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カガスタ!〜元社畜ドルオタの異世界アイドルプロジェクト〜  作者: 中務善菜
第七章:輝く“星”になって
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私に出来ること

「それじゃあ始めますが、まずはイアンさん、ネイトさん、エリオットくん。彼らに見てもらい、他の皆さんにコーチとしてついてもらおうと思います」


 文化開発庁に戻り、いまは中庭にいた。ダンスの自主練習をするならば外の方が都合がよかった。これからはダンスの適性が特に高い三人をコーチに据えて取り組むことになる。これには理由があった。勿論、人間関係や相性も多少は考えたが、一番は方向性だ。


 アレンくん、アーサーくんはグループ内でも若い。フレッシュさを強く売り出していけるから元気一杯の振り付けになるであろうエリオットくん。


 ギルさんはスマートではあるけど大胆なパフォーマンスや表現を身に着けてほしいから、多少大味でも見栄えのしそうなイアンさん。


 オルフェさんはこの中で最も目を惹くビジュアルということもあり、ミランダさんの表現豊かな振り付けを完璧にこなせそうなネイトさん。


 この采配が正解かどうかはわからないけど、春暮公演――ひいては“スイート・トリック”のジャッジまで残された時間は少ない。上手く噛み合ってほしいと思う。各々に意図は伝えてあるから、やってくれると信じている。


「エリオットに教えてもらうんだ? よろしくね」


「お前に倣って踊ろう。合わせるのは僕の役目だからな」


「はいっ! 頑張って先生になりますので、よろしくお願いします!」


 ここ三人は大丈夫そうかな。普段から仲が良いようだし、エリオットくんが暴走しなければ思惑通りのフレッシュさを鍛えられそう。


「んじゃま、よろしくお願いしますわイアンセンセー」


「先生なんてガラじゃねぇがな。できる限りのことはやってやるよ」


 イアンさんとギルさんは然程似ていないように思えるけど、大胆さを持てば“ニジイロノーツ”のワイルド枠をこなしてくれると思っている。ネイトさんとイアンさんとは違う、男性の魅力を強く押し出していけるはずだ。


「ネイトとはあまり接点がなかったけれど、よろしく頼むよ」


「こちらこそ。これを機に親睦を深められればと思います」


 ネイトさんとオルフェさんはグループ内でも比較的落ち着いた部類だ。他のみんなにはないクールさ、あるいは艶を担当してくれるとは思う。これでグループ内の役割分担はちょうどいいくらいだろう。


 アレンくんたちはフレッシュな元気さ、イアンさんたちが男性的なワイルドさ、ネイトさんたちは艶のあるセクシーさ。七人での役割分担――特に、アレンくんをセンターに据えるならちょうどいい塩梅ではないかと思う。


「皆さん、準備はいいですね。始めます――“プロジェクター”」


 =====


「アレンさん、アーサーさん! こうです、こう!」


「こ、こう?」


「うーん、少し遅いかもです!」


「基礎も怠ってはいなかったはずだが……曲に合わせてとなると難しいものだな、意識が逸れてしまう」


「頭を使って踊るのは難しいので、体で覚えましょう! どこでどんな動きをするのかは覚えましたね? 音楽に体を任せてみてください!」


 エリオットくん、意外とスパルタだ。かなりフィーリングを試される指導を行っている。アレンくんとアーサーくんは根を上げたりはしなかったけど、少し難しそう。


 歌に特化したアレンくんは少し遅れてしまうかもしれないけど、アーサーくんは初めて“視”たときから卒なくこなせるタイプではあった。ギルさんほどの要領の良さはないけど、徐々に掴みつつある。頭が固い子だと思っていたけど、結構感覚も大事にしているみたい。


「ギル! 怠けんな!」


「怠けてねーですって!」


「もっと大きく動け! 人目を引くのはテメェの十八番(おはこ)だろうが! 自分が主役だと思って目立ちに行け!」


「バランスってもんがあるでしょーよ!」


 この二人はあまり相性良くなさそう……? イアンさんの言ってることは尤もなんだけどね。ギルさんは派手に注目を集めるのが得意だと思っていたけど、割と調和を大事にする人なのかな?


