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カガスタ!〜元社畜ドルオタの異世界アイドルプロジェクト〜  作者: 中務善菜
第七章:輝く“星”になって
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彼に孤独は似合わない

「ん、んん……?」


 アーサーくんに頼まれ、エリオットくんとの差を“視”ることになった私。視界に映るのは二人の詳細なデータ。……なのだが、いままでの五項目に加えて“リンク”という文字が見える。


 初めて見る項目に戸惑いつつ確認すると、この部分はアルファベットでのランク付けではなくパーセンテージで表示されている。数値は二人とも同じで、五十パーセント。


 リンク……繋がり? アーサーくんとエリオットくんの結び付きを表している? だとしたら、現状では到底十全には及ばないということになる。


 ダンスの項目自体は上昇しているアーサーくんだけど、エリオットくんの成長も目覚ましいものがある。相当努力しないとこの差は埋まらないだろう。なんて説明したらいいものか。


「ど、どうだ……? 僕たち、上手くやれるだろうか?」


「ぼくとアーサーさんなら大丈夫です! ね、リオさん!」


「えっとぉ……そう、だね。ダンスの技術自体は二人とも上達してるけど……」


 言い淀むのはまずかったか。アーサーくんの顔がみるみるうちに白くなる。この子、クール枠かと思いきや意外と感情表現が豊かだな。ティーンエイジャーだし当然か。


「ご、ごめんね! 不安にさせるつもりはなかったの!」


「は……すまない、顔に出ていたか?」


「うん、存分に……とりあえず現状を整理すると、ダンスは上手くなってる。それは確か。ただ、二人の心が通じ合っているかと言われると……もう少しかな、って感じ」


「ぼくたち、実は仲良しじゃない……?」


 エリオットくん、素直なのはいいことなんだけど、社会に出るならオブラートを覚えた方がいいかもしれない。些細な言葉を歪曲して捉えて誇張して触れ回るような輩もいるかもしれないし……。


 っていうか、アーサーくんの表情が固い。エリオットくんとは気の許せる友人だと思っていた……のかな? リンクが不十分であることをなんとなく察したのだろう、悲しそうに目を伏せた。そういう顔も映えますね。


 俯く二人。なんとなく湿った空気になるものの、オルフェさんが声を上げた。こういうときに頼りになりますね、エルフは。


「悲観することはないさ。きみたちがどうすれば仲を深められるのか、その答えにはきみたちしか辿り着けない。残された時間は少ないけれど、お互いが歩み寄る姿勢でいれば必ず乗り越えられるはずだよ」


「ぼくたちにしか辿り着けない……」


「……見つけられるのか? 僕たちに……」


「こら、辛気臭い顔しないの。ちゃんと見つかるよ、大丈夫」


 感情が豊かなのは若さの証だけど、いずれは揺るがない確固とした自分を持ってほしい。アレンくんの歌やギルさんの手品のような芸じゃなくてもいい。「これが自分だ」と胸を張れる人は強いからだ。


 二人とも、顔を上げてくれる。彼らだけじゃない、私のアイドルはみんな大丈夫。途中で折れるような子ならそもそも加入を認めていない。必ず輝けると感じられたから迎えた。


 デビュー前のいま。支えがないいまだからこそ、私だけはどっしり構えていなきゃ。


「やっぱりいい子だなぁ。これからも頑張ってね」


「……時折リオに年齢不相応な包容力を感じる……」


「ぼくも思います、それ」


「はぇ、あははは……ほら、旅人だから……」


 便利な言い訳「旅人だから」。これも後々効力を失いそうではあるが、いまはこうやって納得してもらうしかない。もう少し上手な言い訳が思いつけばいいんだけど……。


「――よし、休憩終わり! 後半も気合い入れてくぞ!」


 アレンくんが立ち上がり、みんなを鼓舞する。ギルさんも、ネイトさんやイアンさんも彼に続いた。勿論アーサーくんたちも。こういうところを見ると、彼をセンターに据えて本当に良かったと思う。


 頼もしくて繊細。力強くて儚い。路上ライブの日の涙を見てから、アレンくんにはそんな印象を抱いていた。


 正直、彼は一人でも歌えるシンガーだと思う。だけど長くは続かないだろうとも思う。なにせアレンくんは優しい子だ。ご両親のことだってある。一人でデビューしたら、不安や罪悪感を和らげないまま潰れてしまう気がした。


 でもいまは、彼を支える仲間がいる。六人と、私。彼が真っ直ぐ前を向いて歌い続けられるように、並んで歌う仲間がいるのだ。そして、その七人を支える私もいる。


 きっと、アレンくんは恵まれているんだろう。歌うことを諦めず、迷いながらも願い続けたからこその出会いだと思う。奇跡に等しいが、彼に関しては必然のようにも思える。


「皆さん、頑張ってくださいね」


「うん、頑張る! リオはまた調べ物?」


「うーん、ちょっと“スイート・トリック”の稽古場に行ってこようかと。明日の打ち合わせがてら」


「だぁっ、そうだった……!」


 思い出したかのように呻くイアンさん。一方でネイトさんは然程気にかけてはいないようだった。ある意味、負担が大きいのはイアンさんの方ですもんね。貴方も貴方で課題はあるのですが……。


「ジェフさんの稽古で時間を無駄にしないようにするためです。期待してますからね?」


「……おう、任せとけ」


「ご期待に沿えるよう努めます」


 二人の意志も確かなものだと信じられる。ネイトさんは勿論、イアンさんも“私”に意地を見せたいはずだから。


「じゃあ皆さん、行ってきます」


「行ってらっしゃい、気を付けてね!」


 センターの笑顔、この世のなににも代え難い宝物だ。眩しすぎて飲み込まれてしまいそうなほど。


 七人の見送りを受けて、私は市街地へ歩き出した。アポなしだけど、時間作ってくれるのだろうか……あれ、今更不安になってきた……社会人とは……?

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