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魔法少女 薊さんと使い魔 春宮君  勇気と根性があれば魔法少女は出来るのだ!  作者: 恵京玖
薊さんの友達 シルフと学校に現れた虫の魔物達
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 前回のあらすじ。高校指定のえんじ色のジャージで戦い、見事勝利した魔法少女 薊さんと使い魔代理の俺。だが引き続きダサいジャージで戦う彼女に友達のシルフは泣くほど哀れと思い、魔法少女の衣装づくりに執念を燃やすのだった。

 そして俺は家に帰った。


 きっと家にピコンがいるだろうなと思って帰ってみると、やっぱり自分の部屋の真ん中にピコンはちょこんと座っていた。いつもより怖い顔をしている。

「春宮、僕がなんで来たのかわかるかい」

 挨拶抜きにそう言われ面食らったが、俺は「うん」と頷いた。きっと邪悪な果実に取りつかれた魔物についてだろう。


「薊さん、変身しなかったんだのは一体なぜなんだ?」

「え? そこなの?」

「そこしかないだろう! ほかにどんな問題があるんだ?」

「魔物が現れる場所が変更になった事とか」

「人がいたから変えたんだよ」

「誰が?」

「そんなことよりも薊さんが変身しないのはどうしてだ!」

 言葉に力を入れてピコンは前足で床を叩く。予想の斜め上の主張に俺は唖然とした。そしてナチュラルに俺の質問に答えていない。


 一体誰が邪悪な果実に取りつかれた魔物が出てくる場所を変えたのかとかその話、めちゃくちゃしたいのに。魔法少女の変身しないことなんて、重大じゃないだろう。

 それだけじゃない。もっと聞きたい事がある。ピコンの正体や黒いウサギなどなど。


 だが俺達の気持ちを知らずに、ピコンは変身についての苦情を訴える。

「魔法少女と言えば、変身だろう?」

「シルフ曰く、変身しない魔法少女もいるみたいだぞ。カードキャプターさくら……だっけ?」

「だが変身機能があるのに、使わないっておかしくないか?」

「その変身機能がダサければ、使わないよ」

 ピコンはふくれっ面で「どこがダサいんだ!」と反論した。


 こいつもわかっていないのか……と脱力し、別の問題を突き付けた。

「と言うかあの変身、一瞬半裸になったりするじゃないか。青少年保護育成条例で禁止されるかもしれない」

「よくある変身シーンじゃないか。それにルールは破るためにあるんだ!」

「アニメは大丈夫でも現実はアウトの時もあるんだよ。ついでにその条例は俺たちを守るもんだし、最近はものすごくうるさいし」

 俺がそう言っていると「あ、ピコンだ」と冷ややかな声が聞こえた。


 振り返ると声と全く同じ冷たい視線をピコンに注いでいる。ピコンは蛇に睨まれたカエルのような表情になっていた。

「またお兄ちゃんに頼みごとでもしているの?」

「いや苦情だ! 薊さんが変身しないで魔法少女をしているんだ!」

「ふうん」

「しかも今日はダサいえんじ色のジャージで戦っていたんだ! 君は薊さんにファンだろう? どう思う!」

「だから、何よ」

「変身しないでジャージで戦う魔法少女なんておかしいじゃないか」


「使い魔の使命を果たしていないお前が言うな! どんな服を着ていようが、変身しまいが、薊さんは魔法少女だ!」


 ピコンに指さして撫子の主張にピコンは「グヌヌヌ……」と唸った。


「まあまあ、ピコン。今日はジャージで戦っていたけど、薊さんの友人が戦闘服を作ってくれるって。かなり気合入っているから、きっと可愛らしいものができると思うよ。もうジャージで戦わないから、大丈夫だよ」


 俺の言葉にピコンは更に険しい顔をして「何が大丈夫なんだよ!」と怒鳴った。精一杯怖い雰囲気を出しているようだが、愛らしい姿なので迫力は一切ない。と言うか、こいつの言動に恐ろしさなんて感じる事さえない。

「なんで変身機能が付いているのに使わないんだよ! せっかくあるのに」

「スマホの初期からあるアプリだって必要なければずっと使わないよ。必要と思わなかったんだよ、薊さんは」

 撫子の言葉にピコンは「うぐ」と喉を鳴らし、完全に言い負けて言葉を失っている。だがそれでも「魔法少女は変身するのが当たり前だろ?」と俺の方をみて言う。

「あの魔法少女の変身シーンは半裸になるって問題があるってわかったから、薊さんは嫌がっているよ」

「もう! いい! 帰る!」

 自分の言い分が通らなかった子供のように、帰ろうとするピコン。撫子は「うん、わかった」と言って手を振ると、ピコンは「淡白だ」と言い出した。


 面倒なやつだなと思いつつ、今まで思っていた疑問を口にする。

「あ、そうだ。なあ、ピコン。お前って何者なんだ?」

「……だからそれを言ったら、君たちは後戻りできないぞ」

「今なら戻れるのか? 薊さんは普通の少女に戻って、俺は使い魔姿にならなくて済むのか?」

「それは困る」

 何なんだ? その答え。訝しんでいる俺をよそにピコンは「じゃあ」と言って窓から出て行った。

「何なのよ、あいつ」

 物騒な声音でつぶやいて撫子も俺の部屋から出て行った。

 本当に俺達は何と戦っているんだろうか? 悪い事はしていない、はず……。そう考えると突如、不安が募った。よくあるからな。主人公がやってきたことは、世界を滅亡させる行為だったって物語は。



