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第1話 社畜、喋るメガネと出会う

どうも荒川 弥です。

先日から連載していたものとは別でひとつファンタジーを思いついたので書きまして

お楽しみいただければ幸いです


よろしくお願いします。

 働けど働けど仕事は続く。


 やっと仕事が終わっても、家に帰れば飯を食い寝るだけ。


 家に帰れるならましだな、泊まり込みでそのまま残業なんてこともざらにある。


 別に働くのが嫌なわけではない、だが好きなわけでも決してない。


 生きるために必要だから、寝る間も惜しんで働いているだけだ。


 せめて週一日でも必ず休みがあればなあ…。


 夢も持たず、持つ余裕すらなく、ただただ働き続ける毎日。 


 それが俺、ヴァン・イスルギの人生である。



 俺が住んでいるこの国の名は、リベルタ王国。


 大陸でも一二を争う国力を持った国だ。


 俺の職業は、リベルタ王国の誉れ高き騎士!国民を守る王国の盾!


 …ではあるのだが、所属している騎士団に問題があった。


 所属しているのは王国第九騎士団、通称『雑用騎士団』。


 なぜこんな名前で呼ばれているか、それは簡単なことだ。


 名前の示すとおり、王国の首都ディスマに生じる雑用仕事をすべて押し付けられてる。


 雑用仕事とは街中のドブさらいから、王都外周での魔物駆除まで様々だ。


 それ故に『雑用騎士団』。


 なぜそんなことになっているか。


 それにはこの国、リベルタの階級制度と選民思想が関係している。


 リベルタの階級制は、王族、貴族、平民の三つに部類されるのだが…


 第九騎士団に所属する騎士は、1名を除き全員が平民の出だ。


 というより、平民が唯一所属できる騎士団が第九騎士団なのである。


 この国の貴族連中、特に騎士団を統括している軍部の連中は選民思想が強い。


 故に俺たちみたいな平民が騎士をなのるのを、本音では認めていないのだ。


 しかし第九騎士団を創設したのがこの国の初代国王で、平民にも広く働く場を与えたいとの願いを込めて作られた騎士団のため、取り潰すこともできない。


 それなら自分たち貴族がやりたくない仕事を、第九騎士団に全て任せてしまおう!


 建国から500年間、その歪みを放置した結果が今の第九騎士団というわけだ。



 他の騎士団に所属するのは、そのほとんどが貴族。


 そんな貴族たちが嫌がる仕事が、我々第九騎士団に降りてくる。


 それもすっっごい量の雑用が。


 しかも給料は仕事内容の割に少ない。


 ホントに俺ら平民は貴族様から嫌われてんだな~…


 なんてことを入団一年目までは考えていたが…。


 17歳で成人を迎えてからもう10年勤めてるからな、そんな文句はもう枯れてしまった。


 …と、こんな感じで我々第九騎士団は、日々多くの雑用仕事を安月給でせっせとこなしている。



 第九騎士団駐屯所で業務の準備をしていると、不意に声をかけられる。


「お~す、ヴァン。今日も出勤か??お前なん連続勤務だよ?」


「おう、ニール。俺は今日で20日連続だな。もっというなら5日前からは家にも帰ってない」


「くは~ご愁傷様!まあ、俺も今日で15日目だけど~」


 彼はニール・アンデルセン。俺と同期、10年来の同僚だ。


「しかも今日からは、冒険者ギルドからの派遣依頼で王都外周のオーク狩りだ…」


 さっきまであったニールの勢いは、どうやら空元気だったらしい。一気に顔が暗くなる。


「うわぁ、それはなんというか…。そちらこそご愁傷様だな…。」


「オークってクサいし、しぶといから嫌いなんだよな…。オーク共の繁殖期はもう少し先のはずなのによー!とんだ貧乏くじだぜ!!」


 たしかにそうだな。オークの繁殖期は春だと言われている。


 冬に降り積もった雪が解けきっているとはいえ、春まではひと月以上ある。


 例年ならまだオーク共は冬眠している頃だ。


 何かあったのだろうか?


