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一週日目 ~プロローグ~ 灯る時計盤

 どうも! 前作から知っている方はお久しぶりです! 名も存在すら知らなかった人は初めまして! 関東という名のジャングルに住んでいますゴリラことPM8:00です! 

 いや~どうにか始めることができましたよこれ。

 今回のコレは“追いつめられる”をコンセプトに仕上げています。

 まあ簡単に言えば新たなる挑戦ですかね。(そう言いつつ何に挑戦しているのかよく分かっていないw)

 因みに初めての方&興味がある方は目次の下にあるタグから前作の『ユキナDiary-』をお読み下さい。それともう一つ、この作品はあくまで作者の置き忘れた作品です。書きたいモノ書く、それが私の作者存在理由なのさ☆ 以上、物語をお楽しみにしてください! では!

 

 

 


 Is the preparation good? (準備はいい?) 


 



 






 神と対為す『邪神』此処にあり――――

 

 少年達の覚悟、少女達の想い彼方にあり―――

 

 邪を壊し、絶望の中の光、我にあり―――

 









 あなたと私を繋ぐ心、一つにあり――――






 





 ~あらすじ~



 人ならぬ者たちが、この世の日に陰に跋扈ばっこしていた。

 その者たちは日々人をどこかに連れ去り、自分達の同胞を作り、勢力を徐々に拡大していた。

 それを阻止すべく異世界の住人は現世に人を派遣し人々を影から護らせていた。


 その者達を、異世界の人々は総称して“異世界の守護者パラアン”と呼び、主に十代から二十代の若者が任を背負って対怪物戦闘人員として活用していた。

 そしてさらに、ある街でのみ、不思議な能力を持つ者達がいた。

 彼らは生物に流れる循環生体エネルギー、総称して“気”と呼ばれるエネルギーを常人を遙かに凌ぎ、さらには力の具現化に至って各固有の能力を生み出す。

 人々は気を解放したその外見から、“眼の使い手”と呼んだ。


 そして現世で、高校一年の護熾はひょんなことから守護者パラアン及び眼の使い手の少女“ユキナ”と出会い、違う世界を明日から踏み出すことになる。

 





 これは真実を知った少年海洞護熾とオレンジの瞳と髪を持つ少女ユキナの物語である。



 





 ~プロローグ~




 風が聞こえる。

 それは遠い雷鳴のような、今いる場所が中心かのように渦巻いている。

 だが此処は、人間及び生物の常識を越えた場所。

 呼吸をするのでさえ忘れ去られてしまいそうな、亜空間。

 この場所を言葉のみで語りきるには少々難儀なことだが一つだけ今伝えられることがあった。

 最悪。

 ハッキリ簡単に言ってしまえば、それは眼の使い手の全滅と言えるであろう。

 太陽を取り除いたような永遠の闇が続き、石英でできたような円柱が立ち並ぶこの空間の中、動くモノは邪神のみであり、さっきまで動いていたモノはいなくなっていた。

 残された眼の使い手はおそらく自分一人のみ。

 だが、自分は胸部を貫かれていて戦闘どころか動くこともままならない状態だった。


 

 …………聞こえる……

 

 

 そう思ってからピクンと指が動いた。

 もう動かない腕、動かない足、動かない頭、動かない身体。

 動きを止めようとしている心臓の鼓動を感じながら、血溜まりの中で確かに何かが聞こえる。


 …………海洞くん……死なないで……

 

 すぐ隣で、自身を抱き締めている少女の声だろうか。

 致命傷を負った自分の耳にはほとんど掠れて聞こえないが、誰かが自分に向かって声を掛けていることだけは分かった。しかしその言葉に応えようとも、身体は言うことを聞かないし、むしろ重くなっていくようだった。

 

 ……護熾………お願い、生きて……

 

 ……海洞、もう一度死んだら容赦しないし許さないからね!


 ……ゴオキ、どうか、無事で……


 不意に頭の中で3つの声、少女達の声が聞こえた。

 その声は、自身にとって護らなくてはいけない存在、又は護らなくてはいけない世界。

 そう思うと今度は聞いたことがある声で、聞いたことがない言葉が頭に響き始める。

 

 ……これは俺たちの戦いだ……奴は喧嘩を売った。それを買って、蹴りを付ける。


 ……どんなに暗い世界でも光は輝きます。みんなで帰りましょう!

