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誰と歩くいばらの道

◇◇◇

「ねぇ、五月。あんた知ってる?桐香ちゃんがCMやってるなんかゲーム。今なら桐香ちゃん貰えるんだって!」


「あのね、母上。それ白田は貰えないんすよ。言ってわかるかわからないけど、SSRのカードが貰えるだけで、白田桐香のカードじゃないんすよ。あとゲームって言ってもソシャゲだから止めとけよ?お金掛かるから」


 五月の母はすっかり白田桐香のファンになったようだった。遅ればせながら白田の出ているソシャゲのCMをなにかで見たようで、興奮した様子で五月にそれを伝えてきたのだ。


「へぇ~そう。桐香ちゃんのカードが出るわけじゃないんだ?じゃあいいか。ところでSSRって何の略なの?」

「はぁ?そんなの決まってんだろ、あれだよ。スーパー……」


 口籠る五月をよそに母はスマホで検索を始める。

「あぁ、スーパースペシャルレアの略なのね」

「へぇ、そう」


 親子の共通話題に白田桐香の話題が増えた。母はスマホで白田桐香の情報を逐次チェックしているので、次に何に出るとか載るとかは五月よりも詳しいようだった。


 自室に戻り、宿題をやる前に筋トレでもするかとプッシュアップバーを取り出していると、ピロンとスマホが鳴る。

『おかげさまで写真集の売れ行きが良いようで、社長からボーナスを貰っちゃいました!』

 続けてたてがみが総毛立つ程驚いているライオンのスタンプ。

『だから今度どこかに行きませんか!というお誘いです』


 言われて五月は少し考える。

『事務所的なところ的にはオッケーなの?』

 そう聞くと、前も送られてきた首を傾げるビーバーかカワウソのスタンプが送られてくる。

『と、言うと?』


『いや、俺と二人で出かけてるところを写真週刊誌に撮られてさ、グラビアじゃない載り方しちゃわないかなって。それで白田の仕事に迷惑がかかったら申し訳ないっていうか……』


 白田の返信の間が空き、次にスマホが鳴ったかと思うとメッセージで無くビデオ通話だった。

「こんばんは」

「こんばんは!今平気?何してた?」


 やや上機嫌な白田は自宅なので髪を解いて眼鏡も外している。

「特に何もしてない。宿題の前に筋トレしようとしてただけ」

「してるじゃん!ごめんね、すぐ切るから」

「いや、別にいいよ。急いでやる事じゃないから」

「宿題は急いでやる事だと思うけどなぁ。あっ、そう言えば五月くんは昔からよく宿題忘れてたんだっけ」


 クスクスと笑う白田に五月は首を傾げる。

「そんな事無いだろ。割と真面目にやってたと思うんだけど。いつの話だよ」

「ん?一年生の時の話」


 つい先日『秘密』と言ったばかりの初恋エピソードに触れそうになってしまい、そこで言葉を止める。


「思ったより昔の話だった。つーかよく覚えてんな」


 感嘆の声に照れながらも胸を張る。

「五月くん絡みの事なら大体は。ふふふ、伊達にこずえにストーカー扱いはされてないよ」

「胸を張るところなのか、それ」

「……引く?」


 自分で言っておいて急に恥ずかしくなり、五月の表情を窺いながら恐る恐る白田は問うが、五月は何でもない風に首を横に振る。

「いいえ?『眠らない白雪姫』こと白田桐香サンにストーキングされるなんて光栄の到りというものっすよ」


「ふふ、前にこずえも同じような事言ってたよ」

「マジか。別にいいけど。あー、で、話戻すけど事務所的にスキャンダルの種はまずいんじゃないのって話」


「委員長からもしばらくグループで会った方が安全じゃない?って提案されてるよ」

「ほら。だろ?委員長が言うなら間違いねーよ」

 実際彼女は五月にとって委員長でも何でも無いのだが、すっかり委員長で定着したようだ。


「知ってる。言ってみただけ」


 わがままを言っている自覚はある。委員長の提案が正しいのも安全なのもわかる。それでも、どんな形であれやっとの思いで好意を告げたのだから一度位は二人で出掛けたいと思うのも自然な事だろう。その言葉を飲み込みつつも、せめてもの意思表示として不満に口を尖らせてみる。


 委員長の言う事もわかるし、五月も同意見ではある。でも『しばらく』というのはどのくらいの間なのだろう?時期が過ぎれば二人で出掛けられるものなのだろうか?白田桐香の人気と知名度が一過性のもので、今をピークとしてこれから急下降をするのならば『しばらく』でいいだろう。


 ならばもしこれから人気が右肩上がりに上がるとしたら、しばらく待つ事にどんな意味があるのだろうか。そして、白田桐香の芸能活動がこれからどちらの方向に転がるのかを五月は確信している。


「あのさ、白田。俺は白田の邪魔はしたくないし、邪魔にもなりたくないんだ」

「邪魔になんてなるはずない」


 白田は真剣な面持ちできっぱりと言い切る。傲慢な物言いに聞こえるかもしれないが、彼女にとっては芸能活動自体が自信を付け、五月との距離を取り戻す為の手段でしかないのだ。自信はともかく五月と今の関係を築けた以上本来執着の余地は無い。とはいえ、『あなたの為にやりました』と言うのはさすがに重い思いだと白田自身も十分理解している為口には出さない。『為に』は裏返せば 『せいで』になる。それを口にしてしまうと、万一何かあった時に五月が責任を感じてしまうかもしれないから。


 五月は首を横に振り、困り顔で言葉を続ける。


「白田はそう言うだろうけど、状況的には確実になるんだよ。どう考えても俺の存在ってのは白田の活動にとってマイナスにしかならないんだよ。でもさ――」


 

「それを言ってまた距離を置いたら、もうどんな言い訳も出来ないと思う。きっと一生自分を許せる日なんて来ないと思うんだ。だから行こうぜ。考えてくれた委員長には悪いけど、しっかりと変装して、バッチリ対策してさ」


 予想外の答えに一瞬きょとんとした顔をした白田は、次の瞬間にはにっこりと嬉しそうに満面の笑みを浮かべる。


「デートだね」


「や、何かの行事だろ?」


「あれ?今距離置いた?」


「……置いてない」


 白田桐香は楽しそうにクスクスと笑った。


 



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