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魔法少女 薊さんと使い魔 春宮君  勇気と根性があれば魔法少女は出来るのだ!  作者: 恵京玖
魔法少女の敵 ラパンの戦いと本当の使い魔 ピコンの真実
21/30

20

 前回のあらすじ。次なるラパンの挑戦状を受け、魔法少女 薊さんと使い魔の俺は戦いの地に自転車を走らせる。

「ごめん! もうちょっとスピードを落としてええええ!」

 俺の絶叫と共に。


 やがて家より数倍も広い田畑を突っ切るような狭い道路を走らせて行くと、小さな神社と空き地が見えた。もう少し進むと少々遠めな等間隔で立っている電信柱にもたれかかって立っている黒い人間が見えた。

「あ、ラパンだ」

「来たわね、魔法少女 薊!」

 俺達に気が付いて、車一つ分しか通れない道の真ん中でラパンは不敵な笑みを湛えて仁王立ちした。春の暖かな風に吹かれ、道路の端にタンポポなどの雑草が揺れる。田園や山々に若々しい緑色の木々が生い茂る田舎の風景に、バニーガール。一目で場違いだと思った。

「ふん、早かったじゃない!」


 高飛車な態度で薊さんを見ながら指を指す。

「魔法少女、薊! 単刀直入に言うわ!」

「あ、ちょっと待って、ラパン。今、自転車を停めるから」

 ラパンの話を遮って、マイペースに薊さんは神社の隣の空き地に自転車を停める。

 自転車を停めて、俺も籠から飛び出して地面に降り立つ。雑草が茂る地面でふわっとしていて柔らかった。見るとタンポポが咲いていてのどかである。


 歩いていると前の戦闘でいたあの白い蝶が頼りなさげに飛んでいった。

「お待たせ、ラパン」

「あんた達、本当にマイペースよね」

「まあね、俺達マイペースだから質問してもいい?」

 俺がそう言うとラパンはこめかみピクつきながら「どうぞ」とお許しが出た。こんな高圧的な感じだが優しいな、ラパンって。

「今まで暗号のような形で指示していたけど、今回はしなかったな。飽きたの?」

「うるさい! あのクソ猫に散々追い回されたり、予想より早くあんたたちが到着したから、準備できなかったのよ!」

 思い出したのかラパンは地団太を踏みならす。狂暴なボス猫 権十郎にラパンも追いかけ回されたのか。敵だが無意識に同情の眼差しでラパンを見た。


「大変でしたね」

「労うな! 魔法少女!」


 随分と身勝手な言い分だな。ちょっと呆れつつ、一番聞きたかった質問を投げた。

「俺達って何と戦っているの?」

「はあ? どういう事?」

「つまり邪悪な果実って一体、何なんですか? 後、ラパンの目的って一体なんですか?」

「ああ、そういう事……」

 ラパンは妖艶に微笑んで髪をかきあげて、鼻で笑った。

「あなた達はもうそんな事を気にしなくてもよくってよ」

「なんで?」


「最初にあなたを魔法少女にした瞬間からだめだって思っていたわ。私は敵としてあなたを魔法少女と認めない! 単刀直入に言わせてもらうわ。魔法少女 薊。あなた、今日で魔法少女をやめてもらうわよ!」


 単刀直入過ぎて、言葉も出ない。え? 何、この突然すぎる戦力外通告。いや、そもそも敵キャラがそういう事を言うのか?


 俺は心配そうに薊さんを見る。きっと動揺していると思って、なんて声をかけようか悩んだ。だが薊さんはなぜか腕を横に軽く振っていた。何をしているんだ? と俺も恐らくラパンも思っていると薊さんは冷静に言った。


