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閑話 白雪姫のできるまで②

◇◇◇


「へぇ。昔太ってたの?ふーん」

「わたしも最近ちょっとやばいかも……」


 ある日の昼食、コスパ最強の高カロリー菓子パンをかじりながら伊吹こずえが問い直すと、白田桐香はコクリと頷いた。白田からすればまるで罪の告白かのように重要な事を打ち明けたつもりだったが、伊吹も委員長もそんな雰囲気ではない。


「太ってたって言ってもあれでしょ?女子特有の『わたしなんて全然デブだし~☆』的なやつでしょ?あはは、意外と女子っぽいとこあるねぇ白田ちゃんも」


 菓子パンを一つ食べ終わり、次はお徳用惣菜パンの袋を開ける。


「や、違うの。本当に太ってたんだから。……『白ブタ』ってずっと呼ばれてたんだから」


「白ブタ。かわいいじゃん。写真無いの?」


「きみはデリカシーの欠片もないね、本当」


 白い目を向ける委員長に向けて伊吹こずえは自身に親指を向けて得意げに笑う。


「因みにわたしはメスゴリラって呼ばれてたけどね」


「あ~、言われてそう」


「……おい、言葉を何かで包め」



 伊吹こずえは高校一年の入学時点で身長は百七十を少し超えていて、まだ伸びている様子。聞くところ小学校の頃からずっと背は高く、背の順は一番後ろ以外にはなった事が無いと言う。


「……メスゴリラって呼ばれて、どうしてたの?あっ、勿論もし聞いてよければなんだけど」


 動物由来の親近感からか、おずおずながらも白田が問いかける。


「ん?別になにもって言うか。『メスって事は一応女子扱いしてくれてるんだ~。やっさし~!もしかしてわたしの事好きなんじゃないの~?』とか適当にそんな感じ。そうするとあいつら馬鹿だから逆に照れるから」


「……なるほど」


 食事の手を止めてメモを取ろうとする白田を委員長が制止する。白田桐香の昼食はお手製のロカボ弁当。お米は入っておらず、豆類と野菜、鶏肉がメインだ。


「白田さん、多分参考にならないからメモは不要だよ。……って、その子って確か中学でこずえに告白してきた子だっけ?」

「うん、そうそう。実は実際に好きでした☆ってオチが付くわけなんですけど、まぁ普通にお断りしますよね。何年もゴリラだブスだ言われた相手を好きになる訳無いじゃないですか~、あはは」


 ケラケラと笑いながら一つの可能性に思い至る。


「……てことは、アレかな?白田ちゃんを白ブタ呼ばわりしてたそいつも、もしかして白田ちゃんのこと好きなんじゃないのかな?」


「五月くんは一度も言って無いもん」


 ムッとした表情で白田は反論する。思わぬガチめな反応に二人はチラリと目を見合わせる。


「……えぇっと、白田ちゃん。ちょっと聞いてもいい?その五月くんって言う人物は初出だと思うんだけど……一体誰なのかなぁ?」


 こずえの反応で、思わず熱く反応してしまった事に気が付いて顔が紅く染まる。


「べっ別に……。ただの昔のクラスメイトだけど」


 一言発する度に頬は染まる。


「やばい、いいんちょ。超かわいいぞ、この子」



 焦って聞かなくても仲が良くなれば自然と話してくれるだろう。そう思って二人はその件の深追いはしなかった。『白田さん』が『白田ちゃん』になり、そのうちに『桐香』に変わる頃には自然にそんな話をするようになった。


◇◇◇


 白田桐香の日課はジョギングだ。食事制限、記録ダイエット、糖質制限、適度な運動。中学二年の終わり頃から背が伸び始めた事をきっかけに始める様になり、中三の一学期が終わる頃には成果が出始めてきた。


 そして、夏休みが明けて二学期を迎える頃にはほとんど現在と変わらぬ美少女へと変身を遂げていた。


 毎日鏡を見て、毎日体重計に乗り、日々自分が『白ブタ』から遠ざかっていく事が実感できた夏休みだった。


 元々ニコニコと愛想も良く、人当たりもいい白田。小学校時代に『白ブタ』とからかわれ続けた影響で多少引っ込み思案になってしまったきらいもあるが、それでも仲のいい子は多かった。


『少しはかわいくなれたかな?』

 鏡を見ながら指で口角を上げてみる。痩せすぎには注意して、あくまでも健康との両立をしながらのダイエットだ。


 小学校の時、紙谷庵司が彼女を『白ブタ』と揶揄し始めた時に雨野五月が言った言葉を彼女はずっと覚えている。


『白田は別にブスじゃない』、『ブスじゃなくて太っているだけだ』。彼の言葉を信じるならば、痩せればかわいくなれるのかな?と気が付いた中二の終わり。痩せてかわいくなって、白ブタと呼ばれなくなればまた会いに行っても平気だろうか?もう『あっち行け』と言われないだろうか?昔みたいに一緒に遊べるだろうか?


 五月の言葉を支えに白田桐香は毎日走る。


 そう長い距離でもなく、そう速い速度でもなく、そう長い時間でもない。


 通っていた小学校の前を通ったり、五月の通う中学校の前を通ったり。


 暑い日も走り、雨の日はお休みだ。


 そして、迎えた二学期の始業式。クラスメイトは大きな驚きを以て白田桐香を迎えた。


「えっ!?本当に白田さん!?」

「どうしたの!?」

「転校生かと思ったら白田かよ!女ってすげぇな~」


 自分で言うのもなんだが、少しはかわいくなった自覚はある。褒められ慣れていないので、クラスメイトの言葉一つ一つに照れて顔が赤くなってしまう。


「夏休みでダイエットしてたんだ。ちょっとは痩せたでしょ?あはは」


「ちょっとどころじゃないよ!すごいじゃん!」

「やり方教えてよ~」


 クラスメイトの反応は上々で、皆一様に彼女の変化を好意的にとらえ、『綺麗になった』『かわいくなった』と褒めてくれた。裏を返せば今までは『綺麗でなかった』『かわいくなかった』という事か、と勝手に言葉の裏を探ってしまい嫌な気持ちになる。


 姿が変わればおしゃれも似合うかもしれない。今までより自信が付いて、昔みたいに雨野五月と話せるかもしれない。


 鏡を持つようになった。色々な人達が話しかけてくれるようになった。褒められる事が多くなった。


 毎日が今までより少し楽しくなった。


 毎日少しずつ。小さな努力を一つずつ積み重ねてきて、漸く実り始めてきたと実感する。



『最近あの子変わったよね』


 次第にそんな声も聞こえ始めてきた。


 最初に聞いた時は嬉しかった。もっと頑張ろうと思えた。


 次に聞こえてきた言葉は『調子に乗ってる』だった。


 今までも男子と全く会話をしなかった訳では無い。男子と話すのには少し抵抗があったが、それでも出来るだけ笑顔で話す事を心掛けてはいた。同じ事をしているのに、しているつもりなのに今度は『媚びを売っている』と言われ出す始末だ。


 別に調子にも乗っていないし、媚びを売っているつもりもない。


 確かに少しはおしゃれをする様になった。自信も付いた気がした。そのどちらもいけないことだったのかなぁと考えいる間に中学校生活は終わりを迎えていた。


 元々仲が良かった地味めのグループからも、それ以外の子達からも、そのどちらからも『あの子は変わった』と言われ、陰口の対象となる。それでも、卒業も近くそれ以上発展する事は無く、表面上穏やかに彼女は中学校を卒業する。

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