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王の変貌

「何だ、着替えなかったのか。ドレスは気に入らなかったかな?」

 二人の衣装が変わっていないのを見て、ゴフード王は落胆の表情を隠さなかった。

 こちらにすれば「ドレスをもらえるサービス」で来たのであって、着替えを強要されるいわれはない。そもそも、デザインにかなり難ありだ。

「いえ、とんでもない。喜んでいただきます。ただ、やっぱり素敵なドレスを一番に見せるのは、恋人の前がいいと思って」

 少しはにかむような演技をしながら、リーフィンがにっこり笑う。

 真に受けやすいネオラがここにいれば「え、リーフィンに恋人がいたのかっ」と余計なことを言いかねない。ボルブも時々まじぼけすることがあるので、つくづく彼らがいなくてよかった。

「ドレス姿はお見せできないけれど、カドゥルに言われてお話くらいはと思って」

 レイハも見事な愛想笑いを見せた。

「そうか。美しい女性と話をするのは、極上の美酒だ。さぁ、こちらへ」

 王は、自分の両脇へ来るように手招きした。二人は王をはさむようにして座ったが、しっかり一人分以上の隙間はあけてある。王が多少身体を傾けなければ、二人に手が届かない距離だ。

「もう少しこちらへ来てはどうかな?」

「いえ、こんなに広いソファですもの。ゆったり座った方が楽でしょう?」

 レイハににっこりと笑顔を向けられてそう言われると、王も反論はしにくい。

 そう言わずに、と強引に手を取ったあげく、帰ってしまわれては元も子もない、と思ったのか。

「王様がこの村を豊かにされたんですってね。どんなことをなさったの?」

 興味深そうな顔でリーフィンが尋ねる。

「ん? ああ、この村の作物と周囲で捕れる魚は絶品だからね。それを周辺の村や街にアピールするために、奔走(ほんそう)したんだよ」

「ここにあるのは屋台ばかりだったみたいだけど、レストランにしようとは思わなかったの?」

「村の別区画でレストランもしている。宿泊も可能な所だ。何だったら、後で行ってみるといい。いくらでも泊まれるからね」

 いくらでも、とは大きく出た。急な客が大勢来たら、従業員は大変だと思うが。

 そもそも、どれくらいのスタッフがいるのだろう。そこまで大きな村とは思えなかったのだが。

「さっき、カドゥルのショーを見ましたけれど、すごかったわ。彼はゴフード王が育ての親だ、と話していましたけれど?」

「ああ、私が育てた」

 レイハに言われ、ゴフード王は自慢げに答える。

 身寄りのない子どもを育てることは大変だし、それができることは立派だと言えるが、そう偉そうに言うとありがたみも半減するというものだ。

 世の中、身寄りのない子どもを引き取る人はいくらでもいる。フェンネだって、赤の他人である夫婦に育てられた。

 レイハは「育ての親ですよね?」と確認しただけ。にも関わらず、ふんぞり返るようなゴフード王の態度に、話を聞いていたリーフィンの中でさらに彼の評価が大きく下がる。

「沖で小さな船が難破してね。その中で奇跡的に助かったのが、カドゥルだった。当時五歳くらいだっただろう。あの子は事故のショックでどこの出身かもわからず、唯一名前だけを覚えていたんだ。私は不憫(ふびん)に思い、あの子を引き取ることにした」

「彼を助けた頃のゴフード王は、今のカドゥルとあまり変わらない年代でしょう?」

「え?」

 レイハの質問が予想外なのか、それまで偉そうにも思えたゴフード王だったが、言葉と同時に動きが止まった。

「こうしてお会いした感じだと、三十代初めから半ばといったところだと。それなら、彼の今の年齢から考えて、ゴフード王はカドゥルより少し上くらいの年齢で、そんな小さな子どもを引き取られた。普通ではなかなかできないことだわ」

