六周日目 少年、この世界から消失
ワイトの病院には三種類の部屋が用意されている。
一つは最大六人の患者を受け入れる設備が整った大部屋。
二つめは患者本人の希望によって入れる個室。
そして最後に、治療中に大暴れをする患者や、病気の進行が激しい患者や負傷した眼の使い手が運ばれる『特殊治療室』と呼ばれる個室があり、今のところでは一名入室している。
「さて、面会時間開始はあと一分か……」
特殊治療室のドアに向かい合うように壁により掛かって時間を確認したイアルは息を吐いてからそう呟く。
先程受付で眼の使い手一名を同伴させるという条件の下で面会の許可を得たのだが、肝心の眼の使い手がまた到着していない。
因みにその眼の使い手というのはF・Gでも有名な問題児のラルモであったりする。
「まったく、相変わらずマイペースな奴ね」
昔から約束通りの時間に動いたことがないのでここで愚痴を言っても何の意味も為さないのは知っているが一応言ってから正面のドアに視線を向ける。
この先には、正体不明の眼の使い手が構えている。
一体何故、どんな理由で、そして何故あんな深手を負っていたのか、さらには今護熾の家で療養の身でありシルナとの関係は本当に姉弟なのか、さまざまな疑念が渦巻いていくのが頭の中でよく分かる。
(……そういえば)
が、ここぞとばかりに大きな溜息をついて思考を切り換える。
(な~んで気付かないのかしらあの鈍男は……)
イアルは不満げな表情でそう思う。
あの時は単なる思い出作りと一緒に密かにアタックする機会でもあった。
だからこそ、負けると分かってたからあえてそっと、何百人もいる生徒の視線の中思いっきり自分が考える中で一番効果的な想いのぶつけ方をしてみたのに慌てるだけでやっぱり気が付かなかった。
要は、護熾との試合でソッと身体を寄せたのにそれを好意と気が付いてもらえなかったことに不満を持っているわけである。
(私の中では一世一代のさりげない告白だったのに……ユキナの所為で台無しだわ)
せっかく大勢の証人(生徒達)がいるなかで行なった告白作戦が、見事嫉妬心を露わにしたユキナの所為で中断され、さらには今までの生徒同士の試合とは比べものにならないほどの人離れした戦いにすっかり置いてけぼりにされたことを思うと、溜息をついてはいられない。
まあ、当の本人は何故ユキナが乱入したかについても鈍感なようであるが。
「ああ~、待った?」
面会時間残り三十秒前にようちゃくラルモがこちらに軽く手を振りながら到着。
それに気が付いたイアルは壁から背中を離し、ギリギリであるが珍しく遅刻せずにやってきたラルモに向かい合い、腰に両手を当てる。
「珍しく遅刻じゃないみたいだけど遅い! 五分前には来なさいよね!」
「いや~こっちにも事情ってもんがあってね?」
「あんたの事情は知ったこっちゃないの! ほら…………行くわよ」
「ああ」
軽く会話を済ませ、そしてもう一度病室のドアに目をやる。
此処には正体不明の眼の使い手が居る。そして理由も真意も分からず襲いかかってきたことがあるのだから十分、いやかなり用心してこの場に望まなければならない。
イアルはドアの取っ手に手を掛け、そして捻って中に身体を滑り込ませていった。
ラルモが入室し、ドアを閉め終えた後、改めて二人で正面に顔を向ける。
そこは窓もなく、殺菌兼用の空気洗浄機が設備され、ベットが一つ置かれているという殺風景な部屋であるが他の部屋とは違う、さらに澄み切った空気がそこにあった。
そしてそのベットにはこちらに気が付いたのか、上体を起こしてこちらに不思議顔を向けている人物がいた。
「……どうやらお目覚めみたいだな」
「……具合はどう?」
一瞬驚いた両者であるが、冷静に今目の前にいる少年に向かって声を掛けてみる。
二人から見た様子では昨日無理矢理動いたとはいえ、包帯越しからの傷の様子はほぼ無くなりつつあることからおそらくはミルナの治癒の能力により再び治療されたのであろう。
「良い方です……」
少年、カイトから発せられた言葉からはもう大方回復していることが窺えるが元気がない。
