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魔法少女 薊さんと使い魔 春宮君  勇気と根性があれば魔法少女は出来るのだ!  作者: 恵京玖
薊さんの友達 シルフと学校に現れた虫の魔物達
10/30

 ピコンに伝言を頼まれて、俺は薊さんを探した。


 校舎を出て、高校の敷地の隣にある林の方に向かうとやっぱり薊さんがいた。やっぱりピコンの関係と思って探しに行ったのか。


 だが薊さん以外にもう一人いる。茶髪でウェーブがかかった長めの髪と色白の肌のきれいな女の子。あ、確か隣のクラスで名前は知らないが、かなり美人であり超変人だと噂がある子だ。まず地味な薊さんとツーショットはあり得ない子である。

「薊さん!」

 俺が呼ぶと薊さんと美人で変人の少女が振り返った。


 ふわっと柔らかな茶色の髪をかきあげながら、薊さんと話していた美人も振り向いた。目があった瞬間、美しさに驚いた。麗らかな紫の大きな目と綺麗な形のいい唇、童話やおとぎ話で夢見るお姫様のような女の子だった。

「薊、この殿方はお知り合い?」

 口調言葉もおとぎ話に出てきそうなお姫様のようだ。うん、現代社会では変人だろうな。


 薊さんはにっこり笑って「こちら、同じクラスの春宮君だよ」と紹介したので、「あ、どうも。春宮楓です」と挨拶した。

「初めまして、春宮楓。私はシルフよ」

 よく見ると髪の毛も染めているし目もカラーコンタクトで日本人だろうに、なんでシルフって名前なんだろう。だが「あ、初めまして」と言ってしまう堂々した風格がシルフにはあった。


「とにかく、薊さん! 大変なんだ! えっと……事件です!」

 言葉が見つからず、刑事ドラマのセリフみたいに言ってしまった。だが通じたようで薊さんは頷いた。

「ごめんね、シルフちゃん。ちょっと用事があって」

「あら、もうあのウサギのような生き物を探さなくっていいの?」

「う、ごめん。私もそれどころじゃなくなった。一緒に探してくれてありがとう!」

 薊さんはシルフに手を合わせて謝罪と感謝しながら、俺の方に走る。一方のシルフは愁いを帯びた目で俺と薊さんの方を見ながら「わかったわ」と目を伏せた。

「薊にも、心に決めた人がいるのね」

「ち、違うよ! シルフちゃん!」

「違います! でもちょっとした事情があって……、とにかく急いで来て! 薊さん!」

 俺は薊さんを手招きして、彼女を急かす。早くしないと俺は使い魔姿になってしまって面倒くさいことになる。


 シルフを残し、走りながら薊さんに事情を話した。とは言いつつ薊さんは遅いので、俺もペースを落としながら話す。

「邪悪な果実に取りつかれた虫が校庭の用具入れに現れるらしい」

「本当に!」

「急いでいかないと!」

 校庭では陸上部やサッカー部や野球部が練習している。それを横目で見ながら、俺と薊さんは用具入れに入って行った瞬間、俺は使い魔姿になった。あっぶねえ! 運動部の前でこの姿を目撃されたら大騒動だった。


 薊さんもすぐに「千花飾り」と叫んで、ピンク色の光を浴びて変身する。俺はすぐさま目を瞑って彼女の変身シーンを見ないようにした。

 あの変身シーンはちょっと過激だ! 


