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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

罠に掛かったのは。

作者: 熊ゴロー。

近親相姦注意!

性描写ほんのりあります!

ご注意ください。

 今、猛烈に吐き気がしている。侍女が心配そうに私の背中を擦ってくれているが、彼女も吐きそうな顔をしている。



 たった今、夫の浮気現場を見てしまったからだ。



 ただの浮気ならまだ冷静でいられた。相手がまさかの義母だなんて。血の繋がりがあるのよ?吐き気が止まらなくて、侍女と二人で部屋へと戻った。


 何故、庭で…何故、私のお気に入りの庭で…!


 毎日庭で散歩するのに、これからずっと忘れられないじゃない!


 大体、仕事をサボって何をしてるのよ、あぁぁ…気持ち悪いわ…


 

 「奥様…大丈夫ですか…うぇっ」



 「駄目だわ…うぅ…貴女も駄目そうね…」



 「吐き気が止まりません…獣ですよ、あれらは」



 「もう二人の顔を見れないわ。庭も出たくない…」



 親子でなんて…信じられないわ。それより、これからどうするべきかしら。


 お義父様に告げ口するしかないわよね。でも、酷く傷付けてしまうかしら…



 「大旦那様にご報告すべきです。こんなイカれた親子、とっとと追い出しましょう」



 「それだと私も出て行くしかなくなるのよ…」



 両親とは仲が悪く、出戻りなんて許さないだろう。平民としてやっていけるか分からない…


 でもこの状況で、何事もなく生活は出来ない。



 「あぁ…どうしたらいいのよぉ。あの二人が追い出されたら私も追い出されるなんて、おかしいわ!」



 「奥様…ひとつだけ方法があるじゃないですか」


 

 「え、教えて!」



 「大旦那様と再婚すればいいのです」



 「わぁ、名案!…なんて言うわけないでしょ!そんなこと出来ないわ!」



 どんな方法かと思えば…そんなことすれば、とんでもない醜聞でしょうが!



 「お義父様に言うべきか、言わざるべきか…」



 一人、いや二人で苦しんで考えたけれど、やっぱり言うしかないのよね…


 義父が帰るのを部屋で待ちながら、離縁後のことを考えた。


 仕事を見つけて…あ、その前に家を見つけて…あぁ、一人で生きていけるかしら。



 「奥様。私も付いていきますよ。奥様一人で生活なんて無理です」



 「ありがとう!仕事を見つけたら必ず給金を払うわ」



 結局、義父が帰ってきたのは夕食が始まる頃。


 家族揃っての食事だけれど、私は昼間のことを思い出し、二人に話を振られても、曖昧な返事しか出来なかった。



 義父は寡黙な人なので、妻子に話しかけられても、今の私と同じような聞いてるのか分からない返事をしている。


 …この後、二人きりになれないかしら…


 いや、侍女にも付いてきてもらって三人で話をしましょう。



 食事を終え、皆が食堂を出て行こうとする。


 あぁ、どのタイミングで話をしたらいいのかしら…!


 義母と夫が出て行き、義父も椅子から立ち上がった。



 あぁぁぁ、今よ!


 

 「お、お義父様…」



 「…何だ?」



 「…お話したいことがあります…その、人前で話せる内容では無くて…」



 体が大きい方だから威圧感を感じてしまう。お顔も常に無表情だから余計に…


 それでも何とか話がしたいことを伝えると、小さく頷いて、義父の執務室で話をすることになった。



 

 「話とは?」



 椅子に座り、こちらを睨むように見てくる。何だか尋問を受けている気分…




 「…義母と夫の関係について、です」



 「…まだ続いていたか」



 「え!」



 知っていたの…?え、公認?私だけ知らされずに…?


 静かにパニックを起こしていたけれど、悲愴な面持ちをした義父を見て、落ち着きを取り戻した。



 …訳がわからないけど、お義父様だって傷付いているのよ。



 「…数年前にあいつらの関係を知って、やめさせたんだ。続けるなら追い出すと伝えた。なるほどな…私を欺いていたわけか」



 自嘲気味に笑う義父を見ていると辛くなった。


 あんな二人でも愛していたのだろうか。私なら受け入れられない。


 それでも数年間、一人で耐えて、再び裏切られるとは。なんて人達なのよ!性欲の塊ね!