イアルとラルモはその落ち着いた返答に少し安心すると共に改めて警戒をする。
何しろ昨日大暴れをして眼の使い手四人に抑え込まれたくらいなのだから今回もそれがない、という考え方で行けば何が起こるか分かったものではないからだ。
「落ち着いてる?」
「今のところは……」
イアルにそう返答を返し、カイトは足に掛けてあるシーツをソッと持ち上げて自分のお腹に掛ける。
どうやら気持ちの揺らぎは今のところ小さいようだ。
「すみません……怪我を治してくれたのに……気が動転してしまって」
「そうか。え~っと、オレはラルモ。眼の使い手だ」
「私はイアル。F・Gのガーディアンよ」
「どうも、ラルモさん、イアルさん。昨日はお騒がせしてすみませんでした。それと……ユキナさんにも謝っておいて下さい」
カイトは二人にそう言った。
意外な言葉にイアルとラルモは思わず顔を合わせてしまうが、警戒は余りしなくて良いと判断すると少し息を吸って吐き、ラルモから喋り始めた。
「いやいやいやいや! 誰だって知らねえ場所に来たらそりゃぁ暴れたくもなるわな! ユキナにはイアルが言っておくからさ!」
この瞬間イアルは何故この眼の使い手を寄越したのか心底呆れると共に怒りを感じた。
今の良い緊張感を保ったままこの少年に聞くべき事は聞き、伝えるべき事は伝えようと思ったのに今までの緊張感をこの問題児が破壊してしまった。
拳で一度教育が必要か、そう思ってプルプルとどす黒いオーラを纏いながら握り拳を固めると、
「すみません、あなた方二人がここに来るまで、少し考えていました」
カイトがそう言ったのでイアルは拳を握るのを止め、そちらに注目を向ける。
「僕と姉さん以外にいる複数の眼の使い手、見たことのない設備、見たことのない服装……最初は信じることができなく夢だと思いこんでいましたが、どうやら違うようですね。」
「え~っと、頭どこか打ってない?」
「うっさい!」
ガン!
「痛ってぇ!?」
ラルモの失礼な発言に対し、イアルは容赦のない拳骨をかます。
拳骨は見事、ラルモの脳天に直撃し、固い物を叩いたような気持ちのいい音を出した後に涙目で頭を手で抑えさせる。
イアルは拳骨し終えた拳を口元に持ってきてフーッとスッキリしたと言いたげに息を吹きかける。
そんなやり取りをカイトはポカンとした表情で見ていたが、やがて堪えきれなくなったのか、
「クスッ」
「あ!? 笑いやがったなお前!」
小さく吹きだしたカイトに指を指してラルモが言う。
この一連のやり取りが清涼剤になったのか、先程あった互いの緊張感は無くなりつつあり、イアルは変わりつつあるこの部屋の空気を肌で感じながら、これもラルモの個性かと諦めると静かにまず伝えたいことを言った。
「あなたの姉さんなら無事よ」
「! それは本当ですか!?」
イアルの唐突な言葉にカイトは思わずベットから身を乗り出しそうになったのでそれをラルモが両肩に手を置いて戻し、ゆっくり宥める。
イアルはコクンと軽く頷き、それから次の言葉を足す。
「あなたのお姉さんの名前はシルナさんでいいの?」
「は、はい! 名前を知っていると言うことは本当に姉さんのことを……――」
「彼女はあなたほどではないけど怪我をしているから今は私の知り合いの家で休んでいるわ」
姉の名を聞かされ、そしてこの少女の言っていることが正しければ無事でいると言うことである。
姉が無事でいた、あの状況から、部下達を幾度となく葬ってきたあの強大な怪物からよく生きてくれた、よかった、よかった。
そう思い、目頭が熱くなって視界がぼやけ、視線を下に落とす。
「うおおいっ! ほらこれっ」
目の前の同じ歳の少年が涙を流している。
それに驚いたラルモはそう声を出し、慌てながらベットの横にある机上のティッシュ箱から紙を一枚取り出すとそれをカイトに渡す。
カイトは両眼に溜まった涙をそれで拭い去り、ラルモに礼を言ってからまた顔を上げる。
そのタイミングを見計らい、イアルは質問を重ねる。
「じゃ、じゃあ、あなたの姉さんも眼の使い手?」
「はい、姉さんも眼の使い手です」
(……やっぱり、一体どうなってるのかしら?)
