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 魔法少女に興味は無いか? と聞かれて、なんやかんやあった後、俺は可愛らしい魔法少女の使い魔にされて、代わりに伝言を言って来いと承った。

 いや、そんな事あるんか?


「どうすればいいんだ?」

 薊さんにピコンが無事であるという事、俺の庭になんか邪悪な魔物らしきものが出る事を伝えないといけない。だがその前に俺は薊さんの自宅どころか連絡先すら知らない。本当にどうしたらいいんだろうか?

「とりあえず外に出るか……」

 使い魔姿で見上げるくらい高くなった窓のカギをジャンプして開けた。ふむ、運動神経はかなり良くなったみたいだ。窓を開けると夕焼け空が広がり一番星が見えた。日中は暖かいが、今は少々肌寒い。ベランダの柵に飛び乗った時、踏切の音が聞こえてきた。


 ベランダの柵に座って街を見渡す。俺の家を合成したような家々が並ぶ住宅街が周囲にあり、駅の周辺はデパートや五階くらいのビルが立ち並ぶ。だがその向こうには山が聳え立ち、その周辺は田畑が広がっている。

 周囲を見渡していると、公園に誰かが入るのが見えた。

「もしかして……」

 ちらっと見ただけだけど、うちの高校の制服を着ている女の子だった。ここの公園に用がある高校生なんて限られてくる。

 柵からぴょんっと飛んで屋根に着地し、再びジャンプして地面に降り立った。やっぱりこの使い魔姿だと身軽で俊敏だ。このまま人目を避けて、公園に向かって走っていった。


 公園に近づくと「ピコン」と呼びかける声が聞こえてきた。

「あ、薊さんの声だ」

 急いで生垣に登って公園に入ると案の定、薊さんが遊具の影や植木を見上げたりしてピコンを呼んでいた。夕方でどんどん暗くなり寒くなっている時間なのに、彼女はピコンを探していたのだ。

 なんだか薊さんを見ていると、小さな子供がいなくなってしまった飼い犬を必死で探しているようないじらしさがあった。小さな背丈も相まって、胸が締め付けられ、なんとなしてあげたくなってくる。


「薊さん!」

 俺の言葉に薊さんは振り向いた。「ピコン?」と言って、こちらに向かって走ってくる。あ、まずい。声をかけたのは良いけど、どう事情話せばいいかわからない。あたふたしているうちに、俺の隠れている生垣を覗き込んだ。


「ピコン! あれ?」

 薊さんは隠れている俺を見つけるも、ピコンではない事に気が付いて首を傾げた。俺と目線をあわせるため、しゃがんで生垣に生えた草をかき分けた。


「君は、ピコンじゃないね。お友達?」

「友達でもないんだ。薊さん。俺は春宮だよ」

 俺の言葉に薊さんは「え? 春宮君?」と目を丸くして驚いた。もう変に嘘をつくとややこしくなりそうなので、正直に言う事にした。


 薊さんは「ピコンの仲間だったの?」と聞いてきたので、首を振った。

「いや、仲間じゃない。今日の夕方に会ってこの格好にされた」

「なんで?」

「薊さんと一緒に戦ってほしいって言われたんだ」

「あ、そうなんだ」と薊さんは納得しつつも怪訝そうな顔をしていた。それもそうだろう。俺も変だって思うし。


「あの薊さん、ピコンから邪悪な果実に取りつかれた魔物が俺の家の庭に現れるって言っていた」

「え! 本当に! 春宮君のお家はどこなの?」

「あっちだ!」


 俺が道案内をしようとしたが、薊さんが突然「千花飾り!」と叫んだ。その瞬間、ピンク色の魔方陣のようなものが地面に浮かび、無数の花びらが舞って宙に浮かぶ彼女の体を包んでいく。ピンクの光を浴びて薊さんの制服は消えていき、色白で控えめな胸と少々小柄で痩せた身体はピンク色に輝くベールに包まれて、衣装に変わっていく。

 ピンク色の光が消えてゆくと同時に、薊さんは昨日見たピンク色のあのダサいコスチュームを着て立っていた。一応魔法少女のように変身が出来るのか……。でも変身するなら、髪の毛もピンクにすればいいのに。それと足元はいつものスニーカー。完璧な変身ってわけじゃないと思う。


 よくある魔法少女の変身シーンを見て、しばし声を失った。

 あんな派手な変身シーンが驚いたわけではない。

 生で見てしまったのだ、彼女の半裸。


 ピンク色に発光して、うまい具合で影にもなっているけど。でもやっぱり見えたし、シルエットもくっきり見えた。ピンク色ってのもね……。


 ふっと、公園の植木が目に入り、俺はあの植木になりたいと思った。

あんな変身シーンを見ても平常心とばかりに立っている、あの木になりたい。

そして静まれ、俺の心臓。


「春宮君! 行こうか」

「あ、あ、うん! ……え?」


 動揺を隠しながら返事をしたら、ひょいっと薊さんに抱っこされた。え? ちょっと、何するの? と驚き体が硬直する。そんな俺をよそに抱っこしたまま、自転車の方に行き、俺を自転車かごに入れた。

 薊さんは「よし! 行こう!」と気合を入れて、自転車を走らせる。

 魔法少女の移動手段が自転車って子いたかな? とかごの中でそう思った。



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