 「お義父様…」



 「奴らを追い出す。…君には申し訳ないことをした。すまなかった」



 慰謝料と希望する再婚相手を用意しようと言ってくれたけど、まだ私の心が追いつかない。


 そこに侍女がやってきた。何故か自信満々な顔で。


 い、嫌な予感がするわ。まさか、言わないわよね!?



 「大旦那様。奥様を娶れば全て万事解決になります」



 この子、また爆弾発言を!!解決しないわよ!


 怖くてお顔を見れないでいると、侍女が続ける。



 「大旦那様。ご子息のサボっている仕事は奥様お一人で熟しております。主戦力を失えば、この屋敷は弱体化…名ばかり貴族となってしまいます」



 あら、私のことそこまで褒めてくれるだなんて…



 「どうかご決断を。奥様はここを追い出されては平民になるしかありません。再婚相手だってろくでもないのが多いのです。これ以上、不幸を背負う奥様を見たくありません」



 つい涙が溢れてしまう。私のこと、そんなに想ってくれてたなんて…優しい子ね。



 「ついでにいうと、大奥様は身籠られております。お相手は恐らく…」



 …聞きたくなかった、聞きたくなかった!


 それはつまり…義父との子じゃない可能性がある…


 夫との子供…嘘でしょ。やめてよ、更に最悪な展開になってきたわ。



 「ついにか…あの馬鹿共め…それは確かな情報だな?」



 「先日、大奥様が密かに医者を呼んでいました。診察後に医者を捕まえて吐かせたので確かです」


 この子、何者なの?捕まえて吐かせたって何?


 そんな事、侍女なら誰でも出来るの…?



 義父は大きく溜息を吐いた。朝からこんな重たい話をしてしまった上に、更なる地獄のような話まで聞かされたんだもの…酷くお疲れのようだわ。



 「証拠を集めて奴らを追い出す。君は何も知らないフリをしてくれ」



 「お義父様。私もお手伝いさせてください」



 「…辛くなるかもしれないぞ」



 「私は元々夫に期待していなかったので。悲しくもないです。それよりも仕事もせず、夫の役割も放棄した人なんて…嫌悪しかありませんわ」


 


 仕事サボる、浮気する、金遣い荒いクズ男には嫌悪…いえ、憎悪しかないわね。ムカつくわ。あのマザコンめ!



 「そうか…」



 「それよりも!お義父様、やはり私と侍女にお任せください。情も無い私達なら傷付くことなく、証拠を集められます」



 私が告げ口したことから始まったもの、酷く悲しませてしまったわ。


 最後まで私が責任を持ってやり遂げましょう。


 情が無ければ、残酷にだってなれるもの。


 己の過ちを悔やませる罰を考えなければならないわ。それも壮絶な罰にしましょう!



 そっと義父の手を握り、義父と視線を合わせた。初めてこんなに会話をしたわね。




 「お義父様、私は裏切りません」



 

 大きく目を見開いて、微かに微笑んでくれた。


 証拠をがっつり集めて、がっぽり頂きましょう!


 義父専属の侍従に義父を託して、私は侍女と話し合った。



 「まずは証人を集めましょう。庭であんなことしてるんだもの、絶対に見てる人はいるわよね」



 「恐らく金を握らせているか、脅されているか…こっちも脅して聞き出します?」



 「それは駄目よ…まずは、大人しそうな人やお喋り好きな人に聞きましょう」



 掃除をしている使用人達に話を聞きに行くと、涙を流しながら喜ばれた。 


 毎回、ベッドやらソファーやら汚くされて、正直吐き気が止まらないのだとか。


 最初は仕事だからと我慢していたものの、どんどんアブノーマルな行為へのめり込んでいるらしく、使用人の間では体調不良者が毎日出ているのだとか。



 想像しただけで吐き気が…



 「あのね、二人の不貞の証拠を集めているの。貴女達に証言してもらいたいわ」



 「勿論でございます。正直、大旦那様に黙っているのは辛いものでした…ですが、あんな獣の交尾をする妻子などと…お伝えするには…」



 思い出しただけで吐き気が…と口に手を当て、気持ち悪そうにする使用人達の背中を擦った。分かるわ。



 「他にも証拠が必要ね…」



 侍女がふと閃いた!と嬉しそうに呟いた。


 この子の閃きって、とんでもないことじゃない?