「ラパン、後ろから車が来るよ」


 車が一台くらい通れるくらいの道に、白い軽トラックがゆっくり走ってきた。

 ラパンは作り笑顔になって道の端に避ける。俺達も同じように避けた。

「ああ、薊さん所の華子ちゃん」

「あ、山本のおばあちゃんとおじいちゃん。こんにちは」

 軽トラの助手席にはお昼に会った薊さんの服をべた褒めしていた山本さんのおばあちゃんがいて、運転席にはおじいさんが乗っていた。二人とも人のよさそうな笑顔をしている。

 薊さんは顔を真っ赤にしつつも、礼儀正しく挨拶をする。

「ところでこの別嬪さんは華子ちゃんのお友達かい?」

「あ、違います」

 スパンと否定して、ラパンの笑顔が崩れそうになる。

「なんか道に迷ったらしいですよ」

「あらあ、そうなの? 大変ねえ……。もしかしてアニメとか漫画とか好きなのかしら?」

 ラパンは引きつったような笑顔で「まあね」と答え、おばあちゃんはニコニコの笑顔で「あらあ、うちの孫と一緒じゃない」と言う。

「やっぱり好きよねえ、そういうの。うちの孫もねえ、こういう格好している人たちが集まる所によく行っているのよ」

 コミケとかだろうか? でも無駄に聞いてみても、この老夫婦にな分からないだろうな。

 ラパンは「あ、はあ」と相打ちをうつ。素晴らしくどうでもいい情報である。

「本当に美人さんねえ。若い頃の私みたい」

「ばあさん、もうやめとけ。困っているぞ、アニメ好きのお姉ちゃん。それと華子ちゃん。さっき家に誰もいなかったから、玄関前に野菜を置いておいたよ。みんなで食べてくれ」

 山本のおじいさんの言葉に薊さんは「いつもすいません」とペコッと会釈する。

「いやいや、うちも、もらっているからお互い様だよ、それじゃ」

 おじいさんはそう言って軽トラックは走らせた。それを遠い目で眺めるラパンと薊さんと俺。なんだかのどかな光景だ。



 何が何だかよくわからない光景だ。快晴の空の下、田園の田舎道に穏やかな老夫婦が乗る軽トラ、フリフリの服を着た薊さんと使い魔姿の俺とセクシーなバニーガールのラパン。

 どうトチ狂ったら、こんなシュールな組み合わせができるんだ? 魔法少女をやめろと言う前に、このような田舎を舞台にするのが間違いだと思った。


 やがて「恥ずかしい」と呟きながら薊さんは軽トラから目を離し、すっとラパンを見据えた。

「ラパン! なんで私に魔法少女をやめなきゃならないんですか?」

「え? それ、続けるの?」

 薊さんの質問にラパンは興ざめとばかりに冷めた目をしている。確かに山本さん家の老夫婦の話の後で、さっきの会話を続行するのは難しい気がする。

 それでもひるまずに「理由は何なんですか?」と薊さんは詰問をする。

 そんな薊さんの姿を見て、ラパンはヒールをこつこつと鳴らして億劫である事が一目でわかるくらいの態度で理由を語った。


「華がないから」


 形のきれいな唇からさらっと言い放ったラパンの簡潔な理由に薊さんは固まる。

 華がないから 華がないから 華がないから ……俺もエコーのように頭の中で響いた。華が無いから……とんでもない理由だな、おい! 華がないって!


 薊さんは呆然としていたが、すぐさま言い返す。

「花ならありますよ! 百花杖でいっぱい出せますし、どんな花でも出せます!」

「そっちの花じゃないから」

「そもそもあなたは一体何者なんですか! どういう目的でこんな事をしているんですか?」

 ラパンはゆっくりと妖艶な笑みを浮かべた。よくぞ、聞いてくれたと言わんばかりに。


「私は、魔法少女の敵よ」


 ラパンの当然すぎる答えに「……そうでしょうね」と俺は思わずつぶやいた。見たらわかるって、それくらい。

 だが俺のつぶやきは無視して、ラパンは誇りに満ちた笑みで魔法少女の敵を語りだす。


「魔法少女の敵。それは魔法少女とは全く違う信念を持ち、遂行するため魔法少女達を苦しめる。そう、黒真珠のような上品な煌きを持った存在!」


「……あの、目的は何でしょうか?」

「魔法少女のかっこいい敵像はわかったよ。で、何の目的でこんな事をしているんだ? どうして邪悪な果実をばらまいているだ? 地球を滅ぼすためとか?」

「そんなつまらない理由じゃないわ。あえて言うなら、魔法少女の敵だから」


 原点に戻ったような答えだった。俺達の問いの意味をわかっているのか? それとも本気で魔法少女の邪魔をするための存在か?

「そもそもあなたはどうして魔法少女をやっているのか、ちゃんとわかっている?」

「さあ? ただ邪悪な果実に取りつかれた生物を花葬してほしいってくらいで」

 馬鹿にしたように笑ったラパンは口を開く。

「ピコンの目的は、魔法少女を生み出し、戦わせる事。それだけ」

「え? 世界平和とかじゃなくて?」

「あいつが世界を救うイメージなんて思いつけないわ」

 ラパンはばかばかしいといった表情でそう言った。ひどい言葉だが、俺もそう思う。


「だが魔法少女 薊、お前は魔法少女の品格がない!」

「魔法少女の品格ってあるの?」


「あるわ! 魔法少女は、戦闘少女であり聖女なのよ! 普通の少女であり特別な少女。強く美しく、慈愛の心をもって、情け容赦のない激しい戦いに身を置いているのよ! 誰もが振り向くような圧倒的なカリスマ性と求心力、そして熱狂させる人間性を持つ者! 見れば誰もが憧れを持ち人々の心に深く残る! 魔法少女とはそう言う存在なのよ!」


