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前回のあらすじ。俺の自宅に魔法少女でお馴染みの敵であるセクシー系のバニーガールが現れた。
「バニーガールさん、お名前は?」
マイペースのシルフは名前を聞く。バニーガールは一瞬苛立った顔になったが、すぐに優雅な顔になって「私はラパン」と名乗った。
「魔法少女 薊! これを……」
「あのさ、ラパン。聞きたいことがあるんだけど」
ラパンの言葉を遮って撫子は腕組みしながら、「邪悪な果実って一体何?」と一番聞きたい質問をする。
質問されたラパンは華麗に無視して、一枚のカードを投げる。ラパンの投げたポーズはかっこいいが、投げられたカードはヘロヘロで俺達に届く前に落ちた。
「ちゃんと投げなさいよ! 敵なら!」
「そうよ! カード投げは敵の必須科目でしょうが!」
シルフと撫子はそう言って冷めた目で落ちたカードで見下ろす。馬鹿にされたラパンはむくれた顔で睨んだ。
薊さんは落ちたカードを拾い上げた。見た感じトランプのようだが、数字や絵が描いてある面には文章が書かれてあった。
「えっと……『あしあぜんあこあうあああああえん』」
「これは私からの挑戦状よ! この文章は暗号となっているのよ! それを……」
「薊、そのガードの裏に『A』って書いてあるわ」
ラパンが話しているのにシルフは薊さんが持っているカードを手に取って裏返しにした。裏面は飾り文字で『A』と書かれてあった。
それを見て薊さんは「ああ、なるほど」と答えが分かったようだ。
「ローマ字で『あ』は『A』だから、この文章の『あ』を抜き出せばいいのか。じゃあ『しぜんこうえん』ね! ねえ、ラパン。この街の自然公園で何があるの?」
「もうちょっと、苦戦しなさいよ!」
そう言われても小学生でもわかる暗号だったぞ。
「そうよ! 魔法少女 あざ……」
気を取り直してラパンは薊さんに指差そうとするが、撫子に「ちょっと、失礼よ! 人に指さすの!」と指摘した。
「ああああ、もうううううう、グダグダじゃない!」
しゃべろうとしてはシルフや撫子に遮られ、暗号はさっさと薊さんに解かれ、思い描いていた流れにならずラパンは頭を掻きむしる。
「ラパン、アドリブ力も魔法少女の敵に必要よ!」
「うるさいわ!」
シルフのアドバイスを一蹴して、薊さんに向き合った。
「これは挑戦状よ! この街に暗号と邪悪な果実をばら撒いたわ!」
「何ですって!」
「オーホホホ、鈍くさそうなあなたに暗号をすべて解いて、邪悪な果実をすべて花葬出来るかしらね!」
「あなたも鈍くさそうよ、ラパン」
「ダメだよ。撫子ちゃん。いくら敵でもそんな悪口言ったら」
「なんで、この私が魔法少女に庇われるのよ!」
ギャンギャンと吠えるラパンを見ると、近所で飼っているよく吠えるチワワに見えてきた。夕方、散歩している所に出くわすが、誰に対してもギャンギャンと吠えるのだ。飼い主はほほ笑むだけで注意をしない。ちゃんとしつけろよと思う。
そんな事を考えているとラパンは近くの窓に足をかけて薊さんの方を向いた。
「とにかく、魔法少女 薊! 私はあなたを認めないわ!」
「どういう事?」
「薊、今日で魔法少女をやめさせてやる! とう!」
そう言って窓から飛び降りたラパンを急いで追うが、窓の下には誰もいなかった。
「急いで自然公園に行かないと!」
「待って! 薊!」
バタバタと慌てて走ろうとする薊にシルフは駆け寄って止める。
「薊、あんなテンプレートな悪役で驚いているけれど大丈夫よ」
「シルフちゃん!」
「可愛いはセクシーに勝つわ」
意味の分からない根拠に薊さんは何にも疑問に追わず、「うん! 頑張るね」と手を取って答えた。
「可愛いは大正義よ、薊」
「大昔に流行った言葉だな」
思わず心の声が出てしまい、シルフに「お黙り」と低く言って俺を睨んだ。
そんな中、おずおずと撫子が「薊さん!」と言って何かを差し出した。
「邪魔にならないものと思って、シュシュを作ったの」
「あ、かわいい。つけてもいい?」
「も、もちろんです!」
撫子、いつの間に作ったのか。同じ家にいたのだが、そんな気配なんて一切なかったので少々驚いた。
薊さんはピンク色のシュシュを頭につけて撫子に「ありがとう」とお礼を言うと、撫子はしどろもどろになって「いえ、もったいなきお言葉」と古風な言葉で返した。
撫子がこんなにも真剣だったり、悩んだり、夢中になっている所、初めて見たな。常に冷静で冷めていると思っていたから。
「それじゃ、行ってきます」
「行ってらっしゃい!」
シルフと撫子に見送られて、薊さんは駆け出す。
俺もついて行こうとしたらシルフに「春宮」といきなり尻尾を掴まれた。尻尾なんて付属品だろと思っていたが、こうして引っ張られたり踏まれるとかなりの激痛が走り、悲鳴が出た。
「ぎゃあ! 痛い!」
「失礼。春宮、バニーガールの胸を見入って、全然会話に入ってこなかったあなたに頼みたいことがあるの」
断じて見入っていない! 会話に入れなかったのはシルフと撫子たちがどんどん突っ込んでいくから、結局黙っていただけだ!
そう言い返そうとした時、シルフは真剣な顔で俺を見ていた。
「春宮、薊の事をお願いね」
突然、そう言われて戸惑っているとシルフは更に言った。
「薊は一体何と戦っているのか? なんで戦っているのか、どうして本当の使い魔が出てこないのか、この戦いには大きな謎がある」
シルフは「普通の女の子を魔法少女に出来るピコンは本当にいい奴なのか、わからないでしょ?」と言われ、俺は頷いた。すぐに逃げるし、説明義務も放棄中だし。
「薊は優しいけれど、頑固で一度決めた事はやり通そうとする。薊は邪悪な果実は危ないから、みんなが怖い思いをしないように早く花葬しないといけないと思っているの。だから自分が傷つく行為でも、やり遂げようとする。だから春宮、薊を守ってあげてね」
「わかった、シルフ」
「お願いね、お兄ちゃん」
シルフと撫子にそう言われ、俺は薊さんの元に走っていった。
次回は明日の朝頃、投稿します。今日までまとめて投稿していましたが、明日から一話ずつになります。よろしくお願いいたします。