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 巨大なガメラと魔法少女 薊さんの激闘を見ていた女の子は目をキラキラさせて、薊さんを見上げていた。

「ねえ! どんな魔法が使えるの?」

「花を出す魔法が出来るよ」

 そう言って薊さんは「咲き誇れ」と百花杖を振ると、シロツメクサの花輪が出た。女の子は「うわあ」と感嘆し、キラキラした笑顔が生まれた。

「きゃあ! すごいすごい!」

「私、魔法少女 薊。あなたは?」

「私は、谷野もも! 五才! キリン組!」

 聞かれていないこともきっちりと胸張って答えるももちゃんに薊さんは「可愛い名前だね」としゃがんで目線を合わせていった。

 平和が戻った自然公園で、ももちゃんと薊さんの楽しそうな会話とキラキラした笑顔をよそに、俺は疲労と不安に陥っていた。


 ラパンはどのくらい邪悪な果実をばら撒いたんだろう? 

 愛らしい自分の肉球を見ながら、一日で終わるかなと思った。

「あれ? 薊さん?」

「あ、谷野君」

「あ、やっぱり薊さんだ」

 振り向くと友人の谷野だった。なぜか野球のユニフォームを着て、ボールとグローブを持っている。

「薊さん、魔法少女しているの? さっきガメラを倒していたし」

「う、うん。クラスのみんなには私が魔法少女って事を内緒にしてほしいんだけど」

「別にいいよ。でも薊さんって、学校でも魔法少女をやっているでしょう? 廊下で杖を持った子いるって噂があったし。クラスの中で薄々気が付いている子もいると思う」

 薊さんは気まずそうな顔になった。


「うーん。内緒にしてっていうセリフを結構言っているけど、そのうち街全体に知れ渡りそう……」

「大丈夫だよ。街全体に知られても、ご当地魔法少女になればいいよ」

「谷野、何、ご当地アイドルみたいに言ってんだよ」

「それにスマホで写真を撮ったけど、薊さんやガメラは映っていないんだよ」

「撮るな!」

「恐らくこれは地球外生命体の仕業だろうな」

「なんでそうなる」


 思わず色々と突っ込みしてしまったら、谷野は目を丸くして俺を見た。


「え? 春宮?」

「今更だな」


 こうなったらすべてをオープンにしてしまおう。俺が正直に言うと、谷野は「へ?」と変な顔で俺を見た。

「薊さんを魔法少女にした使い魔に、薊さんを手助けしてくれって言って俺を使い魔にしたんだよ。わ! ぐええええ!」

 突然後ろから抱きつかれて、変な声が出た。邪悪な果実の魔物なのか? と思って見るとももちゃんが俺を後ろからわき腹あたりを締め付けるように抱きついているのだ。


「お兄ちゃん! この子、かわいい。飼ってもいい?」

「無理だよ。こいつ、俺のクラスメイトなんだよ」

「あ、だめだよ。ももちゃん、まだお仕事があるの!」

「いやあああ!」


 俺を抱きしめる腕を左右に振って走り出す。この子は俺を綿が詰まったぬいぐるみと思っているのだろうか、手加減抜きで抱きついてくる。息を吸えもしないが吐く事も出来ない。もちろん苦しいと訴える事も到底無理だ。苦しくて視界の端が薄れている。


 谷野の「もも!」という怖い声が聞こえてきた。

 だがももちゃんは俺を抱きこんで頬擦りして、座り込んだ。絶対にここから動かないと言わんばかりだった。

「もも! いい加減にしろよ!」

「嫌! ピッキー、飼いたい!」

 ピッキーって俺の事か……。すでに名前まで決まっているとは。愛されているな……、俺が死にそうになるくらい。

 もう一度、鋭い声で田中は「もも!」と言うが、ももちゃんは俺を抱きしめてそっぽを向く。更に力が入って苦しくなる。本日二回目の生命の危機である。ちなみに一回目はあの地獄坂下りである。

「そんな事言っていると、リリンちゃんに言うよ」

 薊さんの言葉に、ももちゃんは「え?」と首を傾げる。

「私の友達の魔法少女のリリンちゃんに言いつけちゃうよ。わがままな子がいるって」

 恨みがましいジト目と口を尖がらせて、ももちゃんは薊さんを見た。

「これからお姉さん、魔法少女のお仕事があるからピッキーがいないと困るんだ。またきっと会えるから放してあげて」

「うん、わかった」

 そう言ってももちゃんは名残惜しそうだったが俺を解放してくれた。息を吐いて吸う。はあ、深呼吸が心地いい。呼吸ができるって素晴らしい。


 ももちゃんの方を見ると薊さんの方を見あげておずおずと言った。

「ねえ、私も魔法少女になれる?」

「うん、大きくなって、生き物をいじめないで、魔法少女がいるって事を内緒にすればなれるよ」

「うん、わかった!」

 一点の曇りもなく、薊さんの言葉に頷くももちゃん。ピュア過ぎてまぶしい。もう俺はそういうも失っちゃったな……。

 