 「奥様、奥様。証拠を集めるより、確実に認めざる得ない状況であれば、離縁しやすいのでは?」



 「認めざる得ない状況…?」



 「二人の浮気現場、取り押さえましょう」



 ほーらね!


 確かにそれが一番なのでしょうけど、誰もが吐き気を催す現場を直に見ろって…?


 私達だってそれを見て、吐き気が止まらなくなったのに?


 うぅ…嫌だけど。嫌なんだけど、義父のあの辛そうなお顔を思い出したら…やるしかないわね!


 

 「…最後まで手伝ってくれる?」



 「勿論です。こんな面白…んんっ、奥様の為ですから!」



 「…もうっ」




 



 翌日から、協力してくれる使用人達に二人の動きを見張ってもらった。いつどこで行われるか分からない。


 しかし、なかなか動きが見られない。週に一回とか…?


 長期戦になりそうな気がしたので、義父と私がいない日を作ってみたらどうだろう、と考えた。


 邪魔な私達がいなくなる日なんて、なかなか無いもの。出かけるフリをして様子見をしたいわ。


  

 義父の予定を聞き、私達がいない日を作った。


 義父に現場を見せるのは酷なことだと思い、そのままお出かけに…と言いかけると、言い逃れ出来ないようにしてやりたいからと一緒に現場を押さえることになった。



 あの告げ口した日から、義父の顔色は悪いし、窶れている。食事も喉に通らないのかしら…



 「お義父様。消化に良い食事をしましょう。このままでは倒れてしまいます」



 「あぁ…そうしよう」



 「それと…今日はお仕事はお休みして、きちんと眠ってください」



 「しかし、いつも通りにせねば…」



 「戦いは間もなく始まるのです。体調を整えなければ、戦えません」



 相手が妻子だろうと、もう戻れない所まで来てしまった。


 今、この場で倒れてしまえば、義父抜きで私が戦うしかない。それも良いけれど、きっと義父も参戦したいだろうから。



 「敵を倒す為にも力をつけましょう」



 







 数日間、義父には消化の良い食事と質の良い睡眠をしてもらい、体調を整えてもらった。


 その間、二人を見張っていたところ、口付けをあちこちでしていたのを目撃した。最悪だわ…




 そして、作戦決行の日。



 「奥様。そんな怖いお顔されなくても大丈夫ですよ。絶対に現場を押さえられますよ」



 「でも、もし今日はそんな気分じゃ…ってなったと思うと…」



 「それならご心配なく。盛っておきました」



 「え?盛っておきました?」



 「二人の部屋に隠してあった媚薬を食事に盛っておきました♡」



 な、な、何をしてるの!?


 そんなものをあの二人が持ってたのを勝手に…待って、それなら普段よりとんでもない状況になってるんじゃ…!!


 義父と見つめ合い、お互い複雑な表情を浮かべながらその時を待った。


 暫くして、使用人一人が慌ててやってきた。嫌な予感だわ…



 「は、始まったのですが…いつもと様子が違うようです!」



 媚薬のせいだわ。あの子、どんだけ盛ったのよ!


 義父、侍女と共に二人がいる部屋へと走った。もう既に聞こえてくる義母の声が…


 部屋の前で立ち止まると、何かを叩く音と義母の喘ぎ声、夫の楽しげな声が聞こえる。見たくない、聞きたくない…!



