プロローグ
「うわっ!あぶない!」
キキィ…ガンッ!
「あ…」
やってしまった。
ひいてしまった。
ブレーキの効きが悪くなってたのは、わかっていたのに。
なぜ、まわりに気を配っていなかったんだろう。
そっと、たった今自分がひいてしまったそれを見る。
首はあらぬ方向に曲がり、それが確実に絶命していることを、否応なしに伝えてくる。
それの体はぴくりとも動くことはなく、熱はどんどん失われてゆき、その瞳はもう何も写すことはない。
私が一つの命の喪失に関わってしまったのは、火を見るよりあきらかだ。
ああ、これでは私は、私は…
「動物愛護団体に、怒られてしまう!」
そこには、自転車に乗った少女と、猫の死骸のみがあった。
『ピコーン』
『レベルが上がりました』
「へ?」
中学一年の夏休み。
自転車のブレーキがききずらくなっていたため、修理してもらいにその自転車で自転車屋に向かっていたところ、猫をはねてしまった。
まあ、それはいい。
いや、よくはないかもしれないというか、明らかに悪いことなのだけれども。
私はこのとおり傷ひとつ無いし、何の問題もない
人間と猫の命の重さに差があるとは言わない。
ただ見たところ、この猫は野良猫だろうから私が罪に問われることもなく、怪我も無いならお巡りさんのお世話になることもないだろうというだけ。
そもそも私は、車道の左側を法定速度を守って自転車をこいでいた。
そしたら猫が、藪の中から急に車道に飛び出してきたのだ。つまり私は悪くない。(ブレーキ?何のことだね?)
とりあえず猫は、飛び出してきた藪の中に放っておこう。それから手でも合わせておけばいいだろう。
南無南無~。
さて、さっき私は頭に直接響くような、謎の電子音とレベルが上がったと述べる無機質な声を聞いた。
それだけならまだ私が幻聴でも聞いたか、近くにゲームをしている子でもいたんだろうですませられなくもない。
けれど…
++++++
1/2
名称:籠嶺 魅澄
種族:人間
性別:女
年齢:12
状態:普通
クラス:神童
LV.1
HP:98/98
MP:104/104
STR:9
VIT:9
MST:12
MND:19
DEX:21
AGI:10
++++++
目の前には、半透明の板のような物が浮かんでいた。
「ナニコレ?」
え、これあれだよね?ゲームとかでよく見るステータスとかいうやつ。
名称から年齢までは、確かに私の個人情報と一致する。
けれど、
「神童てなに?」
はっきり言ってこれはよくわからない。私はこれまで、神童と呼ばれる程何かにおいて優れた功績を残したことはない。そんな私が神童?意味がわからない。
私はただの、ゲームラノベマンガ大好きインド派陰キャオタク予備軍だ。
後はまあ、私STRとVIT低いなぁとか、MP?魔法使えるの?とか思うことはたくさんあるけど、まあいい。
それよりまずはこのステータス(推定)が、いったいぜんたいなんなのか、だ。
半透明の長方形で、空中に浮いている。
さわろうとすると、すり抜ける。何かに触っているような感じはせず、表示にも特に変化はない。
けれど、色々確かめる過程で撫でるように手を動かした時、それが現れた。
++++++
2/2
スキル
SP.10
[天才]
++++++
「いやいやスキルって。」
ますますゲームじみてきたなぁ。
けど、なんでページ分けてたんだろう?。一緒でいいと思うんだけど。まあどうでもいいか。
さて、さっきのページじゃ、どこを押しても何もなかったけど…
ためしに[天才]を押してみる。
++++++
[天才]
消費SP=6
修得しますか?
yes/no
++++++
いや、修得しますかって。
普通そこはスキルの説明が出るんじゃないの?
これ、使えるスキルじゃなくて、修得可能なスキルのラインナップだったの?
もしかして、この[天才]を習得すれば、私は天才になれると?
そんなのでなれていいのか天才?
まあいっか、yes…と。
『【天才】を修得しました。』
++++++
2/2
スキル
SP.4
【天才】
++++++
んー、なんか囲いが太くなったけど、特に何もおきないなあ。
今度は触れても何も表示がされないし、頭がよくなったような感じもしない。
そのうち実感するようになるのかな?
それから、このスキルは増えるんだろうか。さっきはSPを消費して修得した。そしてSPはまだ残りがある。
つまり、修得可能スキルさえ増やせばいい。まあそのSPも限りがあるから、補充する手段も必要になるかもしれないが。
その二つを同時にこなせそうな方法の第一候補は、レベルを上げること。
そして、そのレベルを上げるには…
これ以上は考えてもしかたないか。
まあともかく、今できることは全部やったと思う。
だから私はこれから…
「自転車を修理に出さないとなぁ。」
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『ピコーン』
『[運転技能][乗車技能][自転車技能]が解放されました。』