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王子様を巡る相関図

◇◇◇

 毎週月、水はコンビニでバイトの日。水曜日に発売の週刊少年漫画誌を買って帰り家で読んでいて驚いた。巻末近くに載っている次号予告。普段目には入るが読みはしないそのページに『白田桐香』の文字が躍る。


「マジか」


 日付も変わる様な時間にベッドで一人呟いてしまった。


『反響に応えて再登場!白雪姫は今夜も眠らない』との煽り文に少しクスリとしてしまう。


 白田に何かを送ろうと思いスマホを手に取り、少し考えて『今夜も眠らないの?』と送ってみる。


 スマホを置いて巻末の作者コメントを読んでいると、ピロンとスマホが鳴る。


『んん?眠るけど?』


 続けて困惑したタヌキみたいなスタンプが添えられる。


『あ、それならいいんだ。良い夢を』


『ちょっと。そんなこと言われて眠れる訳無いでしょ』


『やっぱり眠らないの?』


『だから眠るってば』


『眠るじゃん』


 不意にスマホの着信音が鳴る。ピロンと言うメッセージの時の音で無く、連続したメロディ。画面には

パステルピンクのルームウェアに身を包んでベッドに寝転がっている白田が映っている。スマホを両手で持ってはいるが、何故か目が合う感じはしない。


「こんばんわ。何か用か?」


「何か用かじゃないでしょ。急に訳の分からない事言って来たのは五月くんじゃない」


「いや、書いてあったから本当かな?ってさ。ははは」


「書いてあった……。あっ!もしかして来週のやつ!?」


 ベッドに寝転んでいた白田は勢いよく起き上がると、ベッドの上で胡坐をかく。パステルカラーのハーフパンツから白く長い足が覗き、目のやり場に困る。

「あー、ちょっとちょっと白田さん?ビデオ通話を掛けてきてる自覚はおありなんですよね?」

「え?だってこっちの画面真っ黒だけど」

「俺インカメラ塞いでるから」

「早く言ってよ!」

 そう言うと白田は真っ赤な顔で足を布団に入れる。


『きーちゃーん、もう夜よー』

「あっ、ごめんお母さん!」

 画面の向こうから白田母の諫める声がして、白田は申し訳なさそうにそれに応えると今度は恨みがましい視線を画面越しに俺へと送る。

「……五月くんのせいで怒られちゃったじゃん」

「そういうのは自業自得って言うんだぞ?」

「画面に映ってればすぐ気付くもん。何で塞ぐのよ」

「や、だって使わないし。リモート盗撮とか怖いし」

 特に俺を見る事で誰に何のメリットがあるのかよくわからないので、過剰反応な意識はある。


「ふーん。よくわかんないけどわかった」

「よくわかんない場合はわかったって言うのやめた方がいいと思うぞ?」


「いいの。その話は終わり!ところで来週発売のやつ見たの?どうやって?」


 無理やり話は元の筋に戻る。

「あぁ、次号予告の所に書いてあったよ。『反響に応えて再登場!白雪姫は今夜も眠らない』って。だから眠らないのかなって」


 白田は感心した様子で何度か頷いてみせる。

「へぇ~、そっか。そんなところにも載ってるんだ。五月くんよく見つけたね、ふふっ」

「たまたまだ。普段はそんなところ読まねぇもん」

「へぇ。たまたま見てたらわたしが載ってるの見つけちゃったんだ。あっ、先に答えておくけど普通に眠るから。その文章は編集さんが考えてるんだって。わたしはノータッチだよ」


