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二週日目 等価交換故の観戦

何だかタイトルに凝っちゃうのが私の弱みなんですよね、で、そのくせ大したことがないという(笑)もう一度言いますがこの作品は作者の置き忘れのようなものでコレを書ききらないと死にきれないっ! そんなモノです。

 



 昨夜の激戦から二日後。

 現場では約二十数人のミイラが、最初に発見された部隊と同じような姿で発見され、生き残った生存者の兵士達がその死体の始末や帰還などを行い、街への報告も完了してきたこの時。

 

 未だに部隊の隊長の一人で貴重な眼の使い手である“麟眼”のシルナ。

 そして今回、双子の姉弟で実力は隊長にも引けを取らないほどの英傑のカイトの行方が知れていないことも今回の戦いで分かった。


 ワイトの上層部は全力を持って二人の無事を確認、及び保護次第、すぐに急速と治療を施せと命令をを下したが、肝心の眼の使い手の二人は、一向に、見つかることはなかった。

 それから数日が経ち…………――――










 この時世ではまだ知られてはいないこの世界とはもう一つ別に、“現世”と呼ばれる異世界がある。

 “理”という2つの世界の命の循環を司り、さらには2つの世界を繋ぐ“橋”の役割を担っている。

 そのもう一つの世界というのは、地球と呼ばれる惑星であり、ユーラシア大陸、アフリカ大陸、北アメリカ大陸、南アメリカ大陸、南極大陸、オーストラリア大陸やらがあり、日本やアメリカなどの先進国と呼ばれる国があり、その中で、日本の関東地区という場所に世界を揺るがしかねない人物が普通に暮らしていた。



 その場所の名は七つ橋市“七つ橋町”

 関東中部に位置する七つ橋町は、自然豊かな土地として発展している。

 豊かな川面に流れる風が、心地よい街である。

 田んぼが多く、夏には虫がわんさか湧き、毎年開催される花火大会は、近隣からも見物客が訪れ、秋の思い出として堪能できる。

 また、充実した学生生活が送れるよう、設備の整った高校があり、生徒達が勉学に励んでいる姿も目にすることができる。

 そしてこの町も例外なくパラアン達の守護区域なので異世界の先端技術、名称を覆世孤立空間発生装置ふくせいこりつくうかんはっせいそうち、通称“結界”と呼ばれる対怪物用の空間が敷かれているのだ。

 

 そんな町、七つ橋町。

 しかし近日では、高校の生徒全員と教職員を含めた約1000名が突然、授業中に少数の生徒を残して消失する事件が発生。

 だが程なくしてその翌日の昼頃、突然前ぶれもなく消えていた1000名が元の場所に忽然と現れ、保護者が競い合うように連れ帰ったことが、日本全国でトップニュースを飾り、学校の方でも原因が結局不明だったため七不思議の一つとして後世に伝えられることとなった。


 それはもちろん、ある人物達のおかげである。

 そんな珍奇な出来事があったこの街で、今回の大きな鍵を握る人物達が身を寄せ合って暮らしていた。





 ある蒼天下の七つ橋町。

 その中で、住宅街が立ち並ぶある一軒家。七つ橋高校への距離橋を含めて約一キロ、途中商店街あり。

 表札には“海洞”と書かれ、質素な一軒家が住宅街の中にドンと立ち構えている。

 今日は祝日の金曜。学生ならばこの日を感謝するであろうこの日で、朝10時にあることが起きていた。


 それはこの海洞家の居間で現在進行形で起きている。

 居間で、少年が、片手に持った鋭利で対になっている刃物を顔の横に立て、そして少女の向かって何か言っている。

 少女の方は、そんな刃物を持った少年を不機嫌そうに睨んでいる。


 少年は、金平糖のような髪型の黒髪で、瞳の色はブラウン、身長174cmほど。

 表情は眉間にシワを常に寄せたような不機嫌そうな顔つきになっており、今し方不機嫌な事態の所為でより表情は険しくなっていた。

  

