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かつて白ブタと呼ばれていたクラスメイトが何年か見ない間に白雪姫とか呼ばれて雑誌のグラビアを飾っていた  作者: 竜山三郎丸
白ブタと呼ばれた幼馴染

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絶対

◇◇◇


『お土産なにがいい?』

 

 白田からのメッセージに一瞬首を傾げる。


『何が良いと言われましても、行き先が分からないとリクエストも出来ないんですが』


 ハッと閃くヒラメかカレイっぽい魚のスタンプ。多分ヒラメだとは思う。確か目がどっち向きかで判別出来た気がするけど、それ以上の知識は持ち合わせていないし検索するまでの興味も無い。多分ヒラメ、と言う事で納得しておく。


『あっ、そうだよね。沖縄だよ』


 へぇ、じゃあ――と打ったところでメッセージが取り消されて、少し待っていると続報が届く。


『えっと、今の無し。……打ち間違えデス。おっきい縄って打とうとしたんだけど、ちょっと』


 なるほど、大体事情は把握した。恐らく白田は撮影で沖縄に行くのだろう。だがコンプライアンス上部外者の俺にそれを伝えるのはまずいと気付き、慌ててメッセージを取り消して無理くり訂正を試みてきたと言う事だと想像できる。


『おっきい縄と言えば出雲大社だよな。旅行行くの?』

『それは~、秘密だよ!とにかくお土産買ってくるからね』


 チョウチンアンコウの頭の提灯に赤字で×と書かれたスタンプ。毎回思うのだけれど、白田はどういう基準でこのスタンプを買うに至ったのだろう。


『いつも思うんだけどさ、このスタンプは自分で買ってるの?』


 仕事の話以外は気になったら聞く様にしている。なんとなく精神衛生上その方がいいし。


『えっ、そうだけど……変かな?』

『全然変とかじゃなくて、面白いなって』


 ピロンとスマホが鳴る。メッセージかと思ったらスタンプのプレゼントだった。白田愛用の『かわいいどうぶつたち』スタンプだ。

『お、マジ?』

『どうぞどうぞ』


 贈られたスタンプを眺めると半分くらいは何の生き物なのか分からない。とりあえず感謝の意を示そうと思い、なんかすげぇ睨んでる鳥の横に『感謝』と書かれたものを送ってみる――。


 ――ピロン、と白田桐香のスマホが鳴る。


「わぁ」


 画面越しに睨みを利かせながら感謝の意を示すハシビロコウのスタンプを見て、白田桐香は感嘆の声を漏らす。


 押しつけがましいか?とも思ったが、勇気を出してプレゼントした甲斐がありお揃いのスタンプを使う事になった。嬉しいやら気恥ずかしいやらでバタバタとベッドを足で蹴る。


 お揃いだね、と入力をして即座にバツ印で文字を消す。


 五月の予想通り、白田桐香は来週から三泊四日で沖縄に撮影に向かう。雑誌のグラビア撮影でもあるのだが、実質的には秋に発売される写真集の撮影だ。


 白田の強い意向で今回も水着の撮影は無い。社長もそれを許容してくれている。



 何往復かメッセージのやり取りをして、『じゃあまた』と締める。


 ナイトキャップを被るブタバナコウモリが眠っているスタンプを送ると、五月からも同じスタンプが返ってくる。


「もうっ、五月くん!もうっ!」


 赤い顔でバタバタとまたベッドを蹴ると、部屋の外から『きーちゃ~ん』と母からの苦情が飛んでくる。

「ごめんなさーい!」


 とは言えこの喜びをすぐに誰かに伝えたい。夜も遅いので選択肢は限られる……と言うか一択だ。


「こずえ!聞いて聞いて!」


 間を置かず伊吹こずえに電話を掛ける。ビデオ通話で無く普通の音声通話だ。


「おうおう、夜にも関わらず弾んでるねぇ、声。どんな良い事があったのかお姉さんに聞かせてもらおうじゃないの」


「同じスタンプが返って来たの!」


「むぉ?もう少し詳しく」


 ベッドでストレッチをしながら通話していた伊吹は首を傾げつつ補足説明を求める。


「五月くんがスタンプを褒めてくれたから、勇気を出してプレゼントしてみたの。そしたらなんと、同じスタンプを返してくれたの!」


「水を差すようだけど、プレゼントされたら社交辞令的に使わない?」

「あっ、そういう事言うんだ?じゃあこずえも想像してみなよ。和久井くんが同じスタンプ返してくれたらどう思う?」


 白田の問いかけを受けて、急にこずえの声の調子が変わる。

「えっ、やばいねそれ。お揃いじゃん」

「でしょでしょ!?お揃いでしょ!?ふふ、だから言ったのに」


「まぁでも柊くん彼女いますけどね……」


 現実を思い出して大きく深くため息をつく。


「……絶対超美人さんだよね~。で、年上看護師さんのコスプレイヤーでしょ?勝てる要素ゼロじゃんねぇ」


「そんなのわかんないじゃん」


「ほう、桐香サンはわたしに略奪愛をしろと?」


「……そういう訳じゃないけど」


「あはは、まぁわたしの事は別になんでもいいんだって。そんな事より君たちはいつになったら付き合うの?もう付き合ってる様なもんじゃん。二人で遊びに行って、夜電話して、手を繋いで、キスをして」


「後ろの二つはまだしてない!」


 白田の失言を引き出した事に満足を覚えつつ、伊吹こずえはにやにやと笑う。

「ほうほう、『まだ』ね」


「……そう、『まだ』だよ」

 引き出された失言ではあったが、腹は既に決まっている。


「そういうのはちゃんと告白して付き合ってからだから」


 はっきりと決意を込めて白田桐香は言う。


 初めて会った時、自信なさげにおどおどしていた美少女は、ゆっくりと少しずつではあるが自分の足でふらふらと前に進みはじめている。


 その成長が自分の事のように……正確には自分の事以上に嬉しく思えて、伊吹こずえは思わず目にうっすらと涙を浮かべる。ビデオ通話にしていなくてよかったなぁと思いつつ目元を手で拭う。


「そっか。夏休み中には告白する感じ?」


 泣いているのを悟られないようにできるだけ平静を装う。


「ま、まさか!?そんなのまだに決まってるでしょ!?全然まだだよ、まだまだまだまだ!」


 同じ言葉ながらほんの少し前の『まだ』とは全く打って変わって余裕もなにもない声が響く。


「絶対イケると思うけどなぁ。絶対さっちゃんも桐香の事好きでしょ」

「えっ」


 少しの沈黙の後で、恐る恐る白田は口を開く。

「……絶対?」

「や、さすがにそれはわかんない。ごめん、言い過ぎたと言っても過言ではない」


「もうっ。でも別にいいんだ。それなら好きになってもらえるように頑張るだけだもん」

「絶対もう好きだと思うけどなぁ」

「あっ、また絶対って言った。絶対?」


「あー、ごめん。責任は持てない。あはは」



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