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カガスタ!〜元社畜ドルオタの異世界アイドルプロジェクト〜  作者: 中務善菜
第七章:輝く“星”になって
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終わらない夢を

「あら、もう時間ね。みんな、ご苦労様」


 アメリアさんの言葉に、七人は元気のいい声で一礼する。ミランダさんの振り付けを見て刺激を受けたのか、稽古に対する熱が高まっているように見えた。


 ――感慨深いなぁ、本当に。


 アイドルという仕事に対して意欲が増しているのはとても喜ばしいことだ。未知のエンターテイメントであるというのに、不安だってあっただろうに。少しずつ像を結び始めた新しい存在へ、自らの意志で歩いている。


 日本のアイドルを忘れたことなんて一度もない。ただ、それを彼らに押し付ける必要がないと感じた。彼らには彼らにしか出せないアイドルらしさがある。彼らにしか見せられない煌めきがある。そう思わせるくらい、熱を帯びたみんなの眼差しは魅力的だ。


「お疲れ様です、皆さん。全員で次のステップに進めてよかったですね」


「サンキュ、ぶっちゃけ不安だったけどな。アレンセンセーの教え方が上手だったからじゃね?」


「なんだよ、心にもないこと言って。みんながコツ掴んでくれたからだろ」


「卑屈な発言は控えろ。お前の教え方が下手なら僕たちはコツを掴めていなかったぞ」


「アレンさんの教え方、すっごく上手でしたよ! ぼく、声出すのが楽しくなっちゃいました!」


「楽しそうに歌えば人は振り向くものさ。エリオットだけでなく、僕たちもそう在るべきだね」


「楽しく、ですか……」


 微かに目を伏せるネイトさん。人間らしい感情ということで苦手意識があるんだろう。ただ、それは彼自身が感情の発芽に気付いていないからこそ。そして、それを教えなかったのは私だ。


 エリオットくんはきちんと伝えているだろうけど、知らないままの方がネイトさんの感情がより際立つ気もする。どっちが彼にとって正解なんだろう? いまだに考える。


「ネイト、イメージしてみろ」


 不意にイアンさんが提案する。ネイトさんはまぶたを閉じ、その裏に絵筆の先端を添えた。想像の準備が整ったと判断しただろう、イアンさんが続ける。


「エリオットがいるな」


「え、ぼく?」


「エリオット様がいます」


「はい! ぼくがここにいます!」


「エリオットはいま、どんな顔をしてる?」


「満面の笑みです」


「まんめんの……?」


「そうだ、百点満点の笑顔だな」


「素晴らしいです。花が咲くような笑顔ですね」


「ぼくの笑顔でお花が咲くんですか?」


「そうだ。それくらいエネルギーに満ちた顔だ」


「微笑ましいですね」


「そんなエリオットがお前に駆け寄ってきて、服の袖を掴んだぞ」


「ふふ、どこに連れて行かれるのでしょうね」


「さあ、目を開けろ」


「は、かしこまりました」


「わあ、すごい……! ネイトさん、嬉しそうな顔してます!」


 イアンさんの指示に従って想像を膨らませていたのだろう、ネイトさんの表情がどんどん緩んで、とても自然な笑顔へと変わっていったのがわかる。エリオットくんは純粋に感心していたようだが、当然ネイトさんには自覚がない。どこか恥ずかしそうに口元を覆っていた。


 それにしても、これエリオットくんがいなかったら催眠術の類かなにかに見られそうだな……? これは社外秘のやり取りにさせてもらおう。悪用されたらたまらないし。


「リオちゃん? なんでいま俺の顔見たわけ?」


「いえ、別に……?」


「前にもあったよな、こんなやり取り。俺ってそんなに怪しいかね」


「いえいえ、そのようなことは。ギルさんほど誠実な男性を私は知りませんよ」


「よくもまあそんな嘘をすらすら言えるもんだ、怖い怖い……」


 身震いするような仕草で茶化すギルさん。ええ、これは完全に私が悪い。信用してないわけじゃないんですよ、本当に。伝えられるかわからないけど。伝えたいけどどうすれば信じてもらえるかわからないんだもの。


「ほら、散った散った! アメリアの発声と、体作りは引き続き続けとけよ、いいな!」


「はい! ありがとうございました!」


 みんながアレンくんに続く。センターとしてみんなを引っ張っているのはこういうところもなんだろうな。先陣を切っていくのは、パワーに溢れたアレンくん、大胆不敵な発言で奮起させるギルさん、最年長らしく腹を括るイアンさんの三人になりそうだ。


 待って、イアンさん最年長じゃないや……オルフェさんがいた。でも彼、なんか人間の尺度で語れない存在な気がする。だってエルフだもの。


「リオ? どうして僕の方を見たのかな?」


「いえ、別に……」


「そう。いつか言葉にしてくれるのを気長に待つとしよう」


「のんびり待っててくださいね」


 エルフの言う「気長に待つ」ってどれくらいの基準なんだろう。待ちきれなくなる頃には私、おばあちゃんになってる気がする。あるいは母なる大地に還っている。あれ? この世界って火葬と土葬、どっちがポピュラーなんだろう。


 果てしない未来から比較的近い未来に焦点を戻そう。ミランダさんの振り付けを踊る私のアイドルたち。想像するだけで口角が上がる。彼女はダンスのキレがプロのそれだけど、動きだけ見れば複雑なものはなかったように思える。


 最低限、踊るのに必要な体さえできていれば見られるものにはなりそうだ。それと並行して歌も質を落とさないようにしてもらう必要がある。踊りながらだと力が入ったりブレたりしそうなものだが、そこは“スイート・トリック”のトレーナー。そのための体にしてくれていると信じよう。


「さ、帰ろっか。今日は私が夕食作るね」


「オレも手伝うよ、それまではみんなで稽古の復習してていい?」


「うん、お願い。皆さんも頑張ってくださいね」


「我らがセンターの提案とありゃあね、しっかり努めますよ」


「皆で頑張ろう。アレンに引っ張ってもらうままでは誇れない」


 ギルさん、口は素直じゃないけどだらしない姿勢で取り組んでるわけじゃないってわかる。この人がこんなに前向きに臨んでくれているのはいまだに夢じゃないかと思う。


 アーサーくんも気合いを入れてくれている。アレンくんが頑張れば、彼も頑張り続けられるはずだ。意地を張り合って、どっちかを置いていくこともなく歩いていける関係だろうから。いまから楽しみだな。


 エリオットくん、ネイトさん、イアンさんもそう。オルフェさんだってみんなと一緒に歩いてくれる。誰一人欠けることなく、七人で。重たい空に虹を架けてくれるはず。


 こうして信じられる人たちに出会えたのは、きっと奇跡みたいなものなんだろう。この奇跡は、ずっと続いていく。何年も、何十年も。そんな未来を想像してしまうくらい、彼らに夢を見ている。


 終わらない夢を見せてくれるって、信じてる。

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