 無事に変身して満足げに「百花杖」と薊さんはあの花の杖を出した。

 用具入れの中にはサッカーボールとか陸上の用具などが入っており、小さな窓が上の方につけられている。ドアを閉めれば、かなり薄暗く埃っぽい。


 その時、サッカーボールが入った金属の籠がカタっと音を立ててちょっと動いた。

 なんだかやばい予感を感じ、俺は身構える。だが恐れを知らないのか薊さんは淡々と音のする方へ行き、サッカーボールが入った金属の籠の方へと向かった。

「ちょっと薊さん、待って!」

「どうしたの? 春宮君……きゃ!」

 サッカーボールの籠の方を金属の籠の後ろから何かが飛び出した。


 ぴょーんと言う擬音が聞こえてきそうな飛び方で、緑色の細長いシルエットで後ろ足が異様に長く、細い糸のような触覚が忙しなく動く。バッタだ。


 バッタは薊さんの方を向いて飛び掛かった。

「うっひゃあ!」

 薊さんがビックリして飛び上がり、百花杖を振り回し叫ぶ。慌てる薊さんを巨大バッタは軽々飛び越えて音もなく着地した。


 すぐに薊さんは背後に回ったバッタに向き合い、再び百花杖を振り上げて立ち向かう。見ていて勇ましいが、薊さんの攻撃を鼻で笑うかのようにバッタは軽々と避けていく。


「ひゃあ!」

「うお!」


 バッタが薊さんに向かって飛んだため驚き、バランスを崩す薊さん。その真後ろにいた俺は驚いて動けなかった。ふわっとしたチュールのスカート生地の感触の後、薊さんの尻餅を見事に全身で受け止めた。

「グエエエ」

「あ、ごめんね! 春宮君!」

 痛みが背中に走ってカエルが潰れたような声が、それ以上に恥ずかしい気持ちになった。何せ薊さんの両脇の太ももの感触が妙に柔らかいし生暖かい。

「本当にごめんね。春宮君!」

「大丈夫」

 すぐに立ち上がった薊さんを見上げる俺。背中は痛いけど大丈夫そうだ。俺の心拍数は大丈夫ではないくらいに上がっているけど。

「咲き誇れ!」

 立ち上がった薊さんは、杖を振るい大きな大輪のヒマワリが花火のように咲き誇るが、バッタは驚くどころか余裕で避ける。その後も魔法で花を出すが、バッタは全然効いておらず、元気にぴょんぴょんと跳ねている。


 バッタや薊さんが動くたびに上の小窓から射す光が舞い上がる塵を輝かせているのを見ながら、俺はあのバッタの動きを止めさせる方法を探していた。

 キョロキョロと用具入れを見ていると陸上の走高跳をするときに使う大きなマットを見つけた。あれで動きを止められるかも! 早速俺はマットの所へ行き、固定していた紐を取って、グラグラと倒れそうなマットの上に陣取った。

「薊さん!」

 杖を振り回していたり、魔法で花を咲かせたりしている薊さんは振り返り、俺を見て、マットを見ると頷いた。俺の意図が分かったようだ。すぐに薊さんはバッタを無鉄砲に魔法で花を出して追い回す。無鉄砲ではなく、着実にある所に追い込んでいる。

 バッタは薊さんの攻撃を避け、余裕綽々で着地しようとしたところを俺はマットを倒した。空中で方向転換出来ないバッタはあえなくマットの下敷きになった。


 俺はもがいてマットから出ようとするバッタを必死で抑え込む。

 すぐに薊さんはマットの下に百花杖を潜り込ませて、バッタに触れた。

「邪悪な果実よ。ここに花葬する!」

 呪文を言うとマットの下からピンクの光が溢れ、そしてバッタは消え失せマットの下は何もなくなった。

「よかった。無事に花葬出来て」

「あー、俺も元に戻っている」

 

「薊」


 まるで歌うような綺麗な声が聞こえてきた。声のする方を見ると、用具入れのドアはほんの少し開けていて、そこからシルフが見ていた。

「薊。そう言う事だったのね」

 確信した顔でゆっくりとシルフは用具入れの中に入ってきた。思わぬ登場に俺と薊さんは何にも言えず、動けなかった。


 マットに座っている俺とだっせえコスチュームを着て玩具っぽいステッキを持つ薊さんを見て何を察したんだ? 何言われるんだろうと怯えつつ、シルフが言うのを待った。

「害虫駆除をやっていたのね」

 害虫駆除か……。惜しい、害虫以外にも害獣もやっている。


 薊さんはおずおずと「えっと、シルフちゃん。どこから見ていたの?」と尋ねる。するとシルフは「割と最初から見ていた」と答えた。

「シルフちゃん! あのね……」

 シルフは薊さんの小さな鼻に人差し指で触れて、彼女の言葉を止めた。

「薊。話したい気持ちはわかるけど、まずは変身を解いてここを出ましょう」

「う、うん」

 薊さんは杖を振るってピンク色の煙を放って、晴れると制服姿になった。変身を解くのは結構簡単だ。それを満足げにシルフは眺めて「さあ、出ましょうか」と芝居かかったように用具入れのドアへと向かう。

「早くしないと運動部に怪しまれるわ。薊、春宮」

「うん、わかった」

 俺達は戸惑いつつも駆け足で用具入れから出て行った。白い蝶が飛んでいるのが見えた。




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