序章
この時代には、鬼がいる。
表向きは人間と共存しているとされているが、実際はそうではない。
はるか昔の話である。鬼と人間は確かに共存していた。
支え合い、助け合い、持ちつ持たれつの関係を築いていた。
しかし、ある時突然鬼達が村を襲った。
村は一夜にして変わり果てた姿となり、犠牲になった人間も少なくなかった。
理由はわからずとも、人間達が鬼を憎むことになるのに時間はかからなかったという。
『鬼は悪者』『人間に牙を向く鬼は始末して良い』そんな言葉が人間たちの間で囁かれるようになった。
そして、いつしか『鬼を見たら始末して良い』との考えを持つものが増えた。
その後判明したことだが、鬼が村を襲う数日前、鬼を良しとしない一部の人間が鬼の住む山に火を放ったとのことだった。
鬼は真っ直ぐで優しい生き物とされており、人間の裏切りに怒りと悲しみが隠せずに村を襲ったということだった。
その事実が判明しても、鬼と人間は互いを信じることができなくなり、昔あった絆には今も亀裂が入っているという。
そのため、鬼の居場所はないとされ、村に降りることもなく、彼らは山奥でひっそりと暮らしている。
ただ……
村では身寄りのない娘は除け者とされ、鬼に嫁入りさせられるとまことしやかに噂されている