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 前回のあらすじ。魔法少女にあった次の日、魔法少女によくいるマスコット的な立ち位置の使い魔が俺のカバンの中から出てきた。……魔法少女がいるんだからしゃべる動物がいてもおかしくないと思うが、やっぱり驚く。

 確かアザミさんはピコンって呼んでいたな。


 ピコンは床にちょこんと座り、上目遣いで怖々と俺を見て口を開いた。

「……君、薊さんと言う子が魔法少女って知っているんだよね」

「うん。巨大鼠と戦っているのを見たから」

「黙っていてくれないか」

「薊さんからもお願いされたけど、大丈夫。黙っている」

 あからさまにホッとするピコン。そんな事を俺に言いに来たのかと思うとちょっと脱力した。俺にそんな約束する前に、行かねばいけないところがあるだろうに。


「早く薊さんの所に行きなよ、ピコン」

「……そうだよね」

 いや、そうだよねって……。申し訳なさそうなのに、薊さんの所に行こうとしない。なんて言えばいいか分からず、とりあえず俺もピコンの前に座った。

「薊さん、心配しているよ」

「うん、そうだよね。でもとにかく今、彼女に会いたくないんだ」

「……どうして?」

「彼女に会わせる顔がないんだ?」

 なんだ? それ? 会わせる顔がないって? 使い魔なんだからさっさと薊さんの所に行けばいいのに。


 上目遣いからほんの少し目線をあげたピコンは「お願いがあるんだ」と言った。

「薊さんに僕は無事だから、心配しないでって伝えてほしい」

「自分で言った方がいいんじゃないかな?」

俺がそう言うとピコンは「だから、彼女に会わせる顔がないんだよ」と同じ言葉を繰り返した。

「なんで会わせる顔がないんだ?」

「……、僕らは関係ない人々を巻き込みたくないんだ。だからそれ以上、聞かないでくれ」

「それじゃ、どうして薊さんって魔法少女になるの? それとどうして巨大鼠が出てきたんだ?」

「それ以上、関わったら戻れなくなる」

 そう言われたら、どうしようもないな。


「それと薊さんに君の家の庭で邪悪な果実に取りつかれた蛇が現れると伝えておいてくれ」


 関わったら戻れなくなるのに意味の分からない伝言を頼まれたので、思わず「え?」と聞き返した。


「だから、薊さんに君の家の庭で邪悪な果実に取りつかれた蛇が現れると伝えておいてくれ」

 ピコンは物覚えが悪い子にイライラする大人のような口調でそう言うも、俺は唖然とした。「なんで? どうやって?」と質問する俺だが、それを言ったピコンの方が呆然としていた。


「ちょっと待ってくれ! 君は薊さんの連絡先を知らないのか? メルアドとか」

「知らないよ。それに俺、女の子に連絡先を聞くほど器用じゃないから」

「でも、でも、君を薊さんは体育館裏に呼び出したでしょう!」

「うん、魔法少女の事を黙ってくれって事とピコンを見たら教えてほしい事をお願いされただけだよ」

「でも話の流れで、連絡先を交換するとかそう言う事しないの?」

「そんな勇気も甲斐性もないよ、俺」


 胸張って堂々と答えると、ピコンは「ああああああ、もおおおおお」と叫んで、パニックになって俺の部屋を走り回る。時折「え、え、どうしよう」と言って立ち止まってはキョロキョロと見渡し、「どうすればいいんだ!」と叫んで焦って走っている。だが俺の部屋を走るだけで、何にも行動はしていない。 あ、こけた。

「でもさ、薊さんはあれで大丈夫なの? 巨大鼠の戦いの時、ものすごく苦戦していたし。ちょっと手助けしてあげたいくらいだよ」


 こけたピコンはガバッと顔をあげて俺を見る。愛らしいマスコットのようだが、その双眸には獲物は逃がさないといった野生の鋭さがあった。その気迫に俺はたじろいだ。

「ところで君の名は?」

「……春宮楓だけど」

「では春宮楓。魔法少女に興味ない?」

「いや、ないです」

「なんでえええええええ!」

 ピコンは再び床に突っ伏した。そして足と尻尾をパタパタ動かす。おもちゃ売り場で駄々をこねる子供みたいだ。


 そもそも男に「魔法少女に興味ない?」って聞くのはどうなんだ? ここで「はい! 寝食を忘れるくらい大好きです!」という返事をすると思っているのか? こいつ、俺を魔法少女にするつもりなのか? 最近そういう漫画やアニメがあるし。え? 俺を男の娘にするのか? フリフリの衣装を着て「魔法少女 メープル」とか言わせようとするのか? 俺は十五歳の男子高校生だぞ! 考えると背筋がムズムズする。


「俺はモブで生きたい。怪物が現れたら画面に端っこで目を見開いて泡を吹いているような、存在を認識されない生き方がしたいのさ」

「君も男だろ? ここでかっこよく決めたくないのか?」

 かっこよく決めたいって言ってもね。キラキラ、フリフリの魔法少女だからかっこいいよりかわいいになるだろ……。

「いや、だって俺は男だぞ? 俺を魔法少女にするつもりか?」

「はあ? 意味が分からない」

 ピコンは本気でわからないようで、首を傾げていた。その上、「君、そういう気があるの?」と逆に引かれた。あー、ものすごく恥ずかしい……。

「我々が考えている魔法少女は、男子禁制だ。そもそも男を魔法少女にして何が面白い。ついでに時々魔法少女がピンチの時、手助けするかっこつけの、ぽっとでの男も必要性は全く持って感じない。魔法少女、それは少女だけの世界だ!」

 突然、ピコンは拳を固く握って熱く語った。ピコンの主義と主張と魔法少女に対する熱すぎる情熱はわかったが、どうしても解せない事がある。

「それだったら、どうして俺に魔法少女に興味があるのって聞いたんだ?」

「薊さんと一緒に戦ってほしいと思って」

「でも魔法少女は男子禁制なんだろ? 男の俺がどうやって一緒に戦うんだ?」

 ピコンは「とりあえず、具体的に見せるよ」と言う。だがピコン自身はちょこんと座っていて、何も動いていない。

「見せるって、何を? ……あれ?」

 いつの間にか視界が変わった。見渡すと俺の部屋全体が広くなり、家具がでかくなった。そして行儀よく座るピコンと目線が同じだった。


 この光景にゾッとし、そっと窓を見た。反射した窓から、いつも見慣れた人間姿の俺がいなかった。キャラメル色のウサギのような愛らしい生き物だった。後ろを見ると尻尾は長く、体毛の色は違うがピコンと同じ体だった。


 衝撃的過ぎて頭が真っ白になったが、どうにか言葉を紡いだ。

「なにこれ?」

「これで君も魔法少女の使い魔さ」

ピコンはキラッと輝きが生まれそうなセリフを吐いて、俺は訳が分からず頭が混乱して俺の姿を映す窓をガン見していた。

「男子禁制だが使い魔だったらセーフなんだよ」

 ピコン、セーフ云々以前に俺は、使い魔になりたいなんて一言も言っていないんだけど。


 なんて言えばいいのか分からず、とりあえずピコンの方を見るといつの間にかドアを開けて出ようとしていた。

「ちょっと、待って! ピコン!」

「それじゃ薊さんに伝えておいてくれ!」

 ピコンはそう言ってドアの向こうに颯爽と消えて行った。急いでピコンを追うが、ドアを開けるともういなかった。



え? 嘘だろ……。本当にあいつ、俺にすべて任せやがった。


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