こずえの帰り道
今日も退屈な一日だった。
こずえはそう思っていた。
学校はつまらない。
クラスのみんなと仲が悪いわけではないが、
どこか薄っぺらいというか、そんなもやもやした感情を感じていた。
中学まで仲の良かった恵理菜は
高校に入ってからは別のクラスになって、私のほかに仲のいい友達を作ってた。
最近聞いた話だと、彼氏もできたらしい!
なんでも、2つ上の先輩なんだとか、、、
帰ったら久しぶりにラインでもしてみようかな、、、
午後5時を回った河川敷は沈む夕日が反射してとてもきれいだ。
「とてもぉ、きぃれいだぁ~」
どっかのバンドがこんな歌を歌ってた気がする。
もうバンド名は覚えていない。
キャッキャ、キャピキャピしながら歩いていく生徒たちを一人で帰る私はスタスタと追い抜いていく。
みんなこの景色が当たり前になっていて、誰もその反射する美しい夕日に目を留めない。
こずえは腕時計にチラリと目をやると言った。
「今日もあそこ行くかぁ、、、」
この河川敷をしばらく歩いていくと5号線につながっていて、
5号線というのはまぁ、ちっちゃいこの街のメイン通りみたいなとこで
そこまで出るとバス停やら、駅に行けるので、みんなそこを目指してこの河川敷を歩いている。
しかし、その5号線を越えると更に河川敷が続いていて
そこに私のお気に入りの場所がある。
って言っても、ただの石階段なんだけどね?
そこに座って陽が沈むまで、ただただ本を読むだけなんだけど、
そこは車道からは離れていて
車の音も、人の話し声も聞こえない。
聞こえるのはサラサラとした川の流れる音だけ、だからこの場所が好きなのだ。
今日も暗くなるまでここにいようそう思って、
カバンから出した小説を3行ほど読んだ時だった。
”にゃぁ~お”
どこからかそんな声が聞こえた。
振り返るとそこには一匹の黒猫がいた。
どうやら野良猫みたいでひどく傷だらけのようだ。
「ありゃりゃ、大丈夫でしゅか?」
つい、というか元から動物が好きだった私はその黒猫に手を差し伸べた。
たまたま持っていた水を口元に運んであげると
それはもう勢いよく、ぺろぺろと舐め始めた。
あまりにぐいぐい来るもんだから、こずえはもっと何かしてあげたくなった。
川でハンカチを水にぬらすと、傷だらけで、その汚れた、しなやかな体を拭いてあげた。
すると猫はたいそう嬉しそうにブルブルと体を振るわせた。
「お前も一人なのか?」
そう、ボソッと呟くと、
”にゃ~あ”
まるで返事をしてくれたようだった。
まだ出会って数分、相手は猫だったが、こずえはまるで友達ができたように嬉しかった。
「かわいいやつめぇ!」
そう言ってわしゃわしゃと撫でていると
「こーずえっ!」
恵理菜だった。
「久しぶりに話すね、、、?
なかなか話す機会なくてぇ、、、ごめんねっ!
、、、、、う?どしたの?」
こずえは急な展開に口をあんぐりと開けてしまっていた。
久しぶりに話した恵理菜は中学の時と全く変わっていなかった。
(勝手に距離を作っていたのは私のほうだったなぁ、、、。)
こずえは自分がふさぎ込みがちなだけだったと反省した。
「い、いやっ!なんでもない!どした?」
「うん!この後時間ある?久しぶりにどっか行かない?
こずえに話したいこといっぱいあるさ!」
「いいよ、うん、いいよっ!どこ行くっ?」
そういって立ち上がり、歩き始めようとしたときに気づいた。
あっ!猫ちゃん!
振り返るとさっきまで近くにいたはずの黒猫は少し遠くに座っていて
静かな、優しそうともとれるような目でこちらを見ていた。
するとさっきまでいなかったはずの猫が3匹塀の上に乗っていた。
「なんだ、君も、いたのか友達」
こずえは少し安心して恵理菜とともに5号線に向かって歩き始めた。
石階段が見えなくなる間際、一度振り返ると、
じゃれあうかのように猫たちから逃げていく黒猫が見えた。
にっこりしてこずえは恵理菜とまた話し始めた。
それからこずえは周りの友達と打ち解けられるようになって、
もう、あの河川敷の石階段には行かなくなったという。