 レイハは何のカマをかけようとしてるのかしら。

 わざとらしくゴフード王をほめているレイハに、リーフィンは心の中で首をかしげたが、話を合わせておく。

「そうよねぇ。今のあたしがいきなり子持ちになっちゃうようなものだもん。自分の子ならともかく、ぜぇんぜん知らない子。なっかなかできないわぁ」

「はは……まぁ、楽ではなかったがね」

 さっきまで胸を張っていたゴフード王は、何か引っ掛かるのか笑顔が微妙に引きつって見えた。

「そう言えば、カドゥルがさっき話してましたけれど、彼は離れに住んでいるそうね。せっかくのお城なのに、親子で暮らすことはされないのかしら」

 レイハからの質問がまた思いもしないものだったのか、ゴフード王は目をそらした。

「あ、ああ……。難しい年頃だからね。自分の部屋がいいんだろう」

「このお城でも、自分の部屋は持てそうなのに」

「……」

「ふふ。私達にはわからない、お金持ちの悩みがあったりするのかしら」

 ゴフード王が口ごもると、レイハはそれに気付かないかのように笑って流した。

 そんな二人を、リーフィンは穏やかな笑みを貼り付けながら眺める。

 カドゥルはさっき「王に恩があるから」なんて言ってたけど。多少なりともギクシャクしてるんじゃないの、この義理の親子。もしくは、王がカドゥルの弱みを握って、あの子に抵抗させないようにしている、とかね。

 レイハがこの太っ腹なようでいて、実は怪しさ満載の王様の化けの皮をはがそうとしているのなら、それも面白そうだとリーフィンが思った時。

 部屋の扉がノックされた。

 話題が変わりそうだと思ったのか、王がすぐに「入れ」と返事をする。

 入って来たのは、カドゥルとフェンネだった。

「ああ、もう一人来ていたね」

 エントランスで三人の姿を確認していた王は、フェンネの顔を見て思い出したようだ。

 今まで、もう一人はどうした? と尋ねなかったのは、好みの体型ではないフェンネに対してそれほど興味がなかったからに違いない。こうして遅れて来たのは、トイレに行っていたのだろう、くらいに考えて。

「ねぇ、王様。王様はカドゥルのお父さんでしょ?」

「え? あ、まぁ、そういうことになるが……」

 またその話になるのか、と思ったのか、ゴフード王の表情が曇る。

「だったら、カドゥルの話を聞いてあげて」

「カドゥルの話?」

 フェンネは、横にいたカドゥルの背中をとんと叩く。文字通り背中を押され、カドゥルは緊張した表情で口を開いた。

「あの……ぼく、この村を出て旅に行きたいです」

 カドゥルの言葉に、レイハとリーフィンの顔に本当の笑みが浮かぶ。

「ふふ、やっぱりそう思っていたのね」

「一緒に行くとわかったら、ボルブ達が大喜びするわよ」

 はちきれんばかりの笑顔になった座員達の顔が浮かぶようだ。

 座員が増えれば苦労も増えるが楽しいし、劇や芸の幅も広がるというもの。あんな手品ができる座員がいてくれれば、間違いなく収入も上がるはずだ。

「……許さん」

「え?」

 低く震える声に、誰もがそちらを向く。

 つぶやくように言ったのは、ゴフード王だ。カドゥルを睨み付け、浮かぶその表情は明らかに怒り。

 そして、いきなり立ち上がった。

「何を言い出してんだ、カドゥル。お前はわしに育てられた恩を忘れたのかっ」

 カドゥルを指差し、つばを飛ばしながら怒鳴りつける。口調がさっきまでとは違うし、声も何だか急に老けた。

「この村は、もうお前なしでは成り立たん。それをわかっているのかっ。お前はこの村の人間を殺す気なのか!」

「ちょっとっ、そこまで言わなくていいでしょ」

 見かねたフェンネが、うなだれるカドゥルの前に立つ。

 もしかすると、以前にもカドゥルがこういうことを言って、同じことが繰り返されたのだろうか。

 だからカドゥルはずっとためらい、フェンネの言葉にも気の進まない顔をしていたのかも知れない。

「村を出ることが、そんなに悪いこと? カドゥルなしでは成り立たない村って、何なの。変よ、そんなの。村人全員の命が、たった一人の肩にかかるなんて。本当にそうだとしても、カドゥルに頼りすぎじゃない」