「今回のオーク討伐は、そのあたりの調査も兼ねているんだろうな。国民の安全のためだ、頼んだぞ」


「はあ…、わかってるよ。国民のため、そして少ない少ない我らが給料のためにな!」


「ま、そういうことだ!」


 そう、俺たちの給料は少ない。


 一般的な騎士たちがひと月に金貨20枚程度貰っているのに対して、俺たち第九の騎士はひと月金貨5枚。


 この国では平民でもひと月金貨1枚稼ぐらいは稼げることを考えると、この労働量に金貨5枚は極めて少ないといえるだろう。


 なぜこんなにも安月給なのか。


 これもいたってシンプル。


 我々騎士団の給料を決めているのは、財務官を務める貴族たち。


 ようは、そいつらも俺たち第九のことを酷く嫌っているわけだ。


「たとえ辞めたくても、辞められないしな…」


「ああ、俺らの上司があいつの限りな…」


 俺やニールの上司にして、第九に所属する唯一の貴族。


 それが第九騎士団長ドブス・ギールである。


 こいつがこれまた厄介極まりない。


 騎士がその職を辞するには、辞職届を騎士団長に提出する必要がある。


 だがこのドブスという男、あろうことかその辞職届を自分のところで握りつぶすのだ。


「副団長が団員の辞職届を受領するよう頼み込んでも、聞く耳もってなかったもんなアイツ」


「団員に辞められて、月の業務達成率を下げたくないんだろうよ。」


 騎士団の業務達成率が下がれば、国からドブスへの評価も下がってしまう。


 それがあいつには許せないんだろうな。


 しかもあの野郎はまともに働かないくせ、給料は第九以外の騎士と同じくらいは貰っている。


 俺たち第九の団員が裏で呼ぶ、あの男のあだ名は『金食い豚野郎』だ。


「まあここであの豚野郎への愚痴をいってもしょーがねえな。今日も今日とて働きますか」


「そうだな、楽しい楽しいお仕事を始めようか」


 はあ…。と二人同時に溜息を吐いた。


「あ、そういえばヴァン。お前、今夜の全騎士団合同の慰労会は参加するのか?」


「あ…。そういや団長に同席するよう言われてたんだった…。」


 今夜の慰労会は、各騎士団の日頃の働きを労うために開かれる宴会である。


 もちろん来るのは貴族ばかり。


 第九にそんな場へ自分から参加したがる奴はいないから、普段なら団長のみ参加するんだけどな…。


 ドブスは今回、同伴者に俺を指名してきやがった。


 要は自分をもちあげる部下が一人ほしかったのだろう。


 俺が選ばれたのは…まあ運の悪さが働いたってところだな。


「ああ…まあなんだ…。今度酒でも奢るから元気出せよヴァン!」

 

「ありがとう…頑張ってくるさ」 


 ニールの言葉に感謝するも、その後には今日一番の溜息が続いてしまうのだった。



                    ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



「あー…あの豚野郎…。しこたま酒飲ませやがって…!」


 ドブスの命令により慰労会に参加させられた俺は、できうる限りドブスの野郎をよいしょした。


 その結果が今の俺の酩酊状態。


 よいしょされ気分がよくなったドブスは、俺の持ってるグラスが開くたびに酒を飲ませやがった。


 この酩酊状態、魔物から受けるデバフ攻撃といい勝負だぞこの野郎。


 そんな俺は、トイレに行くのを口実に慰労会を抜け出していた。


「あーキツイ。足がふらつく…。このままじゃ、会場でぶっ倒れかねないな…」


 そんなことになったら貴族から何を言われるか目に見えている。


 少し酔いを醒ましてから会場に戻ろう…。


 そんなことを考えながら慰労会の開催場所である王城の中を、あてもなく散歩する。


 さすが王族が暮らしているだけあって城内は凄く広い。


 酩酊している頭のままそんなところを歩いていたせいで、途中からどこにいるのかわからなくなってしまった。


 俺も王城へは数えるほどしか来た事ないからな~。


 会場に戻ろうと試みたのだが戻れない…。


 しかもめちゃくちゃ気分悪くなってきた…。


「あーダメだ。このまま歩いてたらマジで吐く…。どっか休める部屋くらいないのかよ…。」


 今になって思うと何やってんだって感じだが、この時はそんなこと考える余裕すらないほど酔いが回っていた。


「…?なんだこの部屋??誰もいなそうだが…。少しくらいなら休ませてもらってもいいかな?」 


 千鳥足になりながら、たどり着いた空き部屋にはいる。


 灯りは点いておらず、人の気配もしない。


 部屋の最奥に1つだけある窓からは月明かりが差し、その下にある台座を照らしていた。


 なんだあの台座。なにかが飾られて、いや祀られてるのか?


