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カガスタ!〜元社畜ドルオタの異世界アイドルプロジェクト〜  作者: 中務善菜
第五章:“星”の欠片
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才能の軌跡

「おかえり、話はちゃんとできたかい? って、なんでそんなにくたびれた顔してるのさ……」


 お店に戻った私たちをご両親が迎えてくれた。彼らは売り場の整理をしているようだ。お客さんが多いと、どうしても棚が乱れちゃうからね。


 それにしても、なぜくたびれているかって、私が暴走してしまったからですとも。お宅の息子さんね、やる子ですよ。びっくりしちゃった。


 アレンくんはというと、肩を竦めながら苦笑いしていた。当然だよね、ごめんね。


「大変だったんだから……それと、今日は泊まっていくって」


 アレンくんの提案で、今日はケネット家に泊まることにした。久し振りに感じるし、ここはとても安心する。王宮のベッドも勿論心地よいものだったけど、一般家庭のベッドは安心感が強い気がする。


 イアンさんたちにも連絡しておきたいけど、そういえばこの世界の連絡手段ってなんなんだろう。電話もないし、そこだけは困るよね。


 バーバラさんは「おっ」と口角を釣り上げた。


「それなら夕飯は気合入れないとねぇ」


「ゆっくりしていってね、リオちゃん」


「ありがとうございます」


 家庭料理も久し振りに感じる。文化開発庁本部には調理場がないので出来合いの総菜しか食べていなかったから。アレンくんが私の手を引く。


「それなら夕飯の買い物に行かないと!」


「うん、行こっか」


「ってことで、行ってきます! 適当に買ってくるから!」


 アレンくんが元気よく駆け出し、私もなんとかついていく。買い出しに向かうのは商店街。ケネット商店にお世話になっていた頃に通っていたお店があるから。


 なんていうか、なにもかもが久し振りに感じる。こんなに楽しそうなアレンくんを見るのも懐かしいと思ってしまう。


 アーサーとの確執も少しは拭われたのかな? だとしたら、橋渡しをした甲斐があるものだ。


 商店街ではゆっくり歩くことにした。人の往来も多いから。その道中で、アレンくんが思い出したかのように「そうだ」と声を上げた。


「ギルはどうなったの? 声掛けるって言ってたよね?」


「あー……それなんだけどね……」


 ギルさんには断られたことを伝える。それと、私が感じた違和感も。“供物”という表現――ずっと引っかかっていた。


 私たちの言葉を誰に捧げる? 考えてはみても、やっぱりわからなかった。


 話を聞いたアレンくんも不思議そうにしていた。直に見ていない分、いま一つ伝わってはいないかもしれない。ギルさんと直接話すことができればいいんだけど。


「ギルはどうして断ったんだろう」


「私が誘うほどの人間じゃない、って受け取れることを言ってた。あれだけ人を楽しませられるのに、才能がないはずがないんだけど……」


「才能……って、なんなんだろうね」


 才能、才能か……パッと目を引くもののようにも思えるし、見えないところで発揮されるものもある。


 弊社の社員を思い出してみる。先輩の女性社員は常に営業成績上位に食い込んでいたし、業績が芳しくなくても上司に気に入られていたりした。


 両者に共通しているのは“恵まれた容姿”。前者の才能は“営業トークの巧みさ”だし、後者は“上司に気に入られること”に関して特に秀でていたと思う。


 生まれ持ったものは容姿だけ? そう考えると、彼女たちの才能は“努力の結果”なのかもしれない。


 凛々しくも親しみのあるトークでお客様をその気にさせる前者、猫撫で声で男性を刺激し庇護欲を駆り立てる後者。これらは一朝一夕で身に着くものでもない……と、思う。


 自然と培われたものではないだろう。身に着けようと思って身に着いたもののはず。彼女たちには努力する才能が根本にあったのかもしれない。


 となれば、やっぱりギルさんには才能がある。それは以前、東区に出向いたときに気付けたものだ。


 ギルさんは“人の興味関心を誘導する力”がとても強い。自分自身ではなく、手品そのものに集中させる。そうすることで、観客から余計な感情を奪い、目の前で起こる奇跡を純粋に楽しませられるのだ。


 ――でもそれは、アイドルとして優れているとも限らないか。


 アイドルのライブにおいて、スポットライトを当たるのはアイドル自身だ。装備はマイク一本、ただそれだけ。アイドル自身に強烈な個性がないと成立しない。それは歌唱力であったり、ダンスであったり、はたまたファンサービスであったり……。


 ギルさんはとにかく“自分を表現すること”を避けているのかもしれない。自分を卑下するくらいだ、わかりやすく言えば自信がないのだと思う。


 どうすればギルさんに自信をつけられる……ギルさん自身を認めてあげるには、どうしたら……。


 ぐい、と腕を引っ張られた。ハッとして振り返ると、アレンくんが困ったように眉を下げている。


「久し振りに見た、考え込むリオ。お店過ぎちゃってるよ」


「え、あ、またやっちゃった……ごめんね」


 そういえばここまで思考の底に落ちるのも久し振りだ。それだけギルさんのことを真剣に考えられてはいるんだと思う。勿論、全て推測に過ぎないけど。


「ギルのこと考えてた?」


「うん……アレンくん、ギルさんについて知ってることってある? ミカエリアに来る前の話とか、聞いたことある?」


「ミカエリアに来る前のことかぁ……ギル、あんまり自分のこと話さないからなぁ。でも、手品の師匠がいるって聞いたことある。自分もああなりたいって言ってたよ」


「手品の師匠……」


 ギルさんも誰かに師事を受けてあれだけ優れた技術を身に着けたのか。師匠はいったいどんな人だったんだろう。いまはなにをしている人なのかな。


 ――あれ? いま、なにか……。


 妙な感覚だった。なにかが結びついたような、噛み合ったような、しっくりくる感覚。優れた師匠がいた、だからギルさんはああなった。それは手品の完成度? それとも、ギルさんのスタンス?


 前者ならばなにもおかしなことはない。だけど、後者だとしたら? 自分ではなく、師匠から受け継いだ手品だけを見てほしいと考えているなら? だとしたら“供物”の意味は……私たちの言葉を彼自身が受け取らないのは、そういうこと?


 こればかりは調べてみないと始まらない。ひとまずアレンくんを放っておくわけにはいかない。いまは頭の片隅に置いておくとして、夕飯の買い出しを終わらせてしまおう。


 ――この考えが正解なら、ギルさんを口説ける……気がする。

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