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マールス一座の不思議譚  作者: 碧衣 奈美


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10/12

さらなる違和感

「彼女たちは、城へ行ったままです。この場にいるよりは隠れやすいといいのですが」

 全てが金色でむしろ狙われやすそうだ、ということを男性陣は知らない。

「え、あいつ、さっき斬られてたぞ……」

 ネオラが助け損ねた若い男が、また斬られている。それも同じ盗賊に。

 同じ人が同じ屋台で料理を買っている、ということに気付いた時と同じだ。

「なぁ、お前ら、気付いてるか? 周囲が火事になってるのに、熱くないってことに」

「え? あ、本当だ」

 盗賊達に気を取られていたボルブ達も、ディアンの言葉で今更ながらに気付く。

 たくさんの屋台が燃えているのに、自分達のすぐ近くにも火があるのに、全然熱くない。煙の臭いがない。

 ゼルジーが海岸で体験したのと同じだ。

「火が熱くないなんて、そんなことがあるのかよ」

 ボルブが燃えている火に手をかざし、さらにはその中へ手を突っ込む。見ていたネオラが息を飲んだが、火から出たボルブの手は全くの無傷だ。もちろん、本人も全く熱を感じない。

「全然熱くない。ってか、何かに触れたって感じもしねぇぞ」

「あいつが関わっているんじゃないか?」

 アルディアスが、あごである方向を示す。みんながそちらを向くと、カドゥルがこちらへ向かって走っているのが見えた。

 どうして村の少年と盗賊が関係あるのか、と座員達は不思議に思う。

 しかし、アルディアスは海岸で見たキツネ頭になった男達が、どこかカドゥルと似ていたことが無関係ではないような気がしたのだ。

「アルディアス!」

 フェンネがアルディアス達を見付け、カドゥルをあっさり抜かしてこちらへ駆け寄って来る。

 リーフィンとレイハも、カドゥルに続くようにしてこちらへ向かっていた。ディアンが手を振って、仲間がこちらにいることを示す。

「さっき爆発したような音がしたけど……どうなってるの、これ」

 リーフィンに言われても、誰もちゃんと答えられない。

「おれ達も事情はわからない。お前の方が知っているんじゃないのか。あいつと一緒にいたんだろう」

「え? カドゥルが?」

 アルディアスに言われ、フェンネはカドゥルの方を振り返る。

 カドゥルは息を切らせながら、広場の端に立っていた。

「もうやめてっ」

 そうカドゥルが叫んだ直後、彼の姿が変わる。

 さっき手品のショーで見た時のように、人の姿から巨大な銀色のキツネになったのだ。家一軒程もありそうな大きさのキツネに。

 それを見た途端、盗賊達は悲鳴を上げて逃げて行く。

 キツネの姿になったカドゥルは、混乱したのか無謀にも向かって来ようとする盗賊をくわえると、それを宙高く放り投げる。翼のない人間は、地面に叩き付けられて動かなくなった。

 それが何度か繰り返され、盗賊に襲われずに済んだ観光客も、巨大なキツネの姿と状況を恐れてちりぢりに逃げて行く。

 気が付けば、その場にはマールス一座とカドゥルだけになっていた。

 ゼルジーが海岸で見た時とは違い、盗賊に斬られて倒れた人が消えることはない。だが、火事と同じで、血の臭いはしなかった。

 一人として呻いている人はなく、まさに惨状ではあるが絵のようだ。

 ブローズ村での惨状を思い出したのか、フェンネがアルディアスにすがりつく。

 火の熱と血の臭いがなくても、時々夢に見る光景に似て、身体が震えた。血の気が引くのを感じる。

「大丈夫だ。落ち着け」

 アルディアスはフェンネの震えている肩を抱き、そっと頭をなでる。

 カドゥルはキツネの姿からいつもの姿に戻ると……いや、その頭にはキツネの耳がしっかりと残っていた。そんな姿で、大きな溜め息をつく。

「何てことをしやがるっ」

 その声にカドゥルは、そして座員達ははっとする。

 そこにはリーフィン達があの「城」で最後に見た小太りの男が、カドゥルを睨み付けながら立っていた。

 長身の時にはちょうどだった金のローブの裾が、まるで子どもが大人の服を着た時のように余り、地面にたまっている。

「誰だ、あれ?」

 新しい登場人物に、ボルブが首をかしげた。少なくとも盗賊には見えない。あまりにも格好がこっけいだ。

「カドゥルの育ての親で、パルドム王国の王様よ。最初に会った時は、長身のすっごい美形だったんだけどねぇ」

「あれが彼の本当の姿だと、今なら間違いなく言えるわ」

 長身だった時の面影は、今は完全に消えていた。

 そのゴフード王は、青ざめて立ちすくんでいるカドゥルに近付くと、さっきまでのように怒鳴り始める。

「お前、何をしたのかわかってるのか。よりにもよって観光客の前で、盗賊を殺しちまったんだぞ。殺すのはいいが、どうしてもっとうまくやれんのだ。見ろ、みんな逃げちまったじゃないか。これであいつらが、この村には盗賊が来ると言いふらしちまう。いつものように、盗賊にだけ化けギツネの姿を見せておきゃあいいものを」

