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カガスタ!〜元社畜ドルオタの異世界アイドルプロジェクト〜  作者: 中務善菜
第七章:輝く“星”になって
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きみの前では

「リオ、ゴキゲンだね!」


「どうしたの急に? アミィにはそう見える?」


「ミえる!」


 自室でデスクワークに勤しむ中、アミィは自信満々にそう告げた。顔に出ているのか、それとも気持ちの問題か。機嫌が良さそうに見える要因には、私自身の雰囲気が確実に関わっている。


 生前は業務のみならず人間関係においてもストレスの供給過多で死にそうな顔をしていたけど、こちらの世界では優しい人にたくさん出会えた。精神的な負担が全くないかと言われればそうじゃない。だけどそれを補えるだけの愛や情熱を貰っているからだと思う。


 ケネット家の皆さん、商店街の皆さん、騎士団や侍女の皆さん、“スイート・トリック”の皆さん。そして、私が見初めたアイドルたち。勿体ないくらいの幸せを感じている。


「確かに、ご機嫌になるのも納得かな」


「リオがゴキゲンだとアミィもウレしいなー!」


「ふふっ、ありがとう。アミィが嬉しいと私も嬉しいよ」


「やったね! アミィはもっとウレしいよ!」


「はいはい、ありがとう。さ、続きやらないと」


 体を伸ばし、凝りかけた筋肉を解す。その矢先、部屋の扉が叩かれた。お客さんかな? 誰だろう。返事をすると、扉が開く。姿を見せたのはアレンくんだった。


「お疲れ様、そろそろご飯作ろうかなって思って呼びに来たよ」


「はぇ、いま何時?」


「もう五時だよ、いい時間だから切り上げてきたんだ」


「そっか、ありがとう。それじゃあ夕食の準備しよっか。行ってくるね、アミィ」


「ハーイ! いってらっしゃい!」


 厨房を借りる許可は以前もらっているし、一言声をかければ問題ないだろう。部屋を出て少し後、アレンくんが「そういえば」と呟いた。


「前から気になってたんだけど、あの子は誰?」


「あの子?」


「あの、なんか、妖精みたいな子」


「ああ、アミィのこと? あの子は私の友達だよ。私の仕事を手伝ってくれてるの」


「そうなんだ。うちにいた頃は姿がなかったから、どこから連れてきたんだろうと思って」


「あはは、気付いたら私のお腹の上で寝てたの。妖精だから仕方ないね」


「そういうものなの? 旅人だといろんなものに出会えるんだなぁ」


「デビューしたらいろんなところに遠征行くだろうし、アレンくんもこれからたくさんの人に出会えるよ」


「そうだったらいいな」


 笑顔が似合うのは出会った頃から変わらない。だけど、前より落ち着いているように思える。以前のアレンくんはきっと、ケネット商店の跡取りに相応しい自分をイメージしていたんだと思う。


 いまは少し違う。歌への未練、夢への迷いが消えたこともあるだろう。心の地盤が出会った頃よりもしっかりしているように感じた。だからかな、男の子らしいたくましさが見えてきたようにも思える。


「うん? じっと見て、どうしたの?」


「はぇ、ああ、ごめんね。アレンくん、かっこよくなったなぁって」


「そ、そう? ありがとう、だけど、なんか恥ずかしいな」


 はにかんだ笑顔さえ眩しい。アレンくんの表情が嬉しそうだと、私も釣られて笑顔になる。この子はセンターとして、ファンに笑顔を伝播させる力が備わってる。


 身近な私でさえ、よく見ている私でさえこの子の笑顔に引っ張られるんだ。デビューライブでは観客に衝撃を与えられると信じている。みんながアレンくんの歌声とダンス、そして笑顔に惹かれるはずだ。