 少女は小柄で身長は145cmほど、顔つきは幼さを残した顔で凛々しい、又は可愛らしい顔立ちをしており、髪は艶を帯びた背中に掛かるほどのセミロング。

 

 そんな二人が今、互いに睨み合っていた。



 


「―――切るぜ」

「嫌だっ!」


 護熾は、手に持った髪切り用のハサミを髪の横に立て、明かりで金属光沢を醸しながらユキナに向かって言うが即答で返事が返ってくる。

 だが護熾に引く気は一切無いし、ユキナも切られる気はサラサラない。

 

 事の発端は、護熾がふと、ユキナの髪がだいぶ長くなったことに気が付いたことから始まり、一家の家事を全て担う身なら当然髪を切るのもお手のモノなので休みの日を機に是非と、説得をするのだがユキナはまるで我が子を庇う母親のように一瞬の隙も見せない。


「髪を切るのが何故ダメなんだよ? いい加減切っても可笑しくないだろ?」

「嫌なのは嫌なの! 私の髪はもうちょっと長くなってから切るのがセオリーなの!」

「おまっ、俺と会う前はどうしてたんだよ?」

「それはもちろん床屋さんにいって揃えてたわよ。だからあと一ヶ月待って!」

「一ヶ月も今も変わらないだろうが! 何か気になるんだよ、会ったときより10cmくらい延びてんだぞ?」

「い~や~~だ~~」


 まるで親子のようなやりとりである。

 ユキナの髪はそれはもう、つい触りたくなるような不思議な艶を奏でており、よく手入れがされていると一目で分かるほどの綺麗な髪で確かに切るのには少々躊躇いがいる。

 だが、ここで引いてしまうと自分のこんなチャンス「MOTTAINAI」(もったいない)精神が許さず、面倒なことを後回しにしたくない潔癖性の所為で足が自然とジリジリとユキナに寄る。

 それに対してユキナもジリジリと後退。

 

「五センチでいいから、さ?」 

「やだ」


 ズタタタタタタタタタタタッ!

 ユキナ、途端後ろに振り返って逃走開始。

 ズドドドドドドドドドドドッ!

 護熾、すかさずハサミを机の上に置いて捕獲行動に入る。

 

「待ちやがれユキナ! 二センチはどうだ!?」

「一ミリでもやだ!」


 するとユキナは二階の護熾の部屋に向かって延びている階段に向かい始め、護熾もそれに続いて階段に向かう。すると二人がやかましく上るため家中に音が響き渡る。

 そんな中、食卓のイスに座っている人物が口を零す。


「あ~もう、うっさいわねえ二人とも」


 腰まである黒髪、凛とした顔立ち。

 一言で言えばユキナと同じく美少女で、スタイルは一目瞭然でこちらの方が良く、身長も高い。

 その少女、イアルは今し方自身の携帯電話のような形状の通信機でメールを覗き込んでいた。

 F・Gで風紀委員長の彼女には同じく風紀委員のギバリやリルからしょっちゅうメールが来る。

 内容は大体問題の解決策の要請や、学校の近況報告などが主だが――――――


「ん? ………………あー、そういえばもうそんな時期か…」


 先程送られてきたメールの返信文を書きながらそう呟く。

 『分かった。二人に言ってみる』と書き終えた後、パタンと閉じてから席を立ち上がる。

 そして廊下の方に趣き、ガララと引き戸を開け、そして壁に少し寄りかかり、誰かを待つように佇む。

 そして十数秒後。


「いい加減観念しろユキナ! 今切れば当分切らないで済むだろ!?」

「う~! 嫌なのは嫌なの! この髪切り魔!!」


 足音を立てながら廊下を駆け抜けようとする二人が見えたのでイアルは壁により掛かるのを止め、腕を一回グルンとし、何かの準備体操のようなモノをやったあと目の前でユキナが駆け抜け、そして次に来る人物に向かって、