 答えが出る前に、俺の足は台座の方へと歩みを進める。


 自分でもよくわからないが、何かに呼ばれるように月明かりのもとへと導かれていった。


「これは…、メガネ???」


 俺が進んでいった先、その台座にはなぜか黒縁のメガネがひとつ飾られていた。


「なんでこんな、仰々しくメガネなんて飾ってんだ??」


『おう、メガネなんてとは随分な口きくじゃねえか』


 …???どこからか声がきこえてくる。


「だ、誰かいるのか」


『何言ってんだ?さっきからいるじゃねえか』


 …??!!周りには誰もいない。だが声は確かに近くから聞こえてくる。


 しかもなんだこの声…、まるで頭に直接聞こえてくるみたいだ。


『おいおい、何あさっての方を見てんだよ!目の前にいんだろうが!』


「目の前…????」


 目の前、そこには例のメガネが置かれた台座があるだけ。…まさか?


「このメガネ…か????」


『だからさっきからそう言ってんだろうが!』


「メガネが喋ってる…」


『こんな世界だぜ、メガネだって喋るくらいするわ!』


 いやいやいやいや、流石にそれはおかしい!


 だってメガネだぞ??視力の弱さを補助する道具だぞ??


 それが喋り出すなんてあるわけない!!


「なるほど、この台座の中に…」 


『誰もいないからな?』


 ツッコミまでしてきやがる…。しかも食い気味に!


 あ~なるほど、これはあれだな。


 ドブスに酒を飲まされ過ぎたせいで、酩酊した俺は立ち寄った部屋で寝ちまったんだな!


 これはいわゆる明晰夢ってやつだ!!そうに違いない。


『そりゃあただのメガネじゃ話すことはできないが、こと俺レベルのメガネだったらこんなことは朝飯前ってもんだ!!』


「あ~そうだな、夢だったらメガネだって話すくらいするよな~」


『夢?何言ってんだお前。まあそんなことより、なんでこんな場所をフラフラしてたんだ?』


「ああ、それはだな…」


 そして俺は自分がこんなところにいる理由を、ドブスへの愚痴を交えて語ったのだった。


 まあどうせ夢なんだし、相手がメガネってのはひっかかるが愚痴ぐらい聞いてもらおうじゃないか。



『なるほどな仕事付き合いでの飲み会か~。想像しただけでも反吐がでそうだな!』


「そうなんだよ!しかも上司の野郎、上機嫌になったらなったで酒を無理に進めてきやがるし!」


『かー!やってられねーな!!』


「しかも、こんなに上司をよいしょしたところで給金は上がらねーし!!」


『だけど内容の割に給金が安いってわけか~』


「そうそう…毎日毎日働かされても安月給。休みなんてひと月に一回あればいいほうだ。俺たち第九以外の騎士団員は週7日の内2日間は休みが必ずあるっていうのに、給料は俺たちの4倍も貰ってやがる!!」


『あ~そりゃあ不満も溜まるわな~。ていうか、そんなに嫌なら転職するのはダメなのか?』


「あ~転職しようとするとクソ上司が邪魔してくるんだよな~。それに安月給とはいえ、平民が普通に働いてひと月稼げる額と比べればもらえているわけだし。今から仕事を変えるにしても戦う技能くらいしか持ってないからな~」


『そうかそうか。…それならよ上司の邪魔云々は置いておくとして、戦う技能があるなら冒険者になるなんて手もあるんじゃねーか?』


 よくしゃべるメガネは思わぬ提案をしてくる。


「冒険者…?」


『おうよ!お前も冒険者くらい知ってんだろ?依頼を達成して報酬を受け取る。魔物を倒せば、その素材を売って金にかえる。己の力と度胸で道を切り開く職業、格好良くていいんじゃねーか?』


「だけど冒険者ってあんまり儲からないって聞くぞ?危険の割に稼げないって」


『あ~それは、いつまでも底辺のところでウロウロしてる奴らのことだな。中級から上級クラスの冒険者になりゃ、週2日休んで金貨40枚稼ぐことだってできる。トップクラスの奴らになれば、もっとだな。』


「週2日休んで金貨40枚…?」


 つい生唾を飲み込んでしまった。夢の中の話に何をドキドキしてるんだ俺は…。


『お前が目指したいっていうなら俺が力を貸してやるぜ?こんなに話が合う人間も久しぶりだからな!それになんだかお前からは、他人と思えない何かを感じるしな!!』


「はっはっは。喋るメガネの力って、何ができるんだよ」


『あん?俺にかかればなんだってできるって言ってんだろうが!お前が俺を使いこなしさえすればトップクラスの冒険者になるのだって夢じゃねえぜ??』


 本当にビックマウスなメガネだな、口はないんだが。


「冒険者…冒険者か…。いいかもしれないな~…」


 どうせ起きたら忘れるんだしな…。それぐらい大きいな願いを夢見てもいいだろう。夢だけに!