 義父もきっと気分が悪くなって…と見てみると、冷めた目で扉を見ていた。もう怒りすら湧かないのかしら。


 義父が大きく息を吸い込んだかと思えば、扉を蹴破った。


 大きな音を立てて扉が倒れた。


 扉の向こう側では、裸の二人がこちらを驚いた表情で見ていた。まるで獣のような格好で止まったまま。


 

 「いっ、いやぁぁぁぁぁぁ!!」



 義母が叫びながら部屋の隅へと逃げた。お尻が赤いのは叩かれてたから…?さっきの叩く音は、それ?うぇっ…


 夫は呆然と立ち尽くしていた。見たくないので、目を閉じて顔を背けた。お願いだからシーツで前を隠してよ!



 「よっぽど相性が良いのだろうな。良いだろう、お前らが二度と離れられないようにしてやる」



 「ち、父上!誤解です…!」



 「父などと呼ぶな。もうお前とは縁を切る。廃嫡する」



 「そんな…!」



 「領地に屋敷を用意した。親子仲良く乳繰り合ってろ」



 今にも吐きそうな義父の背中を擦る。うぅっ…私も吐きそう。



 「…ぼ、僕らは欲を発散していただけで…特別な感情はなかった!」



 「親子ですることなのか?子も出来たそうだな?」



 「そ、れは…」



 「もういい。気分が悪い。お前らとは離縁だ。さっさとサインして出て行け」



 書類を机に置くと、私達は部屋から出た。ふらつく義父を支えて、義父の寝室へと送る。



 「お義父様、お休みになってください」



 「あぁ…すまない」



 暫くしたら二人から書類を受け取らないといけないわね。


 義父が眠るのを待ち、侍女と一緒に二人のいる部屋へと向かった。



 「そろそろ媚薬は抜けたかしら?」



 「抜けなくても、この状況ですからね。理性があれば、体は火照っても耐えられますが…」



 「…書類にサインしてることを願うわ」



 二人のいる部屋の前まで来てしまったわ。今のところ、静かね…お願いだから大人しくしててよ…?


 深呼吸をして中に入ると、項垂れた二人がいた。



 空気が最悪ね…まぁ、自業自得だけど。



 「書類にサインはしてくれました?」



 「…」


 

 二人は黙ったまま。痺れを切らした侍女は前へ出て、書類を指で叩いた。



 「サインしなければ、貴方方を地下牢に閉じ込めても良いと言われております。…貴方方に選択肢はもう無いのですよ」



 「…嫌」



 「は?」



 「あの人が抱いてくれないからこうなったのよ!悪いのはあの人じゃない!」



 …何なの、この人。


 

 「私はっ、寂しかったの!この子も嫁が仕事ばかりで寂しいって!」



 「ふざけないでください!仕事もしない夫のせいで、私が代わりをするしか無かったのです!二人が不貞をしていたせいで!」



 義母もお茶会を開くか、行くかで、女主人の仕事をサボって私に押し付けたじゃない!


 全部、私に押し付けてイチャついて!


 寂しければ浮気していいなら、皆してるわよ!


 それよりも!息子は週一で私を抱いてたわよ!

 


 「自分勝手過ぎるわ!」



 結局、言い訳ばかり。反省もしないってわけね。


 離縁されたら貴方達で生活なんて出来ないと分からないのかしら。


 もういいわ。早くサインしてよ!



 「大奥様、旦那様。サインを拒否、ということでよろしいですか?」



 侍女が書類とペンを目の前に差し出したが、叩き落として騒ぎ出す。



 「っ!ええ、拒否よ!」



 「それでは、死ぬまで地下牢でお過ごしください」



 侍女の指示によって、二人は使用人達に地下牢へと連れて行かれた。最後まで叫んで拒絶していたけれど、もうどうしようもない。


 

 「…本当に二人は死ぬまで地下牢にいるの?」



 「…醜聞の塊ですからね。外に出せば、あの二人は何をするか分かりません。それなら死を待つしかありません。大旦那様は顔も見たくないようですし、もしかしたら僻地にでも追いやるのでは?」



 追い出された二人がどうなろうと、どうでもいいわね。


 …待って、どうでもいいけど、私はどうなるのかしら。


 結局、この家を出るしかないのよね…



 今から再婚相手を見つけるか、仕事を探すしかないわね…



 「奥様。大旦那様に嫁ぎましょう」



 「あのねぇ…」



 「今から大旦那様を慰めてポイントを稼ぎましょう?」



 いやいや…そんなこと…って、引っ張らないでー!