「海洞ストップ!」

「おわ!? ってぐっっはあああああ!!」


 見事ユキナを追跡していた護熾に強烈なラリアットをかまし、オマケに向こうも走っていたのでダメージが倍増され、首にえも言わぬ衝撃が奔り、後頭部から派手に倒れ込む。

 一見あまりにも危険だが彼女はそんなことお構いなしで倒れた護熾にしゃがんでから話しかける。


「ねえねえ海洞、ギバリ達からあるメールが来たんだけど……」

「痛って!!……ごほっ! ……げほっ! おまっ…………止めたいなら声を掛けろよぉ~」

「いいのよ、風紀員として男子が女子を追いかけている行為は見逃せないから」

「……さいで」


 正論を言われた護熾は渋々と身体を起こし、床に胡座をかき、何だ? と尋ねる。

 それを見計らってイアルの方も話したいことをさらっと伝える。


「明日F・Gで大会が行われるんだけど来ない?」

「大会って……何の?」

「簡単に言えばF・Gの生徒達で腕を競う大会。誰が一番強いかを決めるの」

「そんなのあるのか? …………ってそういえば」


 最近割とゴタゴタしていたので忘れていたが、イアルはF・G最強のガーディアンなのだ。

 その実力は開眼状態でない眼の使い手達を超えるので特に、護熾は相手をしたくない。

 大会の形式はトーナメント式で参加者は生徒内で自由。

 使用武器は訓練用の武具限定で重火器は爆弾はNG。

 対戦者が降参を申し込んできた場合、それを認めることができる。

 それ以外は正式な審判の判定か、武器飛ばしなどの試合続行不可の判断で勝者の判定を決める。

 それ以外にも細かいルールはあるが、もちろん眼の使い手は規格外なので参加は認められてはいない。

 会場はF・Gで、予選は三階の戦闘訓練場で行い、そこで上位三十名が最上階にあるスタジアムと呼ばれる場所で優勝を争う。

 

「さしずめ夏休みの時が文化祭なら今回は体育祭だな……」

「何々? もうそんな時期?」


 夏休みにシバの代わりに何故かイアルの訓練を引き受け、殺される思いをしてきたのをじわじわと思い出してきた護熾に、逃走どこか行ってたユキナが話を聞きつけて二人の元へ来る。

 イアルはやって来たユキナにそうよと返事を返すと、早速護熾に催促する。


「ねえ護熾いこいこ~」

「え~? めんどくさっ、ってか一樹と絵里を残しておくわけにはいかねえし……」

「全部見なくてもいいじゃない。因みに私は予選免除シードだし。昼過ぎくらいに行けばいいよ」

「別に俺は、F・Gの生徒達のイチャコラに興味ねえし」


 元々あまり野球の試合やサッカーの試合を観ない護熾にとって興味の対象には成りえない今回の大会。

 一方、ユキナはどうにかして護熾との思い出作りをしたいので一つの提案を出す。


「そんじゃあさ~一緒に行ったらその後で髪を切らしてあげるよ」

「何っ!? マジか!? …………いやいや所詮髪切りのために行くほど俺も暇じゃねえよ」


 思わずユキナの言葉に反応してしまうが、護熾は首をブンブン振って否定する。

 

「え~、海洞って顔からして何かこういう血の気がありそうな大会に興味ありそうなのに……」

「うっせえっ、顔で判断すんじゃねえ! 俺は行かねえかんな!」


 護熾はそう言うとスクッとその場を立ち上がり、昼何を作るのかを考えるために台所の方に歩み始める。

 こう言った以上、頑固なので本当に行かないのだ。

 そのことが分かっているユキナははぁ~と溜息を付き、イアルも同じく溜息を付きながら立ち上がるとポッケに滑り入れ、何かの引換券を取り出して顔の横に出す。


「……ユキナの髪切りプラス、四日後にある秋季商店街大安売り祭の――――」


 その言葉に護熾がビクンッと台所に向かおうとする足を止める。

 その引換券を見たユキナは心の中で『おおっ!』と目を輝かせ、イアルもそれに気が付いて顔を向けてにやりと笑う。何か勝利を確信したかのような微笑み。そんな感じ。

 そしてこちらに背を向けたまま硬直している護熾に向かって顔を戻し、こう言ってあげた。


「お米券があるんだけど見に来てくれたらあげないこともないよ?」

 

