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魔法少女 薊さんと使い魔 春宮君  勇気と根性があれば魔法少女は出来るのだ!  作者: 恵京玖
薊さんの友達 シルフと学校に現れた虫の魔物達
9/30

 前回のあらすじ。現れた情けなくてどうしようもない使い魔 ピコンに出会った。きっと、これを凌駕する使い魔は少ないだろう。それくらいの逸材だ。


「あ、おはよう。春宮君。」

 朝、校門でばったり会い、笑顔であいさつした薊さんに「おはよ」と返した。あまり女の子としゃべるのが慣れていないから、こうやって並んで歩くのもムズムズする。

「撫子ちゃん、どうだった? 怖がっていなかった?」

「全然大丈夫。それと魔法少女の事を黙ってくれるって」

 嬉しそうに良かったと言う薊さん。言うか言わないか迷ったが、言った方がいいと思いピコンの話をした。

「それからピコンに会った」

「え! どうだった? ピコン。怪我していなかった?」

「うん、大丈夫だったよ」

 優しいな、薊さん。ピコンの安否を心配するなんて。ピコンは撫子の悪口で心にダメージを食らっていると思うが、外傷はないから大丈夫だろう。

「それで薊さんに手紙を作るって言って、うちのパソコンを使って手紙を書いたんだ」

「そっかあ。私の戦いが下手すぎて見切られたのかな?」

「そうかな、かっこよく戦っているよ。あの白い蛇と戦うなんて、すごいよ。撫子だって可愛くてかっこよかったって言っていたし!」

 そう言った瞬間、ちょっと熱く言っちゃったと反省した。ちらっと薊さんを見ると、きょとんとした顔になったがすぐに「ありがとう」と言って笑ってくれた。


 柔らかく優しく笑う彼女が巨大蛇を戦ったんだよなと思うと俺はすごいと思う。それに薊さんがピコンに罪悪感を持ってはいけない。あいつはトンズラしたのだ!

 今でもピコンの思いを思い出す。


「ドン引きしないで、聞いてくれ。あの戦闘で僕のみ戦略的撤退をしたんだ」

「君から『ピコンは陰で見守っている』って言ってくれないか?」

「……あの、僕言ったよね、薊さんに会わす顔がないって。だから代わりに渡して」


 ……思い出すとムカついてきた。


 ここでピコンがトンズラしている事を薊さんに伝えようかと思ったが、やめておいた。それを言う義理もない。ピコンが言うべきだ。俺が言うべきじゃない。

 そうしてピコンの影もなく、声も聞こえないまま、午前中の授業が終わった。


「はい! パース!」

 うたたかな春の風が吹く昼休み、体育館で女子たちが楽しそうにバスケをしていた。五時間目が体育の授業だから早めに来た子はバスケをしていたようだ。

 その中でトコトコと走る薊さんがいた。見ているとボールで遊ぶ子供にまとわりつく子犬のような感じだ。一生懸命ボールを追いかけているが全く触れない。

 ようやくパスが来くるもぎこちなくキャッチして、アワアワと体を動かして、ドリブルもしないで味方にボールを投げるが、うまく投げられず敵にボールが渡った。薊さんは落胆した表情で謝るが、味方は笑って「ドンマイ、ドンマイ」と言う。


 バスケをしている人たちは知らない。この不器用すぎる彼女が勇気と根性の魔法少女という事を。クラスのみんなは不器用でおっとりしている女の子としか認識していないんだよな。「内緒にしてほしい」と薊さんは言っていたが、本当のことを言っても誰一人として信じはしないだろう。「知ってる? 薊さんって、魔法少女なんだよ」と教えても痛い人認定される。


 薊さんの一生懸命なプレイを見ていて、ピコンはちゃんと手紙を渡せたかなと思った。放課後、薊さんに手紙をもらった? って聞いてみようかな?

「ん?」

 体育館の窓に何かいた気がして見上げた。すでに消えていたがパッと見て鳥よりデカいし、ベージュ色っぽかったな。ピコンだったりして……。そんな、わけないか。

 女の子たちのキャッキャウフフなバスケのプレイを見ていたがチャイムが鳴り、体育の先生が来たので彼女たちの試合も終了となっていた。きっと薊さんがボールに触れたのはあの一回だけだろうなと思った。

 この後、滞りなく体育の授業が行われたがこの時の俺はまだ知らない。


 魔法少女界の不燃ゴミの真の実力を!