「ごめん、意味がわからない」

 素直にそう言ったら、ラパンは舌打ちを打って顔を歪ませる。


「この魔法少女 薊の戦い方を思い出しなさい! せこくて傷だらけで無様で見苦しい戦い方! 全然キラキラしていないし、華やかじゃない! こんな魔法少女なんていやしない! 私たちが追い求めている魔法少女じゃない!」


 すっとラパンは手を前に出して、パチンと指を鳴らす。セクシーな人間はやる事が妖艶で怪しい雰囲気を醸し出すんだなと思った。

 不意に背後から草を踏む微かな音が聞こえてきた。人間にしては軽くて速い音だ。

 振りむくと風を切るような素早さでそいつは姿を現した。ゆらりと揺れる長い尻尾、しなやかな肢体、三日月のような瞳。アマゾンでもジャングルでもないのに、ヒョウのような大きさで鋭い爪があった。


 だがそのヒョウはなんとなく見覚えがあった。

「え? 権十郎?」

 特徴的な黒ぶちと太々しい顔立ち、西さんの家にいた権十郎に似ていた。

 薊さんの声に、巨大権十郎は俺達に狙いを定めた。俺は氷で全身を凍らせたかの如く、体が一気に硬直する。

「百花杖!」

 薊さんが勇ましく叫ぶ。ピンクの光を放ち、百花杖を出てきた。まじかよ。

「ちょっと待った! 薊さん! 逃げよう! こいつは今までの奴とは違う!」

 蛇とか亀とか虫とかいろいろ戦ってきたが、こいつは猛獣だ! 消えない傷や命を落とす可能性は高い! これは保健所の仕事だ。猟友会の出撃だ! いや、そもそもこれって、行政で対処できるのか?

「でもこのままにしてはいけない!」

 すっと構えた薊さんは「それに私にも考えがある」と言った。その姿は堂々としていて、剣士って感じだった。

「咲き誇れ!」

 それは白い花が付いた木が田園に一本出てきた。その瞬間、巨大権十郎の動きに変化が起こった。ごろんと寝っ転がり、ゴロゴロと鳴らして木の周りをうろついている。

「えへへへ、猫が大好きなマタタビだよ」

 薊さんは得意げに言って、百花杖を幸せそうな巨大権十郎に静かに近づいた。

「邪悪な果実よ、ここに花葬する!」

 ピンク色の光を浴びて、巨大権十郎は消えた。それを見てほっと息を吐いた。猫の好きなマタタビを出して、巨大な権十郎を戦闘不能にはしたけど、もしかしたら我に返って襲うかもと終始、冷や冷やした。でも怪我なくてよかった。張り詰めていた緊張が解かれ、俺は魂と腰が抜けた。


 花葬する薊さんを後ろから腰を抜かして情けなく眺めていると、ひょいっと首根っこ掴まれた。上を見るとラパンがほほ笑んでいる。呆然としていると、むぎゅっと俺をラパンは抱きしめた。

「え? ちょっと!」

 柔らかいし温い、だが身動きが取れない。見上げると綺麗な顔のラパンが俺を見下ろしていて、自分がどこにいるのかわかって顔が真っ赤になった。ここって、胸の谷間だ!


 俺はラパンの胸の谷間に拘束されていると理解するとものすごく恥ずかしくなり、ジタバタするが全くびくともしない。

 どうなっているんだ? この谷間。しかも胸はプニプニするのでもっと恥ずかしい。


 もがいていると薊さんを振り向き、俺と目が合い「春宮君!」と言って駆け寄った。

 だがラパンは軽いステップを踏んだと思った瞬間、飛躍した。

 風が! 風圧が! 全身を押しつぶす!

 よく見ると拘束されている胸が風で揺れている! うわお!


 だがある程度の高さになると、空中で止まった。田園を見下ろす光景は、ちょっと感動的だとなんとなく思った。見下ろすが薊さんが見えない。

 その瞬間、重力の赴くまま下に落下にする。再び風圧が俺の顔に襲い掛かった。

 ラパンは軽やかに跳躍して、薊さんから華麗に逃げた。俺を誘拐して。





 投稿がいつもより遅くなってしまい、すいません

 明日、一気に最終回まで投稿します

 よろしくお願いいたします

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