「あぁ、白田が考えてるんじゃないんだ?そりゃよかった。自分自身で書いてたらすげぇなって思ってたからさ」


 それから少し雑誌グラビアの話をした。


 水着で無いにも関わらず前回のグラビアが割に好評だったらしく、あまり間を置かず第二弾掲載の運びとなったようだった。ちなみに今回も水着は無いらしい。


「あのさ、煽りとかで無く単純な質問なんだけどさ」

「うん、なになに?」

「ファッション雑誌のモデルとかなら水着って多分無いだろ?そっちはやらないの?」


 俺の質問に、白田は言い辛そうに首を傾げて言葉を濁す。

「んんー、そ、そうね。今後もし万が一機会があれば……可能性はゼロじゃない……って感じかなぁ」


 何やら複雑な事情がありそうな濁しなので、それ以上は追及をやめておく。

「五月くんは……。あー、何でもない!そろそろ眠ろっかな。あはは、おやすみ!」


 そう言って白雪姫は赤い顔で笑いながら通話を終える。



◇◇◇


 翌日、楽し気な白田に伊吹こずえは訝し気に眉を寄せながら首を捻る。


「へぇ。それで王子様と夜まで電話しちゃって今日は寝不足って訳なんだ?」

「……う、うん!えへへ、五月くんから夜急にメッセージが来たからね、意を決して『えいっ!』って掛けたんだ」


「うん、それ自体はおめでとう、よく頑張ったねと言っておくよ。ほら、いいんちょも拍手」

 伊吹こずえに促されていいんちょと呼ばれるクラスメイトもパチパチと拍手をする。


「王子くんって例の小学校同じ?桐ちゃん良かったね」

「えへへへ」

 いいんちょの祝福に白田桐香も照れた様にはにかむが、伊吹は未だ苦い顔をして腕を組む。


「や、いいんちょ。それが実際何も良くないんですよ。実はこの女、(くだん)の王子様に誤解されてましてね。王子の友人の真・王子様を好きだって思われてるんですよ」


「真・王子様って?」

「言葉通り正真正銘の王子様。言葉通りだから説明はしないよ?見ればわかるから。あっ、写真見る見る?」

 伊吹こずえは急に上機嫌になり、スマホに入った和久井(わくい)(しゅう)の写真をいいんちょに見せる。

「あー、わかる。王子様だねぇ、これは」

 委員長も納得した様に頷く。


「じゃあ状況を整理すると、こずえは王子様が好きで――」

「真ね、真。和久井柊くん。柊様」

「はいはい、わかった。(まこと)くんには彼女がいて――」

「次その呼び方したら怒るから」

「……一々うるさい。で、桐ちゃんは王子様の事が好きなんだけど、行きがかりの都合上、真・王子様の事が好きな事になっている……って事?」


 流石にそろそろごまかしてもしょうがないので、白田もコクリと頷く。


 さらさらとノートにイラスト付きでいいんちょは相関図を記す。記した後で白田を見て眉を寄せる。

「それ普通にダメなやつでしょ」

「えっ」


 まさか委員長にもダメ出しされるとは思っていなかった様子で、白田桐香は驚きの声を上げた後で身振り手振りを付けて弁解を始める。


「でもさ、昔白ブタとか呼ばれてた女が急に現れてさ、何年も会ってないのに理由も無く会ったり電話したりってさ、……ちょっとアレじゃない?」


 伊吹こずえは大きくため息を吐く。

「今はもう白ブタじゃないでしょ~?どんだけ自己評価低いんだよ~」


 見た目がどれだけ美人になったと言っても、中身は白ブタと呼ばれた頃の劣等感が中々拭い切れない。実際に高校一年の入学式の日、伊吹こずえが白田桐香に持った第一印象は『何でこの子はこんなに美人なのにこんなにおどおどしてるんだろう?』だった。高校デビューで整形でもしたのか?とまで思った程だ。


 伊吹こずえはポンポンと白田の頭を軽く叩く。

「でもそこも桐香のいいところの一つなんだけどね、あはは」


「笑いごとじゃないよ、本当そういう無駄な誤解は早急に解かなきゃ。王子くん今日は?バイト?」

「……バイトは月と水だけだから、今日は違う」


 委員長はパンと勢いよくノートを閉じる。

「じゃあ決まり。今日ね。今日誤解解こう!」

「今日!?」

「今日!善は急げだよ?時間が経つほどに絡まってくんだから、こういうのは」


「はへ~、いいんちょ経験豊富っ」

「……少女漫画では、だけど」


 ぼそりと呟き、自嘲気味に委員長は笑う。

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