 護熾、大会観戦決定の瞬間であった。






 


 そして翌日。

 イアルは準備を手伝うため昨日のウチに戻っており、一樹と絵里を心配させたが護熾が心配するなと言ってあるので問題はない。

 午後は一樹は友人宅へ遊びに、絵里も友人宅兼護熾依頼の買い物をするので二人に夕方には家に戻ってこいと言い付け、二人は出かけた。

 

 それから三十分後。

 眼の使い手の生まれる発展都市ワイトに着いた二人はユキナの母ユリアに挨拶を済ませ、既にF・Gの前に来ていた。

 なるほど本当にやってるみたいだな、そう零した護熾は一度ユキナの方に顔を向ける。


「……これ終わったら本当に髪切るからな?」

「わ、分かってるよ! それよりほら! いこういこう!」


 あんなに嫌がっていた髪切りをこの大会で犠牲にするなんて本当に何て言うか……祭好きだよなこいつ。

 昨日打って変わって態度の違うユキナの背中を見ながら歩き、後を追いかけるようにすると丁度カードリーダ付近に三人、二人の姿を見かけると大きく手を振ってこちらに近づいてきた。









「おうっ! 護熾! ユキナ! よく来たな! 今は丁度準決勝が始まる前で時間が少しあるんだ」

「すごいもんよイアルはん。相変わらずの暴れっぷり、むしろかなりパワーアップしてるもんよ!」

「上の方で一番良い席がありますのでそこにいきましょうユキナさんカイドウさん!」


 そう言いつつ二人をエレベーターに案内する人物は少し短めの髪で身長は護熾と同じほどの少年とガーディアンの制服を着た大男と同じく制服姿の眼鏡を掛けた小柄な少女。

 名を順にラルモ、ギバリ、リルと言い、このウチラルモは称号『琥眼』を持つ眼の使い手の一人である。

 一方ギバリとリルはイアルの幼なじみであり、友好関係上彼女と同じ風紀委員に入っている。

 

「あ~もう準決勝か~~あんパン買う暇ないよぉ~」

「何か思ったより予定が早くなっちゃったんだよな。降参者が割と多くて」

「カイドウはんとイアルが再戦すればそれはそれですごいことになるだけど……」

「! 誰があいつともう一度戦うんだよ!? 怖えーよ!」

「でもこの大会の大目玉になることは間違いありませんね!」


 そんな談話を続けながらエレベーターに乗り込み、そして最上階の方へ向かう。

 エレベーターのランプが最上階を示し、そしてドアが開かれる。

 そしてドアが開いた直後、大きな歓声が耳に届いた。

 スタジアムに天井はなく円形に切り取られた青空があり、心地よい日差しを全体に降り注がせている。

 そして観客席は生徒達で溢れ、今行われている試合に夢中であった。

 そしてその試合会場はというと――――分かりやすく言うならばサッカーや野球のスタジアムみたいな感じになっている。ただ一つ、透明な厚さ五十センチほどのアクリル板が試合を行う場全てを覆っている以外は。


「あの特殊アクリル板があるのは眼の使い手が此処を鍛錬場に使って周りに被害が出ないようにするためだよ。それに試合中って結構武器が飛んだりするからそれも兼ねてるんだぜ」