 

 ……奴に伝えてくれ…………クソったれってな


 ……私がみんなを護るから、あなたは私達の世界を護って


 ……全員無事だ! 頼んだぞ! 奴を倒せるのはお前達だけだ!


 ……絶対命令だ! 生きて帰ってこいよみんな! 





 ……ああ、そうだよな……帰らねえとな……



 帰りたい、みんな無事で一緒に。

 そう思うと、少しだけ顔が綻ぶ。最悪のこの状態から何とかしたい。

 でも身体は動かない。それが歯痒いことであり、自身の望むことに応えられない。

 もっと自分に力があればみんなを護れる。

 一度捨てた命じゃねえか、もっと力をとそう、ふと思ったときにそれは来た。




 “力ヲ貸シテ欲シイカ? 海洞護熾”




 その声を主と思われる闇が、自身の意識を奪っていった。






 




 


 


 


 ユキナDiaryーAL ~Attack Legion “I want all of you”~






 


 





 時は、現在のような都市が立ち並ぶ世界より約200年前のこと。

 人々は互いに終結して大きな街を作り上げ、異形なるモノへの対抗を固め、技術も、団結力も、“起源”より遙かに向上してきたこの時代。

 そんな時代の中で、眼と髪の色を変え、人の人智を超えた力を発揮する者達“眼の使い手”なる者が住まい、生まれるある街で、それは起きた。



 ある夜のことだった。

 鉛色の空が重く垂れ込み、月明かりも朧ろなこの日。

 この日の六日前、最近、他とは比べものにならないほどの強大な強さを誇る異形が、近くに来ているという情報が入っており、その報告を受け、街の部隊は少し離れた場所まで趣き、野営を張って、各部隊ごとに捜索をしていた。


 そして今日、まず、一部隊の全滅から始まった。

 全員、発見された当時、干涸らびたような容貌をしており、武器を持ったまま、或いは背中から一突きされ、傷は一人一つから複数と、反撃する暇も逃げる暇もなかったことが窺えた。

 そしてその緊急事態に、ついに全部隊が動き出し、その周辺を野営を張って待ち伏せた。

 そして日が沈み、視界が暗くなる中、“奴”は来た。



 


 

 


 ズザザッ


 脳裏に浮かぶ二本の物体。


 ズザザザッ


 それは、一瞬のウチに兵士達を薙ぎ払い、


 ズザザザザザザッ


 その先端で兵士を防具ごといとも簡単に貫き、血しぶきを纏い、尚も木の葉のように兵士達を追いつめ、


 ズザザザザザザザザザザザザッ!!


 あっという間にその場は血生臭い阿鼻叫喚の地となった。


 ズザザザザザザザザザザザザザザザザザザザッ!!!



 

 ザン!




 街の兵士部隊壊滅からおよそ三十分後。

 胸に勲章を付けた鎧を全身に纏い、後ろに束ねた髪を2つに分けたやや赤めの髪をした少女は、森の中から飛び出し、小道を跨ぎ、そしてもう一つの森の中へと走っていた。

 一瞬のウチに葉を纏いながら移動した少女は顔立ちは少し大人びており、少し小柄ながらも不安定な道筋を駆け抜けていた。


「ハァ……ハァ……怪物め…………!」


 息を少し切らしながら悪態を付く。

 場所はどこかの森林で、夜空は銀白色の月が飾られているはずなのに、曇天の空と木々の葉が光りを遮り、さらに悪いことに夜なので木々を避けて走るのが精一杯だった。

 背中には先程使用したのだろうか、折られた剣が飾られている。


「…………! こっちに来たか……!」 


 この少女、必死で何かから逃れる……ではなく何かを引き付け、自身を囮にしているのだ。

 理由は簡単、今、自分が引き付けているのは“人外のモノ”。

 及び、巻き添えを周りに与えるほどの強大な力を持った相手。

 故に、一般人である自分達の兵達をこれ以上危機に晒すわけにはいかない。

 それは正しい判断である。正しいのだが、今の彼女には、それしかできないのも事実である。

 