「うるさい。こいつはわしの大切な息子だっ」

 相手が客であるにも関わらず、ゴフード王は怒鳴り続ける。

「ちょっと待ってよ。それ、論点がずれてない? そもそも、村が発展したのは、王であるあんたの功績でしょ。それとカドゥルが大切な息子って話は、別じゃないの」

 これまた見かねたリーフィンがいつもの口調に戻り、割って入る。

「こいつはわしの大切な息子だ。誰にも渡さん」

「はぁ? 本当に大切に思ってるの?」

「その言い方だと……わしの金づるだ、と言ってるように聞こえるけれど?」

 レイハも突っ込む。

「もしくは、本当の功績はあなたではなく、カドゥルにあるんじゃないかって思えるわ」

 そちらが真実だから、カドゥルに出て行かれては困るので止めている、と思われかねない。

「こいつはわしのものだっ」

 ゴフード王は同じように繰り返し怒鳴る。まるで誰の言葉も聞こえないかのように。

 ここへきて、フェンネ達は妙な空気を感じた。

 王の様子が変だ。怒りすぎて我を見失ったのか。

「ねぇ……王様が違う人に見えるよ」

 フェンネの言いたいことは、二人にもわかった。

 ゴフード王の姿がブレているのだ。歪んだり、一部が消えたり。

 そのブレた姿の中で、別の人物の姿が見え隠れしていた。

「何なのよ、こいつ。まさか、人間じゃないの?」

「少なくとも、私達が今まで見ていた男性はもうまともじゃないわね。見えているもう一人の方が、本物じゃないかしら。魔物ではなさそうだけれど」

「ねぇ、カドゥル……変だよ。王様、どうなってるの?」

 彼女達がそれまで話していた、長身で整った顔立ちのゴフード王は次第に薄れていく。

 代わりにはっきり姿を現し始めたのは、小太りでフェンネと同じくらいの小柄な身長、そして頭の光る中年も後半であろう男だった。

 理知的だった目はぎらぎらし、顔のパーツは美形という単語からかけ離れた配列だ。

「カドゥル、お前がいなければ村はなくなりかねんのだぞっ」

 カドゥルはたった一言、村を出て旅に行きたい、と言っただけ。

 それなのに、ゴフード王は何度も村の存亡はお前にかかっている、ということを怒鳴る。

 カドゥルはきつく目を閉じ、両耳をふさいだ。

「ぼく、もういやなんだっ。人をだますなんて!」

 カドゥルがそう叫んだ直後、どこかで爆発音が響いた。

☆☆☆

 音楽の代わりに、人々の悲鳴が広場に響き渡る。どこが安全な場所かもわからないまま、誰もが右往左往していた。

 多くの人達が屋台の料理を楽しみ、屋台の前や村のあちこちにあるベンチなどでおしゃべりを楽しんでいるところへ、無法者達が乱入してきたのだ。

 盗賊であろう大勢の男達がどこかで小型の爆弾を爆発させ、銃や剣を持って観光客や村の住人達に襲い掛かって来たのである。

 もちろん、彼らの狙いは村人達の儲けと、観光客の財布。金を奪ったついでに、店にある食料も頂いて行こう、という算段だ。

 邪魔する者は消す。邪魔しなくても、気が向けば剣を振り下ろし、銃口を向けた。

「くっそー、みんなが楽しんでるのに」

 何かおかしい、とボルブ達が思い始めた矢先に起きた出来事。だが、それまで楽しんでいたには違いない。

 宴にも近い盛り上がりに水を差され、ボルブ達は怒りの反撃に出た。多少の荒事なら、どうにか退けられる力はあるのだ。

 彼らの他にも、腕に覚えがあるらしい者達が抵抗しているのが見えたが、いかんせん相手の数が多い。

 屋台で使っていた火が、屋根などを燃やし始めた。調理用具や屋台の骨組みが崩れるなどして火の手が上がったのだ。

 火はすぐに、あちこちへ飛び火する。油を使っていた屋台は、引火した火で一気に燃え上がった。

「何かおかしいぞ。殴ってるのに、手応えがあんまりないような」

 自分の拳は、確かに相手の顔や身体に当たっているのに。ボルブは盗賊を殴った感触がないように思えて仕方がない。

 それは、ネオラやルノームも同じだった。

「あ、いた、ボルブ!」

 ディアンと、浜辺から戻って来たゼルジーが合流する。

「こいつら、何だ。おれに殴られても蹴られても、すぐ復活しやがる」

「斬っても血の一滴も出ねぇなんて、どういうことだ。さっきもこんな奴らを見たしよ」

「向こうでは化け物もいたぞ」

 いつの間に来たのか、アルディアスも加わる。だが、まだ一座全員じゃない。

「フェンネ達はどこだ」

 アルディアスが周囲を見回す。この場には女性陣の姿がなかった。

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