 護熾の疑問に答えるかのようにラルモが言う。


「へえーそうなのか?」

「そうそう、結構丈夫でよ。でも第二解放でやったらどうなるんだろうかね~~。ま、とりあえずこっち来いよ」


 そうポツリと言い、二人を観客席に案内した。





「あ! ユキナ! それと護熾さん!」

「やっほミルナ! そしてアルティ~~~ぎゅ~~」

「ユキナ、よく来たね」

「おっ! 護熾、ユキナ来たか。」

「ご無沙汰ですシバさん。…………よぉガシュナ」

「ん? …………なんだ貴様か」

「そういえば何でてめえがいるんだ? こういうのは疎いんじゃねえのか?」

「ミルナが来たいって言ったんだ。もし参加者が怪我をしても大丈夫なようにな。俺は付き添いだ。」

「ああそうかい」


 三人が案内してくれた一番前の席にお馴染みのメンバーが揃っていた。

 まず一番奥から、髪はショートカットで手には本、顔立ちの良い少女で感情があまり表れておらず、目は半分ほど眠そうに閉じている称号『柴眼』のアルティ。

 そのすぐ隣にユキナと身長が変わらない髪の色が薄茶色でウェーブのかかったふんわりとした長い髪の毛を持った少女で称号『輝眼』のミルナ。

 そして護熾とは明らかに仲が悪そうな会話をしたのが、つまらなさそうにミルナの隣で腕を組んで座っている少し長めの黒髪で、三白眼と端整な顔立ちの少年は称号は『蒼眼』のガシュナ。

 そして最後に、怒った護熾を宥める無精髭で歳は三十代前半ほどの黒髪の男性はワイト軍の特別戦闘管轄部隊隊長を務め、同時にF・Gの教師でもあり、今は過去のトラウマの所為でなれないが一応開眼者、称号『玄眼』のシバ。


「あれ博士は?」

「あいつなら今日は仕事で来れないそうだ。」


 護熾はキョロキョロと辺りを見渡して一人いないこと聞くとシバがすぐに答えた。

 おそらくは強化服の設計や微調整で忙しいのであろう。

 護熾はそうか、と一言だけ言うと開いている席にソッと腰掛けた。

 それからユキナも護熾の隣に座って何か思いついたかのような口調で言った。

 

「そういえば斉藤さんも連れてくれば良かったかな?」

「……いや、止めといた方が絶対良い。ハラハラしっぱなしそうだから」

「それもそうだね。おっ、準決勝が始まるよ」


 ユキナの言うとおり、試合の場となるスタジアムの方に二人の人間が移動していた。

 その二人の姿が出てきたとき、盛大な拍手がスタジアムを包み込んでいった。


『“さーてっ、とうとうあと残り三試合となりました!! みんな気合いを入れて見ようぜ!!”』

(…………ん!?)


 スピーカーから試合が開始される放送が流れるが聞き覚えのある声で思わず護熾は怪訝顔で驚く。

 そしてどこで喋っているのかを探すとスタジアムのフィールドの観客席の下の空間の控え室にテーブルとマイクが置かれており、試合に参加しないガーディアン達が切り盛りしているのが分かるが一人だけ制服を着ないでマイクを握って観客の生徒達に向かって言っていた。


『“みんな! 楽しんでっか!?”』


 ワー! ワー! ワー! ワー! ワー! ワー! ワー!