 無理矢理腕を引っ張られ、義父の元へと連れて行かれる。


 「まだ眠っているはずよ」



 「では、手を優しく握って起きるのを待ちます。目覚めたら優しく微笑み、体調を気遣いましょう」



 「そ、そんなこと…」



 「奥様には心を許していますから!さぁ、手を握って待ちましょうね」



 て、手を握る…?夫ともしたことがないのよ!


 義父の寝室へ押し込まれ、眠る義父の隣へと連れて行かれ、椅子に座らされる。


 無理矢理手を握らされた後、侍女はニヤニヤしながら寝室を出て行った。


 …大きな手ね。ゴツゴツしてる。細長い指…


 あっ、触りすぎよねっ。


 ちらりと義父の顔を見る。良かった、まだ起きてない。


 …お疲れよね。窶れてしまってる。


 頬を優しく撫でていると、パチッと義父の目が開いた。



 「あっ、お、お義父様…」



 起こしちゃったわ!どうしようっ。慌てて立ち上が

ろうとすると手を掴まれた。



 「…行かないでくれ」


 「は、はい」



 大人しく椅子に座ると、両手を強く握られた。


 頬が熱い。さっきまで自分で触れていた大きな手なのに。



 「君のおかげだ。ありがとう」



 「いいえ、お義父様。私なんて…」



 ほとんど侍女がやってくれたもの。私はただの助手…とぼんやりとしていると、抱き寄せられた。



 「おっ、お義父様!?」



 「…少しでいい。このままでいさせて欲しい」



 恐る恐る義父の背中に手を回す。更に強く抱きしめられる。


 こ、これは…ちょっとまずいかもしれないわ。でも言える雰囲気でもない…


 あぁ、でも…義父の香りに包まれて、人肌の心地良さに、うっとりとしてしまう。


 身を任せると、そっと義父の隣に転がされた。



 「お、義父様…」



 義父の薄い唇が私の唇に吸いついた。


 何度も何度も繰り返された後、呼吸をしようと口を開くと義父の舌が侵入してきた。


 柔らかな唇と舌に私の頭の中は、真っ白になっていく。


 

 「好きだ」



 時々、耳元で囁かれる。耳にも口付けられ、甘く蕩けるような義父の声が響く。


 何も考えられなくなり、私はただ義父を見つめることしか出来なくなった。


 

 それから記憶が曖昧になっている。


 目覚めたら義父の腕の中。


 義父の顔を見ると、うっとりとした微笑みで口付けられた。



 ゆ、夢じゃなかった…!



 驚きと恥ずかしさでパニックになっていると、侍女が入ってきた。



 「おめでとうございます。奥様」



 ニヤリと笑う侍女。



 や、やられたー!!


 

 「離婚届、受理されました。そして奥様と大旦那様の再婚の為、婚姻届も受理されました」



 「え、待って!そんな早くに受理されるものなの?というか、再婚って…!」



 「大旦那様は王宮で、なくてはならない存在ですので。…陛下とは旧知の仲でしたから、我儘も通りやすいようで」



 「そうなの…あれ、あの二人は?」



 「辺境へ送られました。まぁ、そんなことより…お風呂の準備が出来ました」



 あぁっ!


 裸なのを忘れていたわ!