『おお!!のってきたじゃねーか!!それなら俺を手に取りな!!それがお前が変わる第一歩ってやつだ。』


 メガネのその言葉と共に、台座の上部を覆っていた透明なガラスがスッと消えてなくなった。


 俺の手は、窓からさす月明かりに手を引かれるように喋るメガネへと伸びる。


 メガネを手に取り、目元にゆっくりとかけていく。


 すると、俺の足元が薄っすらと光り、見たこともない魔法陣に囲まれたではないか。


「な、なんだこりゃ!?」


『心配するな、ただの使用者登録だ!そういえば名乗ってなかったな!我が名はホルス!汝、ヴァン・イスルギを使用者と認め、その命が尽きる時まで力をかしてやろう!!うまく使いこなせよ!!!』


 喋るメガネ・ホルスのその言葉を聞いた途端、全身から力が抜けていく。


「な、んだこれ…。力が抜けて、意識が…。」


 みるみるうちに、俺の意識はブラックアウトしていく。


『あ~俺の内包する魔力にあてられちまったか~。こんな場所で朝まで寝かすわけにもいかねえしな~。しかたねえ、久しぶりにあれを使うか』


 ホルスが何のことを言っているのか、もうわからない。


 あーこれもしかして、起きたら目の前にお貴族様たちがいて大目玉をくらうとかじゃないだろうな。


 そんな今さらな心配をしている間に、俺の意識は完全に落ちてしまうのだった。



                    ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



「ッ痛…。くっそ…、完全な二日酔いだ…。」


 二日酔いの頭痛に顔を歪めながら目を覚ます。


 横になっている俺の目の前にあるのは、見慣れた自分の家の天井。


 昨夜の慰労会で酔いを醒ますために宴会場を抜け出して…


 あーダメだ、そこから先の記憶が曖昧だ…。


 だがどうやら家までは無事帰ってこれたようだな。


 あそこまで悪酔いをしていながら家まで帰れるとは、我ながら恐ろしい帰巣本能だと思う。


 あとは慰労会がお開きになるまでの間に、貴族様に失礼を働いていないのを祈るばかりだな…。


「さて、頭は痛いが仕事の準備をしないとな…」


 とりあえず水を一杯飲もうとベッドから起き上がろうとしたとき、不意に声をかけられる。


『なんだヴァン。昨日慰労会であんだけ飲まされたってのに、今日も朝から仕事なのか??』


「当たり前だろ!俺たち第九はこんなことで休みはもらえないんだよ。まあドブスの野郎はどうせ昼過ぎとかに出勤してきやがるうだろうけどな!!」


『は~接待飲み会の翌日もキビキビ働かなきゃいけね~とは、世知辛いもんだ』


「それが働くってこと…だ……ろ??」


 いや待て、俺はさっきから誰と話してんだ?


 俺はひとりみだ、誰かが俺の家にいるはずない。


 声のする方へ勢いよく顔を向けた。


 そこには誰もいない。


 正しくいうなら、そこには黒縁のメガネがひとつ置かれているだけだ。


 黒縁のメガネ…?俺こんなもの持ってたか??


『なにボケッとした顔してんだよ、まだ寝ぼけてんのか??』


「……………」


 メガネが喋った!のだが思ったよりも驚いていない自分がいる。


 というかこの光景には、憶えがあるのだ。


 昨日、慰労会から抜け出したときに、王城内の薄暗い部屋で。


 俺はこの黒縁のメガネに上司の愚痴を話していた。


 だけどあれは、酔った俺が見た夢じゃなかったのか??


 だってメガネが話だすなんてそんな…。


 だが現に目の前の黒縁メガネは流暢に話している。


 昨日のあれは全部現実だったのか???


 そういや自己紹介もされてたっけ…


「ホルス……か??」


『あん?何をいまさら言ってやがんだ。昨日ちゃんと自己紹介したじゃねーか!しかたねーなー!んじゃ改めて、俺こそ世界でただ一つの最強メガネのホルスさんだ!!これからよろしく頼むぜ?相棒!』


 昨日の酒の二日酔いのせいか、それとも目の前で話す奇怪なメガネのせいか、俺は頭が重たくなるのを感じながら再びベットに突っ伏すのだった。

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