「姉さん! 無事だったんですね!」


 不意に横から声を掛けられ、少女は一瞬足を止めそうになるが、すぐに声を掛けてきた人物に顔を向け、安堵の表情と怪訝そうな表情を混ぜたような感じになる。

 自分と同じように軽量で、防御力を重視された身体に密着する作りの近代的な鎧を纏った少年。

 髪の色は黒で、短く刈り込んでいて、顔はやや幼さが目立っている。

 少女は横から葉っぱを纏って現れた少年と併走し、自分と隣り合ってきた少年に向かって疾走しながら今の周りの状況、戦況などの急いで報告するように聞く。


「どうして来たの!? 囮役は私一人で十分なのに」

「姉さんにもしものことがあったらどうするの!? あれを一人でどうにかするっていうのか!?」

「…………今、どんな状況? 奴は強い! 負傷者、及び確保ルートと安全な休息地はとれたの!?」

「うん、でも奴はすぐ見つけるだろうから……僕たちが倒さないと、安全は保証されない……」

「戦える?」

「もちろん、死ぬまで姉さんに付いていきますよ」

「その息だ」


 少年の意気込みを買った少女はフッと微笑みを見せてから前を向いた。

 此処では今し方戦うには不利な地形と場所である。

 それは相手の出方、攻撃方法、そして見切るためのどれをとっても最悪な以外なかった。

 とりあえずは月明かりがある、森の外へ抜ける必要がある。


「この道を真っ直ぐ行けば――――――」


 抜けることができる、と記憶した地形どおりのナビを申しつけようとしたときだった。

 少年と少女の拍動、そして森の静寂を破るかのように―――――



 




 ルッ、ルゥルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルゥ!


 





 二人の遙か後方から、およそ生物が発っしないような、何種類もの金属を擦り合わせ混ぜ合わせたような耳に残る音響が耳に届き、二人は本能的に防御態勢を取って地面を滑りながら振り返る。

 奴がこちらの現在位置に気が付き、進行方向を定めただけなのに、身体が勝手に動く。

 それほど、不思議で、威圧的な声色なのだ。


「奴がこちらに気が付いたぞ!」

「分かってる! 姉さん早く!」


 遙か後方で人一人分くらいの太さがある木々を棒のようにへし倒しながらこちらに急接近してくるのが分かる。二人は目前にある木々のない、開けた場所へと急ぐ。

 急速に距離が縮まってくるのが分かる。

 木々が簡単にへし折れ、道を造り、二人の背中に向かってきていることが。

 

「出たらすぐ後ろに振り返って迎撃するよ! 私達の“能力”2つを合わせれば……!」

「分かってる! カウントダウンを言ってくれ!」

「分かった! 行くよ! ……4……3……2……1――――――」


 少女のカウントダウンが終わりに近づき、木の葉を纏いながら、森の中から広場に飛び出す。

 そして二人とも、髪の色を元の色とは別の色に変えながら、振り向く。

 少女は、やや赤色の髪を、銀色に変え、銀色の瞳を携え、銀白色のオーラを纏う。

 少年は、黒い髪を、金色に変化させ、金色の瞳を携えながら、金色のオーラを纏う。

 二人は、自分達の姿を月光下に露わにしながら、その両眼で見据える。

 

「ゼロ!!」


 少女のカウントダウンの最後が告げられる。

 途端、二人は地面の上を滑りながら、身体を反転させ、片手を自分達の来た森の中へと向ける。

 そして二人とも、波動を生みだし、小さな光球を作り出す。

 生物の体内、つまり生き物全てが持ち携える“生体エネルギー”の“気”を凝縮させ、フルパワーで迎え撃とうというのだ。

 

