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 前回までのあらすじ。初々しいバニーガール ラパンの挑戦状を受け取った魔法少女 薊さんは自転車に乗って目的地である自然公園に向かった。

「春宮君は自然公園に行った事ある?」

 俺は薊さんの運転する自転車籠に乗りながら「ないよ」と答えた。でも前に妹が小三の時、遠足で自然公園に行った事を思い出した。遠足から帰ってきた妹は、冷めた表情で「本当に自然公園だった」と言っていた。

「昔はブランコとか滑り台があったけど、いつの間にか撤去されてハイキングコースと芝生と林しかないな。老朽化とかで管理が大変だからかな」

 軽やかに笑う薊さんは俺の家がある住宅街を抜けて、踏切を渡ると建物が少なくなってくる。それと比例して空き地や畑などが増えてきた。


 キコキコと自転車を走らせる薊さんだが、周囲を見て気まずそうに「ねえ、春宮君」と話しかけた。

「この衣装、派手かな?」

「まあ、赤い服だけど派手というわけではないじゃないかな……。ちょっとした余所行きの服に見える」

 そうは言ったものの心の中では「多分、おそらく見えるだろう」と付け加えていた。何せ道すがら車やバイク、そしてすれ違う人と薊さんを見ている。

「そうだよね。みんな、見ていないよね……。あ!」

「おやあ、華子ちゃん」

 畑で休んでいたおばあさんが薊さんに手を振っていた。モンペを着て、穏やかな田舎のおばあちゃんって感じの人だ。


 薊さんも「こんにちは、山本さん」と挨拶をして自転車を止めた。

 ご近所さんだろうか。薊さんの笑顔が微妙に引きつっている。

「華子ちゃん、かわええ服だねえ」

「ありがとうございます」

「きれいな色の服だねえ、かわええよ。若い子はこういう服を着るんかい」

「はい!」

「おやあ、かわいいウサギもいるじゃない。飼っているんかい?」

「あ、これぬいぐるみです!」

 大嘘をちりばめながら、山本のおばあちゃんとのほのぼのとした会話をする薊さん。なかなか話が途切れず、後ろから車が来て薊さんを凝視しながら避けて行っている。


 ようやく山本のおばあちゃんの穏やかな会話を終えて、すぐに自転車を走る。ほんのちょっとスピードを増している。見ると薊さんが顔を真っ赤にして、立ちこぎをしていた。

「やっぱりちょっと派手かも、この服」

 薊さんが走らせる自転車がどんどん速度を上げた。自転車が揺れて、俺も振り落とされそうになり必死に籠を掴む。前回、乗った時より遥かにスピードが上がっている。

「そんな事ないよ。え? ちょっと、落ちそう! ……わ!」

「はーずかーしいいいい!」

 坂を猛スピードで薊さんは降りて、俺は三半規管がひゅっと宙に浮いた。その後、前からくる強烈な風が顔面にぶつかる。ついでにシートベルトなんかないので、終始ふわふわっと体と三半規管の重力を失う。まさにしがみつくように自転車の籠につかまって、振り落とされないように必死だった。

「スピードおおお、落としてえええ!」

 俺の訴えは猛烈に吹きつける風でかき消されていった。


 地獄直通坂と俺が心で命名した下り坂から、薊さんは更にスピードを上げて自転車を走らせる。その間、籠に入った俺は振り落とされるかと思うくらいの振動だった。人間サイズだったらどうって事ないんだろうけど、この姿だったらちょっとの振動でも振り落とされかねない。

「あれ? 何だろう、あれ?」

 薊さんは何かに気が付いたようでスピードを落として指さした。何とか顔をあげて、薊さんの指す方向を見ると肉眼で確認できるくらいのでかい岩があった。

「邪悪な果実かな? あっちは自然公園だし」

「かもしれない。後、薊さん、乗せてもらって悪いけど、もうちょっとスピードを落として……」

「あ、ごめんね」

 照れたように薊さんはそう言って、スピードを落として走らせて行った。羞恥心は恐ろしい。


 自然公園の駐輪場に自転車を停めて、自然公園内に入った。確かに遊具はなく林とハイキングコース、小さめな花壇にはパンジーが咲き誇り、ただ広い芝生しかなかった。

 撫子の言う通り本当に自然の公園で退屈になるだろうけど、俺はのんびりとした時間が流れていて雰囲気は良いなと思う。レジャーシートを敷いて、お弁当食べるにはいいかもしれない。


「あれだな」

「あれだね」


 のんびりとした雰囲気の公園の芝生に小高い丘のような大きな岩があった。そしてその岩はどこか湿っていて、下の方にはきちんと収納している尻尾と爪が付いた足がある。正面から確認していないがガラパゴス諸島にいそうな大きい亀より更に大きい。巨大亀、ガメラだ。

「よし! 花葬するよ、春宮君!」

 薊さんが百花杖を出して構えていると、何かを当てる音が聞こえてきた。その音はこのガメラの頭の方から聞こえてくる。薊さんも気が付いて音のする方に向かう。

「えい、えい!」

 真ん丸の瞳とツインテールにギュッと縛った髪の好奇心旺盛な幼稚園児くらいの女の子がガメラの甲羅に石を楽しそうに当てていた。

「ちょっと、だめだよ!」

「お姉ちゃん、誰?」

「魔法少女です!」

 力を込めて薊さんはそういうが当の女の子はきょとんとした顔で見上げて、「じゃあ、リリンとお友達なの?」と聞いてきた。

「え? リリン? う、うん。お友達だよ」

 『マジカルハッピー魔法少女! リリン!』のリリンの事だろう。薊さんは戸惑いつつも女の子の話を合わせた。


 その時、ニューッと亀の首が伸びた。

「薊さん! 危ない!」

「え? うわ!」

 亀はカパッと口を開けて噛もうとしたのを薊さんは女の子を守りながら避けた。すぐさま薊さんは百花杖を出し、亀の前に構え呪文を言おうとした瞬間だった。


 カプッ


 という擬音はなかったが亀の首が素早く伸び、百花杖を素早く噛んだ。

「え? ……ちょっと、え? ……放してえええええ!」

 この予想外の亀の動きに薊さんは驚き、百花杖を上下左右に動かして放そうとする。だが亀もやる気は全然感じられないが、百花杖を引っ張っている。そう言えば、亀は噛む力がすごいってどこかで聞いたことがあるな。

「放してええ! あ、春宮君!」

「おりゃあああああ!」

 叫びながら助走をつけて俺は甲羅に体当たりをする。俺はこの使い魔になって以来、身を切る特攻のような攻撃が得意になった。

 体当たりをすると亀はビクッと震え、百花杖を口から離してすぐに首をすくめる。

やっぱり亀はでかくなっても亀は亀である。頭も手足も尻尾も甲羅に隠してすっかり守りの姿勢となった。


 薊さんは百花杖を再び構えて、甲羅の中に引っ込んだ亀に突き付けた。

「邪悪なる果実よ、ここに花葬する!」

 ピンク色の光が溢れ、亀はピンク色の光と共に消えていった。





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