『“もうすぐ準決勝だ! これまで残ってきた四人の生徒に盛大な拍手を送れ送れー!”』







「あいつ、いつの間に……」

「おおっ、ラルモいいポジションに居おって~」


 護熾とユキナが見ている視線の先には自分達を案内してくれたラルモがいつもどおりのテンションでマイク握って観客全員に呼びかけているところであった。

 二人には知らされていないが大会運営のプログラムの進行係は彼なのだ。

 生徒達はいよいよこの大会のクライマックスを迎え入れたことを噛みしめたのか、ラルモの言葉に盛大な歓声で応える。いわゆるお祭状態最高潮ってところである。


「ま、ラルモが一番こういうの好きだからな。」


 そうシバは嬉しそうに呟く。

 護熾はそんなシバを見てから顔を前に戻し、そして改めて観客から拍手で迎えられている準決勝で戦う相手に目をやる。

 一人は一目で男子だと分かり、腰に長剣のような武具を差している。

 もう一人は髪の長さから女子だと分かり、そして顔を見たら一目で分かった。

 それからギバリ、リルに顔を向ける。


「そういえばお前ら出ねえのか?」

「ええっと、何て言うか、人相手に戦うのってちょっと苦手なもんよ」

「ギバリは優しいんですよカイドウさん。因みに私のは戦うと怪我が免れないので……」

「……そういえばお前爆弾使いだったな」


 あとイアルが怖いから、これが二人が出ない大半の理由であった。





 一方準決勝まで勝ち残った唯一の女子、イアルは対戦者をじっくり見ていた。

 スタジアムの中央は楕円のフィールドになっており、さらにその中に直径二十メートルほどの円形の空間があり、それ以外は非常にスッキリ、何もなかった。

 試合はその円の端と端にお互いが立って、試合開始の合図で始める。

 イアルの相手は男子。制服から同じガーディアンと分かる。

 持っている武器は今までの参加者が使ってきたのと同じ殺傷力を抑えた長剣を一振り。

 それを見たイアルは何を思ったのか折りたたんだ状態の鎌を横に投げ捨てると後ろ腰に差していた同じ長剣を抜き、それを構える。


「? それでいいんでしょうかイアル班長さん」

「当然でしょ。相手と対等の方がいいし、鎌じゃ色々と剣相手に小回りが利かないから」


 しめた、と対戦者の男子はそう思った。

 彼女は鎌使いの中では学園一だが長剣使いならば経験上練習も鍛錬もこちらの方が費やしている。

 それに彼女は鎌で今まで勝ち残ってきたので急な武器のシフトで戦術の切り換えもままならないはずである。

 しかも女子。鍔迫り合いならば力で勝り勝機を見いだせるはずだ。

 そう思うと、少しだけ安堵の表情が綻ぶ。

 

 それから少しして観客がやがて静まる。

 ピーーーーッ!

 その瞬間試合の開始を告げる、笛の音がスピーカーから響いた。


「うおおおおおおおっ!!」


 ほとんど同時に男子が飛び出し、横に剣を向け、イアルに向かって疾走する。

 イアルはその様子を見ながら、柄に少しだけ力を入れる。

 そして男子がイアルの一歩手前で踏み込み、力を込めた横薙ぎを繰り出す。

 これだけの力を女子が不慣れの長剣で受け止めれば必ずやバランスを崩し地面に倒れるであろう。

 それが彼の読みなのだが、突如見当違いに何かが割れるような音が近くで響き、そして彼の顔を何かが掠って飛んでいった。


「…………あれ?」


 男子はしばらく何が起こったのか分からず、手元に残ったものを見た。

 それは長剣と呼べる代物ではなく短剣以上に短り、重さも以前より軽くなった武器がそこにあった。


「ええーっと……」


 そう呟いてイアルを見る。

 彼女の体勢は剣を振り抜き終えたような感じであり、手には日光で輝く剣が握られている。

 男子が一歩踏み込み、そして剣を振り抜いた。イアルはそれに応じて一瞬で振り抜く。

 たったこれだけのことで男子の持っていった剣はへし折れ、刃は今はフィールドに突き刺さっているのだ。

 あの捨て去った鎌を拾えば……男子はそう思ったがその前に決着をつけられてしまう恐れもあるし第一何の考えも無しで鎌を投げ捨てるような相手でもないのでうかつに動くことができない。

 そしてイアルは少し溜息を付きながら切っ先を男子の喉に向ける。


「降参、する?」


 イアルがそう聞くと、


「すいません、そうさせて下さい」


 男子は直ぐさま答えた。








「……化け者か、あいつは」

「おお~~すごいねイアル~」

「わあイアルさん! また秒殺ですよ! すごいねガシュナ! アルティ!」

「まあイアルはんだったら何の心配はいらんもんよ」

「まあね、イアルは本当に戦い相手じゃないとああやってこきゅっと折っちゃうモンね」

「でもそうやって相手の自信もこきゅって折っちゃうから困るんだけどね」


 一瞬で決着の付いた準決勝の試合の各々の感想。

 普通に考えて一瞬の判断で一瞬のウチに剣をへし折るなど並大抵な凡人ができるわけがない。

 それができるからこそイアルは先輩もいる中でF・G最強なのだろうが。

 イアルは自分への黄色い歓声がアクリル板越しに聞こえる中、ふとこちらを見ている眼の使い手達に顔を向ける。そしてその中で護熾の姿を見つけると、女の子らしく微笑んでみせる。