 高い金属音が、広場の空間に広がっていく。

 その音を纏わせながら、やがて大きくしていくと、光球は二人の今の色と同じになる。

 銀色の光球は波打つように回転をしながら、金色の光球は闇を従えるかのように、希望の如く強く輝く。

 そして反動を纏いながら、2つの光球は夜の中に光を刻みつけるかのように―――放たれた。



 奴は接近していた、そして見る。

 二人が森の外へ出た途端、こちらに身体を向けながら地を滑り、片手を同時に向けたことを。

 そして手に急激に高いエネルギー反応が出現し、それが自分に放たれたと言うことも。

 その自分に放たれた攻撃は、地面を波動で削りながら、迫ってくる。

 

(暗い森の中、二人で逃げて自分を人間達から引き離し、障害が無くなれば勝てると思っているのか)


 本当に小賢しい、それが二人に対する最初の感想。



 二人の手から放たれた光球は、寸分の狂いもなく、森の中にいた奴に命中する。

 爆炎がそこに引き起こされ、その周辺にあった木々が中程から薙ぎ倒され、新しい地形と烈風を生み出す。

 二人は、自分達が放った“飛光”を命中させた後、烈風を浴びながら、やったかどうか、視覚で確認する。

 黙々と白煙を、雲の切れ目から覗く月光が照らし、着火地点を中心に薙ぎ倒された木々が映し出される。

 再び訪れた、静寂。

 不気味で耳鳴りが痛いほどの静かな場所に戻っていく。

 その場所で二人は互いに無言だったが、やがて少女の方が先に口を開いた。


「や……ったか?」

「分からない…………気配がない……」


 まともに受けたというのは手応えで感じていた。

 あれほどの直撃、もし元気でいても、負傷は避けられないはずである。

 二人ともそう思っていた。

 煙の中からあるモノが出なければ――――――



 ヒュッ―――――ベシャッ




 煙の中から、白煙を纏いながらこちらに投げ出された物体が、二人を瞬時に臨戦態勢に戻す。

 だが、それはすぐに敵ではないことは、同じく刹那の間に分かった。

 

 干涸らびて、ミイラになった兵士。

 飛光の直撃を食らい、鎧以外、原型が無くなった死体。

 

 それが、空中で力無くしわくちゃになった水分のない皮膚を纏った身体を投げ出されながら、そして焦げたような後を多く残しながら、二人の前に白煙を纏って落ちてきた。

 奴は、こいつを使って自分達の攻撃を瞬時に防御した。

 二人とも、すぐにそれが頭に浮かんで、視線をミイラ化した兵士から白煙に向ける。

 だが――――少し遅かった。



 白煙の中から、こちらに向かって鞭のようなモノが、獲物を見つけた肉食獣のように、襲いかかってきた。

 先端は鋭利な刃物状になっており、弾丸の如く空気を切り裂きながら向かってくる。

 避けきれない。

 二人は回避するために横に跳躍する。

 その瞬間、触手の先端は下から上へ奔り、少女の脇腹を、少年の肩を抉り去るように通過していき、先端を赤く染めながら、夜空に向かって飛んでいく。


「ぐっ……!」

「がァっ……! くそっ…………!!」


 血沫を散らせながら、横に飛んだ二人は血液を身体に付着させながら、地面に転がり落ちる。

 通り過ぎた触手は、一度上空で動きを停止、それから進行方向を変え、怪我を負い、その痛さに呻いている二人に向かって追撃を掛けるために今度は上から下へと急降下で接近を開始してくる。

 触手の先端には、二人には見えない殺意を帯びながら。

 

