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★願いを叶えるということ

 ミカエリアを出るために街をうろつく。門はどこにあるんだろう? ずっと住んでいた街なのに、見覚えがないものばっかりだ。自然とため息が出てきた。


 願いを叶えるなら、歩く。ぼくにできることはそれしかない。姉さんがどこに行ってしまったかはわからない。でも、会いたい。


 エルフさんは教えてくれた。待ってても願いは叶わないって。だから行くんだ、どこかへ。ぼくの気が向く方へ。


 ……だけど、ぼく、一人でどこまで行けるんだろう。


 ずっと姉さんと一緒だったから、一人で出歩いたことなんてほとんどない。そんなぼくが、世界の果てまで歩いていけるのかな。不安。


 シヴィリア孤児院を離れて、歩き始めてどれくらい経っただろう。空は雲に覆われているけれど、街灯が点いてる。夜みたい。どこかで休めるところはないかなぁ。


 辺りを見回すと、お店とお店の間――狭い路地の奥に光が見えた。誰かいるのかなぁ。なんとなく、入ってみる。


 奥に進むと話し声が聞こえてきた。大人の男の人が喋ってる。一人じゃない、五人? いや、もっといる? 道案内お願いしたら教えてくれるかなぁ。こっそりと顔を出してみたけど、気付いてくれない。


「あの……」


「こんなもんで本当にあいつらを油断させられんのか?」


 疑うような声で、手前にいた男の人がなにかを蹴っ飛ばす。人……みたいだけど、よく見たら違う。顔には目も鼻も口もないし、服も着てない。人の形をした人形だった。そのまま眺めていると、奥にいた男の人が笑う。なんか、嫌な感じの笑い方だ……。


「子供の姿にさせるんだよ、そうすりゃカインの操り人形たちはこいつを保護する。するとどうなる? 俺たちに城内の情報が駄々洩れだ! クーデター起こすのにはうってつけの人形だろうよ!」


 この人形、人間になれるんだ? すごいなぁ。でも、どうしてだろう。嫌な感じがする。この人の笑い方、すごく怖い。


「けどよ、一からこいつを教育してくんだろ? 時間かかるんじゃねえの?」


「それは仕方ねぇよ……カインに一矢報いるためなんだから我慢しろ」


「エンノイドは元々ジジイ、ババアの寂しさ紛らせるためのもんだしなぁ。学習、吸収能力があるから、ガキの幽霊でも入ってくれりゃあ都合がいいんだがな!」


「ハハッ! そんなバカな話があるかよ!」


 路地裏に笑い声がこだまする。楽しそう……というよりは、バカにしたような、ちょっと嫌いな感じ。この人たちに声掛けるの、やめようかなぁ……でも、他に頼れそうな人もいないし。どうしよう。


「ま、いまは空っぽなんだろ? ちょっと憂さ晴らしでもしとこうぜ」


「それもいいな! クソッタレカイン! 無能の坊ちゃんが国仕切ってんじゃねェーよ!」


 再び蹴っ飛ばされる人形。そんなに重くないのかな、それとも力が強いのかな。すごい勢いでこっちに飛んでくる――え?


「うぅわっ!?」


 人形はぼくに直撃した。それと同時に、不思議な感覚になる。ぼくが一度バラバラになって、人形に吸い込まれる感じ。感覚が少しずつ戻ってくると、さっきよりも鮮明に声が聞こえてきた。やっぱり、聞いてて嫌な感じがする声だった。


「おい、こいつァどういうことだ? なんで人形が消えて! ガキがここにいるんだよ!」


「まさか本当に幽霊居たってのか? ヒャッハハハ! マジかよ!」


「あ、の……ごめっ、ごめんなさい……! ぼく、姉さんを探してて……街を出たくて……ひっ!?」


 胸倉を掴まれる。あれ? ぼく、服着てる……人形に吸い込まれる前のものだ。よかった。でも、この状況は全然よくない。どうしよう、怖くて声も出ない。掴みかかってきた男の人は体も大きくて、すごく怒ってる。謝っても許してもらえないのはすぐにわかった。


「エンノイドはとんでもなく値が張るもんなんだぞ……? どこぞのガキかは知らねェが、どうしてくれんだ! アァ!?」


「ご、ごめ、ごめんなさいっ! ぼく、そんなつもりじゃ!」


「ごめんなさいで済んだらよォ……騎士様は要らねェんだよ!」


 突然、頭が大きく揺れた。こめかみがすごく痛い。殴られたのはわかった。頭を押さえてうずくまるけど、今度はお腹を蹴られた。嗚咽が漏れてもやめてくれない。悪気はないのに、どうしてこんなことされなきゃいけないの?


「おい、待てよ」


 その声は、さっき人形を蹴っ飛ばした人のものだった。ぼくに乱暴する人は怒りの矛先を見失って、声をかけた人に掴みかかる。


「ふざけんなよ! 計画が台無しになっちまったんだぞ!」


「いや、むしろ好都合だろ。エンノイドを教育する手間が省けたんだ。なあ、少年」


「はっ……はあっ……うぅ……!」


 全身痛くて、呼吸も荒い。声をかけた人はぼくを抱き起こしてくれた。優しい人なのかな。


「お前、姉さんを探してるっつってたな」


「は……はい……」


「どこにいるかはわかるか?」


「……わかんない……です……」


「ならよ、俺たちが探すの手伝ってやる」


 男の人の提案に、他の人たちは驚いたような声を出した。声が怒ってる。そんな暇はないって、ガキを殺せって。ぼく、死んじゃうのかなぁ……。


 でも、男の人は眉を下げた。申し訳なさそうな顔をして。やっぱりいい人なのかな……?


「その代わりと言っちゃあなんだが……俺たちのことも手伝ってくれねぇか?」


「てつだう……?」


「ああ。ちっと難しいことなんだけどよ……ただ、手伝ってくれるなら、お前の姉さん探しは絶対手伝ってやる。どうだ?」


「……やる……やります……」


 姉さんを探してくれるなら、やる。難しくても、やる。歩くのをやめないように、止まらないように。できることはなんでもやりたい。


 願いを叶えるっていうのは、捨てること。恥ずかしさも、怖さも捨てて、歩き続けること。ぼくみたいになにも持ってない人は、なんでも掴んで、縋らないと。チャンスを絶対に放さないように。


 ――姉さんにまた会えるなら、他に、なにも要らないよ。


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