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月花葬  作者: マテリアル
1/1

囚われの姫君

世界は月に閉ざされていた。

ただまるい、淡い光が微かに周囲を満たすだけの、常闇のように静かな空間。

手を伸ばしても、指先に触れるものは固く冷え。

なぞりあげれば、それはただおのれを囲むかのように、まるく閉ざされるばかり。

たとえば、死んで入る棺の中は、こんなさみしいところだろうか。

音もなく、だれもいない。

せめて花でもあればいいのに。

この空間を埋めつくす、私を葬る大量の花が。



………………ピピピピ

ピピピピ

ピピピピ


………

…………………

……………………………


重く沈殿していた意識が浮遊しはじめる頃合いを見計らうように、目覚まし時計の音が鳴った。

起きなくては、という思いとはうらはらに、まぶたはなかなか動こうとはしない。

あと少し。

もう少し。

そう思いながら、みじろぐように軽く寝返りをうった。

何もかも忘れて、このままずっと寝ていられたらいいのに。

叶わないことを承知しつつ、贅沢すぎる願いに身も心も寄せてしまう。

「ふわあぁ」

酸素を取り込むように、何度か大きくあくびをした。

少しずつ、現実世界に足をつけはじめる。

あくびが十を数えるくらいに、両目ははっきり自室の壁を捉えていた。

ただ白一色の、ポスターも何もない無機質な壁だ。

いつでもゼロに戻せるように、愛着も執着も持たないように、始めから用意されたもの以外は一切家には持ち込まなかった。

この家ですら、与えられた箱庭にすぎない。

自分のものは何ひとつない。

服も下着も鞄もノートもシャンプーですら支給品だ。

食費だけはカードを与えられたが、明細は全て持ち主に筒抜けにされているため、お菓子などの嗜好品は口に入れたことがない。

米は届くので、買うのは肉と魚、野菜ばかりだった。

自分一人では肉はそうそう口にしないが、年頃の男の子が家にいるので、そうも言っていられない。

せめて年相応の食生活をさせてあげたい。私がいなくなった時に、自分の足で立派に立っていけるように。

小柄な子供が、大人の体になれるように。

……とは言っても、私が生んだ子供ではない。

世界で一番大切な、大切なたった一人の弟だ。





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