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どうにか葉月第一小学校に到着すると閉められた門に張り紙が『坂田スーパーまで来い!』と書かれてあった。
「坂田スーパーって数年前に潰れたお店だね。でもどうして学校からスーパーになったのかな?」
「多分、夜の小学校は入れないからだろう。漫画だと無法地帯で入れるけど、現実は入ったら警備員が来るらしいから」
「そうだね。魔法少女は秘密にしないといけないもんね」
薊さんはそう言うけど、すでに何人かは知っている上に協力者もいる状況なんだよな。
俺たちは張り紙にあったスーパーに向かう。ここらへんは人通りが少ない。絶好の魔法少女ごっこができる場所だ。
「オーホホホホ! 来たわね、魔法少女 薊!」
駐車場に入るとスーパーにある子供用の滑り台の上で仁王立ちをするラパンが嫌みったらしく出迎えてくれた。それを横目で見ながら冷静に薊さんはスーパーの駐輪場に自転車を置いた。その光景はなんだかシュールだ。
駐車場には所々ひび割れたところに白い蝶が止まっていたが薊さんが着た瞬間、飛んでいった。俺たちの戦いをここから途方もなく遥か彼方の宇宙の向こうにいるピコンたちの星のみんなが観戦するのだろう。ふん、高みの見物でもしていろ!
「ここに来たって事は、魔法少女をやめないってわけね」
「はい! やめません!」
すぐさまラパンのいる滑り台の下に走り薊さんは黒いトレンチコートを脱いで宣言する。
「ラパンやピコンの魔法少女像から程遠いけれど、私はこれからも邪悪な果実を花葬します! 例え見苦しく不格好だろうと私は魔法少女です! 誰になんと言われようとも魔法少女を続けてみせます!」
「フン、全然自覚していないようね。あなたは凡庸以下なのよ」
「そんなの、自分が一番知っています!」
すっと百花杖をラパンの方に突き付ける。薊さんの瞳は芯の強さが伺える強い意思があった。そして口元は笑みがこぼれている。
「誰よりトロ臭くて、鈍くさいって事くらい一番に知っています。他の誰かがやった方がましかもしれません。でもそれでも、それでも私は魔法少女をやり通します! だって、今まで私にだって出来ていたのだから! これからだってできるはずです! 私は世界平和でも誰かを守るためでもない。ピコンのためでもない。私は魔法少女でありたいがために、あなた達の趣味に全力で付き合い戦う魔法少女です! これからも自分勝手に食らいついて姑息で、泥臭く、意地汚く、がむしゃらに食らいついて、戦っていきます!」
「リアル魔法少女育成ゲームをやっているお前たちに告ぐ。お前達の想像を超える魔法少女と使い魔になってやるよ、俺達は!」
「オーホホホホ! よくってよ! 魔法少女 薊! そして使い魔 春宮! お前たちのそのうぬぼれた決意! この魔法少女の敵 ラパンが立ちはだかってやる!」
まるでアニメか漫画のような恥ずかしいセリフの応酬は俺の中で羞恥心が湧かなかった。それよりも気持ちが高ぶってきた。すぐにでも飛び出して戦いたい気持ちになってきた。
だがラパンは意地悪な笑みを浮かべているだけだった。
「その前に私もね、あなたに言いたいことがあるの」
「何でしょうか!」
「あなたの使い魔 春宮。あんたが恥ずかしがっていた変身シーンをがっちり見ていたわよ!」
ひどく重い沈黙が降りた。
え、こいつ、何言ってんだ? いや、そもそも今ここで言うのか?
油が足りないロボットがギチチチっと音をたてるように、薊さんは首をぎこちなく俺の方に向いて行った。
「あんたを騙していたのよ!」
「ラパン! なんてことを言うんだ!」
「春宮君、見たの?」
とても聞こえやすく、落ち着いていて、だからこそ怖い声が薊さんの口から出てきた。
仕方ない、俺は男だ! 正々堂々と言わねばいけない。
「すいませんでしたあああああ! 俺が最初に使い魔姿になった時にみてしまいましたああああ! 決して、わざとじゃないんですうううう! 俺が初めて使い魔になった時、いきなり、いきなり、変身して、目を隠せませんでしたああ!」
男らしく正直に白状して、土下座をした。俺の誠心誠意の謝罪が伝わったのか、薊さんは「うん、わかったよ。もういいよ、春宮君。顔をあげて」と慌てたように言った。
俺の謝罪は終わって、ラパンの方に向き合う。
「ところでラパン。邪悪な果実に取りつかれた化け物って、生き物の一部を取って魔物を作るんだよな」
「ええ、そうよ。ピコンが吐いたのかしら」
「白い蛇の化け物は近くのマンションに住んでいる男の家から、不法侵入して、家の中を荒らして取ったものなのか? 警察が来て大変だったみたいだぞ」
しどろもどろにラパンは「警察!」と言った。おそらくラパンは魔法少女の敵ではあるが警備が入っている小学校をやめたりなどするあたり、警察や立場のある大人に対して関わりたくないと思っているのだろう。
「知らないのか? あーあ、警察に捕まるぞ! お前!」
「いや、あれは……、蛇の抜け殻を取ったのはピコンで……」
不貞腐れたようにラパンは言うが、薊さんは「ダメだよ! そんなことしたら!」と咎めた。するとラパンは「うるさああい!」と叫んだ。
「私は魔法少女の敵なのよ! 悪者なのよ! 罪悪感なんて一ミリも感じないわ!」
「ラパン、目が泳いでいるよ」
「そんなことを言って私が心を入れ替えると思っているの!」
髪をかきあげてぎこちない笑みをこぼして、パチンと指を鳴らす。すると滑り台の陰から人影が現れた。
「あ、私がいる」
意味が分からない事を言っていると思ったら、本当に薊さんが立っていた。
「オーホホホホ。お前の髪を邪悪な果実に取りつかせた魔物だ。優秀な自分の偽物を花葬出来るから」
敵の薊さんが動き出す。きちんと衣装も来ている、あのピンクの衣装を……。薊さんの表情が曇り、「衣装はないかも」とつぶやく。ようやく客観的に見てわかったか。