カイトの言葉から嘘の微塵も感じられないことからやはり彼女も眼の使い手であろう。
旧式の鎧、二人の眼の使い手、謎の大怪我。
ここで何故大怪我をしたのかを聞いてみると、カイトは口を噤んでしまって答えなかった。
まるで、怖いことを思い出してしまった子供のように、口から先の言葉は出てこなかった。
それが今回のことに結びついていることは大方予想はできたが当の本人が話さないのならば無理に聞き出すことはない。
「分かった、じゃ、私はあなたの様子をシルナさんに伝えてくるわ」
「あ、ちょっと待って下さい」
「ん? 何か伝えたいことがあるの?」
聞きたいこと、伝えたいことを終えたイアルはラルモに部屋から出るよう促すと何か思いついたようにカイトから制止の声が掛かる。
「姉さんがいるとこに僕を連れてってくれないですか?」
「……はぁ!?」
「……えぇ!?」
今自分がどんな怪我、そして昨日無理矢理動いて傷口を広げたことをまるで意に介していないようなカイトの言葉に二人は思わず疑問系の声を投げかける。
「僕ならもう大丈夫です! 姉さんはこの建物のどこかにいるんですよね? だったらこの目で確かめたいんです!」
「おまっ! お前胸を貫かれたような死んででもおかしくない大怪我だったんだぞ!」
「死んででもおかしくない怪我……やっぱり姉さんが何かしたんだ、この世界が違うこともきっと……! 連れてって下さい! 姉さんなら全部知っているハズです!」
そう言い切り、真っ直ぐな瞳で二人を見つめる。
シルナなら全部知っている、なるほど。
イアルは頭の中で重要なことが聞けたと思うが、今はこの少年を落ち着かせなくてはならない。
「あ、会わせてあげたいのは山々だけどあなただってシルナさんだって怪我をしているのよ? それに、あなたがここを勝手に抜け出すと傷口も開くかも知れないし……」
イアルの話を聞き、姉が怪我していることに少し驚いたような表情をするが、それでも会いたいという気持ちは変わらない様子である。
「自分の体のことなんてどうでもいいんです! お願いです!」
「まあまあ落ち付けって、イアルの言う通りだ。」
ここでラルモがカイトに近づいて両肩に手を置いて再びベットに押し戻す。
カイトはされるがままにベットに押し戻されるがその表情からはやはり諦めの念は消えていない。
「お前の姉さんに会ったことはないけど、お前が無理に行って傷口が開いた姿で会ったら悲しくないか? 俺だったら嫌だなそれ」
珍しくラルモからのまともな意見で反論ができなかったのか、カイトはしばらく何か言いたそうであったが渋々とベットの床に着いた。
「大丈夫、私たちはあなたの味方よ。傷もゆっくり治せばいいよ。私は今から知り合いの家に行ってシルナさんには言っておくから体大事にしなさいよね。じゃ、ラルモ行くわよ」
「分かった。でも俺は少しそこで休ませてもらうぜ。急な呼び出しだったからちょっと疲れてんだよ」
「あら、眼の使い手なのに?」
話も終え、ようやく一区切りついた二人はカイトに軽く手を振り、カイトもそれに応じて手を振って返す。
そして二人が出て行き、部屋がまた静けさを取り戻す。
カイトはベットで寝返りを打ち、そして少し不満そうに表情を歪めた。
これから起こる事を先に言っておけば、彼がこの時代の人間と同じ思考を持ち合わせているということがまず無理だということであろう。
そしてこの後、彼が二人の話を聞かなかったことが後で判明する……―――
「なるほど、護熾の家に、カイトの姉がいるんだな」
ワイト中央の廊下でイアルの隣を歩きながらシバはそう言い、イアルはそれに頷く。
「はい、何故現世に彼女が現れたのか、何故怪我を負っていたのかはまだ聞いていませんけど……そのことでカイトは怪我のことについては話しませんでした。」
今回のカイトへの接触を果たしたイアルはシバに彼は昨日より心情は安定している、や、護熾の家で介抱している少女はシルナと言い、その名を口にしたらカイトが食らいつきそうな勢いで反応したとか、シルナという少女は眼の使い手である可能性が高いなどを報告し終えていた。
