電話
俺の名前は波賀しずと。普通の高校生のつもりだ。
いきなりだが、悩みを抱えた時、失敗した時に、友人や家族やその他、多数の人にタイミング良く励まされたことがある人はいるだろうか。
こんな質問を急に投げかけられたところで、読者の皆様が混乱することは十分すぎるほど承知している。
しかし言わせてほしい。
そんな友人や家族やその他、多数の人が存在するあなたは、幸せであると俺はここに宣言したい。
なぜなら俺には、人をけなすことに生きがいを感じている「友人」が存在するからだ。
「友人」とは言っても、たまたま同じクラスで、たまたま席が前後になっただけの関係なのだが、今の俺からすると、この関係はすでに「知り合い」を超えた関係である。俺はこの関係を「友人」として解釈するしか、表現の方法が見つからないのだ。
その「友人」のことを少し紹介しよう。
名前は佐伯ひるな、俺は「ヒルナ」と呼んでいる。光ヶ丘高校二年A組。俺と同じ学校、同じ学年、同じクラスだ。
一昨年、昨年と二度、光ヶ丘高校で一番美しい女子生徒を決める「ミス光ヶ丘」に選ばれた美しい女性である。そもそも入学当時から、そのルックスは他校にも知らない者はいないというほど人気があった。
ミス光ヶ丘に選ばれたことは、当然と言えば当然のことなのかもしれないが「天は二物を与えない」とはヒルナのためにあるような言葉。
性格も美しいとは、とても言いがたいのである。
理由は不明だが、男には全く興味が無いのだ。
その整った顔があれば、彼氏の一人や二人、いや三人四人と、手の平で思うように転がせると思うのだが、当の本人は一切、男に関心がない。
関心がないというより、ヒルナの頭の中では「男」という生き物が存在しないと表現したほうが、正しいのかもしれないほどだ。
そんはヒルナと俺の出会いは、昨年の文化祭まで遡る。
当時、B組だった俺のクラスは文化祭の出し物として、演劇をすることになった。桃太郎のパロディである。
物語はこうだ。
桃から生まれた桃太郎は、ある日、村一番の美女に恋をする。その美女と恋仲になり始めていた桃太郎だが、その美女は突然、鬼に捕まってしまう。猿やキジや犬、そしてなぜか戦闘力MAXのおじいちゃんを連れて、美女を助けに行くのだった。
桃太郎役は、なぜか俺だった。
そして、お気づきの読者もいるだろうが、美女役に選ばれたのが、ミス光ヶ丘の栄光に輝き、このときも同じクラスメイトだったヒルナである。
演劇では、桃太郎と美女の会話シーンが三分の一を占めていたため、俺とヒルナは放課後、一緒に練習を重ねていた。
そのときが、この関係を築いた原点である。ちなみに演劇は、ヒルナのファンと化した生徒達のアンコールが鳴り止まない中、終わった。
そんなこんなで、俺は二年生の夏を向えた。物語は、平凡な毎日を過ごすつもりだった俺を、まるで異世界に連れ出したかのようなヒルナの声から始まる。
今日は八月一日。朝。
空は雲ひとつ無い日本晴れである。
俺は自室のベッドの中でゆっくりと夏休みを向える、はずだったのだが。
プルルルル プルルルル
携帯電話は、耳に針を何度も刺すような音で俺を起こした。
俺はベッドの机に置いてある携帯をとり、通話ボタンを押した。
「はい、もしも……」
「おっはよーぅ!」
俺のカラカラの喉から発した声を、相手はすぐさまかき消した。
「……」
沈黙が五秒間続いたあと、俺はもう一度つぶやいた。
「もしも…」
「おっはよーぅ!」
この声はヒルナだ。
ふと時計を見ると、まだ朝の五時ではないか。
「こんな時間に、なにか用か」
俺がこの言葉を発し、少し目を覚ましたことに気づいたヒルナは、怒涛の如くしゃべりだした。
「なにが、こんな時間よ! 朝から元気が無いなんてシズらしくないじゃない。いつもは学校であんなに元気なのに、さっそく夏休みモードに入ったってわけ? 信じられないわ。この夏休みは私のわがままに付き合うって、昨日約束したばかりじゃない。武士に二言は無いって諺、知らないの? 今日の十時、私の家に来なさい。 いいわね! この私が誘うなんて、めったに無い事なんだから。しかも、この私の家に誘われているのよ。ここまで幸せな男子高校生なんて、日本中探しても見つからないわ。わかったわね? 十時に私の家よ。じゅあ」
こういって、ヒルナは電話を切った。
つっ込みたいところは色々あるが、今の俺はそんなことより睡魔に負けそうだ。
こうして俺の夏休みは、始まった。
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