 そんなことないはず。和を大事にするなら私やイアンさんにこってり絞られるはずがない。もしかして限界を感じてるのかな? 早熟型だと決めつけちゃってるのかもしれない。そうだとしたらすぐに考えを取り払ってあげないと。


「オルフェ様、体の流れはとても美しいです」


「お褒めに与り光栄さ」


「ですが、止めるところは止めるという意識があればなおよろしいかと。流れるように一定のリズムで踊ると淡白に映る可能性があります。それと、いまのオルフェ様は川のように緩やかで淀みがない。ミランダ様の振りには少なからず緩急があります。彼女の振り付けをよく見て学びましょう」


「うん。ふふ、弁が立つね。僕の知っているネイトではないみたいだ」


「は……お褒めに与り光栄、です?」


 ネイトさんとオルフェさんは上手くいっているのかよくわからない。他の子たちよりはハラハラしないけど、果たしてきちんと実になっているのかが判断出来かねる。オルフェさんの声音や表情が一定なのも原因の一つだろう。


 かといって感情剥き出しのオルフェさんは想像しづらいし、ここも要調整グループなのかなぁ……うーん、間違った采配にはなってなかったと思うけど。


「ひとまず、この辺りで一度休憩しましょうか。私も壁に映像映すの少し疲れちゃいましたし」


「はーい!」


「おう、さすがにずっと魔法使わせるのも酷だな」


「空腹は効率を下げます。英気を養い、後半に臨みましょう」


 コーチ三人の賛同を得て、休憩時間を取ることとなった。途端、アレンくんたち四人が力なくその場にへたれ込む。なんだかんだいままでは基礎だけだったし、こうして音楽に合わせて踊るのは初めてだろうし疲れちゃうのも納得か。


 それに引き換え、あの三人は意外と余裕があるみたい。一緒に食堂に行ってしまった。フィードバックは……まあ、一日の終わりにやればいいか。ひとまずいまは満身創痍の四人のフォロー。


「皆さん、お疲れ様です」


「音楽に合わせて踊るのって、結構難しいんだね……?」


「本番は歌いながらになるのだろう? 焦りがないと言われれば嘘になるな……」


「大胆に動けったってなぁ……アレンがセンターなんだから全体のバランス考えた方がいいんじゃねーの……?」


「リズム感に自信はあったけど、置いていかれないように、それでいて走らずというのは思っていた以上に難題みたいだ」


 各々思うところはあるようだ。アレンくんとアーサーくんは歌って踊るという二つの作業を同時にすることへの不安が強く、ギルさんはパフォーマンス中の全体のバランスを重視している。オルフェさんはメリハリを意識することが難しいみたい。


「三人には私の意図を伝えていたの。アレンくんとアーサーくんにはエリオットくんみたいな元気さがあるといい、ギルさんは男性的な大胆さが欲しくて、オルフェさんには中性的な艶があるといいかなと思ったんです」


「エリオットのような元気さ、か……ちょっと待て、僕にそれを求めているのか?」


「アーサーに元気さかぁ。あんまりイメージないけど、フレッシュさは確かに売りやすいのかな?」


「そうだと思うよ。アレンくんもアーサーくんもいまをときめく十代なんだから、若さを売っていきたいの。エリオットくんもね」


「なら猶更俺は大人しくしてた方がいいんじゃねーの?」


 自分の立場に不満があるのか、ギルさんが突っ込んでくる。言いたいことがあるならわかるけど、こっちにだって言い分はある。


「確かにある程度のバランスは大事です。アレンくんがセンターである以上、一番目立ってもらいたい。だからといって、皆さんがアレンくんの引き立て役になるのは嫌なんです」


