ジャン・P・ホワイト
2話 ジャン・P・ホワイト
まいったぜ、このヤローがボクの馬を撃ちやがったから。
ヤローを生かして連れて行くために両足を撃ったのが間違いだった。
めんどくさいから殺っちまうか。殺しても賞金は同じだが、死体は、かえって重くなるか。
魂がぬけて軽くなるはずなんだが。
馬の声がした。
丘の下に見える馬に乗ってるのは女?
先住民か? それに馬車だ。しめた。
ボクは二人に手を振った。
「オーイ」
「どうしたの?」
馬に乗っていたのは少女だった。キレイな瞳は濃い茶色。黒い長い髪は後ろでたばねたポニーテールってやつか? あまり見ない人種だが、イイ顔をしている。ボクの好みだ。
よく見ると服は先住民の物とは少し違う。チャイニーズともまた違う。
「なにジロジロ見てるの。イヤらしい」
「いや、珍しい服着ているんで何処のかなと」
「ソレがわかったらどうする気?」
「あ、イヤ、何も。悪いんだが、ボクの荷物、君の馬車に乗せてくれないか?」
馬車に乗っているのは子供だ。この馬車この少女の物だろう?
「それを決めるのはチコだ」
「チコ? 君か?」
「そうだ」
「じゃ君にお願いする」
「そいつはどうしたんだ。足を怪我してるのはわかるが、なんで手足を縛って猿ぐつわを?」
「こうしてないとうるさいんでね」
少女が馬に乗ったまま近づき。
「そいつは友だちか?」
「まさか。罪人だよ。ボク、こう見えて賞金稼ぎなんだ。逃げられない様に脚を撃った。が、このヤローボクの馬を撃って殺してしまったんだ。おかげで賞金がもらえる町まで……と、いうわけだ」
「そういうことか、乗せてもいいよ。運賃は賞金の半分」
「おい、半分は多かねぇ」
「ちょっとまて!」
「ナニ? どうしたのアスカ」
「そいつの猿ぐつわ取れ」
なんだ、まさか知り合いか?
「いいけどうるさいぞ」
ボクは少女の言うとおり、男の猿ぐつわを取った。男は詰め込んだボロ布を吐き出し。
「このクソガキが、オレがムショから出たら、とっ捕まえて、真っ裸にして町中引きずり回し、タマを切り取り砂漠に、そのまま置き去りにしてやるグッ?!」
男の首に見慣れない形のナイフが刺さった。
「ホントにうるさい。それに下品」
「おい、大分出血してるぞ。このままじゃ死んじまう。今のは、なんだナイフじゃないな」
「棒手裏剣だ。死んだら価値が下がるのか? ん、待てよ。チコ、アレを」
チコは馬車の荷台から何やら紙の束を取り出し馬上の少女に渡した。
「そいつダグ・ヒーラーか?」
「ああ、昔は強盗団の一味で今は脱獄犯で……」
また手裏剣というやつが飛んで男の胸に立った。
「オイ、なにをするんだ」
「どーせ長くない。奴はあたしの仇の一人だ。ムショに居たんで、なかなか手が出さなかった。でも脱獄してたのか。死んでも賞金は変わらないんだろ」
「まあ、そうだが……こいつは君の仇だったのか」
「こいつらはチコたちの村を襲い、家族を……」
「チコ、その男を荷台に。そのお棺は?」
「ああ、こいつもお願いしたい。中はボクの荷物が」
「自分で乗せな」
「ありがとう。ボクはジャン。ジャン・P・ホワイトだ。君はチコ君、で、」
「あたしはアスカ。べつに憶えなくていいわ」
助かった。町まで歩かないですんだ。
棺を乗せ、荷台に乗ろうとすると。
「待てよ、あんたを乗せるなら別料金だ」
なんだよソレ。
「いくらなんだ?」
「奴の賞金の半分」
「そりゃないぜ、ボクの取り分がないだろう。なあアスカさ〜ん」
「しらないわ、馬車はチコのだから」
「わかった。歩く、ボクは明日の飯代が入るんだ」
まあ、荷物とヤローを引きずるよりましか。
ボクは町まで歩くことにした。
「少し水をくれないか」
「チコ、水だって」
「1レオーネ」
「金取るのか」
「町の酒場なら水は5レオーネだぞぉ」
「ここにはイスもテーブルもダンサーやビアノ弾きもいない!」
「だから1レオーネなんだ」
アスカがボクに水筒を投げた。
「コレは」
「あたしの5セルジオよ」
もしかして間接キッス。
5セルジオなら安いかも。
クールだけどいい子じゃないか。
「ありがとう」
ボクは水筒と5セルジオ硬貨をアスカに渡した。
アスカは水筒を馬車の荷台に投げた。
アレ飲まないの?
「アスカってどこの国の人?」
「知らない。遠い海の向こうと聞いた。あんたは? 村にはいろいろな国の人間がいたが、あんたみたいな瞳の色の人間は初めて見た」
「ああ、よく言われる。ボクの国も遠い空の上だ」
「空?」
「あんちゃん、チコたち子供だと思ってバカにしてるのか」
「ジャンでいい、あんちゃんはやめてくれ」
「チコ、あんたはともかく、あたしはもう19よ。子供じゃないわ」
アスカは19か、もっと子供かと思った。
「あんた。ジャンはいくつなの?」
アスカより大分上だが、この土地なら見えるだろうから。
「君とあまりかわらない二十代だ」
「二十代で賞金稼ぎって、なんかわけあり?」
チコが、ガキに言われたくない。
「わけなんて……。子供の頃からあこがれてた職業だ」
コレはウソじゃない。本や映像で見て。
一度はやってみたいと。
「ジャンはカッコイイ、拳銃持ってるな。一つ売ってくんないか」
「こいつは普通の銃じゃない一万レオーネくらいはする」
「一万レオーネ! 高い。二挺あるなら、一つ1000」
「売る気なんてない」
それに子供が持つもんじゃない。
「町だ!」
ネロタウンと書いてある。
アーチの横にとんでもなくデカいのが立っている。
その横に大男が。
肩に女の子らしいのが乗っているのが見えた。
「オーイ!」
チコが二人に手を振ると向こうのデカいのと肩の上の女の子もこっちに手を振った。仲間か。
つづく