21
前回までのあらすじ。魔法少女の敵 ラパンに誘拐されてしまった。……情けない。
「大人しくしていなさいね」
ねっとりしたようなラパンの言葉に、何も返せない。
ラパンの大跳躍の逃亡でかなり酔った。気持ち悪い。その上、巨乳に挟まれ拘束されていると言う恥ずかしい事態に羞恥心が止まらないし、何より敵につかまっていると言う事実に落ち込む。ヒロインかよ。
グルグルと負の感情が小さな使い魔の姿で悶えている。世界広しと言えど、こんな状況に陥っているのは俺くらいだろう。
この状況を打破するためもがくがびくともしない。
「逃げても無駄よ。それに今の君はネズミ並みに小さいのだから、逃げ出したらこの山の獣に襲われるわ。魔法少女が来るまで大人しくしてね」
そう言ってラパンは俺の頭を撫でる。ああ、まずい。別の嗜好が目覚める。
とにかく、質問して気を紛らわせよう。
「あのラパンの目的は魔法少女の敵って事だけど、ピコンの目的って何? 魔法少女を生み出す事ってどういう意味なんだ?」
「別にあのヘタレは魔法少女を生み出すだけが目的じゃないんだけど」
「……地球征服とかじゃないの?」
「征服するなら、こんな何の変哲もない田舎に来るわけないでしょう?」
それもそうだな。征服するなら東京とか大都市の方に言った方が速くできる気がする。と言うか、ピンポイントで日本に来ないな。
「素晴らしい魔法少女を生み出すことが、あいつの評価につながる」
「評価って、ピコンは何か試されているのか? というかあいつ敵前逃亡しているから、評価もクソもないだろう。」
「まあ、あんな泥臭い魔法少女なんていらないでしょう」
ニヤッと意地悪気な笑顔でラパンが俺を見下ろした。
「だってそうでしょう? あの子は決して魔法少女にふさわしくない」
「お前たちの魔法少女の基準って一体なんだ?」
ラパンはただ笑っているだけで、ムカッと来た。
「お前らがどういう魔法少女像があるか知らないけど、薊さんはいくつもの魔物を戦ってきたんだ! 薊さんを馬鹿にするなああああ!」
胸の谷間をもがいてラパンの柔らかなすべすべな肌を爪立てて必死に出ようとした。かっこよく出ようとしたと思った瞬間、ずるっと谷間の下に落ちていった。
ラパンも「きゃあ!」と身もだえている。ついでに俺も脱出しようとゴソゴソ動くたびにラパンも変な声を出して悶えてうまくいかない。
変な声を出すなよ! いや、そもそも俺、結構やばい所にいるよね……。そう思うと顔が真っ赤になる。
ラパンが服に手を入れて俺を捕まえて、ようやく外に出られた。なすすべもない俺にラパンは顔を近づけて、ちょっと疲れたように「もう!」と言った。
ちょっとセクシーな言い方である。
「もう大人しくして」
「いやだ!」
俺は全力で拒否し、俺を掴むラパンの指を噛んだ。ラパンの顔は歪み、俺は放りだされた。地面に着地した瞬間、すぐに駆け出した。
だが走っていく森は明らかに壮大で木々はいつもの使い魔の時より大木のようにそびえ立っている。今の俺はネズミ並みに小さいからだ。
走っている時、ものすごく恐ろしかった。
深い深い山奥を走る俺。人間だったら小さい山で、こんなに心細くはならないだろう。だが今はいつもより小さい使い魔姿だ。蛇や野良猫、野良犬がいたら俺は生き残れる気がしない。
その時、草木が揺れ誰かが来る音が聞こえてきた。まずい、ラパンか? 俺より大きい動物か? 怖くて心臓が一気に縮んでいく。
「春宮君! 春宮君!」
薊さんだ。薊さん、ここまで探しに来てくれたんだ! 薊さんの声と姿を見つけた時、安堵で思わず笑みがほころんだ。
「薊さん! ここだ!」
「え? どこ?」
あ、そうだ。俺は鼠並みに小さいんだった。もっと近くに行かないと。薊さんの方に駆け出す。だが後ろから、何かが迫ってきていた。
「薊さん、避けろ!」
俺が叫ぶと後ろから猛然と何かが迫ってくる気配を薊さんも気が付いて振り向て、小さな悲鳴を上げて転ぶように横に避けた。
あまりに大きな真っ白なウサギですごく興奮して、歯をむき出している。普段の可愛らしさがなく、圧倒的な威圧感があった。
邪悪な果実に取り込まれているのか?
イノシシのような突進したウサギは止まって振り返り、薊さんの方を向く。薊さんもすぐさま立ち上がって構える。
「咲き誇……うわ!」
呪文を言う前に巨大なウサギは薊さんに襲い掛かった。薊さんは驚き、尻餅をついた。
くっそ、間に合え! 俺は駆け出してウサギの背中めがけて地面を踏み込み飛んだ。ウサギのふわっとした毛にしがみついて思いっきり噛んだ!
薊さんにぶつかる前にウサギは急ブレーキをかけて噛んでいる俺を振り落とそうとして身震いする。絶対に離すもんかと思ったが、あまりの激しさに手が離れてしまった。
「春宮君!」
薊さんの悲鳴に近い声が響いた。比較的に柔らかい地面に落ちた俺はすぐさま、薊さんとウサギの方に目を向けた。
薊さんは靴を脱ぎ棄てて立ち上った。服はドロドロで手足は砂に汚れて、満身創痍な出で立ちだった。だが鋭く苛烈な眼差しでウサギを見据えていた。靴下で草や小枝が落ちる地面を力いっぱい踏みしめ、歯を食いしばって目を見開いて、巨大ウサギに百花杖を突き付けた。
だが呪文を言う前にウサギが薊さんの杖をいなして突っ込み、避けきれず、おなかに食らった。その時、百花杖が薊さんの手から落ちた。
「薊さん!」
俺の声に、痛みをこらえて薊さんは俺を捉えた。
今の俺は鼠並みだったが、口で百花杖を咥えることが出来た。
受けってくれ! そう思って力いっぱい百花杖を投げた。だが少々どころか変なところに飛ばしてウサギの方に飛んでいってしまった。
腕を伸ばしても届かない百花杖と薊さんの絶望的な表情が見えて、俺も血の気が引いた。
巨大ウサギが百花杖の花の部分を踏み、薊さんを睨みつける。
もうだめだ、絶対絶望な状況だ。
再び、薊さんに体当たりしようとウサギの足が強く踏みしめたその時だった。
突然、巨大ウサギがピンク色の光で輝きだした。
「え?」
「はあ?」
呪文も何も言っていないのに、巨大ウサギはピンク色の光と共に消えてしまった。
あれ? 薊さんが持ってない上に呪文も言っていない。なのに何で花葬したんだ?
放たれたファンキーなピンク色の光があった所を眺めながら薊さんと立ちすくんだ。