこよ」

 そう言って席を立つと、白田も慌てて立ち上がる。

「わたしも行こっと」

「注文してからじゃなきゃダメだぞ」

「あっ、うん!するっ!した!」


 駅近では無く国道沿いの店舗は利便性と引換に面積を得ている様子で店内は割と広く、アイドルタイムと言える時間とあってあまり客は多くない様子。


 五月のグラスに黒い液体が注がれてシュワシュワと炭酸の泡が弾ける音がする。白田はジッとメニューを見つめた後でストレートティーを選択する。


「あれ?そっちじゃないよ?」

 席とは違う方向に進む五月に声を掛ける。

「あー、いいのいいの。すいません、席分かれていいっすか?こっちでも注文するんで」


 店員の許諾を得て元の席ともドリンクバーとも離れた奥まった席に着く。

「白田は戻っていいぞ。柊にはメッセージ送っとくから」

「どう言う事?」


 五月の向かいに座りつつ白田は困惑の表情で首を傾げるが、五月は手を横に振り説明を拒否。

「別に何も。言葉通りの意味。俺はこっちでスマホでもいじってるから白田は皆のところに戻りなよって事。俺知らない人と話すの得意じゃないし、俺がいない方が会話も弾むだろ」


「……なら私もこっちにいる。知らない人じゃないし、いいでしょ?」

「ならご自由に。何のお構いも出来ませんが」

「ふふ、何それ」


「何か頼むか?」

 注文用のタブレットを指で示して五月が問うと、白田は申し訳無さそうに微笑む。

「平気。ありがと」

「じゃあ俺だけ頼ませてもらうわ」


 山盛りポテトとチーズケーキ。注文を待ちながら別席の和久井柊にメッセージを送る。

『別の席にいるから。そっちはお前がいれば問題ないだろ?』


 間を置かずにピロンと返信音。

『上手い事抜け出すじゃん、意外にやるね。こっちは任せて白田さんとごゆっくり☆』


「はぁ!?」

 予想外の返答に思わず声が出る。

 突然の声に白田はビクッと身じろぐが、机に置かれたスマホの画面が目に入るとにへっと口元が緩む。


「あっ、そう言う事?」

 嬉しそうにニヤニヤと笑みを浮かべる白田桐香に五月は冷めた視線を送る。

「んな訳ねぇだろ。要らん勘違いするならあっちに帰れ」

「嘘!ごめんってば!」


 そんなやり取りをしている内に山盛りポテトが湯気を纏いつつ提供される。

「山盛りポテトのお客様~」

「あ、真ん中の辺りで。食いたかったら適当に食っていいからな。いただきまーす」


 ケチャップとマヨネーズが添えられていたが、二・三本掴み何もつけずにパクリと口に運ぶ。


「うん、うまい」


 その様子を申し訳無さそうに眺める白田。


「……あのね、別に食べたくない訳じゃ無くってね」

 本当に申し訳無さそうに伏し目がちに呟く。

「食べるとすぐに太っちゃう……から」



「あー、そっか。何も考えずに薦めてごめんな。……つーか、もしかして目の前で食うのも大分無神経か?」


 

「ううん、それは全然いいの!本当に気にしないで!人がおいしそうに食べてるのを見るのは大好きだし!別に全く食べられない訳でも無いしさ!食べたらその分走ればいいんだもん!そのおかげで持久走もすっごい速くなったんだよ!?」


 小学生の頃、毎年冬に行われていたマラソン大会では白田はいつも最下位近くだった。先にゴールしている生徒達から声援を受けながら汗を流して息を切らせて歩くよりも遅いような速度でゴールするのがお決まりだ。


「それはすげぇな。陸上部とか入ればいいのに。あ、もう入ってるとか?」

「ううん、部活は入ってないよ。雨野くんは?」


「入ってると思うか?週二回のバイトで精一杯だよ。筋トレぐらいはしてるけどな」


「へぇ!腹筋とか割れてるの?」


「割れて……は、いない。ぶよぶよではない、程度」


「ふふ、そっか」


 ストレートティーのストローに口を付けながら、興味深げにニコニコとして相槌を打つ。


「それにしても白田、背伸びたよな。もしかしてまだ伸びてたりする?」

「ううん、流石にもう伸びてないよ。こずえはまだ少し伸びてるって言ってたけど。あっ、こずえって言うのは一緒に来てた子ね。伊吹こずえって言うの。一番仲良しなんだ」

「あー。自己紹介する間も無く突っ伏してたな」


 笑っては悪いような気もするが、勢いよく撃沈した伊吹こずえを思い出して少し笑ってしまう。

 

「柊に会いに来たんだろ?残念だったな。あ、柊ってのはさっきのイケメンな。和久井柊」


「うーん――」


 眉を寄せながらストレートティーを飲む。水位はどんどん減って行って、ズッと空気を吸う音がするとほぼ同時にストローから口を離す。


「や、あのですね」


 小さく手を挙げると、頬が仄かに赤く染まる。


「……実は、わたしが……と言いますか」


 その言葉を聞き、驚いた様に五月は一瞬目を丸くする。

「あー、マジか。そりゃあ重ねて残念だったな。相手社会人だぞ。看護師だってさ」

「や、あの、ですね。違くて」


 訂正を試みるが、正しく伝えると言う事は『五月と会う口実を作る為に、白田が自分で言えないから伊吹が言ってくれた』と言う事だ。となれば、『何故五月と会う口実を作る必要があるのか?』との疑問が出るのは自明の理。言えるはずが無い。


 五月からすれば、頬を赤らめて口籠る白田の様子は照れ隠しにも映ることだろう。


「協力してやりたいけど、俺に出来る事と言ったら精々柊が別れたら教える位のもんだしなぁ」


 何と答えたらいいか答えに窮すが、このまま誤解を解かないのもマズい。ギュッと一度唇を結び、意を決して口を開く。


「あのね!本当は――」

「とりあえずその時が来たら教えるから連絡先位交換しておくか?」


 口元がにやけそうになるのを隠す様に顔を逸らしながらスマホを五月に向けてテーブルに置く。

「そ……、そうだね。そう。そうしようか、あはは」


 

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