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カガスタ!〜元社畜ドルオタの異世界アイドルプロジェクト〜  作者: 中務善菜
第四章:一世一代の商談
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★想い交わる

 リオと閣下が孤児院に向かってから、オレは自室に戻っていた。母さんはようやく頭が冷えたのか台所に立っている。父さんもリビングで一息ついていた。


 ベッドに転がるオレの枕元には、手紙。アーサーからのメッセージ。いまさらなんのつもりだ。


 唇を噛む。あいつはこうまでしてオレに関わってくるのに、オレからはなにも仕返しできない。あいつは貴族で、オレが庶民だから。


「……悔しい……」


 オレはいったい、どうすればいいんだろう。この手紙を読むべきなのか。破り捨ててしまえばいいのか。


 この手紙を渡してくれたのはリオだ。あのときの表情は優しかった。大丈夫だよ、って言ってくれてるみたいだった。


 どうしてあんな顔をしたんだろう。中身を見たのかな。でも封は切られてない。つまり、アーサーの手紙が嫌がらせじゃないと確信できるなにかがあったんだと思う。


 ……なんだよ。あいつ、リオになにを言ったんだ。なにを見せたんだ。


「……アーサーのバカ野郎」


 口をついて出た言葉。オレは、どうしたいんだろう。アーサーのことはどうだっていいはずなのに。なんでこんなに心を乱されるんだ。


 ……オレは、あいつと、どうなりたいんだろう。


 オレの中に答えはない。きっと、答えを見つける手がかりは、この手紙にしかないんだろう。


 手紙を読もうとすると、手が震える。呼吸も荒くなる。なにが書かれているんだろう。なにを期待して、なにを恐れているんだろう。やっぱり答えは出ない。


「…………っ、なに悩んでるんだ。意気地なし」


 意を決して、封を切る。アーサーが記した言葉がどんなものだって、泣いたりしない。罵倒されたって、なんとも思わない。


 ーーだけど、オレは言葉を失った。


 =====


 堅苦しい文面ではきちんと伝わらない気がした。本当なら、僕の口で直接伝えるべきなんだと思う。


 だが、父上はプライベートでの外出を許さない。だから、このような形で伝えるしかなかった。すまない、アレン。


 つらつらと言い訳を並べたところで、伝えたいことは伝わらない。だから端的に告げる。


 お前には、お前の望む道を歩んでほしい。


 信じてもらえるとは思わない。ただ、これは紛れもない僕の本心だ。これだけは伝えておきたかった。お前と自由に話せる時間は工面できそうにないから。


 だが、応援している。父上の目を盗んで、侍女たちを口止めして、お前の歌を聞きに行く。何度でも。嫌がられたとしても。僕はお前の歌が誇れるものだと信じている。


 アレン。


 もう一度、あの日見た夢を見させてくれ。


 =====


 目尻から、頬を伝う熱を感じた。たまらず腕で目を覆う。


 こんなもの嘘っぱちだ。そうやって怒ることもできたのに。それができれば、どれだけ楽だったんだろう。


 ーーどうして、こんな短い手紙に、安心してしまっているんだろう。


 両親に聞こえないように、声を殺す。嗚咽が止まらない。内側から込み上げてくる感情を押し留めることができない。


「……バカ野郎っ、は、オレだったんじゃん……!」


 考えることを止めて、目に見えるものだけしか信じようとしなかった。一方通行だったんだ。オレも、アーサーも。すれ違ってたんだ。ずっと、何年も。


 でも、オレのやるべきことがわかった。アーサーが願ってくれてる。オレがまた夢を追うことを。


 涙を拭い、体を起こす。深呼吸をして、気持ちを落ち着ける。迷いはもう、ない。


 リビングに出ると、父さんは驚いたような顔をする。母さんもまた、不思議そうにオレを見ていた。


「……話があるんだ。大事な話」


 二人は視線を交わしてから、オレに目を向ける。気のせいかな、あったかい顔をしていた。

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