「カイト……シルナ……"麟眼”と"炯眼"か……」
「え?」
「いや、こっちの話だ」
意味ありげな単語を発したシバは、少し悩むような表情でそのまま歩く。
イアルは不思議そうな表情でいたが、特に疑問に思わず足並みを揃えて歩いていった。
そんな二人の後ろ姿を、廊下の角から覗き込んでいる何者かがいると知らずに。
少し先にある廊下を右に曲がり、そしてまた少し歩くと左手に開いた空間が映り込む。
そこは芝生が一面に広がり、もうすぐ寒々しくなる季節にしては元気よく青々と草が生えている。
その芝生の庭の真ん中辺りに、口に白い棒を銜えた白衣姿の白髪の男が立っている。
トーマの姿を見つけた二人はそちらに進路を定め、草を踏みしめながら向かい始める。
一方、後ろから密かについてきた影は初めて見る建物の構造、外装や自分が知っているとどの城壁よりも強固そうな壁がグルッとこの場所を囲んでいることに驚きながらも慎重に、気配を消しながら尾行していた。そして二人が白衣を着た男に向かって歩き出したので廊下の物陰に潜んで様子を窺うことにした。
「ご苦労さんイアル。もう準備はいつでも良いよ」
「いつもすみません博士。最近どうも此処と現世の出入りが激しくって」
「いいよいいよ。これが俺にできる精一杯のことだし、何より顔を合わせる貴重な機会だからな」
イアルとの会話をしつつ、トーマは徐にポッケから札のようなものを取り出す。
その札を持った手で、まるで壁に押しつけるかのように目の前の空間に突き出すと札はまるで本当にそこに壁があるかのようにベッタリと張り付く。
そして数秒後にいきなり札が綺麗に上から下へ真っ二つに避けると一メートル間隔で両端に移動し、怪しい空間が蠢く扉が出来上がる。
「よし、開通だ。じゃ、イアル、二人によろしく頼む」
「はい、でもまあ、あの二人はいつも元気ですけどね」
イアルはそう言ってみせ、トーマとシバはそれもそうだな、と微笑んで見せる。
しかしトーマは微笑みから少し真剣な表情に切り換えると口に銜えていた白い棒を手に取り、そしてイアルを指さす。
「いいか、何か向こうであったらすぐ連絡をくれ。特に護熾は最近また妙な力を手に入れて、しかも寿命が縮んでいるんだろ?」
「…………」
トーマの話にイアルはさっきまでの明るさをなくす。
彼女にとっても、彼の寿命が減っていることは心配の他ならないのだ。
そんなイアルに今度はシバが喋り始める。
「俺たちももう、仲間が死んでいくのは見たくないからさ。だから無茶をするなって言っておきたいんだ。まだお前達は若いからな。こっちは任せろ、向こうは任せた。いいな?」
「……はい!」
「おっ、活きが良いな今日のシバは」
「こんくらい言っておかないで、どの顔で先生で言えばいいんだよ?」
トーマの茶化しにしっかりと受け答えをしたシバはそう笑ってみせる。
二人の励を受け、イアルは一度二人に向かって軽く礼をしてから振り向いてゲートの方に歩み始める。
っと、此処でシバから声が掛けられる。
「おっと、イアル、後ほどお前の端末にメールを入れておくから確認しておいてくれ。その内容を護熾とユキナにも伝えておいてくれ」
「あ、はい、分かりました!」
「じゃ、行ってらっしゃい!」
まるで旅立つ子に親が送る言葉のような口調でシバは言い、イアルは改めて礼をしてから振り返ってゲートに向かい合う。ここから三歩踏み込めば簡単に海洞家の近くの道路交差点の約二メートル空中でゲートが繋がる。
一歩、二歩、そこまで歩く。
それと同じ瞬間、廊下の物陰から何かが勢い飛び出してきた。
隠れていた陰は一分前くらいに130メートルほど先にいる三人の会話を見ながら思っていた。
あの少女は確かに知り合いの家、つまりシルナの居る場所に向かうと言っていた。
だが尾けてみれば怪我をしているはずのシルナがいるこの建物ではなく何故かこの庭に来ている。
そしてさっき、あの少女と今はちょっと黙って貰っている少年との会話を思い出してみる。
少女はシルナのことを知っているようだった。だが少年の方は会ったこと無いけどと言ったのだ。
そして何よりも……いくら頭の中で気を探っても特定できなかったのだ。