 

 「二人で入る。その間に彼女の好きな食事を用意しておいてくれ」



 義父に抱きかかえられ、私はお風呂場へと連れて行かれてしまった。




















 ✩侍女Side





 「大旦那様…いえ、旦那様。おめでとうございます」



 私はニヤリと笑い、先程まで出していた高い声をやめて、地声で話すことにした。



 「これで奥様は貴方のものだ。そしてあの二人は私に。たっぷりお仕置きしてから消す予定ですので、ご安心を」



 「その後、どうするつもりだ?」



 「奥様をからかうのは面白いですからね、また侍女として雇って頂きたい」

 


 「何故、侍女にこだわる?執事では駄目なのか」



 「それだと女の噂話に入れないでしょう?女の観察力、舐めてはいけませんよ」



 「…まぁ、好きにしろ。お前の仕事は変わらない。彼女を守れ」



 「はい。仰せの通りに」




 主が去ると、私は地下牢へと向かう。


 この時をずっと待っていた。


 イカれた親子をこの手で終わらせてやる。



 地下牢では、あの二人にたっぷり媚薬を飲ませておいたおかげで、獣のような交尾をいつまでもしている。


 こいつらの性欲、どうなってるんだ。



 「あー、お楽しみのところ悪いね。今日から二人にはお仕事してもらうからね。大勢の人の前で交尾してもらう簡単なお仕事」



 そう伝えると、ビクッと女が震えた。まだ理性あったんだ。男は壊れたのか、ひたすら腰を振っているというのに。



 「も、もうぅぅ…や、やめてぇ…」



 「やめないよ。地獄に落ちてもらう為の準備だからさ」



 「どう…して…」



 「あんたの息子の元婚約者、覚えてる?あの子は俺の妹だ」



 お前らの口付けを、交尾をしている姿を見てしまったんだ、妹は。


 愛していた男が母親と体を重ねていた。それに耐えられなくなった妹は心を病んでしまった。誰にも真実を言えずに。


 それをお前らは『心の弱い娘など必要ない』と婚約解消を要求してきた。


 妹の心は耐え切れなかった。日記に真実と遺書を書き、自死をした。



 助けられなかった。もっと早く知っていれば。



 そこからは復讐のことだけ考えた。


 お前らを恨むのは俺だけじゃないと知った。


 主はお前らのこと消したがっていた。


 俺は話を持ちかけた。お前らを消そうと。


 そして俺は女装して侍女になった。近付くには女のフリをした方が早いからな。



 奥様を操り人形にしてお前らのイカれた所業を暴かせた。


 …まぁ、奥様には悪いと思ってるよ。ただ主からの命令だったしな。主は奥様に惚れちまったのが…いや、やめておこう。



 『傷付き、苦しむ私を放っておくことなど、彼女は出来ないだろうからな』



 わざと食事を抜いて。わざと睡眠を取らず。弱った男を演じた主。



 俺よりもイカれてる。だから面白い。奥様の傍にいれば、もっと面白いものが見れそうだな。




 「さて。お仕事の後は、たっぷり苦しんで逝ってくれ。大丈夫。妹と同じ所には逝かせない。地獄でいつまでも交尾してろ、変態共」


















 ✩元大旦那Side




 二人を屋敷から見世物小屋へ送ったと侍女から報告を受けた。どうでもいい。好きにすればいい。


 

「顔は隠すか、傷か火傷の跡を付けろ。喉は潰しておけ」



 「はい。身分については一応、娼婦とその子供という設定にして店主に売り渡しました。使い終われば、また別で稼いでもらいます」



 生きていれば、な。



 「そういえば、子はどうするつもりだ?」



 「無事に産まれれば、知り合いの修道院へ送る予定です」



 まぁ、あいつらに育てられるとも思えないしな。




 「奥様のご実家には持参金の返還、お二人が再婚をすると報告をしておきました」



 「そうか。金をチラつかせれば、文句を言わなかっただろう?」



 「ええ。ニヤついていたので吐き気がしましたが」



 これで文句を言う奴はいない。


 計画通りだ。


 愛おしい彼女を手に入れた。これで邪魔者は消えた。



 この家に嫁いできた彼女のおかげで、仕事がしやすくなった。


 あの馬鹿共の浪費に頭を痛めていた頃、まだ慣れていないだろうに私の仕事の補佐をしてくれた。


 一生懸命、後をついてきて覚えていく姿が、まるで雛鳥のようで微笑ましかった。愛おしいと思うようになった。この屋敷の唯一の癒やしとなった。



 その頃から私は彼女に好意を抱いた。


 