 それからしばらく何も起こらずピコンもあれから会わず、日曜日を迎えた。何だが思い返すと怒涛の日々だったなと思える。薊さんは魔法少女になったり、俺は使い魔になったり、巨大生物と戦ったり、本当の使い魔は全然使えない奴で唖然としたり……。


 日曜日はお母さんがお父さんの単身赴任先に行く日なのでいない。俺と撫子でお留守番だ。のんびり過ごそう。

『マジカルハッピー魔法少女! リリン!』

 一階から日曜日の朝にやっている魔法少女のアニメの歌が聞こえてきた。撫子も成長したな、リアルタイムであのアニメを見るなんて。それにしてもどうして日曜の朝からアニメをやっているんだろうか? よい子に早寝早起きを身につけさせるための陰謀だろうか? でも俺は大きい子なのでためらいもなく二度寝をする。

「やっぱりこのアニメは素晴らしいわ」

 ん? 撫子ではない声が聞こえて跳び起きた。すぐに着替えて一階に降りる。


 一階のリビングには優雅にコーヒーを飲むシルフとアニメを見る撫子がいた。

「おはよう、春宮」

「寝坊だよ、お兄ちゃん」

「いや、日曜なんだから九時まで寝かせてくれよ。というか、なんでシルフがいるんだ?」

「春宮にメールを送ったの。『薊の衣装が出来たよ』て」

「でもお兄ちゃんそのメールに気が付かなかったから、私が『ぜひうちに来てください!』と送ったの」

 撫子。何、勝手に送っているんだよ。俺のスマホだろ? そう言おうとしたら撫子は憮然とした表情で口を開いた。

「超重要でしょう? 薊さんの衣装が出来たんだから。それを無視してはいけないよ! それに日曜日だからって寝坊しているなんてだらしない」

「成り行きとはいえ、春宮も使い魔になったんだから、魔法少女のアニメをリアルタイムで見た方がいいわ。勉強になる」

 こう畳み込まれるように言われると何にも言えない。


 テーブルを見るとお菓子とコーヒーとジュースがあった。どうやらティータイムしながらアニメを見ているようだ。それを見ながら台所に行き、食パンを取って冷蔵庫からハムとチーズを挟む。チーズとハムのサンドイッチの朝食だ。

 サンドイッチを食べながらアニメを見るが途中からなのでよくわからない。画面上ではピンク色の髪の女の子 多分、主人公が必死に青色の髪の女の子 ツンデレを説得しているが、どうしてそうなっているのかもわからない。でもシルフと撫子は真剣な顔で見ているので、あらすじを聞くのもはばかれる。


 しょうがない。文明の利器 ネットで調べるか。

 スマホで探すよりパソコンを持ってきて調べよう。そう思って俺はリビングを出て、パソコンがある両親の部屋のドアを開けた。


 開けた瞬間、赤いワンピースを着ている途中の薊さんと目が合った。真っ白い肌がまぶしく、控えめな胸をブラで隠し、下半身はスパッツのようなものが見えた。


 俺と目があった瞬間、お互いなんとも間抜けな顔をしていた。そして一瞬にして顔が熱くなるのを感じた。

 すぐにスパンと高速でドアを閉めた時「お兄ちゃん」と静かな廊下に小さい声が聞こえてきた。

 返事して振り返ったら、間違いなく襲われるホラー映画の幽霊だ。勇気を出して振り返ると目が据わった撫子が立っていた。存在がホラーだよ、撫子。撫子は抑揚のない声で言った。


「薊さん、着替えているんだよ。何、入っているのよ」


 表情も声も感情を失っていて、逆に怖い。

 やべえ、どうしよう。そう思っているとドアが開き、薊さんがひょっこりと顔を出した。すでに着替えは完了している。

「あ、春宮君。ごめんなさい! 衣装を着替えるために、ここの部屋を使っていたんだ。ごめんね、驚かせて」

「薊さん、謝らないでください!」

「ううん。私こそ、ちゃんと言っていなかったから」

「いやいや、突然入ってごめん。薊さん」

「阿呆な兄を止められず、すいません」

 薊さんと撫子、そして俺は頭を下げて謝る。廊下で一体、何やってんだか……。

 そう思っているとシルフがリビングから「どうしたの?」と不思議そうな顔をして見ていた。





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