 一見、珍しく可愛らしい笑みだったが護熾はその笑みにどこか違和感を持った。

 何て言うか、あんま良い予感がしないような、護熾は顔に少し青筋を立ててそう思った。





 そして決勝戦――――は当然の事ながらイアルの勝利。

 流れはと言うとまず大戦相手の男子(同じくガーディアン)は背中にイアルと同じ折りたたみ式の鎌を装備し、手には槍を持っていたのだがまず初撃で槍自体が折られ、続いて背中の鎌を取り出したが良いが出した瞬間に今度は間合いを攻められ、いつの間にか持ち替えられた長剣を喉元に向けられていた。


『良い? 鎌は確かに攻撃範囲は広いけど、こうやって間合いが近いと役に立たなくなるのよ』


 そう言って剣を引き、『どうする?』と聞くと当然相手はこう言った。


『…………参りました』


 こうしてこの後この大会はプログラム最終ナンバーのメダルの授与式に移り、一位から二人の三位まで色の違うメダルを授与しF・Gの学園長から表彰されるという形式でこの大会も終幕を迎える―――ハズなのだが…………


「さ~て、んじゃメインイベントを始めましょうかね」


 剣を後ろ腰に仕舞い込んだイアルは暫定二位の男子に一瞥をくれてやった後、顔をラルモがいる大会運営放送の方に向ける。それからキビキビと歩みを始め、運営放送の方に向かう。

 それに気が付いた試合に参加しないガーディアン、及びラルモは不思議顔でこちらに来るイアルを見る。


『“え~、イアルどうした? 試合は終わったよな?”』

「ちょっと貸しなさい」


 スピーカー越しから尋ねて来たラルモに対し、イアルは軽く言って手からマイクをブン盗ると振り返って観客席の方に顔を向ける。

 観客の生徒達は暫定一位の校内最強の少女の突然の行動に注目し、しばらくざわついていたがやがてこのざわめきの中心の少女の言葉に耳を傾けようと一斉に静かになった。


「…………何か嫌な予感」


 護熾はそう零す。

 やがて、イアルによる全生徒に向かってのスピーチが始まる。

 

『“皆様、今大会にお越し下さり誠にありがとうございます。私は風紀委員長兼ガーディアンのイアルです”』

 

 スタジアム会場のスピーカーからよく通る声が響く。


『“私は、予選免除と運良くこの本会場で試合をし、何とか優勝できましたが……―――”』


 何とかぁ? と、生徒達のそんな感想。


『“そして誰が勝ち残るかを予想して密かにお菓子を懸けている全教職員もいるなか……――”』


 全く大人って奴はよぉ――――生徒達からの感想その2。


『“何とか無事に終えられそうですが予定より三十分も早く終わりそうなことに皆様はどう思いますか?”』


 そりゃー、ねえ。

 思ったより早めに終わってしまう学園の行事に生徒達は互いに顔を見合わせて呟く。

 腕に自信のある者同士が力を競い合う。これほど人間の奥底の欲求を満たす大会でこの終幕は実に惜しい。だが降参者が今回多かったこの大会(主にイアルの対戦者)が幕を閉じようとしている。

 ではこの余り時間、じゃあ彼女は何か良い案があるのか。

 そんな期待が一斉に集まる。

 生徒の期待の視線を浴び、にやっとしたイアルはマイクの持っていない手を高く上げ、人差し指を出す。


『“なのでこの余った時間、優勝者の権限として―――――”』

 

 そして腕を振り下ろしてある方向に指を差す。

 その指先に生徒達の視線が注目し、そして見る。


『“海洞!! 私と戦いなさい!!”』

「いいっ!!?」


 嫌な予感が的中した瞬間であった。



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