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カガスタ!〜元社畜ドルオタの異世界アイドルプロジェクト〜  作者: 中務善菜
第七章:輝く“星”になって
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怪我の功名

「さてと……そろそろ支度しないとね」


 時刻は十七時を過ぎた頃。稽古も終わりかけだろう、もう出発してもいいかもしれない。


 あれから一度、ネイトさんには部屋に帰ってもらった。ジェフさんには伝煙でネイトさんの同伴許可も貰い、彼の部屋に迎えに行くのが先か。


 そういえばさっき、廊下を賑やかな足音が通り過ぎていった。誰か出掛けていたのかな? エリオットくんがいるのは間違いない。あとはアレンくんとアーサーくんだろうか? ティーンエイジャーが仲良しで私はとても嬉しい。


 軽く身嗜みを整え、ネイトさんの部屋へ向かう。事務所がなにやら賑わっているけど、エリオットくんの声が聞こえたから納得した。よっぽど嬉しいことがあったんだろうな。


 ネイトさんの部屋は事務所から最も遠い。有事の際、真っ先に対応できるようにと本人が希望したからだ。勿論アイドルではあるけど、本質的には騎士様なのだと実感する。扉を軽くノックし、声をかけた。


「ネイトさん、お疲れ様です。そろそろ稽古場に向かおうと思うのですが……」


「かしこまりました、少々お待ちください」


 その言葉から一分と経たず扉が開いた。姿を見せたネイトさんは、心なしかいつもより凛々しく見える。それよりも、その手に持った袋はなんだろう……?


 私の視線に気づいたか、ネイトさんは「ああ」と小さく呟いた。


「先方にお邪魔するならば手土産をと思いまして……つまらぬものですが」


「素晴らしい、とても好感の持てるサラリーマンですね」


「さらりーまん……?」


「いえ、お気になさらず。ジェフさんたちも喜んでくれると思いますよ」


 品質はどうあれ、こういう些細な心遣いを無碍にされることもそうないだろう。“スイート・トリック”の面々にそんな気難しい人はいな……いない、はず……。


 ひとまず事務所に顔を出してから行こうか。そうだ、イアンさん……彼にも声をかけた方がよかった。どうせ二人一組でのお芝居なんだから、打ち合わせだって全員でやった方がいいだろうに。


 事務所では元気に動き回るエリオットくんと、雑談するアレンくんとアーサーくん。そして机に向かって難しい顔をしているイアンさんがいた。私たちに気付いたイアンさんは少し驚いていたようだった。


「お前ら二人は珍しいな?」


「ですよね。たまたまお話する機会があって、その流れで打ち合わせにも同伴してもらうことになったんです。それで、イアンさんもご一緒だとありがたいのですが……」


「また急な話だな……わかった。すぐ準備する。ジェフに連絡入れといてくれ」


「わかりました、事務所で待ってますね」


 イアンさんが準備のために退室し、残ったのはうら若き少年たち。エリオットくんがご機嫌な足取りで駆け寄ってきた。うーん、かわいい。


「リオさん! ぼく、アーサーさんと踊ってきました!」


「そうなんだ。どこで踊ってきたの? 運動場?」


「道端です!」


「へぇー……え? 道端で?」


「それについてはオレから説明するね、勝手なことしちゃったから……」


 責任はしっかり取れる男、アレン・ケネットくん。誠実な男は好感度が高いね、いい旦那になれる。


「最初は運動場でする予定だったんだけど、アーサーの知り合い? に絡まれちゃってさ……その流れで騎士が来ていろいろ事情聴取が始まったんだけど、そのときにね。エリオットとアーサーが踊ったんだ。“ニジイロノーツ”の名前も出しちゃったけど、大丈夫だった?」


「エ……?」


 いろいろと気になる点がある。アーサーくんの知り合い……ということは貴族なのだろうけど、それがどうして騎士が来て、事情聴取なんて事態を招いたんだ? なにか事件の香りを感じる……。


 嗅覚が敏感に働くが、敢えて触れない方がいいのだろうか。嘘は吐いてないと思う。この子たちも、私に嘘は吐けないはずだ。となると、敢えて言わないでいることがあると考えるべき……?


 まあ、あんまり勘繰っても仕方ないか。私はアイドルを信じるぞ。でも、ひとまずやることが出来た。


「ネイトさん、ジェフさんへのご連絡を任せてもいいですか?」


「は、請け負いました。……リオ様? どちらへ?」


「ちょっと身嗜みを整えてこようかと……誰も入らないでください、いいですね」


 それだけ告げて事務所を出る。自室に飛び込み“データベース”を起動する。検索ワードは“ニジイロノーツ アーサー”だ。恐らくあの三人の中で最も話題に上がるのはアーサーくんだろう。案の定、アーサーくんと“ニジイロノーツ”の話題が並んだ。


「うーん……? 思ってたより評判悪くないな……っていうか、アーサーくんを褒める声が多い……なんでだ?」


 悪い貴族を退治したとか、そんな感じなのかな。まあファンタジー世界と言えばその通りだし、横暴な貴族なんかはテンプレートな存在かもしれないし。ランドルフ家の評判や信頼はお墨付きだから、きっとアーサーくんの株が上がるようなことだったんだろう。


 それにしたって、あの二人の即興ダンスに対する評価が高すぎる。パッと見だと噛み合わなさそうな二人なのに。リンクだってまだ五十パーセントのはず。いったいこの数時間でなにが起こったんだ?


 なんにせよ、二人の路上パフォーマンスは成功を収めたようだ。二人が拍手をもらうところを見たかったけど、この調子なら気兼ねなく送り出せる。


 となれば……目下の悩みはやはりイアンさんとネイトさん。路上でお芝居をして、どれだけ目を引くか。二人にとってはそれだけでなく、批判的な意見を覆せるかどうかもかかっている。


 ネイトさんが部屋に来てくれてよかった……一刻の猶予もないんだ、二人にはいままで以上の緊張感を持ってもらわないと。春暮公演まで二週間もないんだから。


 部屋の扉が叩かれる。向こうから聞こえてきたのはイアンさんの声だった。


「リオ、部屋にいるか?」


「イアンさん? あ、準備出来ました?」


「おう。事務所で待ってんじゃなかったのか」


「アッハァ、ちょっと身嗜みが気になって……」


 部屋を出れば、ネイトさんも隣にいる。うーん、この二人に挟まれて歩く私、本当に何者なんだろうね。ミカエリアの人々からしてみれば有名人を侍らせる謎の少女、みたいな感じなのかな。昼間みたいに突っかかられることもあるわけだし、外出は慎重になろうね。


 ……それと、これは全員に言えること。私がいないときはよく考えて動くように、改めて周知しておこう……必ずいい方向に転ぶとは限らないから……。

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