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積乱雲の向こう側

作者: やいバス

積乱雲とはマイペースに浮かんでいて、前触れなく悲劇を与えるもの、まるで現実の残酷さを表すように

 夏はいつもそうだ、毎日が暑くて雲がほとんどない

あるとすれば天まで届いてるような積乱雲だけ、だけど積乱雲は僕らの方にはあまり来ない、この日もそうだった。積乱雲は遠くの空に浮かんでいて僕らの方に来る気配はない…だけどたまにこっちに来ては雨を降らして僕らを困らせる。

 僕はよく神社に行ってはそこから見える空と街全体の景色を見ながらアイスを食べている。木漏れ日と優しい風、全てが重なる事であの積乱雲はより一層美しい作品となる。あぁ心地良いなと感じた僕はいつの間にかに深く考え事をしていたようだ、右手に持っていたアイスは溶け落ちていた。それほどまでに時間が経っていたのだろう空は浅瀬の海のような色から真っ赤に燃える炎のような夕焼け空だった。夏休みの1日は普段より何倍も長く感じるはずだ、もちろん夜でさえ、夜には待ち遠しい花火大会がある。普通の人なら友達と会うだろう、だけど僕は家族と別れた後よく行く神社に向かった僕だけの知るとっておきの場所だ。

 だけどその日の夜は違った、そこには僕より先に浴衣姿の女子高生がいた。その子は学校で同じクラスの梨花だった、綺麗だった…夏の夜空に光る星達によるライトアップで僕は彼女に釘付けだった。彼女も僕に気がついた、お互いに沈黙していたが初めの花火の弾ける音で僕達は花火の音の方を向いていた。気づけば彼女は僕の横にいる、この時間がいつまでも続けば良いと心の底から思った。だが現実は甘くなかった…時間は止まることなく進み戻ることは決してない、花火大会が終わってお互い帰る時間になった。僕は思い切って言った「また君と会いたい」と、彼女は照れながらも笑顔でまたこの神社に来るよ…と言った。次の日からは毎日のように神社で集まり2人で色々な場所へ行き数々の思い出を作る事が出来た。夏休みはあっという間に過ぎていった。夏休みが終わっても僕達は関係は絶えず年を超え、夏休みに入った僕達は花火大会の計画を一緒に立てていた。

 しかし、現実とは積乱雲のように前触れなく悲劇をぶつけてくる。そう…僕のところにも悲劇が襲ってきた。花火大会の日、僕達の待ち合わせ場所の神社に彼女は来なかった、来ると期待しても時間は止まることなく進み、やがて花火大会は終わりを迎えた。夏休みが終わって僕は初めて知った…あの日彼女は親の仕事の都合で転校してしまったのだ、僕の恋はそこで止まった。

 あれから5年後…僕は社会人になって出身校である星見高校の数学教師をしていた。恋愛などしていなかった…彼女が美し過ぎたのだ、あの子以外僕は恋人にしたくなかったのだ。夏休みに入った、高校生の時とは違って山積みの仕事が残っていた。僕のところに一枚の葉書が届いた、差出人は転校してから一度も会えなかった梨花からだった…そこにはこう書いてあった

「○○君 お元気ですか?私は今教師をしていて今度、私たちの母校である星見高校に転勤する事になったんです。なので今度の花火大会…良かったら行きませんか?待ち合わせ場所はあの時、私が会いに行くことの出来なかった思い出の場所で待っています。」と

 それは夏の空に浮かぶ積乱雲の向こう側から送られて来た、たった一枚の葉書…しかしその葉書は僕の心を動かした。梨花に会えるんだ、そう思えば思うほど心の高鳴りは治るどころか更に強さを増した。

 約束の花火大会の夜、神社に向かった僕はそこで一つの星を見た…ここで出会った時と同じ柄の浴衣を着ていた、やっぱり僕は君に一目惚れしていた。梨花はあの時と同じ笑顔を見せて一緒に花火を見た。

 あぁ僕の恋愛はまだスタートしたばかりのようだ

 

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