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かつて白ブタと呼ばれていたクラスメイトが何年か見ない間に白雪姫とか呼ばれて雑誌のグラビアを飾っていた  作者: 竜山三郎丸
白ブタと呼ばれた幼馴染

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15/102

発売日

◇◇◇


 ――水曜日。


 毎週月・水はバイトの日なので、今日も夕方五時から夜十時までバイトである。


 朝起きてすぐに白田から『本日発売だよ!』とメッセージが届いた。『あ、そうだったっけ』と返すと、即座にピロンと返信が来る。


『今日……発売……だよ?』

 か弱い文章の後に泣き顔の動物スタンプが送られてくる。トカゲかなにかだと思うが詳細は分からない。


 欠伸をしながら枕元に置いてある漫画誌を手に取る。表紙は眠らない白雪姫こと白田桐香だ。


 最寄りのコンビニ(俺が働いている店ではない)では深夜一時頃から当日発売の雑誌が並ぶので、夜ふかしの散歩ついでに買いに行ったのだ。


 あんまり引っ張ってもかわいそうなので、雑誌を写真に撮り送信してみる。


『買ってるじゃん!も~、嘘つきっ!』

 続けて送られてきたスタンプは頬を膨らませた蛙のスタンプ。アマガエルでないのは分かるが、やはり種類までは分からない。


『そうだった。散歩のついでに買ったんだった』


『ありがとう!今日も良い一日を!』

『へい。そちらさんも』


 やり取りを終えてパラリと雑誌を捲る。西洋のお城の様な場所で、色々な服を着た白田の姿。カジュアルな服や、ゴシック風とでもいうのか黒を基調にしたドレス、着物の写真もある。


 俺は写真の事もグラビアの事もよく分からないけれど、何と言うか……前回の時よりもその表情に惹きつけられてしまう。具体的にどう違うなんて専門的な事は分からない。でも笑顔も、(うれ)いを帯びた表情も、澄ました顔も、そのどれもが前回とは全く違うと言ってもいい程だった。


『白雪姫は恋をした。だから今夜も眠れない』


 白田曰く編集さんが付けているらしい煽り文字。一見してよく見るありふれた陳腐な一文だと思う。それでも、その文字の隣に映る白田の顔を見ると不思議な説得力を持つように思えた。


 何となく、胸の端あたりが捻られる様な不思議な感覚だ。


 前回と同様に今回も水着などは無かったが、服を少し捲りへそを見せながら悪戯そうに微笑む写真が特に印象的だった。


 何を思ったのかうまく言葉には出来なかったけれど、大きく一度深呼吸をしてみたらモヤモヤした何かも吐く息と共に霧散した。



 学校に行くと早速紙谷が雑誌を手に持ち駆け寄って来る。

「五月!見たか?今週のこれ!」

「ん?あぁ。ついにボス戦だよな、盛り上がって来た感じだけどどうせ年内じゃ終わんないよな。アレだな、仲間一人一人に見せ場作ろうとするから長いんだよ。一から十まで描写しなくても結果だけで伝わる様にできないもんかね」


 何の話かわかっているけど、素直に乗るのは癪なので看板漫画の講釈を垂れてみる。すると紙谷は心底呆れた様に雑誌の表紙を俺に突き付けてくる。


「その話は後だ。まずはこっちに決まってんだろ!?見ただろ!?白田の!」

「あ、本当だ。気付かなかった」

「気付かない訳あるか!」


 白々しいしらばっくれが通用する筈も無く、紙谷は声を上げながらカラーページを開く。

「つーかすげぇよな。あの白田がこんな風に載ってんだから。なんつーか、アレだな。知り合いが載ってると思うと、何かこう……」


「はいはい、わかったわかった。いいからもうしまえよ」

「……何だよ、感じ悪ぃな。あっ、柊!これ見たか!?」


 ぶつくさ言っているうちに柊が教室に入って来たのを見つけて今度はそっちに雑誌を見せに行こうとするが、女子二、三人と話をしている柊にグラビアを見せに行く勇気は無かった様だった。


 知り合いが載っているだけでこんなに騒ぐやつがいるのなら、白田の学校ではどんな騒ぎになっているのだろう?と心配になってしまう。


◇◇◇


 反響に応えて再登場!の言葉通りと言うべきか、実際に働いている感覚として、前回よりも売れ行きが良い気がする。リーダーに聞けば仕入れ数とかとの比較も出来るのだろうけど、レジに持ってくる人の数も立ち読みの数も多い気がする。

  

 気にしていなかっただけという可能性もあるが、それを差し引いても売れ行きが良い。


 結局、夜八時になる頃には残り二冊になっていた。


「お疲れ様」


 残り二冊のうち一冊を手に取り白田がレジにやってくる。何の約束もしていないけど、今日は来ると思った。


 白田はやはり後ろに誰も並んでいない事を確認してから小声で俺に話しかけてくる。


「今日沢山売れたんだね。残りあと一冊だよ」


 仕事中なので俺が返事をしないことを分かっていて話しかけているようで、俺の返事も待たずに言葉を続けてくる。


「そこの喫茶店で読んでるから、終わったら一緒に帰ろ」

 少し照れくさそうに微笑む白田に、俺は『二百九十円です』と答えて頷く。


 スマホでピピッと決済をして、雑誌をそのまま鞄にしまうと、俺にだけ見えるように小さく手を振り白田桐香は店を出た。


 白田が店を出るのを見計らってか、バイトリーダーの須藤さんが険しい顔で俺に駆け寄ってくる。

「おい、雨野!」


 二十八歳の物書き志望者らしいけど、詳しいことはよく知らない。あくまでもお客様が一方的に話していった形なので、怒られはしないと思う。

「なんすか?」


「お前今の子……、前も来た子だよな?こないだは気が付かなかったけど、あれ白田桐香じゃねーか」


「あ、そうなんすか?」

 何故一旦しらを切るのか自分でもよくわからない。

「そうなんすか?じゃねーよ。白々しい!今日レジで嫌と言うほど見た顔だろ!?何度か一緒に帰ってんの知ってんだよ」


 別にごまかせるとも思っていないし、ごまかすつもりもない。

「あー、まぁ。小学校同じなんで。ただそれだけっすよ。偶々あいつが帰り道のコンビニで俺が働いてるのを見かけて声を掛けたってだけです」


 それを聞いて須藤さんは納得したように頷いた。

「なる程な。桐香ちゃんの帰り道のコンビニで、偶々お前がバイトを始めたってわけか」

「言い方。なんか俺がストーカーみたいじゃないっすか」


「わはは。そう聞こえたか。ん?雨野お前なんか熱ありそうだな?」

 急に眉を寄せてじっと俺を見てくる。

「や、無いっすよ」


「いや、あるね。きっと風邪だなこりゃ。店長には言っとくから今日はもう帰れ」

「はぁ?急に何言ってんすか。須藤さんこそ熱でもあるんじゃないですか?」


 俺の苦言を物ともせずに須藤さんは問答無用で俺をレジから追い出す。

「ほれ、さっさといけ。うつされたくねーんだよ。桐香ちゃんに宜しくな」


 最後の一言でようやく須藤さんの意図が分かった。


 そんなんで仕事を早引けなんて……、と普段なら思うだろうけど今日は少しだけありがたい。


「……すいません。今度何かお礼します」


「サインでいいぞ」

「俺のっすか?」 

「……さっさと行け」


 シッシッと犬を払うように手で追い払われ、俺は急ぎ着替えて店を出た。

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