「ご、ごめんなさい」

 泣きそうな顔で、カドゥルは謝る。

「王様、ひどいよ。そんな言い方……」

 自分に言われたかのように、傷付いたような表情でフェンネがつぶやく。

「おい、おっさん。何言ってんだよ」

 ボルブがゴフード王の言い方に腹を立て、口をはさむ。

 あんな状況で、客に盗賊の存在をわからないように排除するなんて、無理すぎる要求だ。盗賊が爆発騒ぎを起こす前に何とかしない限り、どうしたって知られてしまう。

「カドゥルは村を守ろうとしただろ。あんな大勢の盗賊が来てるのに、何をうまくやれってんだ」

「儲けてる店があれば、盗賊に狙われるのは当たり前でしょ」

 リーフィンも黙っていられず、フォローする。

 しかし、ゴフード王はボルブ達の言葉を全く聞いておらず、カドゥルを責め続けた。

「お前のやり方が悪いせいで、村が破滅するんだ。わかってるのかっ。盗賊のような悪人どもが死ぬのは構わんが、わしらのような善人が死ぬような目に遭って、お前は何とも思わないのか」

「おい、おっさん! 聞いてんのか」

 ボルブがいらいらしたように怒鳴る。

 だが、やはりゴフード王はボルブには全く目もくれず、あたかもそこに座員達はいないかのようにふるまっている。

 いや、その様子だと、本当にいないと思っているのだ。

 今まであれこれおかしいと感じていたが、このゴフード王もかなりおかしい。

「ねぇ、あたし、この村に来た時になーんか違和感があったのよね。それが今、急にわかった気がする。あれだけたくさんの客がいて、その人達を乗せてきたはずの馬車が全然なかったのよ」

 この村を見付け、行ってみよう、となった。で、自分達の馬車は村の入口付近に置いたのだが、その際に他の馬車を一台も見掛けていない。

 馬車がないのに、村の住民以外の人間が大勢いる。

 そのことに、リーフィンは違和感があったのだ。

 送迎専用の馬車があるのだとしても、やはり周囲に一台も見ないのは不自然。各地へ客を送るための馬車が待機していないのも変。

 もちろん、自前の馬車で来た人もいるだろうが、それも見当たらなかった。歩いて来る人も……ないとは言わないが、きっと少数のはず。一番近くの街でも、馬車で半日近くかかるだろうから。

 アルディアスが感じていたのも、それだったのだ。口にはしていなかったが、レイハも何か妙な気はしていた。

 それなのに、なぜか村へ入ってからはその違和感がぼんやりとしてしまい、誰もが何かもやもやする、という気持ち悪い状態になっていたのだ。

「ぼく、もういやなんだ。焼いたりしただけのものを特別な料理みたいに見せたり、いない楽団がいるように見せたり……人をだますのはもうやりたくない」

「え、何だよ、それ。どういうことだ」

 カドゥルの言葉に、ボルブが戸惑う。

「やっぱりそういうことか」

「道理で魂に響かない音でした」

 ディアンやルノームは、カドゥルの言葉に納得していた。自分達が妙に感じていたことについて、ようやく事情がわかってきたのだ。

「私達はカドゥルにずっと幻を見せられていた、ということね。あの屋台も、この村へ来ていた人達も」

「あ、そっか。幻が何度も繰り返されてたのか」

 ネオラがぽんと手を打つ。

 同じ人が何度も同じ商品を買っていたのは、同じシーンを繰り返し見せられていたからなのだ。

 食べたり、物に触れたりしていたのも、そう思わされていただけ。だから、匂いも気配もない。いくらでも食べられたのは、本当に食べていないからだ。

「あ、でも待てよ。盗賊はどうなんだ? 賑やかに見せ掛けて人を呼ぶのが目的なら、盗賊の幻なんていらねぇだろ」

 一旦納得しかけたボルブだが、また首をかしげる。

 盗賊を出す必要が、どこにあるのだろう。この村が危険な場所だと思われれば、人は来なくなるではないか。

 この火事だって、そうだ。熱くないということは、幻だということ。こんな幻を見せられて、喜ぶ人間などいない。

「何を言ってやがる。今更、やめられるはずがないだろうがっ」

 ゴフード王はまだ怒鳴っている。

 この男は、どこまでが幻なのだろう。何が本当なのか。

「てめぇ、よくもっ」

 いきなりまた盗賊が現れた。現れる前触れは何もなく、宙から現れたかのごとく、本当に突然だ。

 盗賊は、カドゥルに怒りをぶちまけ続けていたゴフード王にその刃を向けた。悲鳴が上がり、金のローブの男は倒れる。

 これは幻なのか、現実なのか。助けるべきなのか、手を出す必要はないのか。

 アルディアス達は戸惑い、立ちすくむしかできない。

 すると、倒れたゴフード王やそれまで周囲に倒れていた人達、燃えていた屋台などが突然、一気に消えた。

「え……」

 誰もが声にならない声を出す。

 傾いた満月の光だけの中で、村は消えてなくなった。そこにいるのは、今度こそマールス一座とカドゥルだけ。

 彼らがいるのは、荒れ果てた原野だ。少し離れた場所に、彼らの馬車がぽつんと残って。

 遠くからかすかに、さざ波の音が聞こえる。

「あの王様も、幻だったの? 背の高い王様だけじゃなく、あの人も」

 フェンネがつぶやく。その声は、恐怖でかすれていた。

 わからない。何が本当で、どれが幻なのか。

「カドゥル、どれが本当なんだよ。お前、一体何なんだ」

 ネオラの問いに、カドゥルは目を伏せた。キツネの耳がぴくぴくと動く。

「ぼくも……よくわからない」

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