 少女は、脇腹を抉られた痛みで、すぐに気が付くことはできなかったが、耳に急降下で降りてくる音を聞きつけハッとなり、少年に注意を呼びかける。


「気をつけろォ!! まだ攻撃は終わっていない!!」

「!!」


 少女の警告をいち早く聞きつけた少年は、すぐ横に転がる。

 すると上空から流星の矢のように急降下をしてきた一本の触手の先端が、さっきまで少年が居た場所に突っこみ、周りに少し土をばらまきながら刺さる。


「あ、ありがと! 姉さん!」

「!! まだ終わっていない!!」


 まだ、第二撃は来ていない。

 少女はそう叫ぶが、少年の反応は一回避けたという安堵感で僅かながら、隙が生じ始める。

 それを狙うかのように、一撃目を上から、二撃目を真横からに進路を変えた触手が、迫る。

 そして、その殺意に気が付いた少年は、そちらにゆっくりと顔を向ける。

 その時、金色の瞳に映ったのは―――――月光で残酷に光る、触手の先端。 


「カイトォオオオオオオオオオオオオオオオ!!」


 少女の弟の名を叫ぶ声が、森の中の広場に広がる。

 そして少女の銀色の瞳に映るは――――少年の胸を何の躊躇もなく貫く触手の図だった。


 少年は自身に起きたことが信じられないのか、目を人生の中で一番大きく見開き、胸の激痛と貫かれた衝撃で、顎を天に向かってあげる。

 その瞬間、激痛で意識を保つことが難しくなり、眼の色と髪の色から色が引き始め、元に戻り始める。

 そして胸から血が勢いよく溢れ、鎧と、服と、そして月光下に照らされた大地を濡らし始める。


 カイトを貫いた触手は、人体を貫いた手応えを感じたことに満足がいったのか、ビュルッと今度は勢いよく身体から引き抜く。

 そして両膝をガックリと地面に付け、眼の色も髪の色も元の黒に戻し、瀕死状態のカイトから完全に引き抜くと、今度は勢いよくそれこそ鞭のように横に薙ぎ、その身体を横に飛ばす。


「カイト!! カイト!!!」


 少女は、重傷を負わされた弟を助けるべく、自身の傷の痛みも忘れて走り、自分の横を通り抜けようとしたカイトに向かって両腕を伸ばして掴まえ、地面を転がりながら、やがて止まる。


「カイト!! しっかりしろ!! こんな傷で死ぬんじゃない!」

「ね…………ねえ……さん……ごめん……油断……しちゃった……」


 転がり終え、体勢を立て直した少女は介抱したカイトに必死になって呼びかけるが、口から血を流し、胸の傷からの出血を見る限りでは、相当危険な状態に犯されているのは分かる。

 だがここから医療班の元へは遠いし、何より敵はまだ白煙の中に潜んでいる。

 状況は――――最悪。



 ルッ、ルルルルルルルルルルルルルルッ



 そして最悪の状況を作り出している根源が、二人に向かってまたあの泣き声を発する。

 少女は身を固め、カイトを抱き締めている腕の力を強くする。

 先程まで忘れていたが、相手の触手の攻撃によって抉られた脇腹の傷も、浅くはない。

 気が付けば、痛みで既に立つこともままならない状態。

 その上此処まで来るのにスタミナを消費している。

 逃げる光明も、体力も、もう残されてはいない。絶体絶命、それが今の状況に一番合う言葉だった。

 でも―――――――


「安心しろカイト、お前の傷は“停止”させておく! これで死ぬことはない」


 少女はカイトにそう呼びかけるようにしながら、右手を胸の傷に当てる。

 すると光の渦のような、銀河系を縮小したような光が胸を照らし、カイトの呼吸が瞬時に軽くなる。


「ホォ、キサマ、オモシロイ能力ヲ持ッテイルナ。」

「!」


 その様子を、白煙の中から見ていた“奴”は、少し驚いたような声で言い、少女はそれに反応して顔を上げる。言葉は少し驚いているような感じだが、声には一切の感情が含まれていない。 

 それが何より、無機質な声が、少女に恐怖を覚えさせる。


「ダガ、ソンナ事ヲシタトコロデ、何ガ変ワル? 何ヲ求メテイル? 所詮キサマラハ只ノ生物。強イモノガ勝ツノガ自然ノ成リ行キダ。ソレガ、オレタチ“怪物”ニ対抗シウル眼ノ使イ手デアッテモダ」

「それをお前が決めることではない! 私は諦めない! 必ず生きてみせる!」

「………………戯レ言ダ、死ネ」


 その言葉は、相手への興味が失せた、つまらないことを言うな、それらに対しての苛つきのような、それでも感情の含まれていない声色で、静かな殺意を二人に向ける。

 少女は身構え、見えない殺意に対抗するために心を固める。

 そして、ある種の作戦が、既に彼女の頭の中で一つ浮かび上がっていた。

 この作戦の成功率は、相手が直接、もう一度攻撃してくること。

 