「わがままだねぇ……じゃあ俺になにを望んでるわけ?」


「男性的なワイルドさです。アレンくんをセンターに据えるとフレッシュさが強く印象付けられます。ただ、それだけでいいならアレンくんとアーサーくん、エリオットくんの三人でいいんです。ギルさんやオルフェさん、イアンさんとネイトさんがいるならあなたたちの色も欲しい。“ニジイロノーツ”は七人のグループ。七人分の色が欲しいから、ギルさんももっと前に出てもらいたいんです」


「男性的なワイルドさってなぁ……イアンさんと被っちまうんじゃね? それか俺の方が薄味になるだろ」


「イアンさんとギルさんでは同じワイルドさでも色が違います。イアンさんの売りは男性らしいたくましさ、ギルさんの売りは挑発的な大胆さになります。“スイート・トリック”の稽古場で皆さんを焚きつけた、あの日の“ギル・ミラー”が欲しいんですよ」


 実際にその場面を見たわけじゃない。ただ、そのときのギルさんが最も私の理想に近いはずだ。取扱注意の爆弾のような――そういう、ある種の過激さを彼に求めている。


 しっくり来ただろうか、ギルさんは唇を結ぶ。反論を考えていたのかもしれないが、やがて深いため息が漏れた。


「へいへい、我らが姫の仰せのままに」


「いい返事です。それが“ニジイロノーツ”のギル・ミラーさんですよ」


「それじゃあ僕にはなにを求めているのかな?」


 流れに乗ってか、オルフェさんも疑問を投げかけてくる。ネイトさんと組み合わせとなれば、システマチックなものを要求されていると思うはず。勿論、それは間違っていない。


「オルフェさんを初めて見た人の印象って、神秘性を感じているはずなんです。それこそ別世界の存在であるかのような、非現実的な存在感があります。それは紛れもなくオルフェさんの魅力であり、色なんです」


「どうも」


「ただ、幻想的過ぎるんです。アイドルは確かにキラキラしていて夢を見せる存在ではありますが、ファンとしては身近に――日常に寄り添う存在であってほしいんです」


「日常に寄り添う?」


「はい。私がそうだったように、落ち込んだときや苦しいときに肩を貸すような、手を差し伸べるような……そんな存在がアイドルです。いまのオルフェさんを見た人は、きっとあなたを身近には感じられない。そのために、メリハリのある感情的なダンスを身に着けてほしいんです。そうすればよりオルフェさんの色――妖しさと艶っぽさを輝かせると思います。ファンとしても存在を“確かなもの”に感じられるかと」


「なるほど。ふふ、感情を求めるネイトにそれを学ぶというのも面白いね。無感情を憂う彼だけど、その(じつ)誰より豊かに感情を表現できるんだろう。僕自身の色をより磨くために、きみの言葉を信じて臨むとするよ」


 いまさらだけど、みんな聞き分けがいい。なにか疑問があっても答えれば応じてくれる。それだけ私を信頼してくれているんだとは思う。


 だからこそ、ここからは一つのミスも許されない。私の提案一つでプランがぶっ壊れる可能性だって残っている。慎重に、確実に。彼らの人生を背負う覚悟を忘れるな。そして、それをおくびにも見せるな。


「さあ、ご飯食べに行きましょう。エリオットくんたち戻って来ちゃいますよ」


「そうだった。後半も頑張らないとね」


「ああ、エリオットは思いのほか厳しいようだからな。気を引き締めなければ」


「イアンさんにガミガミ言われんのも嫌だし、とっとと物にしちゃいますかね」


「ネイトの言葉を真摯に受け止め、精進しよう。きみたちのためにもね」


 みんなの意志を削がないように。みんなに不安を感じさせないように。私についてきたら、絶対間違いないって思ってもらえるように。


 私に出来ることは、信じてもらうこと。そのために、毅然としていること。土下座に躊躇のない私じゃ足りないかもしれないけど。いつか必ず、間違いじゃなかったって証明してみせる。


 そう思えば、少しだけ。震えが引いていく気がした。

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