 女主人としての仕事を放棄した愚妻、己の妻に仕事を押し付ける愚息の姿を見る度に、憎悪を抱くようになった。



 数年前に発覚した二人の関係から、私達は壊れていた。期待もしない、信頼も無い。いつかは追い出す二人だ。放置しておいた。


 

 何をしてもいいと思わせた結果、好き勝手するようになった。


 そろそろ消すかと考えていた時に、あの男…侍女が現れた。


 あの二人を消し去るのに躊躇いは無かった。


 これで彼女を手に入れられると考えたからだ。



 彼女に目撃させたのも、私に報告をさせたのも、彼女と愚息を離す為。


 あんなイカれた二人を見れば、誰だって嫌悪を抱く。


 そして私は哀れな男を演じる。


 睡眠も食事も削り、ひたすら仕事に明け暮れた。


 そうしていると、彼女が心配してくれた。体に良い食事を用意してくれた。


 少しずつ近付く距離に歓喜する。

 


 そして、ついに時が来た。



 漸く彼女を手に入れる為の下準備が終わる。



 二人を地下牢へ閉じ込めた後は、全て侍女に任せた。


 寝込む私の元に、彼女が侍女によって送り込まれる。


 優しい彼女は私を拒めない。


 押し倒してしまえば、もう我慢は出来なかった。演技ももう出来そうにない。


 私は獣のように彼女に襲いかかった。





 そして、現在。


 結婚式を終え、新婚夫婦として甘い日々を過ごしている。


 今はまだ二人きりがいいと避妊しているが、何れ子供は作らないとな。…逃さない為にも。


 

 

 「今日も愛らしいな…」



 「も、もう旦那様ったら…!」



 「…うぇ…」



 侍女の私達を見る目が腹立つが、今は奴に構っている暇はない。



 「さて、そろそろ散歩に行こう。新種の花が咲いたと庭師が言っていた」



 「まぁ!それは見に行かなくては!」



 彼女が嬉しそうに私の手を取る。私も強く手を握り返す。


 これが幸せなんだな。


 猫のように擦り寄ってくる彼女を抱き寄せて、口付けた。


 








 ✩侍女Side




 今日も屋敷は平和だ。


 不穏で不快な空気にさせていた二人が消えたおかげだ。


 使用人達も漸く訪れた平穏で、仕事がしやすくなったと喜んでいる。



 何か起きないかなと思うのは俺だけだろう。



 俺は今日も侍女をしている。奥様は知らない。着替えも風呂も男の俺がやっていることを。


 バレたらどうなるのかな、と楽しんでいるが、本当にバレたら謝って済む話かなと不安でもある。



 まぁ、辞める気はないし、主も俺をクビにはしないだろう。



 今日も庭を散歩する二人を少し離れた所で、見守っている。


 新婚夫婦だからか、あちこちでいちゃつく二人。どっちかと言えば、主が奥様に擦り寄っている。大型犬と飼い主のようだ。



 …もし、妹が生きていたら。


 あんな風に誰かの隣で、笑っていたのかな。


 …なんて。妹はもういない。



 奥様と妹を重ねて見てしまうことが増えた。


 全く似ていないけど、からかうと面白い反応をするのは一緒だ。


 主は面白くないのか、睨んでくるけど。


 


 「奥様。幸せですか?」



 「ええ、とても。貴女のおかげでね!」



 俺の頬を優しく抓むと、にっこり笑った。


 その笑顔が妹と重なった。



 声を震わせないように、涙を出さないように。



 「奥様、奥様…どうか、いつまでもお幸せに…」




 「貴女もよ。幸せにならないと許さないんだから」




 復讐したことを後悔なんてしない。


 この先も奴らが死ぬまで復讐は続ける。


 復讐を終えたら死のうと思っていたけど、やっぱり生きようと思う。



 この夫婦に飽きるまで仕えて、旅に出ようかな。


 きっとその頃には俺は爺になってるだろうけど。


 

 今はまだ。



 


 

いつも誤字脱字報告ありがとうございます。

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