 二人に向かって声を走った“奴”は、白煙の中からもの凄い速さで地面を蹴り飛ばし、衝撃波を生み出しながらこちらに向かってくる。

 そして白煙を纏ったその姿は、まるで、“邪神”のようなイメージがあり、触手が二本とも先端の刃物状の物体を二人に向けて、飛び出してきた。


 彼女の、一か八の作戦が、始まる。


 触手は寸分の狂いもなく、二本とも少女の許へ向かっていく。

 少女の腕の中で倒れているカイトは後からでも始末できるから、今は反撃ができる可能性を少しでも持った少女へ攻撃対象を向けると判断したからであろう。

 触手は、少女の胴体と、首へ向かって延びる。

 少女は、風を切って疾風を纏う触手の先端を睨みながら、その機会を窺う。


「呆気ナカッタナ、人間ドモ。ツマラナイ幕引キダ」


 そう、相手が言葉を発し、終わりを確信する。


 触手は、寸分の狂いもなく、まず初撃は胴体を狙う。

 だが、胴体を貫く瞬間、少女はカイトを介抱していた腕を上げ、触手の先端を掴み、瞬時に気を最大限に上げて力を通常の何倍にも持ち上げて、手を先端で切りながらも見事に止める。

 そして二撃目の触手は首を狙ってくるが、それはギリギリまで引き寄せ、そして先端を睨んだかと思えば、敵の意志に関係なく、空中に挟まれたかのように動きを止めてしまった。


「…………! 何ヲシタ?」


 突然の不確定要素に驚いた敵は、いくら触手に殺せという意志を送っても動かせないでいる。

 その原因を、静かに、少女に問いてみる。

 だが少女は、この時を待ち侘びていたかのような、残忍で、軽い微笑みで代わりに返事をする。


「答える必要はないわ。でも、一緒に“飛んでもらう”」

「…………!」


 敵は、相手が何かをしようとしていると即座に判断し、触手をすぐに引き抜こうとする。

 だが、突如触手の先端の方に銀色の時計盤が出現し、それが動きを封じているモノだと瞬時に判断した。

 そしてそれと同時に少女が実行を開始する。

 敵が身を引く前に、少女の銀色の瞳に時盤のような紋様を刻みつけられる。

 その瞬間、自分がいる場所と、敵がいる場所を囲むかのように、少女の瞳の模様と同じ銀色に発光する時盤が地面に出現する。

 銀色の光が、二人の少年少女と、敵を映し出す。

 時盤の針は、ゆっくりと時を刻むように、動き始める。


「………………クソ」


 そう悪態を付いたのは、身体の形は人型そのもの、そして両肩の後ろから触手が生え、本人の代わりに困惑するように波打っている。

 痩身で真っ白な肌をした黒髪の男、そう呼ぶのにふさわしい姿をしている。

 その人物は、地面に突如出現した銀色の光で姿を露わにさせられながらも、この魔法陣のようなモノを発動させた少女を見据える。


「女 サッキ言ッタ飛ブ、トハドコヘダ?」

「……私達の、知らない領域だ。もちろん、私自身の気力の消費は著しく多く、確実に無事ではすまない。だがお前を生かしておく方が危険だ…………だから、道連れだ」

「…………小サキ望ミニ懸ケルカ」


 この女は、俺を倒す気で最後の手段に望んできたのか。

 そして、少女とこの男を閉じこめている陣は、先程よりも著しく輝きを増し、天に向かって一筋の光を延ばす。それは、遠くで非難していた、街の兵士達からもよく見えていた。

 陣の中で、重力が無くなったのか、少女の銀色の髪と少年の黒髪が、不自然に浮かぶ。


「覚えておけ、私は“麟眼りんがん”の“シルナ” お前との決着は、これからだ」


 そして、少女は瞼をソッと、閉じた。

 すると、周りの光景が、積み上げていたモノを崩していくように、光景が光景として無くなっていき、白く、無の領域へと変わっていく。

 そして、怪物は、その中で、意識が遠のくのを感じながら、その領域に引きずり込まれていく。

 

 そう簡単には、俺はやられない。所詮、人間共の力だ。

 

 そう思いながら、意識を、沈めていった。









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