シルナとはどんなに離れていても簡単に感じ取れるのに、まったく感じ取れない。
つまり、今見ているあの門のようなものの向こうに、姉がいるのだと『何となくの直感』で分かった。
そしてあの少女が門に入ろうとした。
今だ、そう思って飛び出そうとすると少女は背後の男に声を掛けられてこちらを振り向こうとしたので慌てて物陰に隠れ直す。無茶な動きをしたので少し胸が痛んだ。
そして再び覗き込みながら、様子を窺う。
ようやく少女が門にもう一度振り返って歩き出したのでもうこれしか機会がない。
そう思って地面を思いっきり蹴っ飛ばしながら走った。
走った。とにかく走った。
走っていて気が付いたのだが本当に傷の痛みがほとんどない。
手足も自由に動くし、昨日の騒動など無かったかのように身体が軽い。
ああ、こんなに怪我を治してくれているのに、自分勝手ですみません。でも、これだけはせめてやらせてください。
少年はそう思い、踏み込んだ芝生の上を裸足で駆け抜けながらとにかく目的地まで走った。
そしてこちらに少し遅れて気が付いた黒髪と白髪の男二人の間を通り抜け、そして驚いた表情で振り返った少女ごと身体を突っ込ませ―――見事、あの門の中に二人とも入っていってしまった。
そして時間切れとなったゲートは両端にある札が元の札になるようぴったり重なり合うとポトッと地面に落ちて乾いた音を出した。
「…………」
「…………」
「……えーっと、もしかして今のカイトくん?」
「……のようだな」
茫然としたシバにトーマが冷静に答える。
それからだんだんだが、事の重大さが身に染みてきはじめた頃、おうやくシバがもの凄い勢いでトーマに振り返る。
「これは非常に不味いぞトーマ!! カイトくん、イアルと一緒に現世に行ってしまったぞ!?」
「ああ~、もう俺って大抵のことじゃあ驚かねえかも。近頃色々あったから……」
「いやお前よく冷静でいられるな? とにかくだ、大怪我の子供が現世に行ってしまったんだぞ!?」
大怪我、というのは少し大げさかも知れない。
何しろああいった怪我を瞬時に治すのを専門とした眼の使い手に二回も治癒を受けているのだ。あれだけ元気に動き回るのは昨日みたいに無茶苦茶に動かない限りは平気であろう。
それでも、それ以外の問題はあるのだが。
「やっぱり姉さんとやらに会いに行ったんだろうな。それでイアルに付いていけば自ずとその居場所にたどり着く。考えは単純だが尾行の仕方が見事だったな」
「……幸い、イアルと一緒だ。悪いと思うが護熾に頼むしかなさそうだな」
ゲートをもう一度開ける、という方法もあるのだがご生憎ゲートを開くには充電や現世でのゲート開通ポイントの設定やらの修正やこの世界と現世の間の"橋"の具合も見て決めなければならないという面倒な作業を行わないと行けないのだ。
そしてそれとは別に、カイトが姉のシルナに会うことで何かが分かるかも知れないという密かな期待も寄せている。何故ここに現れたのか、どうして怪我をしたのか。
あの三人になら事情を明かしてくれそうなものなのだが。
「シバ、お前イアルにメール送るって言ったろ? 早速送ればいいじゃないか。カイトのことも書いてさ」
「……ああ、あ~大人げないな俺たちは。いつも護熾に迷惑を掛けてしまう」
「そうだな、でも本当に書くのか? 麟眼と炯眼のあの二人を。むしろあの二人の正体の方に俺は驚いたんだけどな。」
「そうだな、まさか―――――」
シバは一呼吸を置いてから言った。
「二百年前の眼の使い手で、二度と戻らなかったっていうことが記録書に書いてあったからな」
どうも~PMです。
いや~何かこうお話にエンジンが掛からないんですよ最近。
どうやら前から思っていたんですがどうもこういった『シチュエーション』を書くのが苦手なようです、私は。シチュエーションの部分はこれを見て下さっている方にネタバレ(そういう高尚なものではないんですけどね:汗)になるのであえて伏せさせて下さい。
では、あと何話でエンジンが掛かるかは知りませんがのんびりとやっていきますのでどうかお楽しみに、では!