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夏休みの宿題と似て非なるもの

◇◇◇

『今ならSSR貰えるっ♪』


「……マジ?」


 夜中に動画を見ていて思わず声が出た。別にソシャゲのSSRカードとやらが欲しい訳でもなんでもない。動画と動画の間に流れる、普段なら気にも留めないソシャゲのCMに目を引かれた。


 白田桐香がスマホを片手にニコリと微笑む。スマホで簡単操作!豪華声優陣起用の新感覚RPGだとかなんか色々言っているがそんなのは正直どうでもいい。お姫様風の衣装を着た白田がそこにいた――。


 間もなく夏休み。曰く、白田は夏休みに入るとまたいくつか仕事が入っているそうだ。具体的にどこでどんな仕事って言うのはコンプライアンスとか情報漏洩とかで口外出来ないそうだ。当たり前だがしっかりしている。


『SSR貰えるんですか?』と送って布団にごろりと寝ころび天井を眺める。


 夏休み沢山仕事をして、その成果は夏の終わりから秋口あたりに出るのだろう。もしかしたらどんどん人気が出て、テレビに出たりするのだろうか?別に今更テレビ至上主義と言う訳でも無いけど素直にすごい事だと思う。


『貰えるみたいだけど、課金はあんまりしないようにね!お金大事!』

 返信と共に怯えるライオンのスタンプ。百獣の王が怯える程なのだから相当に怖いものなのだろう。時給千円の身で一回何百円と言うガチャとやらを回すのは流石に怖い。


『SSR白田桐香は実装されますか?』

『じっそう?』

『あぁ、悪い。白田のカードはあるの?って事」

『無いよ?』

『残念、あれば引いたのに』


 まぁ半分冗談ではある。もしあるなら話の種にインストールするくらいは吝かでは無いのだが。別に他意は無い。


『ありがとう……、でいいのかな?』

『や、冗談っす』


『なぁんだ、冗談かぁ』


 そんなやり取りをあと二度ばかりしてメッセージを終える。


『じゃあまた明日ね』

『おう、また』


◇◇◇


 翌日――、白田とファミレスで夏休みの宿題を行う事になっている。俺と白田の失われた行事シリーズ第二段『勉強会』らしい。


「勉強会って別に学校行事じゃないと思うんだけど。そもそも小学校の時ってテスト勉強とかしないだろ」


「細かい事はいいの。こういうのは雰囲気が大事なんだから」


 学校が違えば授業の進行も大分違う。そもそもが俺は都立で白田は私立。偏差値も白田の学校の方が高い。


「そうだ。自由研究もやらなきゃね」


 カリカリとシャーペンを走らせながら白田は言う。


「あー、その方が小学生ぽいかもな」

「あとは……、虫捕りでしょ?お祭りでしょ?花火もでしょ?」


 ペンを止め、指折り数えて白田は楽しそうに笑う。


「大忙しだね」


「……つーか、そんな事してる暇あんのかよ。結構ガチで忙しいんだろ?」


「まぁまぁ、ね。でも全然平気だよ」


「倒れたりしないようにほどほどに」


 俺の忠告を耳にしてかしないでか、白田は思い出した様に数えた指をもう一本加える。


「あと海とか……、あっ!違うから!別に水着とかじゃなくて、海で遊ぶ雰囲気を楽しむだけだから!」


「俺は何も言ってないけどな」


 一人で思い出して一人で慌てて否定する白田桐香さん。なるほどマッチポンプとはこういうことを言うのか。


 白田は一人恥ずかしそうに赤い顔をパタパタと手で扇いでいる。


「もう」


「何に対してのもうなのかわかんねぇ」



 勉強会と名の付くものの常と言うか、いつしか勉強など全くしなくなっていた。多分、政治家先生たちの勉強会というのもきっとそうなんだと思う。社会派。


「老婆心ながら一応忠告しとくけどさ、エゴサとかするなよな」

「えごさ?」


「エゴサーチ。ネットで自分の名前とか評判を検索する事。マジで良い事無いから止めとけ?」


 俺の言葉を聞いて白田は一度強く頷く。


「大丈夫、こずえと委員長にも言われてるから。代わりに見てくれてて、いいやつだけ教えてくれたりするんだよ」

「へぇ、すげぇな。マネージャーみたい。頼りになるなぁ」


「でしょ?本当にいつも助けてもらってるんだから」

 友人への誉め言葉を我が事の様に喜んだ後で聞き辛そうにぼそりと呟く。



「やっぱりちょっとくらいは……、悪い事も書いてある?」



「わかんねぇ。俺白田の事検索しないから」


「あっ!そそそうだよね!?ごめん、自意識過剰な事言っちゃって!普通他人の名前なんか検索しないよね!あははは……」


「あ、ごめん。言葉が足りなかった。本人に聞いていない事とかをさ、調べて知った気になっちゃうのが嫌だから、検索しない。……って感じ?ウィキとかあるんだろ?本人に聞けばわかるのにそっちで見るのはなんか違くね?って」


「……そうだね!聞いてくれればなんでも答えるから、遠慮なく聞いてね!」


「好きな食べ物とかな」

「大福!」


「こないだ聞いたから知ってる」

「ふふ、そっか。じゃあ問題、嫌いな食べ物はなんでしょう?」


 急に始まった白田桐香クイズ大会。

「嫌いな食べ物……」


 記憶を遡ってみるが、覚えている限りでは白田はいつもニコニコと楽しそうに給食を食べていた記憶しかない。牛乳だって余っていれば率先しておかわりじゃんけんに参加していたし、わかめご飯だって焼きそばだってきゅうりのひとしおだっておかわりを貰いに列に並んでいたと思う。


 考えてみても思い至らずに、首を捻りながら答える。

「……あんの?」


 白田は勝ち誇ったように得意げな笑みを浮かべる。

「正解はね、『梨』って事になってるの。公式だと」

「梨って、果物の?普通にうまいだろ」


 その食べ物を嫌いだと言っている人に対して、『おいしいのに』とか『普通にうまい』とか愚かな返しだと我ながら思うけれど、つい口をついて出てしまったものはしょうがない。そう弁護をするくらいには俺は梨が好きだと言う事だろうか。


 梨さんへの弁護に白田は照れ臭そうにコクリと頷き同意する。

「うん、知ってる。梨美味しいよね」

「んん?嫌いなんじゃないの?」


「ううん、大好き」

「……なぞなぞかなにか?」


「えっとね、事務所のプロフィールを作る時にね、嫌いな食べ物無いから『なし』って書いたの」

「あぁ。オチが読めた気がする」


 食べ物の好き嫌いが無い白田が正直に嫌いな食べ物は『なし』と書いたところ、なんとなく色白美少女のイメージとそぐわない食いしん坊なイメージを持ってしまう為、嫌いな食べ物……『梨』に変更になったそうだ。で、決めてみてから白雪姫のリンゴに対して、嫌いな食べ物『梨』っていいんじゃね?となったそうだ。梨さんにはいい迷惑と言う他無いが。


 結局、夏休みの宿題なんて四ページしか進まなかった。







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