雪山でシュプールを描く二人の馴れ初め~バス酔いから始まる恋~
第5回「下野紘・巽悠衣子の小説家になろうラジオ」大賞応募作、キーワードは「雪山」です。
自分は昔から運動神経が鈍かった。それが凄いコンプレックスだった。
だけどさ、水泳とスノボだけは何故かできるんだ。特にスノボは20代後半で初めて滑ってから超ハマった。自分でも人並にできるスポーツがある事が嬉しくて、社会人でお金も少々自由になったし雪山に行きまくった。毎週末誰か友達をスノボに誘うぐらい。
でも流石に全員に声をかけ尽くしてしまい、今週は皆都合が悪いらしい。さてどうしよう。
「まっいいか。一人で行けば」
東京から一人で車で行くのはリスクもあるし、コスパも悪いと格安のバスツアーに申し込んだ。
……が、流石格安! 配慮が無い! なんで見知らぬ男女を隣の席にした!?
「どっ、どうも山田です。よろしくお願いします」
「どうも、小野です」
「うっ、美……」
あぶなっ。思わず口に出しそうになった。隣の席の小野さんは顔が綺麗で切れ長の黒い目が自分の好みドンピシャ。でもなんでこんな人が一人でスキーツアーに来てんの!?
「今度友達同士でスノボに行く事になったんですけど、自信が無くて練習を……」
うっ、恥ずかしそうに言う顔もキラキラして眩しい。
「じゃあスクールに入るんですか?」
「あ、はい。でも時間が余るんで、スクールが終わったら一緒に滑ったりとか……?」
こ、これはチャンス!? ゲレンデの恋とかスノーマジックってやつ、始まる!?
「喜んで!……うっ、おえええ」
忘れてた……運動神経が鈍いのは三半規管が弱いせいじゃないかって言われてた事。つまり、バス酔いしやすかったのを。ああ、きっと引かれた。スノーマジックが始まる前に恋が終わった……。
「大丈夫ですか!? この袋使って下さい!」
小野さんは引くどころか介抱までしてくれた。なんていい人。顔だけじゃなく心まで綺麗か! 惚れてまうやろー!!
「やっ、待って待って! きゃあ!」
「ああ大丈夫?」
雪山でシュプールを描く二人。転んだ女の子に男が手を貸す。いつの間にか二人の敬語も取れて距離も縮まってる。昔のCMで見た憧れのシーンそのものだ。
「あ、頭にも雪がついてる」
「え、どこ?」
「触って良い?」
「……うん」
「……あのさ」
「?」
「良かったら、次も一緒にスノボ、行かない?」
「!」
ま、そんな馴れ初め。
後で彼に「私のどこが良かったの?」って聞いてみたら予想外の答えが。
「ん? ギャップ。一人でバスツアー行く行動力があるのに、バス酔いするしスノボの腕前は人並だし、この子面白いなって」
悪かったな人並で!