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前回までのあらすじ。自分のために勇気と根性で毎回ラスボスに挑む覚悟で戦う魔法少女 薊さんと使い魔代理の俺の戦いはまだまだ続いている。
剣道部の練習帰りに、「ここだよ! 春宮!」と魔法少女界の燃えないゴミの声が聞こえていた。
公園の生け垣を見るとピコンが隠れていた。なんでこんなところにいるんだろうかと思っているとピコンが勝手に理由を話し出した。
「もう! 最悪だよ! 君の家に行こうとしたら、散歩していたチワワに追いかけられて! 飼い主も『あらあ、お友達ができてよかったね』とか抜かすし! 怖くなって生け垣に潜んでいたら、暗くなるし!」
「どうした? 別の魔法少女を探すんじゃなかったの?」
「うーん、そのことなんだけどね。春宮に相談があるんだ。顔がかわいくて、スポーツ万能で側転とかバク転とがビュンビュン出来る女の子の知り合いはいない?」
俺は無慈悲に首を振った。いねえよ、そんな知り合い。
それにしてもなんて自分勝手な質問だろうか。というか、あんなにひどいことを言ったのに俺に聞いてくるってどうなんだ?
あ、そうだ。こいつに伝言があったんだった。
「ピコン、撫子とシルフがピコンに会いたいって言っているよ」
「嘘だ! 会いたいと言っても僕の罵詈雑言大会か殺処分場に送るつもりだな!」
「いや、違うって。お前に首輪をプレゼントしたいんだって」
俺の言葉に「え? 何それ? どんなもの?」と顔を輝かせて聞いた。現金なやつだ。
「薊さんとおそろいの赤の首輪らしい。リボンがあって可愛らしいよ。リード付きで」
「ちょっと待って! なんでリードが付いているんだよ!」
「ペット用だからじゃないのかな?」
「数多の魔法少女のマスコットにリード付きの首輪をつけさせる漫画やアニメなんてないだろう! 前代未聞だ!」
戦闘中に逃亡するマスコットも前代未聞な気がするけれど……。
呆れて物が言えない気分だが、疑問に思っていた事を尋ねた。
「あ、そうだ。ピコンに聞きたいことがあるんだ。シルフの裁縫道具を盗んだりして俺達をおびき出したり、ラパンと一緒に蛇を飼っているお家に忍び込んだりしていた?」
ピコンはきょとんとして「そうだよ」と答えた。まるで知らなかったのかい? と言わんばかりだ。
「だって、薊さんが魔法少女をやめてもらいたかったから。本当はラパンとは敵対関係なんだけど、薊さんをやめさせるため協力していたんだ」
普通に答えるピコンに怒るのが普通だろうけど、俺は何にも感じない。仲間だったら怒るが、もうこいつは味方じゃないんだ。だが味方じゃなくてもこれだけは言わないと。
「知らない人の家を荒らしたり、迷惑をかけるなよ」
「ラパンも気にしていたなあ。魔物が現れる場所も、関係ない人は巻き込まない方がいいって言って勝手に変えるし。そんな気にしなくて大丈夫なのに。警察に感づかれたら自分の星に帰ればいいんだし」
性根が腐っているな、こいつ。何が自分の星に帰ればいいって。
ピコンは「そういえば、薊さんはどう?」と思い出したように訪ねてきた。それをお前が聞くのかと思ったが「元気だよ」と答えてあげた。
「薊さんはこれから自分のために戦う魔法少女になるって」
「何、それ?」
「誰にも選ばれず、傷だらけになろうとも、世界平和のためじゃなくても、魔法少女でありたいから続けたいって」
「随分と物騒で壮絶で小規模な魔法少女だね」
「そりゃあ、放棄されているからね。魔法少女の育成を。それにピコンは薊さんが魔法少女を続けようともう関係ないだろ」
「そんな事はないよ。僕は君たちに邪悪な果実に取りつかれた魔物が出る事を知らせないといけないし。関知はしないけど、ラパンとの戦いで成長したら認めてあげてもいいと思っている」
何様だ、こいつ!
まるで他人事のように言う使い魔であり黒幕であり、そして邪悪な果実そのものである魔法少女界の不燃ごみ、ピコン。後光輝く宗教の教祖のように考える魔法少女像だから、小規模って思うんだろうな。ついでにこいつには星の指導者候補ととんでもねえ設定があるというのも恐ろしい。
ピコンはちょっと考えて、口を開いた。
「僕も決めた。僕は薊さんを心の中で応援する」
「心の中じゃなくて、表立って助けろよ」
「無理に決まっているだろう。僕に死ねと言っているのか! そもそも使い魔のくせに君は出しゃばっていると僕は思うよ」
「当たり前だろ。戦わないと元に戻らねえんだから。本当はピコンがやらないといけないんだぞ!」
「だから僕は生存本能が強いんだから戦えない」
しれっとそう言いやがったピコンは、思い出したようにこう言った。
「ああ、そうだ。これからラパンがこの公園で邪悪な果実に取りつかれた化け物を出すから」
「本当にいきなりだな!」
ピコンは「それじゃ!」と言って去って行った! ああああ、もおおおおおおおお!
すぐさま公園の駐車場で自転車を停めた瞬間、俺は使い魔姿になっていた。
それと同時にラパンがまた滑り台の上で仁王立ちをしていた。
高圧的に見るラパンだが、ここは閑静な住宅街の中の公園。シュールを通り越して哀愁が俺には感じる。
「オーホホホホ! まったく懲りないわねえ!」
「それは俺のセリフだ。自分だって前回、ボロボロになったくせにまた挑むなんて」
「ふん! 主人公に幾度となく倒されても不死鳥のごとく不屈の精神で挑む! それが魔法少女の敵なのよ!」
それもそうだな。アニメや漫画が終わるまでずっと挑み続けているな。
その時、自転車のブレーキの音が響いた。魔法少女の衣装に着替えた薊さんの登場だ!
「おまたせ! 遅くなっちゃったね」
「ふん、ようやく来たわね! 魔法少女界のポンコツ!」
「あ、ラパン。山本さん家の畑の手伝いしたんだって? ものすごく助かったっておばあちゃんが言っていたよ」
「うるさい! 私は山本のおばあちゃんの野菜を強奪しているだけよ!」
「もしかして蛇飼っている人の家に野菜とか送っているのってラパンか?」
「そんなみみっちい事するわけないでしょう、私が!」
「ポストに野菜を入れるのは、迷惑だからやめた方がいいよ。ポストの中の手紙が汚れるから」
俺の言葉に「……マジで?」と目を見開いて、呆然とするラパン。こいつ、もしかしたらピコンより真面目な奴なのかもしれない。
そう思っているとラパンが我に返って「私には関係ないし! 罪悪感なんてないわよ!」と俺に指さした。だが、ちょっと動揺しているようにも見える。やっぱり気が咎めるのだろう。
「前回のようにいくと思うなよ! 魔法少女 薊!」
そう言って地面から巨大なタンポポが出てきた。圧倒的にでかいタンポポに呆然とする俺。だが薊さんはほほ笑み、百花杖を出した。
「よし! 行こう! 春宮君!」
「おう!」
世界平和でも何でもない、誰かを守るためでもない。己がやりたいだけ。
魔法少女 薊と俺は己の願望のために今日も百花杖を振って戦うのだった。