「これからはもっともっとたくさんの人に言われるんだよ、かっこいいも、たぶんかわいいも。私で慣れちゃえ」


「あはは……じゃあリオで練習させてもらうね。こういうとき、アイドルってどうやって返すものなの?」


「そうだなぁ……『ありがとう! これからも応援よろしくね!』とかかな?」


「王子様みたいだね、オレにできるかなぁ」


「かっこつけなくていいんだよ。アレンくんが感じたまま、この台詞を言えばいい。そうするだけできみを、“ニジイロノーツ”を好きになってもらえるはずだよ」


 アレンくんは自分の価値を低く見る傾向がある。心を奪えるだけの歌唱力があるにも関わらず、だ。オルフェさんとの路上パフォーマンスでも声援を浴びたことで堰を切ったように泣いていた。


 彼はご両親に対する罪悪感があったと言っていたけど、それはあの涙の直接的な理由ではないと私は考える。アレンくんは人目を避けるように歌っていた過去がある。彼はきっと、自身の歌唱力が人に認めてもらえるほどのものではないと考えてるんだ。


 どうにかしてその価値観をぶっ壊してあげないと、彼はステージに立ち続けられない気がする。歓声も、拍手も、受け取るのに相応しくないと考えてしまいそうだ。真面目で優しい子だから。


 ――と、思っていた。アレンくんの目を見て、それは過去の話だと気付かされた。


「買い被りすぎ……って、前なら言ってたんだろうね」


「あ……」


「大丈夫、そんなこともう言わないよ。オレをアイドルに誘ってくれてありがとう。きみを一番に喜ばせてあげられるように頑張るから、これからもよろしくね」


 ――いままでで一番、彼をアイドルに誘ってよかったと思えた。


 それと同時に、私が選んだ七人で“ニジイロノーツ”を結成できたことが幸せなんだと実感した。私の知らないところで、彼らはどんどん変わっていく。それこそ、ミチクサさんに語って聞かせたアイドル像そのままだ。


 彼らは彼らの人生を生きている。その中で得た経験、縁。様々なものが絡み合って、いまが在る。困難も、葛藤も、彼らの人生を彩るスパイスなんだ。だからこそ、これからも魅力的な存在になっていける。そう確信できた。


「期待してる。けど……」


「なに?」


「優先順位がわかる発言は、他の子の前でしちゃ駄目だよ?」


「あ、そっか……あはは、結構恥ずかしいこと言っちゃったかな、いま」


「ううん、すごくかっこよかったよ。私の目に狂いはなかった」


 得意げに胸を張ってみせる。私が選んだことを、私自身が誇りに思う。それが彼ら自身の背中を押してくれるはずだ。


 アレンくんだけじゃない、アーサーくんやエリオットくん。ギルさんたちだってそう。私が後悔しなければ、彼らは期待に応えてくれる。それだけの根性がある。じゃなきゃ、とっくにここから逃げ出しているはずだから。


「アイドルはみんなの光になる存在。だから、みんなの前ではみんなのアレンくんでいてね」


「うん。でも……」


「なに?」


 何故か言い淀むアレンくん。なにを言うのかわからず、つい身構えてしまう。何度も口を開けては閉め、開けては閉め……視線を合わせることもなく。いったいなにを躊躇うのか。


 急かしてはいけないとわかっている。きちんと待ってあげると、観念したのか喉を唸らせながら私を見た。


「……リオの前では、リオのアイドルでいてもいい?」


「勿論。きみたちの一番最初のファンだもん、最高の夢を見させてね」


「あはは……うん、頑張る。変な話してごめんね、厨房行こうか」


「大丈夫だよ、変な話なんかじゃないから。でも、急ごっか。みんなお腹空かせて待ってるだろうし」


 なんとなくアレンくんの表情に影を感じたけど、敢えて触れる必要もないかな。いまの会話の中でこうなる理由がわからないし、説明させるのも酷だろうし。


 それから私たちは厨房に向かい、みんなの夕飯作りに勤しんだ。アレンくんの手際は、心なしかいつもより鈍っているように感じた。

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