 一方、谷野はももちゃんと薊さんのやり取りを「すげえな、薊さん」と感心していた。

「ももは結構わがままだから言うこと聞かないのに。これが魔法少女の力か」

「何だよ、魔法少女の力って……」

「そう言えばガメラが消えた後、これを拾った」

 谷野は一枚のカードを見せて、書かれてある文字を読んでくれた。

「問題! 『どんなに酸っぱくてもおいしいって言う食べ物なんだ?』」

 すかさず俺は「梅!」と答えた。ふふん、こんなもの幼稚園児でも解けるぞ! どや顔の俺に谷野は正解も不正解も言わずに、次の問題を出した。

「それからもう一問!『トリが一匹飛んでいった。どこに飛んでいったか?』」

「え? いきなり難しいんだけど」

「トリの漢字を見ればわかるよ。ほら」

 俺は谷野から文章を見出てもらった。あ、なるほど。干支の方の酉の字か。だとしたら答えは簡単だ。

「西だな」

「何だろうな? このなぞなぞクイズカード。子供のおもちゃか?」

「いや、多分魔法少女の敵が用意したカードだと思う。今日の朝、いきなりラパンって言うバニーガールの女性がやって来て、魔物と暗号を用意したって言っていたから」

「そうか。じゃあ、このカードは春宮と薊さん宛なのか」

 谷野が「どうぞ」と言って差し出したなぞなぞクイズカードを俺は前足で取った。一応二本足で歩けるが、よたよたで頼りない。やっぱり四本足の方が安定する。

「ところでどうして谷野はここにいるんだ?」

「今日は部活が休みだったから、公園でランニングしたりしていた。ついでに妹のももの子守も頼まれた」

「そうなんだ」

 自主練か、偉いな。と心で思う。部活をしないからなのか、俺にちょっと罪悪感が生まれた。いや、別に部活は自由参加だ。だから悪いなんて思わなくてもいいんだ。


 妙に後ろめたい気持ちを振り払っていると、薊さんがももちゃんに「じゃあ、そろそろ行くね」と手を振った。そろそろ行かないといけない。

「じゃあ、谷野。俺達、そろそろ行くわ」

「うん、わかった。あ、薊さん。あ、ちょっと待った」

 谷野はポケットから何かを出した。白い包帯のようだが幅が短いし、テープのようだ。

「テーピング。この魔法の杖を握っている時、手が痛いだろうなって思って」

「ありがとう。ちゃんと買って返すね」

「別にいいよ。たくさん持っているし」

 谷野、お前、イケメンじゃねえか……! 谷野の行動に驚愕しながら、薊さんと一緒に自然公園をあとにした。


「うーん、なぞなぞクイズカードの答えは『梅』と『西』。西の方角にある梅の木に何かがあるのかしら」

「そういう事になるよな」

「でも西の方向に梅なんてあったかな?」

 自然公園を出て、薊さんは自転車を走らせていた。俺は籠の中でカードを眺めていた。

「街の最西の梅に行けばいいのかな?」

「そうなるよな」

 キコキコと走っている場所はどんどんと田畑が広がる道を走っていく。だが西の方角ではない。俺はあまり行かない道で少々不安になった。

「薊さん、どこに行くの?」

「もしかしたら西さんの庭の梅かなって思って」

「ん? 西さんの梅?」

「うちの近所に西さんって言う広い庭を開放している人がいるの。西さんのおじいさんが定年退職したとき、庭を大改造させたの。その庭に確か梅の木があったはず」

「西は苗字じゃないのかって事?」

「うん、もしかしたらと思って。それにほらこのカードの裏に猫が書いてあるでしょう? 西さんの家、猫を飼っているんだよ」

「なるほど、共通点が揃ったな」

 そう言いながら、西さんと言う人の庭へと向かう。自転車を走らせていると手作りの看板に『お庭、開放しています』と書かれてあり、解放日と時間もあった。

「……庭を開放って、泥棒に入られないか?」

「多分、大丈夫じゃないかな?」

 結構いい加減な所があるよな、こういう田舎って。




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