 そのまま体育の授業も終え、六時間目の英語も通常通り終わった。

 そのまま帰ろうとした時、女の子達が窓から身を乗り出して騒いでいた。

「ねえ、ウサギがいるよ!」

「うっそ、マジで?」

「写真撮った?」

 ウサギだと? ピコンか? すぐさま俺も窓に走る。クラスのほとんどの子がスマホを持ってウサギの写真を撮ろうと窓に向かっている。


 校庭の真ん中には黒っぽい生き物がヒョコヒョコと飛び跳ねて、高校の隣にある林に逃げ込んでいったのが窓から見えた。耳が長くてウサギのようだが胴体はしなやかで尻尾は長く猫っぽい。だがピコンじゃない。あいつはベージュ色だが、校庭にいた奴は黒だった。

「ねえ、あれって本当にウサギ? 尻尾が長くなかった?」

「猫みたいだったぞ」

「でも耳は長かったよ」

「あー、写真撮ったけどぼやけている……」

 ガヤガヤとあのウサギを話しているクラスのみんなの中で薊さんを探した。だが薊さんはいなかった。机の方を見るとカバンがない。もしかしたら教室から出て行って、あのウサギを追っていったのだろう。


 俺もちょっと行ってみよう。そう思い、教室を出た。

 あの黒いウサギっぽい奴もピコンの仲間なのかな? 色こそ違っていたが耳と尻尾が長いなど特徴は一致している。それにしても他にもいるって思うと気が滅入った。ピコンのように駄々こねて叫ぶのかな……。


 時間を確認するためカバンからスマホを取り出そうとした瞬間、俺は異変に気が付いた。なんかふわっとした柔らかく、以前も触ったことがある感触をカバンの中から感じたのだ。カバンのチャックを全開にするとあのベージュ色の獣がいた。


「やあ?」


 ぎこちない笑顔でピコンは手をあげる。急いでカバンを閉めて俺はトイレに駆け込んで個室に入り、再びカバンを開けてピコンと対峙する。


「また会ったね、春宮」

「なんで、俺のカバンの中にいるの? 何時間くらい入っていたんだ?」

「うーん、君が体育の授業で体育館に行った時から」


 だとしたらかれこれ二時間以上はカバンの中に入っていたって事か。よく入っていられるよな。


 あ、そうだ。一番、聞きたい事があった。

「ところでピコン。手紙は渡せた?」

「ここにある」

 ピコンはさも当然のように見せてきて俺は唖然とした。俺に見せてもどうしようもないんだが。


 そんな俺に構わず、ピコンは言う。

「ところで薊さんはどこにいるんだい?」

「さあ、校庭に黒いウサギらしき生き物が出たらしいから、薊さん追いかけたのかも」

「へえ……、そうなんだ。君の街ってウサギが出るなんてすごいなあ」

「ピコンの仲間じゃないの?」

 ピコンはすっと不自然に目をそらした。何かやましい事を思っているような顔だった。

「俺も遠目で見たけど、ピコンに似ていたよ」

「そんな事よりもね、薊さんに言ってほしいことがあるんだ!」

 こいつ、話をそらしやがった。

「急いで言わないといけない事なんだ」

「なんだ?」


「五分後、邪悪な果実に取りつかれた虫が、ここの高校の校庭の端にある小さな建物にいるんだ!」


「それ、ものすごく早く言わないといけない事じゃないか?」

 ついでに魔物が出る事を伝える役目は普通だったらお前じゃないのか?

「それと五分経つと君は使い魔姿になるから、周りにばれないように気を付けて」

 だからそういう役目はお前だろうに。

 ピコンは大仕事を終えたように満足した表情で、「じゃ」と言って素早く去って行った。帰るのはものすごく速いよな、こいつ。感心するよ。いや、感心している場合じゃない。

「そうだ、さっさと薊さんを見つけて教えないと」

 あと五分後に俺は使い魔になる。さっさと薊さんを探して、邪悪な果実に取りつかれた虫を消してもらわないと!



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