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 前回までのあらすじ。魔法少女の正体を黙っている約束と魔法少女に大切な使い魔が行方不明と言う事実を知った。


『マジカルハッピー魔法少女! リリン!』

 帰宅して自宅の玄関を開けた瞬間、愛らしい声が聞こえてきた。

 その後も廊下を歩いていると『マジカルハッピー魔法少女! リリン!』の主題歌が流れてくる。ちょっときゃぴきゃぴしていて苦手だな。リビングに入るとノートパソコンで動画サイトを見ている撫子がいた。


 邪魔するのも悪いと思い小さな声で「ただいま」と言った。

 撫子に気づかれないように遠目で『マジカルハッピー魔法少女! リリン!』を見るとイメージ通りピンク色とパステルの淡い色が溢れ、キラキラしている。昨日の薊さんの戦闘で感じた泥臭さなんて一切ない。と言うかキラキラしているのが普通だろう。

 撫子は俺が後ろにいるなんて、一切気づかず魔法少女のアニメをガン見している。俺は何も言わずに、台所に行き冷蔵庫を開けて麦茶を飲み、冷蔵庫を閉めた。

 ここでようやくここで撫子は俺に気が付いた。ハッとした表情から一瞬にして、大声をあげる。

「なんで、いるのよ!」

「ここは俺の家だぞ」

「違う! どうして『ただいま』って言わないのよ!」

「言ったよ」

 そう答えて麦茶をついでもう一杯飲む。撫子は当然イライラしたような顔をして俺を睨んでいる。


「だってお前、見入っていたんだもの。邪魔したら悪いと思って」

「見入っていない! 間違えてクリックして、ちらっと見ただけ!」

 撫子の必死な言い訳を俺は「ふうん」と言って、麦茶を冷蔵庫にしまう。ちらっと見ているようには見えなかったけどな。


 小五の妹、撫子は長い髪と二重のキリっとした目をしている。身長も高く、服も大人っぽい物を着ているのでパッと見て中学生に見える。だが言動はこのようにツンデレ。ついでに冷めた事を言えば大人っぽいと思っているのか、素直じゃない事ばっかり言っている。俺から見たら生意気な妹だ。


「こんな子供っぽいの、見るわけないじゃん!」

 馬鹿にしたようにそう言って、パソコンを消す。だが俺は知っている。妹は魔法少女とかそういうアニメなどを「子供っぽい」と見下しているが、やっぱり興味があり陰でこそこそと見ている。パソコンは正直だから魔法少女の漫画やアニメを調べた痕跡があったため、隠れて見ていた事は薄々知っていた。だが妹は素直じゃない性格なので、証拠をそろえても生意気な事を言って否定するだろう。

 別に撫子が魔法少女を見るのは対象年齢内だと思うんだけど。少なくともハアハア言っている大きなお友達よりは。

「こういうの見ているのは、子供なの。私は『マジカルハッピー魔法少女! リリン!』なんて見ないよ」

 撫子の言葉を聞いて「子供っぽいって言っているくせに、きちんと題名は言えるんだな」と言おうかなと思ったがやめておいた。俺は中学生になる頃から、撫子と口喧嘩に勝てないのだ。


 撫子はいつの間にか生意気そうなすました表情を浮かべて俺を見た。

「なんで毎日、早く帰ってくるのかな? 部活はしないの? お兄ちゃん」

「高校では部活はやらない。中学で十分。バイトしようと思う」

「じゃあ、バイト探しはしないの?」

「うーん、ブラックバイトとかあるからね。ちゃんとよく見極めて探さないといけない」

 撫子は「言い訳ばっかり」とあきれ顔で口をへの字に曲げた。


 撫子と不毛な会話をしていると、いつも「しょうもない事で喧嘩しないの」といさめる母さんがいないことに気が付いた。

「母さんは買い物?」

「そう。お父さんのほしいものリストが来たのよ。今日はスーパーの特売日だから、今買おうって出て行った」

 うちの父さんは四月から単身赴任している。だが家事ができないので、毎週日曜日に母さんが父さんの部屋に行き洗濯物や掃除などをしているのだ。また仕事が忙しいからと言って、買い物もお願いする始末。ただ母さんに甘えたいだけではないのかと俺は踏んでいる。忙しくてもネット注文があるのに。


 母さんも大変だよな、と思いつつ二階の自分の部屋に行こうとした瞬間、撫子に「お母さんから伝言」と言った。

「お弁当を流しに入れて!」

「あ、はいはい」

 高校に入ってお弁当を作ってもらっているのだが、ついつい弁当箱を出さないでの母さんに言われる。『弁当出しなさい。明日作らないよ』と静かに怒り、『高校生にもなって』と愚痴る。

 いそいそと台所に行き、カバンを開けて弁当を出そうとした。

 その時、ふわっと柔らかく暖かい物に触れ、「ひゃ!」と高い声を出してしまった。撫子はちらっと呆れ顔を俺に向けた。

 カバンに入っている物はすべて無機質だ。ふわふわしたぬくもりなんてあるはずない。

 ゆっくりとカバンを広げて中を見るとクリーム色で耳と尾が長い、ぬいぐるみと目があった。いや、ぬいぐるみじゃない。瞬きして、耳をピクッと動かした。



急いで弁当を流しに片して、自分の部屋に入った。

『ピコンって名前で、耳が長くてウサギっぽいんだけど、尻尾が長くて、猫くらい大きさの生き物なんだ。それでお話したりするんだけど……』

 薊さんの言葉を思い出し恐る恐る「ピコン?」と呼びかけると、「はい」と頷いて俺のカバンからするっと出て行った。


 なんで? 

 なんで、俺のカバンの中から魔法少女のマスコット的立ち位置の使い魔が出てくるんだ?



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